「一刀ー、お茶が入ったぞ」
「ありがとう、美羽」
朝目が覚め、今日はどうしようかと考えていると月と同じ様な侍女服を身に付けた美羽と七乃が部屋にやって来た。
いつもは俺の世話を月と詠が行っていたのだが、今日は美羽と七乃が行うと言う。
どうやら桃香が気を利かせて、2人との時間をつくってくれたらしい。
「どうですか、一刀さん。お嬢様の淹れたお茶は?」
「ああ、とっても美味しいよ。ありがとな美羽」
「ぬふふ、良かったのじゃ」
そう言い美羽の頭を撫でてあげると、美羽は嬉しそうに目を細めた。
今日はどうしようかと2人に相談すると、美羽は街に出たいと言ってきた。
「最近、美味しい蜂蜜を扱う店が出来たのじゃ。
そこに一刀と一緒に行きたいんじゃが…ダメかのぅ?」
美羽の蜂蜜好きは相変わらずらしく、その蜂蜜の店に行きたくてしょうがない様子である。
「んー、別に予定も無いしいいよ」
こうして、蜂蜜の店に3人で行くこととなった。
美羽と再会してここ数日感じたことは、美羽が歳相応となったといういことだ。
以前の寿春に居たときは、周りの大人達のせいでわざと無能な振りをしなくてはならなかった。
そのせいか何かを諦めたようなそんな雰囲気を出していた。
しかし今目の前にいる美羽は、露天の珍しい商品に目を輝かせあれやこれやと見てまわっている普通の女の子であった。
袁家の重荷を取り除いたことにより、美羽の本来の姿が開放されたのだろう。
そんなことを考えていると目的の店の前へとやって来た。
「たのもお~!」
弾む気持ちをおさえながら、興奮した様子で美羽は店の中へと入っていった。
俺と七乃も後に続いて入ると、店のなかは甘い匂いで満ちていた。
店の棚を見ると、蜂蜜が所狭しと
良く見るとひとつひとつ色の濃さが微妙に違うように見える。
「どうしてみな色が違うのじゃ?」
美羽もどうやら気が付いたらしく、その疑問を店主に聞いた。
「はい、これらの蜂蜜はそれぞれ蜜が違うんですよ」
「蜜が、違う?」
「花の蜜の種類が違うんですよ。
花の蜜を一種類に絞って採らせているんです。
そうすることで違う味の蜂蜜を作ることが出来るんです」
店主の説明に美羽は感心したようにほぉうとつぶやいた。
「むっ!?この甘酸っぱい味とさっぱりした香りは……みかんの花じゃな!」
味見にと店主が差し出した一掬いを舐めると美羽は驚いた様子で叫んだ。
「おぉー、わかりますか?」
「もちろんじゃ!蜂蜜については妾はちとうるさいぞ!」
すると店主はこれはどうだと次々と美羽に蜂蜜を味見させる。
しかも美羽は差し出されるそのすべての味をズバリ当てていった。
「す、素晴らしい!
まだお若いのにこんなにも蜂蜜の味がわかるとは!」
「おぬしもなかなか良い蜂蜜を取り扱ってるの」
蜂蜜で意気投合した2人は、いつしか固く手を握りあっていた。
蜂蜜によって美羽とすっかり仲良くなった店主は俺達を店の奥へと案内した。
「実はお嬢さん達に見てもらいたいものがあるんですよ」
そう言い俺達を椅子に座らせ、店主は更に店の奥へと消えた。
少しの間待っていると、店主は甕をひとつ抱えて現れた。
「実はこれ、蜂蜜で作ったお酒なんです」
そう言い、店主は甕の中から杓子で掬って水呑に注いで見せた。
色は蜂蜜のように黄色いが、透明で澄んだ色をしていた。
「蜂蜜好きなお嬢さんに飲んでほしいと思いまして」
「本当か!?飲んで良いのか!」
酒に蜂蜜を混ぜて飲むというのはあるが、蜂蜜で作った酒と言うのは珍しい。
その珍しさに目を輝かせていた美羽は飲んでも良いと言われ、喜んだ様子で水呑を両手に持ちごくごくと口に流し込んだ。
「ぷは~。うまいのじゃ!」
「そうでしょ?
