No.306067

真・恋姫無双 EP.84 仮面編(3)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-09-23 17:16:17 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3207   閲覧ユーザー数:2976

 一刀は風と稟に合流する。

 

「大丈夫ですか、一刀殿?」

「逃げろって言ったのに……でも助かったよ」

 

 礼を言う一刀に稟は微笑むと、風を見て言う。

 

「風をお願いします。人形を操っている間は動けないので」

「わかった」

 

 一刀は風を抱えると、その場から走り出す。そして並んで走る稟に訊ねた。

 

「それで、どうする?」

「とりあえず、人混みに紛れましょう。さすがに、あまり目立つような行動はしないかと思います」

「よし」

 

 人の姿がまったくない貴族の屋敷が並ぶ一角を二人は走り抜け、目の前に人の姿が多い通りが見えてくる。もうすぐ、そう一刀が思った矢先だった。

 

「逃がさない」

 

 強烈な攻撃が、一刀を背後から襲った。一刀の体は勢いよく通りに転がり、抱えていた風も離してしまう。通りにいた人々から悲鳴が上がり、辺りは混乱に包まれた。

 

「一刀殿! 風!」

 

 稟が走り寄ろうとするが、追いついた仮面の男が遮るように掌底で稟を吹き飛ばす。そして男はそのまま、倒れた一刀に馬乗りになると顔面めがけて拳を放った。かろうじて片腕で直撃を防ぐが、それでもダメージは確実に一刀を蝕んだ。

 

 

 仮面の男の素早い打撃に、一刀の頬は細く切れて血が滲んだ。何とか上に乗った男から逃れようとするが、足でガッチリと挟まれて思うようにいかない。

 

「くっ!」

 

 そこへ再び風の操る宝譿が襲い掛かる。邪魔そうに両手で払う男の隙をつき、一刀は這うようにしてなんとか男から逃れた。だがすぐさま男は追いすがろうとし、今度は稟がそれを阻む。

 

「行かせません!」

 

 稟は長く伸びた爪で、男に襲い掛かった。腕を切られた男は軽く舌打ちをし、稟から距離を取る。

 

「……お前……吸血鬼か」

 

 そう問いかける男に稟は黙って笑い、二本の牙を覗かせた。そして地面を蹴って宙を舞うと、長い爪を武器に、突き刺すような攻撃を繰り出した。

 仮面の男は腕が切れることも気にせず、両手を使ってその攻撃をさばいてゆく。それを邪魔するように、再び宝譿が男の視界を塞いだ。

 

「チッ!」

 

 舌打ちを漏らし、仮面の男は宝譿を掴むと無造作に放り投げた。そして宝譿を操り動くことができない風に向かって、攻撃を仕掛けようと跳躍する。だが、すかさず一刀が体当たりで行く手を阻んだ。

 

「とりゃあ!」

 

 男はわずかによろめいたが倒されることはなく、腰を落とし足を踏ん張って体勢を維持すると、がら空きの一刀の腹部に突き上げるような拳を放った。合計三発の攻撃に、一刀はその場にうずくまって声もなく顔を苦痛に歪める。

 それを一瞥した男は、再び風に向かって歩こうとし、背後に迫る稟に気付いた。爪が届く間際で、男の後ろ回し蹴りが稟に直撃。稟の体は吹き飛ばされて、露店のテントを破壊し、その残骸に埋もれた。

 

 

 風は宝譿を操るのを止めるため、自分の手元に帰還させた。だがすでに、一刀と稟を退けた仮面の男が目前に迫っている。宝譿を通して見ていた視界が、徐々に霞んで自分の視界へと戻ってゆく。

 

(あと少し……)

 

 意識が完全に自分の元に戻れば、ここから逃げることも出来た。今のまま宝譿を操っているよりも、その方が一刀たちの足を引っ張らずに済む。

 

「まずはお前からだ」

 

 男の声が聞こえ、風は自分の目でその姿を捉えた。ようやく自由に動けるようになったが、もう間に合わない。振り上げた手刀を、後は風に突き立てれば終わりだ。

 

(美羽様!)

