桔梗√ 全てを射抜く者達 第18射
視点:一刀
汜水関に籠っているばかりでは体が鈍る。日課の朝の長距離走は此処に来てからも欠かさず行っている。
丁度今、長距離走から帰ってきたところだが、空気が変わった事に俺は気付いた。
何やら慌ただしい。兵隊達は武器を持って城壁の上を目指しているようだった。
敵襲か?そんなことを俺は考えていると、城壁の上から俺を呼ぶ声がした。
「天の御遣い!アンタ、何処に行っていたの!?
孫策軍が来たわ。早く迎撃の準備をして、城壁に上がってきなさい!」
ほぅ、孫策か。面白い。どのような人物か俺は興味ある。
あの粉塵爆発を見ても、この汜水関を攻めようと考えるとは見どころのある強者のようだな。
俺は自分の天幕に戻り、装備を整え、BarrettM82A1を持つと、城壁へと登った。
城壁には賈駆殿、華雄殿、張遼殿、蒼様、焔耶がすでに居た。馬超殿と馬岱殿は反董卓連合の補給線を叩くべく、斥候を出して、別の場所に行き様子見をしている為、此処には居ない。
城壁から見えるのは『孫』の旗を掲げた軍だった。10日前の衛茲の軍より多く見える。
しかし、10日しか足止め出来なかったか、あの粉塵爆発の恐怖で兵糧切れになって、反董卓連合が退却するのを狙っていたが、この策には少しばかり無理があったか。まあ、そんなに期待はしていなかった為、そこまで落ち込むこともあるまい。むしろ、10日も稼げたと喜ぶべきだな。
反董卓連合の総大将である袁紹軍の士気は確実に低下出来たので、良しと賈駆殿は判断している。
間諜の話によると、袁紹軍は酒盛りをしているという。ヤケ酒とはこの事だな。
孫策軍は粉塵爆発に使った落とし穴前で停止した。汜水関から直線距離で100mも無い。
しかし、汜水関の城壁からの弓や弩での射撃ではギリギリ届かない所だ。何とも歯痒い位置だな。
前列は盾を構えている。こちらの射撃を警戒しているようだ。そして、汜水関の扉を壊すために用意したのかごつい丸太や落とし穴を越える為の梯子が見える。
「孫策軍はどう攻めて来るか、賈駆殿の意見を聞かせて頂きたい。」
「先日の衛茲みたいに突っ込んでくる事は無いと思うわ。たぶん、ボク達を挑発して、汜水関から出てきた所を叩くと思うわ。だから、ボク達はこのまま籠城よ。」
「なるほど。挑発に乗って、汜水関という利を捨て、野戦をする必要はないという事か。
さすがは、董卓軍の軍師、賈駆殿だ。」
しばらく、両軍の間で沈黙が続いた。しかし、その沈黙はある人物の登場で破られる。
孫策軍の先頭に女が出てきた。女は朱色の長髪で、褐色肌。髪と似た色の服を着ている。その女は黄金の装飾が施された剣を左腰にぶら下げているのが分かる。一般兵では無い。
明らかに将だ。あそこまで装飾された剣を一般兵が持つはずが無い。
「賈駆殿、あれが噂に聞く孫策か?」
「えぇ、そうよ。」
孫策は黄金の剣を抜くと、剣をこちらに向け言い放った。
「我が名は孫策。汜水関に籠る華雄に告ぐ。我が母孫堅に敗れた貴様が此処の守将と聞いて我は安心した。
貴様のような脆弱惰弱軟弱な者が此処を護っているとは通ってくれと言っているようなものだ。
どうした?華雄?我が姿を見て、孫堅を思い出し、恐怖したか!」
「ウオォォォォ!賈駆!私は出るぞ!あの売女を叩きのめしてやる!」
