No.293288

真説・恋姫†演義 北朝伝 幕間の十四 

狭乃 狼さん

北朝伝、幕間シリーズのその十四です。

今回は前回に引き続き、Siriusさま謹製、曹洪子廉こと、雹華がメインです。

彼女の守銭奴ぶりににまつわる、過去のエピソードとともに、

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2011-09-04 22:03:35 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:18250   閲覧ユーザー数:12413

  

 官渡の決戦において、一刀たちが曹操率いる魏に勝利した後、その領土割譲によって、それまで漢の都であった許昌を、一刀たちはその統治下に入れることとなった。その際、その統治の一助となるようにと、魏から出向と言う形で曹仁と曹洪の二人が、暫定的に一刀の配下に加わった。そしてその後、互いに真名も交わしあい、その親睦を深めつつあった、これはそんな頃のお話である……。

 

 「ねえねえ彩香~。これ、もう使わないんなら貰っていい?」

 「……別に構わないけど。でも雹華、いい加減私や皆のお古ばかりじゃなくて、新しいものを買ったらどうなの?」

 自分の私室の箪笥をひっくり返し、その中に入っている着物の中から、すでに着られなくなった物や長く使われていないものを引っ張り出している従妹に、少々渋い表情で曹仁がそう声をかける。

 「え~?そんなもったいない事しなくていいよ~。こっちの服もあっちの靴も、この髪留めだってまだまだ使えるんだし。こうやって、物を大切にするのは悪い事なの?」

 「誰もそんなこと言っていないでしょう?私が言いたいのは」

 「あ!いっけない、訓練の時間に遅れちゃう!遅刻したら後で輝里ちゃんあたりにお説教されちゃうから、あたしもう行くね~?じゃ、これはありがたく頂いていきま~す」

 曹仁の言葉を途中で遮り、その腕に何着かの服と何足かの靴を抱えたまま、曹洪は上機嫌で従姉の部屋から出て行った。

 「……はあ。しょうがない子ね、ほんとに……」

 これがもう何度目のことだろうか。曹仁や他の将たちの古着や、履き古した靴などを、曹洪はこうして幾度と無く譲り受け、それらを自分で仕立て直し、そうした内のいくつかは自分の着る分に取り、あとの残りは知り合いの商人を通して売り払っているそうである。……ちなみに、それらを彼女が自分で仕立て直しているのは、その方が余計なお金を使わずに済むそうだから、だそうである。

 「お金を貯める事自体が悪いとは言わないし、皆もそれを承知の上であの子に譲っているから、咎める理由は無いんだけど……」

 官渡の戦い以前……いや、曹操が陳留にて旗揚げをし、それに曹仁と曹洪も協力することになるその前から、彼女の金銭に関する執着心は、周囲の者たちにとっては周知の事実であり、そんな彼女のことを影で守銭奴と呼ぶ者が多数いることも、曹仁ら魏の将らはもちろん、本人も良く分かってはいる。それでもなお曹洪は、吝嗇(けち)とも言えるほど、銭金に関しては一切妥協せず、日々小金を貯めることに執着し続けているのであった。

 「……やっぱり、“あの時の事”が、今でもあの娘を縛り付けているのね……」

 部屋を出て行った曹洪の、その心の奥底に根付いている、一生消える事のないであろうトラウマ。それをこの世でただ一人知っている彼女は、従妹のその想いに何とか助力したいと思いつつも、中々良策を見出せないでいたのであった。

 

 

 そんな風に曹仁が従妹のことを考えていたとき、その当の本人はと言うと。

 「よーし!今日の訓練はここまで!それじゃあ各自、いつもどおり、折れた木剣や棒をあたしの所に持ってきなさい!それが済んだ者から順次解散だよ!」

 「……ねえ、雹華?貴女いつも訓練の度に、そうやって使えなくなった木剣や棒を集めて、どこかに持っていっているけど、一体そんな廃材どうしてるの?」

 定例の訓練が終了した後、兵士達が使っていて、折れたり砕けたりして使えなくなった訓練用の武器を、自分の手元に回収する曹洪。そんな彼女に、これまで中々その行動の理由を聞く機会の無かった徐庶が、思い切ってその理由を問いかけた。