この蜂蜜で作った酒、実は簡単に作ることが出来るんですよ」
「なんとっ!?そうなのか?」
「はい。蜂蜜を水で薄めてそのあと……」
店主は蜂蜜酒の作り方を詳しく語り始めた。
美羽はその話を真剣な顔で聞いていた。
「私は蜂蜜の素晴らしさをこの国のすべての人にわかってもらいたいと思っているのです。
だからこのような蜂蜜の店をつくろうと考えたのです。
私の夢は、いつかすべての人が蜂蜜の虜になることなのです!」
店主の熱い野望を聞き、美羽はますます目をキラキラとさせながら店主と語り合っていた。
その姿はやはり歳相応の女の子の姿であった。
店主との白熱した蜂蜜論議に疲れたのかそれとも蜂蜜酒の飲み過ぎか、帰り道美羽は俺の背中で寝息を立てていた。
俺も少し酒をよばれたがなかなかうまかった。
少し火照った身体に夕方の風が気持ちいい。
「今日はどうでした?一刀さん」
「ん?楽しかったよ」
「そうですか……お嬢様がここに来たことは正解だったと思っています」
すると七乃は美羽について話し始めた。
「
でも、一刀さんたちの手伝いによって袁家の呪縛から解放されて、お嬢様は自由となり、今では本当の自分を出すことが出来るようになりました。
私は本当に一刀さんに感謝してるんですよ」
七乃は一度立ち止まり俺に頭を下げた。
「本当に有難うございました」
「頭をあげてくれ。俺達は呉を取り戻すために、そのために…君達を利用したんだよ。
感謝されるようなもんじゃ無いよ」
「それでもです!それでも、私達は一刀さんたちのおかげで幸せになることが出来ました」
七乃は本当に幸せそうににっこりと笑ってみせた。
俺は照れくさくなり、この話はもう終わりだと再び足を城へと向けた。
「ありがとう…一刀…」
その時、背中の美羽がかすかにそうつぶやいたように聞こえた。
夜になり部屋でそろそろ休もうかとしたとき、扉の外から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「一刀さーん。七乃です」
「どうしたんだ、七乃。何か用事か?」
「少しお話があるので開けてくれませんか」
七乃に言われ扉を開けるとそこに居たのは、
「ど、どうじゃ…」「どうですか、一刀さん?」
そこには濃紺の下着のような物を穿き、胸に『みう』という記号(文字?)が入った服を着て恥ずかしそうにしている美羽と、大きくたれた襟に布を巻いた服を着た七乃が立っていた。
「……」
「どうしたんですか、一刀さん。
私たちがあまりにも可愛くて言葉もでませんか」
突然のことに呆気に取れれていると七乃が茶化すようににやけていた。
「その格好、どうしたんだ?」
「や、やっぱり変じゃったか!?七乃~、どうしよう……」
「大丈夫ですよ、お嬢様!ちゃんと可愛いですよ」
いや、確かに2人の姿は可愛い。
美羽の身体を包むそのぴっちりとした服は、幼いながらもその身体は女だと主張しているのがはっきりと分かる。
七乃の服はその裾の短い上着からちらちらと見えるお腹がなんともいえず、うっすらと下が透けているようにも見える。
「ほら、一刀さんもあんなに見ていますよ」
「…はっ!いや、その、なんというか…」
七乃に言われバツが悪くなってしまった。
「それよりどうしたんだ?こんな夜遅く」
なんとか話を逸らそうと用件を聞くことにした。
「わ、妾たちは…夜這いしにきたのじゃ!」
「夜這い!?」
恥ずかしそうに目をきゅっと閉じて美羽は叫んだ。
その予想外の言葉に俺も思わず叫んでしまった。誰かに聞かれて無いだろうか……
「前に寿春に居たとき一刀に蜂蜜を使った菓子を作ってやたっじゃろ?(※合間4参照)
その菓子の作り方を教えてくれた商人にこの街で再会しての。
そいつが言うには『この服を着れば男なんてメロメロよぉ~』って言っておったのじゃ」
「それで、何故俺のところに…」
すると美羽はキッとこちらをにらみ詰め寄ってきた。
「まだわからんのか!一刀、妾は一刀のことが好きなのじゃ!
あっちに居た時からずっと、好きだったんじゃ!」
俺は美羽に押される様に部屋の奥へとやられた。
「な、なんで……」
「呉のために妾たちを利用したのになんでって思っておるのか?