「まちー!華雄!」
華雄殿は戟を持ち、張遼殿を振り切り、城壁から降りようとこちらの方に向かってくる。
誰が見ても冷静さを欠いているとしか見えないような表情をしていた。これは不味いな。汜水関を出させたら、孫策の思うつぼだ。俺は華雄殿の前に立った。
「退け!天の御遣い!」
華雄殿は俺を突き飛ばそうと左手を伸ばしてきた。
俺は華雄さんの左手首を掴み、1回転捻りながら、体を後ろに引く。
更に、自分の体を反時計回りに反回転し、華雄殿の左腕を俺の右わき腹を通し、華雄さんの左肘の上に俺の右ひじを沿える。すると、俺は華雄殿の手を掴み、腕を腕で引っかけ、華雄さんに背を向けた状態となる。俺は華雄殿の左手首を掴んだ両手を引き上げる。
華雄さんの体、俺が掴んだ華雄殿の左手首、俺が脇で挟んだ華雄殿の左肘が支点、力点、作用点となって、俺の力が加わった華雄殿の左肘がミシミシと悲鳴を上げ始める。
本当なら一気に肘を上げて、腕を折るのだが、今回はそうもいかない。
腕を折っては、こちらの戦力が落ち、味方内部でギスギスした空気に成り、士気にも影響する。
俺は華雄殿を抑え込むために、更に体を反時計回りに回転しながら膝を折り、地面に座る。
俺が地面に座った事によって、華雄殿は前のめりになる形でこけ、うつ伏せになっている。
華雄殿は逃れようと、もがいてくるが、俺が更に華雄殿の腕を引き上げると無抵抗となった。
ここまで綺麗に決まったのは久しぶりだ。
華雄殿が忘我となったことも要因の一つだが、日頃のCQCの鍛錬の賜物であると俺は思う。
「聞くが良い。華雄殿よ。
戦場で怒る事は恥ではない。人間生きていれば喜怒哀楽がある。私はそう思っている。
多勢の敵が此処に攻めて来て、己が窮地に立っている事に私は心底喜んでいる。
だが、貴方が作戦に反した行動を行えば、董卓軍が敗北するという要素が増すこととなる。
我ら兵士の使命は作戦を成功させ、勝利することにある。決して負ける事が使命ではない。
故に、今の貴方の行動に、私は感心しない。」
「ならば、私の誇りはどうすれば良い!こんなに汚されているのだぞ!」
「見えぬ誇りを見える勝利より優先させるは愚兵の行う事。
言ったであろう。我々兵士は泥を被り、雨水を啜ってでも勝利することが使命。負けて死する事では無い。孫策の罵倒は耐えれば良い。ただ、それだけではないか。」
「……貴様には誇りが無いのか?」
「悪いが、私にはそう言ったモノが全く無い。
私は戦場で喜怒哀楽を見出し、勝利し、生還する事で己が無力で無いことを立証できれば、それでよい。
………………賈駆殿、華雄殿を如何いたしましょう。」
「華雄。アンタにとって、誇りも大事だけど、今はそれ以上に月の命が大事なの。
アンタなら分かるわよね。」
「……………………あぁ、冷静になれば、そうだな。
これは月様を護る為の戦い。負ける訳にはいかない。私が悪かった。」
華雄はため息交じりに謝罪をしてきたので、俺は華雄殿を放してやった。
今回は華雄殿一人が忘我になっただけで済んだが、このままでは一般兵にまで影響が出る恐れがある。
後ろを見てみると、悔しさで顔の歪んでいる兵が多数見受けられる。
何か手を討つ必要があるな。そうだ。逆に、こちらが孫策を挑発してみるのはどうだろう?