 「なんか問題あった?一応、一刀くんからは許可貰ってるけど?」

 「一刀さんから許可が出てるのは私も知ってるから、回収する事自体に問題は無いわ。私が聞きたいのは、それをどうしているのかって事」

 「あははー。何だそんなことかー。……売ってる」

 「……は?」

 「茶店とか飯店とか、あと鍛冶屋さんとか。燃料代も馬鹿にならないからって、結構喜んでもらってるよ」

 「……(ぽか~ん)」

 (たきぎ)として、街の飲食店や鍛冶屋に、それらの廃材を安く売っている、と。事も無げに平然と言い放つ曹洪に、思わず呆気に取られて開いた口のふさがらない徐庶だった。そんな徐庶をよそに、曹洪は集められた廃材を一まとめに括り、その小さな背に背負って訓練場を後にしようとする。

 「まあ、大体二束三文にしかならないけどねー。でも、塵も積もれば山となる。一銭を笑う者は一銭に泣くのだ。じゃ、そゆことで」

 てってって、と。いまだ呆然としている徐庶を後目に、曹洪は軽い足取りでそこから去っていく。

 「……良いの……かなあ?あれって一応、公費で買ったものなんだけど……でも壊れた以上は廃材だし……う~ん……」

 曹洪が立ち去った後、暫くそんな風に自問自答を続けた徐庶であった。

 

 

 そんな薪を背負った曹洪が向かった先、許昌の街の中にある一軒の飯店に、一刀と李儒、そして司馬懿の三人がたまたま昼食をとりに訪れていた。

 「ぷは~。いつ来てもここの麻婆は旨いの~。この辛さ、病み付きになるわい」

 「……良く食べるね、そんな唐辛子びったびたの麻婆豆腐。てか、赤い汁にしか俺には見えないんだけど」

 「この良さが分からんとは、一刀もまだまだ精進が足りんの♪ま、妾ほど辛いものが好きな人間は、そうそうおるものではないじゃろうがな」

 「……他にもこんなの平気で食えるのがいたら、一度お目にかかってみたいよ……」

 「……はふ。やっぱりここのらーめんが一番おいしい」

 そもそも激辛料理ってどうなんだよ、と。一刀と李儒がそんなことを語り合っているその隣で、一人黙々と大好物のラーメンをすすってご満悦な司馬懿。ちなみに、この飯店の名前は『纏華羽(てんかわ)』(笑)というが、某氏とは一切関係無いので、ご了承くださいw

 

 とまあ、それはさておき。

 

 ちょうど三人が食事を終えたとほぼ同時に、曹洪がその店の裏口側からひょっこりとその姿を現した。

 「あれ~?一刀くんに命さん。それにるりるりだ~。三人仲良くご飯~?」

 「雹華?ああ、君もお昼かい?」 

 「……おぬし。今何処から入ってきよったのだ?」

 「裏口からだよ?あ、おやじさ~ん!あたしいつもの定食ね~」

 「はいよ~!……だけど曹洪さま?いつもうちで食べてくださるのは嬉しいんですがね?毎度毎度一番安い定食ばっかりじゃあなく、たまには他の物も食べてはくれませんかね?あ、今日のお勧め、麻婆と春巻きの定食なんてどうです?」

 「あー、また今度ね~。ていうか、今の所持金、さっきの薪代しか持ってないから」

 「……そうですか」

 がっくり曹洪の台詞でうなだれながら、店の主は厨房へと戻っていく。当の雹華はというと、一刀たちが座っている卓の横の席に、一人鼻歌交じりで腰を下ろし、懐から財布…というか、銭の入った袋を取り出し、その中身を一枚一枚取り出しながら、確認をし始めた。

 「ひ~の~、ふ~の~、み~……おし、今日の目標達成!」

 「……またおぬしは金勘定か。銭にばかり執着するのもどうかと思うが」

 「いーじゃんべつに。お金はあって困るものじゃあなし。……じゃないと、いざと言うときに使えないもの」

 『??』

 ぽそ、と。最後に曹洪が呟いたその一言の、その意味が一刀たちにはいま一つ理解できないまま、曹洪は店の主が出してきた、この店一番の安い定食をあっという間に平らげ、さっさと店から出て行った。

 