 

 ぎゅっと目を閉じ、風は無念さを滲ませた。だが手刀は振り下ろされず、ドンッという何かがぶつかるような音が聞こえたのだ。ゆっくり目を開けると、そこには孫権の屋敷で見た目つきの鋭い女性が立っていた。

 

(確か……甘寧さんですね)

 

 甘寧は仮面の男と対峙し、剣を構えた。向こうでは孫権が、一刀と稟を助け起している。

 仮面の男は突然現れた二人を交互に見ながら、じりじりと後退した。そして不利とでも思ったのか、甘寧を警戒しながら踵を返して走り去ったのである。

 

「追わなくていいわ、思春」

 

 追いかけようとする甘寧に孫権がそう声を掛け、風のもとに歩いてきた。一刀と稟もやって来て、互いに無事を確かめ合う。

 

「怪我はないか、風?」

「はい、大丈夫です」

 

 三人は孫権に礼を述べた。

 

「助かりました」

「騒ぎを聞いて何事かと思ったけど、いったい何があったの?」

 

 顔を見合わせた三人は、一刀が代表して事情を説明する。孫権は雷薄の屋敷がこの街にあると聞き、驚いた様子だった。

 

「あそこまで過剰に反応する様子だと、やはり奥の部屋に何かあるのかも知れません」

「そうね……」

 

 風の言葉に孫権は頷き、仮面の男が去った方角をじっと見つめる。心に何かが、引っかかる気がした。

 

 

 是空は荒く息を吐き、屋敷の道を戻って行く。

 

(いったい、何だ?)

 

 撤退するほど不利な状況だったわけではない。二人やって来たが、それほど手強い相手ではなかった。少なくとも、是空の腕ならば退ける事は可能だ。しかし、後から来た二人の弱そうな方の女性を見た瞬間、心臓が激しく動き出したのである。

 

(どこか、あの女……孫策だったか、顔立ちが似ている気がした)

 

 孫策の名に聞き覚えはあったが、どんな人物なのかは知らない。知っていたなら、妹の孫権だとすぐに察することが出来ただろう。ただ、是空の心には不思議な気持ちだけが残っていた。

 

(そうだ、孫策を助けた時もこんな気持ちだった。何かをしなかればならないという、強い衝動に襲われる)

 

 是空は自分の胸を押さえた。少し、鼓動が治まる。直後、是空はハッとした様子で突然速度を上げると慌てて屋敷に戻った。そして井戸まで行き、誰もいないことを確認すると仮面を取る。

 

「何だ……」

 

 指先で自分の顔に触れ、是空は驚きの声を上げた。

 

「俺は……泣いているのか?」

 

 頬を濡らすものは、間違いなく彼本人の涙だった。

 

「なぜ、泣いているのだ? 何を泣いているのだ?」

 

 顔と共に記憶も失っているはずだった。胸を刺す痛みが、どこからやってくるのか。是空は戸惑い、すべてを打ち消すように井戸の水を汲み顔を洗う。再び仮面を付けた時は、すでにいつもの自分を取り戻していた。

 

 

 今後の事について相談を終え、帰って行く一刀たちを蓮華は見送るついでに街の様子を見て回る。思春が付いて来ると言い張ったが、出かけたまま帰ってこない小蓮の捜索を任せた。

 

(まったく、あの子はいつも……)

 

 元気なのはいいが、少し手が掛かるのが悩みの種だった。

 

(あの子も、そろそろ孫家の人間だという自覚を持って欲しいけれど)

 

 そんな事を考えていると、ふと向けた視線の先にその小蓮の姿を見つけたのだ。

 

「シャオ!」

 

 声を掛けると向こうも気付いてこちらを見た。小蓮の隣には、見慣れぬ女性がいる。

 

「シャオ、思春が探して……」

 

 言いかけた蓮華の元に、小蓮は走り寄って来てギュッと腰に抱きついた。驚いた蓮華は小蓮を引き離そうとして、手を止める。

 

「うっ……ひっく……」

 

 小蓮は蓮華に顔を押しつけて、泣いていたのだ。こんな姿を見るのは、初めてだった。

 

「シャオ……」

 

 戸惑いながらも、蓮華は近づいてくる女性に軽く会釈をしながら、小蓮の頭を優しく撫でた。


 
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