早速俺は賈駆殿にこれからやろうとすることを言うと、あっさり許可を頂けた。
俺は城壁の手すりの上に座ると、笑い叫びながら、孫策の挑発に答えた。
「片腹痛いぞ。孫策よ!滑稽。実に滑稽だ。
死してこの世に居ない親の名前を、今この場で出すとは、よほど自分に自信が無いと見える。虎の威を借る狐ならぬ、母の威を借る娘だな。これを滑稽以外となんと言えよう。
これ以上に笑える戯言を吐いて、私を笑かすのは止めて頂きたい。
腹筋が筋肉痛になって、思い出し笑いで、寝ることも困難になりそうだ。」
「何だと!貴様、名を名乗れ!」
「名乗れと言われて、素直に名乗るような愚者とは私は違う。
私は負け犬の遠吠えに似た貴様の戯言を聞きながら、一服させていただこう。
あぁ、先ほども言ったが、これ以上に笑える戯言は止めて頂きたい。笑い過ぎて、茶を噴いて、この服を濡らしたくないからな。」
そう言うと、俺は自作の糒とペットボトルを取りだし、飲み食いを始める。
汜水関にいた者も孫策軍も唖然としている。敵軍を前に暢気に飯を喰らい、水を飲んでいるからだ。
孫策は俺にかなり御立腹のようだ。俺に殺気を当てて来る。それもそうだろう。
俺の行為は誰がどう見ても、孫策を舐めているとしか思われないだろう。
良いぞ。もっと俺に殺気をぶつけて来い。孫策よ。
戦場の敵の悔しがる顔を見る事もまた俺の生き甲斐の一つ。あぁ、怒れよ。孫策。
俺は貴方のその怒り悔しがる顔が笑えて仕方が無い。
っていうか、桔梗様が俺にくれた糒マジ美味い!感激して死にそうだ。
杏里の勧誘しに行った時から、熟成させた会が有った。とても胸を撃つ美味さだ。
「貴様!それでも武人か!武人なら此処に下りて来て、誇りを掛けて、正々堂々と我と戦え!」
「私は武人では無い。ただの誇り無き弓兵だ。武人の矜持等、私の預かり知るところでは無い。
そんなに一騎打ちがしたかったら、こちらに乗りこんで来るが良い。
あぁ、すまぬ。貴方にこちらに来いと無理難題を吹っかけた事を許して頂きたい。
貴方の軍は我が総軍の射撃と炎を恐れて、それ以上こちらに来る事が出来ないのだったな。
すっかり、それを忘れていた。」
「貴方こそ、怖いんじゃないの?私達が?」
「これはまた面白い戯言を言われる。
獣の王者である獅子は遠吠えをする弱き獣を相手にしないだけの事。
恐れているのではない。弱過ぎて相手を見ていないだけだ。私がこの関を出ないのはそう言う事。
だが、このままというのも退屈だ。私を笑わせた礼に一つだけ良い事を教えてやろう。」
「何?」
俺は手すりの上で立ち上がり、大きく息を吸う。
ああぁ、美味なり。これこそが俺の好きな戦場の空気の味だ。
熟した豊満な桃のような甘さが有りながら、度数の高いジンのようなピリッとする鋭さが有る。
俺は十二分に堪能した戦場の空気を吐きだす。そして、孫策に満面の笑みで睨み、言い放つ。
「……………貴様はいつまで私の射程範囲内に居るつもりだ?」
俺は城壁の手すりの上からバックステップで降りると、城壁の手すりに立て掛けていたBarrettM82A1を持ち上げ、手すりの上に乗せる。装弾。セイフティー解除。装填完了。
風は関係ない。敵は密集し、大地を覆い尽くしている。サイトを覗かなくても、適当に撃てば、下手な鉄砲何処かに当たるだ。誰に当たろうが関係ない。目の前に居るのは兵士だ。
此処が戦場で、相手が敵兵士であり、敵意がある以上、俺は容赦しない。
…………待てよ。アレを狙ってみるか。気が変わった俺はあるモノを狙う事にした。
その方が面白そうだ。あれに当たれば、向こうが突出してくる可能性が高い。
ここらで一度こちらの兵士の鬱憤を爆発させておいた方が良いだろう。
イライラしたまま、敵兵士を返し、籠城を続けていては、士気に影響するやもしれん。
敵軍への無差別攻撃を狙撃に変更する。といっても、アレに当たらなかったら、流れ弾で孫策軍の兵士が死ぬだけだ。何の問題も無い。こちらには実害が全くない。
「賈駆殿、華雄殿、張遼殿、蒼様。そして、この汜水関に兵の皆さん。
私が天の弓を使う所を見るのは初めてでしたな。ならば、お騒がせすると謝罪しておきましょう。
あぁ、この音に慣れてもらう必要がありますから、耳を塞ぐのは止めた方がよろしい。
それと、華雄殿。孫策に最大の屈辱を与える故、孫策を凝視しておくことをお勧めします。」
「あぁ、分かった。それは楽しみだ。あの売女に最大の屈辱を与えてくれ!」
俺はBarrettM82A1のストックを脇腹の骨に当て、サイトの中を覗き込む。
この射程距離で、この銃弾なら、風は関係ない。
その後はこの手すりを盾に適当に乱射すれば、良いだろう。
「では、孫策よ。Que dios te bendiga(貴方に主のご加護がありますように)!」
視点:雪蓮
ンッキィー!!腹立つわね、あの男!