それなら妾達も自分達のために一刀を利用した。
最初はそのはずじゃった……でも、一緒にいるうちにいつの間にか惹かれておったんじゃ。
目で一刀の事を追っていたのじゃ」
俺の服を掴み美羽は一生懸命訴えかけてくる。
「でも、妾は袁家を潰して世間では死んだことになった。
だから、一刀とも離れなくてはいけない。自分の念願が叶ったのに複雑な気持ちじゃった。
でも、こうしてまた会うことが出来た。一刀の姿を見たときどんなに心が高鳴ったか」
「美羽……」
「一刀は、一刀は妾のこと、嫌いか…」
ずるいな、そんな聞き方。俺が美羽の事を嫌いなはずが無いのに。
「俺は…」
その時である。
「ど~~~ん!」
今まで黙っていた七乃が突如俺達に向かって突き飛ばすように飛び込んできた。
その衝撃を支えられず俺達は寝台に倒れこむ形となってしまった。
「な~に2人だけで話しているんですか。私もいるんですよ?」
「な、七乃~。苦しいー」
俺と七乃に挟まれた美羽はうめき声をあげていた。
「私も忘れてもらっては困ります。
私も一刀さんのことが好きなんですよ。
だからお嬢様と一緒に一刀さんに夜這いをかけたんですよ」
「そうじゃぞ!で、一刀どうなんじゃ!」
ようやく抜けだした美羽は俺に馬乗りになりながら問い詰めてきた。
そんな必死な彼女を俺は、嫌いなわけでは無い。
むしろ寿春に居る時から一生懸命に周りと戦っていた美羽の事を守りたいと思っていた。
「俺は…俺も美羽のこと、好きだよ」
「本当か?」
すると美羽は嬉しそうに笑った。
「ああ、一生懸命に頑張る美羽の姿が好きだよ」
「私はどうなんですか?」
「七乃のことも好きだよ。美羽のためにいつも頑張ってる七乃のことが好きだよ」
「いや~ん」
七乃は興奮した様子で赤らめた頬に手を当て喜んでいた。
「ん……」
すると美羽が唇を近づけ、
「んは……もうすぐしたらまた妾達は離れてしまう。
だから妾達に刻み込んでくれ。一刀の好きと言う気持ちを沢山妾達にくれ。
そしたら離れても少しは我慢できる」
「最初はお嬢様ですからね。
でも、初めてですから優しくしてあげてくださいね。痛くしてお嬢様をなかせたら許しませんからね」
そして2人は俺の胸に倒れこんできた。
「分かった。出来るだけ善処するよ」
その晩は2人の温もりを感じながら眠りについた。
「一刀ー、お茶が入ったぞ」
「ありがとう、美羽」
翌朝、今日も俺の世話は美羽達がやってくれている。
昨晩の事の気恥ずかしさで美羽は最初、ぎこちなかったが、だいぶ落ち着いてきた。
「どうですか、一刀さん。お嬢様の淹れたお茶は?」
七乃は表面上はいつもと変わらない様子だが、よく見ると少し違う。
「ああ、とっても美味しいよ。ありがとな美羽」
「ぬふふ、良かったのじゃ」
「よかったですね、美羽様」
2人の笑顔はいつもより輝いて見えた。
この2人の拠点を再び書くことになるとは…
ということで今回は美羽と七乃の拠点でした。やっぱり美羽はかわいい。
作中に出てきた蜂蜜のお酒ですが、実はこれハネムーンの語源となったものらしいです。
(諸説あるのですが)ハネムーンは英語で『honey moon』、つまり『蜜月』です。これは古代ゲルマン人の風習で子作りを励むために新郎は滋養のある蜂蜜酒(ミード)を飲んで精力をつけたことからきているとか。
一刀も蜂蜜酒を飲んだので、その夜は……すごく…大きです…
夜這いにきた時の服装は、美羽はブルマの体操服、七乃は夏服セーラーとなっています。
良く漫画とかでブルマ最高!って言うのがありますが、作者は実際にブルマと言うものを見たことが無いのでなんとも言えないですね。あれってパンツ見えないの?
服を渡したのはもちろんあのモミアゲマッチョな紐パン漢女です。
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今回は蜀での美羽と七乃の拠点。
この2人の拠点、まさか2回目があるとは…
では、どうぞ!