 なお。曹洪が店を出た後、一刀たちもすぐに店を出ようとしたのであるが、その時になって気がついた点が一つだけあった。それは、

 「……やられた……」

 「く。あの場の空気に紛れて、さりげなく勘定を妾たちに押し付けるとは……!!」

 「おそるべし、守銭奴・曹子廉……!!」

 

 ……というわけで、曹洪が食べた定食代も、一刀が代わりに支払う事になったのであった。

 

 「……馬鹿ばっか」

 

 

 そんなこんなでさらに数日が過ぎたある日の事。

 「……輝里」

 「はい。何でしょうか一刀さん」

 「……悪いけど、雹華を呼んで来てくれないかな?……彼女が出したこの献策書のことで、ちょっと話があるからってさ」

 許昌の城の、一刀の執務室にて、配下の将や文官、街の人々からの陳情書に目を通していた一刀が、その中に紛れ込んでいた一枚の書類を手に、それを出した人物―曹洪をここに呼んで欲しいと、徐庶にそう頼んでいた。

 「……何か問題でもあったのか?」

 「そうじゃあないけどね。……ちょっと、本人の考えも聞かないと、この場で即決裁ってわけには行かない……ってところかな」

 それから程なくして、徐庶に連れられた曹洪が、執務室にその足を踏み入れた。

 「やっほ~。曹子廉、お呼びにより只今参上~!……で?どうかした?」

 「……いやさ。君が出してきたこれ。……案自体はとってもいいものだし、俺もやるべきだとは思うけど、一箇所だけ不明瞭な点があったからね。そこの所を、君の口から聞かせてもらおうかと思ってさ」

 「う。……言わなきゃ駄目?」

 「そうだね。他の事ならともかく、この件に関してはここがはっきりしてないと、俺も首を縦には振れないな」

 「……」

 笑顔ながらも、真剣な表情を曹洪に向けて、その献策で最も大切な、そしてただ一箇所不明瞭なその点について、一刀はまっすぐ曹洪の目を見据えて問いただした。ちなみに、その献策の内容は次の通りである。

 

 『曹子廉が北郷一刀様に上申す。昨今の大陸における状況を鑑みるに、今最も必要なものは、質の高い医者と薬を安定して各地に供給し、また同時に、貧しいものでも無償、もしくは格安な料金で、質の良い医療を受ける事の出来る体制を、国を挙げて整えるべきである事と、私は愚考するものであります』

 

 「ふむ。つまりは何処でも誰でも、格安、もしくはただで怪我や病の治療を受けられる、その体制を整えるということか。……いい案じゃと妾もおもうが、一体どこが問題なのじゃ?」

 「……資金をどうするかって所ですか?」

 「そ。もしこれを国を挙げてやるとすれば、その予算はとんでもない額になる。正直言って、今の予算じゃあ絶対無理だ。……そこをどうするのか、考えていなかったなんて言わないよな?」

 「……考えはあるにはあるけど……」

 「うん。で、その考えってのは?」 

 「……それは、その……」

 いつも饒舌な彼女にしては珍しく、何故か歯切れ悪く口ごもる曹洪。そこに、コンコン、と。外からノックの音が聞こえてきた。

 「はい、どなたですか?」

 「曹子孝にございます。……入らせていただいてよろしいでしょうか?」

 「彩香さん?……ええ、どうぞ」

 一刀の許可が出るのをわざわざ待ち、それからゆっくりと扉を開けて、執務室内へと入ってくる曹仁。

 「彩香さん、何か急な用でも?」 

 「いえ。……先ほどの、雹華の献策について、私も彼女を弁護したいと思い、不躾ながら参上させていただきました」

 「?!ちょ、ちょっと彩香!一体何を話す気なの?!……!まさか」

 「……雹華。貴女がこの案を実行に移したいのなら、ちゃんと全てを話さなければ駄目よ。……この政策を思いつくに至った経緯と原因。そしてそれを実行するための資金源のことも」