こっちの挑発には乗ってくれない。そればかりかヘラヘラと笑い返してくる。
そればかりか、こっちを挑発してくる。これじゃ埒が明かないわね。
私が汜水関の守将を挑発するのに、手こずっているのを見て、冥琳が来てくれた。
私が暴走することを心配した冥琳は私に釘を刺してくる。
「雪蓮。気持ちは変わるが、飛び出すなよ。」
「分かってるわよ。」
「雪蓮。あの男は何をしている?」
「さあ、知らない。」
私がそう言った瞬間、男の空気が変わった。城壁の上に立つ男の顔の表情が分かる訳じゃない。
でも、あの男は私に向かって、いや、私の軍全体に殺気を放っているのが私は分かった。
さきほどまでヘラヘラしていた空気はまるで無い。そこに居たのは一人の狩人だった。
「……………貴様はいつまで私の射程範囲内に居るつもりだ?」
私は分からなかった。言葉の意味は分かるわ。
でも、理解できなかったのよ。あの汜水関から矢を飛ばしたとしても私達の立っている位置は決して届かないはず。そう祭でさえ届かないって言った。でも、私の勘は告げているわ。あの男は普通じゃない。明らかに此処まで矢を飛ばす自信をあの男は持っている。
男は後ろに跳び下り、何かを持ち出してきた。黒く光るそれは禍々しかった。
私は南海覇王を抜く。私の方に矢が飛んでくるなら、剣で叩き斬ってやる。
でも、そんな私の思いとは裏腹に、その男の殺気はすぐに収束した。まるで、無差別攻撃を止め、何処かを狙っているみたい。私はその一点が私自身では無い事が分かった。もちろん、勘。
ただ、その一点が何処なのか私は分からない。
「全軍に告ぐ!盾を装備しろ!矢が飛んでくるぞ!冥琳!早く!盾の後ろに隠れて!」
「では、孫策よ。け、でぃおす、て、べんでぃーが!」
そして、汜水関の上の男の前で煙が上った。
それと同時に何かが爆ぜる音が後ろから聞こえた。何が爆ぜたのか分からない。
私はそんな疑問を解消するために振り向いた。
「私の…牙門旗……。」
そう、私の真後ろにあった牙門旗の竿がゆっくりと折れ、地に落ちた。
それだけじゃない。続いて左翼を任せていた蓮華の牙門旗も、右翼の祭の牙門旗も折れた。
何で?どうして?あんな丈夫な牙門旗の竿が折れるの?あれは細いけど、呉の丈夫な竹でできている。
それにこの戦の前に新調したばかり、だから、風で折れたなんて普通は考えられない。
じゃあ、何が私と蓮華と祭の誇りとも言える牙門旗が折れたの?
私は茫然と立ち尽くしていたが、冥琳の言葉によって元に戻った。
「雪蓮、蓮華様が突出したぞ!」
「何ですって!」
視点:??
許せなかった。あの城壁にいる男が。
姉様を罵り、笑い、敵を前にして飲食をしている。許し難い!
だが、これは作戦。汜水関に籠る華雄を挑発して、関から出た所討つという作戦。
だから、華雄が出て来るまで待たないと。待たないと駄目。
耐えろ!蓮華!
私は見てしまった。私の牙門旗折られ、地に落ちるところを。もちろん、あの男が折ったという確証は無い。だが、そんなことはどうでも良い!あの男が折ったに違いない。
袁術以上にあの男が私は憎かった。私の牙門旗に泥が着くなら耐えよう。
だが、姉様の牙門旗に泥を塗った。それだけは私の中では許せなかった。
姉様の牙門旗に泥というのは孫呉の存在を侮辱したも同じ。
許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!
「孫呉の兵よ!聞け!
