使い慣れた営業車に乗って、僕は札幌を後にした。
今日の商談は小樽と、それから余市と。小樽の約束が一時で・・余市に寄るのは三時くらいになるか。帰るころにはもう夕暮れだろう、と僕は考えて、軽い調子でアクセルを踏み込んだ。そのまま、自動車を札樽自動車道へと向ける。
札幌北インターチェンジから侵入した札樽自動車道は程よく空いていた。制限速度を誤魔化せる程度にオーバーしながら、僕は一直線に東へと走り出した。気晴らしにつけたお気に入りの音楽を楽しんでいると、やがて街は途切れ、海と山に挟まれた狭く、高速道路とは思えないほどにカーブの多い地帯へと到達する。下りながらのカーブはハンドル操作の僅かなミスでも大事故に繋がりかねない。自戒するように僕は考えた。その道の向こうに、僕の視界を奪うものがある。
満面の紅。
誰よりも、何よりも。たとえ絶世の美女が存在していたとしても、貴重な宝石が輝いていたとしても、決して見劣りしない程度には華美で、そして美しい、紅葉の山であった。
「もう、秋か。」
ぽつり、と僕はそう呟いた。僅かな直線の間に、燃えるような景色を逃すまいと、僕は一心不乱に山を凝視した。一年の最後に、紅く燃える。山の木は十分に、分かっているのだろう。
もうすぐ、冬が来る。冷たい、冷たい冬が。あたりは一面雪に覆われ、根元はおろか、この場所では枝までも届く程度に厚い雪が積もる。その雪に大地を奪われる前に、彼らは強く主張するのだろう。忘れるな、冬の間、私たちを忘れるな。また私たちは、木の葉をめぐらすのだから。ずっと、ずっと。
だから、忘れないように、最後に紅く燃えよう。長い冬の間でも、この景色が焼きついて離れなくなるように。
「今日は少し、早めに戻ろう。」
誰ともなしに、僕はそう言った。北海道の秋は本州に比べて、格段に短い。もう数週間もすれば、間違いなく初雪が降り注ぐ。その間に、あと何度この景色を眺めることができるだろうか。ならば、日の落ちる前に、もう一度場所に戻らなければならない。
「帰り道も、楽しませてもらうよ。」
呟いた僕の言葉が通じたものか、風がハンドル越しに伝わる程度に強く、それにしては優しく、通り抜けていった。
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受付中 11/09/19 01:45
初めまして。皆さんでお題を統一して、それについての創作を発表したらどうなるかなあと思ってやってみました。 お題は「秋」ということで、作品の種別は何でも良いので是非参加してくれると嬉しい限りです。 ?
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コラボ用に即興で書いた作品です。