 「……で、でも……」

 「……あなたの気持ちも分かるけど、あの事を話さずに事を進めるのは、“あの子”に対しても失礼だと思わないの?」

 「……ッ!!」

 曹仁の、『あの子』というその言葉に反応し、一瞬でその身を硬くする曹洪。……その体が、わずかに震え出している事に、一刀たちも容易に気づけた。

 「……もしかして、この間彩香さんが言っていた、彼女のお金への執着に関する、絶対に言わないと誓った事……ですか?」

 「はい。ですが、今回この娘が提示した案は、その事を皆様が知っておられるか否かで、その意義の重要性がかなり変わってきます。だから……話して良い?雹華?」

 「……(こくん)」

 曹洪が無言で頷くのを確認した後、曹仁は静かに語りだした。曹洪が、今のように守銭奴と言われながらも、お金に執着するようになったその切欠を。今回の政策を考え付くに至った、過去の事件の事を。

 

 

 それは、二人が出会ってまだ間もない、曹仁十一歳。曹洪十歳の時の事だった。

 

 

 

 兗州曹家は大きく二つの血脈に分かれる。一つは魏王曹孟徳を宗主とする、陳留の曹家。そしていま一つは、曹仁と曹洪の実家である、濮陽の曹家である。

 

 曹仁が養女として拾われ、曹洪がその実子として生まれた濮陽の曹家は、政治家気質の強い陳留の曹家と違い、銭勘定にさとい商人気質の強い一族であった。

 

 要するに、曹洪や曹仁が幼い頃の濮陽曹家は、その土地で手広く行っていた商売によって成功した、濮陽一の金持ちだったのである。そんな金持ちの家に生まれた子女と言うのは、往々にしてわがままし放題に甘やかして育てられるものであるが、彼女らの父親はそのあたりわりと厳しい人物であったため、養子である曹仁だけでなく、実子である曹洪にもしっかりとした教育(しつけ)を施した。

 

 そんな親の教育もあってか、曹洪は同じ街に住む普通の家庭や貧しい家の子供たちとも、全く何の垣根無く遊ぶ、優しく素直な娘として成長して行った。しかし、それはあまりにも突然な出来事だった。

 

 ―流行り病―

 

 濮陽の街の、とある一軒の家に住む子供が、高熱と激しい下痢を伴う病を、ある日突然発症した。そこからはもうあっという間だった。次々と罹病者が増え、一度発症した者はわずか一晩で死ぬと言う、原因不明の病が濮陽の街を襲った。

 

 次々と倒れていく街の人々。通りには埋葬されることも無く放置された、罹病者たちの遺体が山となり、感染を恐れた健常者たちは、それぞれの家から一歩も出なくなった。……そうなった街の辿る道は一つ。農業も経済も瞬く間に廃れ、街はさながらゴーストタウンの様相を呈していく。流行り病が沈静化した一ヵ月後、濮陽の街は以前と比べるべくも無い、貧しい街へと変貌した。

 

 寂れてしまった街の復興は急務であった。動ける者、体の健康な者は老若男女に関らず、昼夜を問わずに働き。元から財のある者は、そのほとんどを投げ打って、今回の疫病で死亡した者達の家族を助けた。そんな人々の努力もあり、街は見る見るうちにかつての活気を取り戻していった。そんな中、ある時曹洪の友人である貧民街に住む一人の子供が、急な病に倒れた事を彼女は知った。

 

 もしやまた、先の流行り病が再発したのか?

 

 と、街の人々は再び大きな恐怖に駆られたが、たまたま濮陽の街を訪れていた医者の一人がその子供を診たところ、それは先の病とは全く関係のない、その子供だけのものだと聞いて、不謹慎ながらも、人々は安堵の息を漏らした。――だが、曹洪にとってはそれだけで済む話ではなかった。

 

 今回病に倒れたその子供は、彼女にとっては唯一無二の大親友だったのである。そしてその親友の病は、そこらで売っているような安い薬でどうにか出来るものでなく、都などのごく一部でしか手に入らない、超が付くほどの高額な薬でしか、治療手段の無いものだった。無論、貧民街に住むその娘の親にも、そのような金を捻出できる手段などは無く、わが子の病を救えぬふがいなさに、ただ嘆くことしか出来なかった。

 

 その話を聞いた曹洪は、自身の父親にその薬を手に入れてくれるよう、三日三晩必死になって懇願した。父ならば、そして裕福な自分の家ならば、その薬を手に入れることが出来るはずだと、親友の命を救うため、代わりに自分の出来ることは何でもすると、必死になって頭を下げた。……しかし、父親から返ってきた言葉は、あまりにも無情な、そして曹洪に逃れられない現実を突きつけるものだった。