敵は我が姉の孫策を愚弄し、戦を汚し、我らの誇りとも言える牙門旗に泥を塗った!
汜水関に籠り、我らを愚弄したあの憎き男を血祭りにあげ、引導を渡してやるぞ!我に続け!」
私は抜刀して、軍の先頭に立ち、汜水関へ向かって突出する。
この判断は間違っていない。孫呉の兵は誇り高い。このまま待っていたら、兵の不満が出る。
兵の不満が出れば、士気は下がる。だから、ここで突出するという私の判断は間違っていない。
先日炎上した穴を私は滑り降りていく。兵達も私に続く。
落とし穴を登るために兵達は梯子を掛け、次々と登って行く。
梯子を登りきった兵は盾を構え、梯子を登っている最中の兵に矢が当たらない様に護衛する。
そして、兵隊は落とし穴を登りきると盾を装備し、汜水関から降り注いでくる矢から身を護る。
とうとう、汜水関の門を壊すために用意した丸太がこちら側に来た。
後は、汜水関の門をこれで壊す。そうすれば、一気に汜水関内部に孫呉の兵がなだれ込む事が出来る。
敵は籠城戦の装備をしている。つまり矢と弩が主流。汜水関の門に接近し、盾を上に向けて装備すれば、多くの矢と弩は役に立たなくなる。我らが懐に入り込んでいりこめば、こちらに勝機が有る。
後ろを向くと、姉様の軍も祭の軍も汜水関に向かって進軍したのを確認した。
良かった。姉様と祭も来てくれるなら、心強い。軍全体の士気も上がるだろう。
それに、単独で突撃したら、汜水関から降ってくる矢を集中的に受け、軍が壊滅する事になってしまう。
危険の分散の為にも、此処は一度姉様と祭を待ち、一斉に突撃を掛ける。
私は盾で、董卓軍からの猛矢から身を守り、姉様と祭を待つ。
すぐに、姉様の軍が穴を越え、こちら側に来た。姉様は私を見つけると凄い形相で汜水関から飛んでくる矢を南海覇王で切り落としながら、私に迫ってきた。
「蓮華!貴方何を考えているの!」
「私が作戦を無視して、勝手に動いた事は謝ります。
しかし、あのまま待機していては兵達が苛立ち、汜水関攻略に悪影響が出ます。
『兵は拙速を聞くも、いまだ巧久なるを睹ず』と孫子も言っています。
士気の高いうちに汜水関を攻めるのが良いと考えました。
それに、姉様は悔しくないのですか!?姉様の…孫呉の誇りとも言える牙門旗が折られたのですよ!」
「蓮華、分かったわ。
貴方を命令違反とし、この戦が終わった後、軍議に掛けるわ。覚悟していなさい。
……汜水関を落とすわよ。蓮華。」
「はい!」
汜水関を睨む姉様の言葉に返事をする。
後ろに控える兵達も孫呉の王である姉様の姿を見て、更に士気が上がる。
すごい。姉様の登場だけでこんなに士気が上がるなんて……。やっぱり姉様はすごい。
江東の麒麟児と言われるだけの事はある。
勝てる。私はこの言葉しか思い浮かばなかった。相手は我らを恐れて汜水関に籠っているだけの雑兵。
汜水関という鉄壁に籠って入るが、天下無双の呂布は居ない。汜水関に居るのは母様に負けた華雄と口だけの男。それに比べて私達は士気が最高潮まで上がった孫呉の兵。負ける要素が見当たらなかった。
勝てる!あの憎い男を叩き斬る事が出来る!