 

 『……お前の気持ちは痛いほど分かる。だがな雹華、我が家も先の流行り病からの復興のため、これまでの蓄財をほとんど出してしまったのだ。……その友人には残念だが、今の我が家には、“他人に使うための銭”は、もう何処にも無いのだよ』

 

 その数日後。

 

 親友を救えぬ己の力の無さに落胆し、ただその傍に居つづける事しか出来ずに涙を流す曹洪に看取られて、彼女の親友はその短い人生に幕を下ろした。その最後に一言、曹洪に対してこう言い残して。

 

 「……私、雹華ちゃんと会えて、とっても幸せだったよ……」

 

 

 

 『……』

 曹仁の口から、過去の出来事が全て語られ終えた後、その場にいた者達は誰も、その口を開かなかった。いや、開けなかった、と言うべきだろう。……一刀も徐庶も李儒も、揃ってその瞳に溢れ出さんばかりの涙をためて、その小さな肩を無言で震わせている金髪の少女に、かけるべき言葉を見出せないでいたのである。

 「……あの時、あの子を救えなかったのは、流行り病の直後だったから。あの子はただ運が悪かったんだって。だから、仕方の無い事だったんだって、周りの大人たちは口を揃えてそう言ったよ。……でもそれじゃあ何?あの子自身には何の罪も無いのに、病になったのは不運だったから?薬を買えなかったのも不運だったから?!たったの十歳で死んでしまう事になったのも、全部運が悪かったの一言で片付けられちゃうの?!」

 「雹華……」

 「そんなものはただの詭弁よ!子供一人助ける事の出来ない大人たちの、ただの方便よ!そんな時に何も出来ない、誰も救えない世の中のごまかしよ!」

 従姉が過去の話をしている間、ただ静かに沈黙を守っていた曹洪が、その心の奥底に今まで溜め込んでいた想いと共に、一気に言葉を紡いでいく。その双眸から滝のような涙を流し、まるで自分自身を苛んでもいるかのように。

 「……だからあたしは決めたの。あの子みたいに、必要な時に、必要なだけの治療と薬を受けられない、そんな人たちをあたしは絶対助けると!……だから最初は医者になることを志した。そのための勉強だって始めた。……でも、あたしは実家の跡取りだからって、家族は誰も認めてくれなかった。だったらいっそ、家を飛び出そうと思ったことだってあった。……でもその度に、彩香があたしを引き止めたの。自分の勝手な都合と思い込みだけで、生きている家族に心配をかけてはいけないと」

 「……孤児だった私を養女にし、救ってくれたお義父さまやお義母さまを、私は悲しませたくなかったのです。……所詮養子の私では、お二方に真の意味で応えることは出来ませんから」

 うつむき、下唇を噛む曹洪の隣で、曹仁もまたうつむいたまま、その表情を曇らせる。

 「……それからあたしはずっと考えた。医者になることが出来ないのなら、他にどんな手があるか。そして思いついたのが」

 「……医者と薬、それをいつでも無償で用意できる、その環境を作ること……」

 「そう。だからあたしは必死になって、それを達成出来るだけのお金を貯めたの!どんなに後ろ指を差されようが、銭の亡者とか守銭奴とか言われようが、あたしはちっとも気にしなかった!世間知らずな、裕福な家に生まれたお嬢様の道楽だとか、自己満足の偽善だとか、そんなことを陰で言われようが、そんなのどうでも良かった!あたしは、あたしはもう、誰にも、あんな想いは、二度と、して欲しくなかったから!だから……っ!!」

 ……それは、曹洪の心があげる悲鳴だったのかもしれない。自身が溜め込んでいたこれまでの想いを、彼女は顔を涙でぐしゃぐしゃにし、一刀たちの目の前で、その全てをさらけ出した。