城を攻略するには、まず、私達が城の兵を減らす必要がある。
なぜならば、敵兵が多ければ、城に近づき、門を開けようと丸太をぶつける時に集中的に射撃を受けてしまう。そのためには、ここからある程度、兵を減らす必要がある。
つまり、城を正面から攻める時の最初の王道の一手は盾で相手の射撃を防ぎながらの射撃。
冥琳からそう教わった。そして、今回はその手を使う事になった。
私は自分の軍に盾の装備と弓と弩を用意させる。そして、姉様の号令を待つ。
「矢を放て!!」
姉様の号令で、数万の矢が汜水関へと降り注ぐ。
だが、董卓軍も黙っては居ない。関を出ないという前提でのこちらへの集団攻撃手段は同じ射撃。
孫呉の軍にも数万の矢が降り注ぐ。降ってきた矢のほとんどが、盾に刺さるが、盾で防御しきれなかった兵達や弩に矢が刺さって行く。私は兵達に盾から不用意に身を出さず、負傷兵は盾で隠すように指示する。
私も祭に教わった弓術で汜水関に矢を放つ。
時間も労力も掛かるが、董卓軍が汜水関から出て来ない以上、こうするしか手立てが無い。
時間はかかるが、確実ではある。これを続けて行けば、汜水関を落とせるはず。
私が盾に背を向け、矢を取ろうとした時だった。
何の前兆も無く、いきなり、私の目前にあった盾…つまり私の後ろに居た兵の持っていた盾が爆ぜたのだ。
盾が爆ぜた衝撃で砂埃が少し舞った。目に砂が入る。私は目の前で起こった事を把握するために目を擦り、盾の有ったところを見る。そこに居たのは左足が無く、蹲っている孫呉の兵士だった。
状況を把握しようと私は考える。
内容はもちろん、何故この兵士は脚が無いのかという事だ。
もともと無いのか?それはあり得ないだろう。元々脚が無かったら、今こんなに出血している事は無い。
だったら、攻撃された?汜水関から?どうやって!?剣を投げてきた?いや、剣は落ちていないから、あり得ない。他にも色々浮かんだが、どれも当てはまらない。
もしかして、妖術?だとしたら、孫呉の牙門旗の竿を折ったのもあの落とし穴の火柱のも納得いきそうだ。
「……そ…ん権…様。盾が………」
脚を抑えていた兵が私に助けを求めようと手を伸ばしてきた。私はその兵を助けようと手を伸ばす。
三尺………………………二尺………………………一尺。
手はどんどん近付く。後もう少し!
…………八寸……六寸……四寸…………二寸………一寸…………その時だった。
その兵の頭が散った。そう。牙門旗の竿や盾の時のように何の前触れもなく。
残ったのは頭と左足が無く、赤い液体と何かを撒き散らした糸の切れた操り人形だった。
黄巾党の戦いで、死体には見慣れたつもりだったけど、初めて見る種類の死体に私は嘔吐感を覚えた。
しかし、王族が戦場で吐く訳にはいかない。そんな無様な姿を兵達に見せる事は出来ない。
私は周りを見る。兵達にも動揺が走っている。ある兵は固まり、ある兵は吐いている。
そして、別のある兵が言った。
「……おお…か…み…狼だ。喰われる!喰い殺されるぞ!!」
狼?この兵士は何を言っている?此処に狼なんか居ない。
でも、この兵士の言っている事には納得してしまう。喰い殺される。
なるほど、私の目の前で死んだ兵は左足と頭を見えない狼に喰われたという訳ね。
もう、笑えて来るわね。
「ッハァー、ッハァー。」
「蓮華様、しっかり、落ち着いて、息をなさってください!蓮華様!」
思春が何か喋っているのは分かったけど、私は思春が何と言っているのか分からない。
そして、そのまま意識を手放してしまった。
どうも、黒山羊です。
どうだったでしょうか?
一刀がマジで逝ってる感じがして仕方が無いと私は思うのですが、どうですか?
マジ戦闘狂!敵の将を笑い飛ばし、挑発、挙句の果てには対物狙撃銃乱射!
それから、挑発に蓮華が乗ってしまいます。
なんか全国の蓮華ファンのヒンシュク買いそうですので、謝っておきます。
ごめんなさい。ですが、後悔はしてません!
それから、蒼様の強姦を楽しみにしていた人すみません。
今回は戦争シーンを書きたかったので、このような物に成りました。
では、いつものあれで閉めましょう!
それでは、皆さん御唱和下さい!
へぅ( ゚∀゚)o彡°
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残暑が厳しいので、冷えた酒を飲む以外何もできない黒山羊です。
ツマミは塩辛系統or刺身のものですね。
塩辛系統はあさりの塩辛かこのわた、マグロの酒盗ですな。
刺身は鯨の赤身と本皮が至高の一品です。
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