 「……雹華」

 「……ぐすっ。ひっく。……かず、と、くん?……あ」

 そ、と。いつの間にか曹洪の正面に立っていた一刀が、ひたすら泣きじゃくっている、その小さな少女の背を、優しく、その腕で包み込んだ。

 「……今までずっと、一人で全てを抱え込んでいたんだな……この小さな背で……」

 「か、ずと、くん」

 「……俺にどの程度背負えるかは分からない。けど、これからはその何分の一かでも、こっちに分けてくれないか?いや、俺だけじゃない。彩香さんも、輝里も、命も、由も、蒔さんも、瑠里も、朔耶さんだって沙耶さんだって狭霧だっている。……君は孤独(ひとり)じゃない。周りにたくさん仲間がいる。どれほど重い荷物だって、気持ちよく一緒に背負ってくれる仲間が、さ。だから」

 ただただ静かに。腕の中で泣き続けている曹洪の、その頭を優しく撫でながら、気持ちを落ち着かせるように語り掛ける一刀。そして、最後にこんな台詞を、彼女に言ったのである。

 「……明日からはまた、素直で元気な、そしてちょっとがめつい曹子廉でいてくれ。……な?雹華」

 「ぐすっ……がめついってのは余計だよお……馬鹿」

 「ふふ。……けど事実でしょ?守銭奴雹華?」 

 「……あによお、彩香までえ。……って、こらそこの二人!一緒になって笑うなあー!」

 そこにようやく戻ってきた笑い声。それは、過去のしがらみから抜け出すその一歩を、ようやく踏み出した一人の少女が、“いつもの”調子を取り戻したその証だった。

 

 

 

 それからいくらか時が過ぎ、荊州は新野に一刀たちが入城し、袁紹らと会談を行っていたその一方。

 「彩香~!はやくはやく~!」

 「ちょっと待って雹華!そんなにあせらなくても、許昌の街は逃げやしないわよ!」

 新野の街から許昌へと向かう街道を、少数の護衛と共に進む、曹洪と曹仁の姿があった。

 「まったく。ようやく一刀さんから、正式にあの法令制定が認められたからといって、なにも皆と別行動する事はないでしょうに」

 「……ふ~ん?」

 「な、なによ?」

 「……あ、彩香ってばもしかして、一刀くんと離れるのが寂しいのかな~?」

 「な!べ、別に私は、そ、そそそ、そんなこと……っ!!/////」

 「にゃはは~♪彩香ってば真っ赤っ赤~♪……図星だった?(にやり)」

 「……ひょ~お~かあ~?(怒)」

 「あっはっはー。彩香が図星を突かれてお~こった~♪」

 「待ちなさい!もう、今日と言う今日は許さないわよ!!」

 といった従姉妹喧嘩と言う名の、いつものじゃれあいを二人でしつつ、一刀たちと一旦別れて、許昌への帰路に着いている二人。……曹洪が以前上申して、その下準備が水面下で行われていた例の制度が、現在許昌に居残っている伊籍の手により、その骨子がほとんど組みあがったとの報せが、つい先だって、曹洪の下へと知らされた。その事を知らされた途端、曹洪はもう居ても立ってもいられなくなり、すぐさま一刀に対し許昌への一時帰還を申し出た。……そんな曹洪からの申し出に対し、一刀は曹仁が彼女に同行することを条件に、その許可を出した。

 「雹華一人じゃ何かと危なっかしいから、彩香さんは彼女が暴走しないように、しっかり見張って置いて下さい」

 と、ぶーぶーそのことについて文句を垂れる曹洪を横目に、曹仁もその場で同行を快く了承し、そして現在に至っているというわけである。

 「鬼さんこちら、手の鳴る方へ~」

 「……誰が鬼よ~!待ちなさい雹華~!!」

 「あっはっはー!待てといわれて待つ人いませーん♪」

 自分を後ろから追いかけてくる従姉を、そんな風にからかいつつ、曹洪はひたすら北を目指して馬を駆けさせる。そしてその最中、彼女はふと天を見上げ、その蒼空の彼方へと意識を向ける。

 「……ねえ。君は今、そこからこっちを見てるかな?……あたしはまだ当分そっちにはいけないけれど、そこからしっかり、あたしの姿を見ていてよ?」

 曹洪が見つめる蒼空の彼方。そこに彼女が見ているのは、今は亡き親友の姿。

 「……あたしはもう、過去に縛られたりしない。だって、今のあたしには、君と同じぐらい大好きな人たちがいるんだから。だから」

 静かに一度、大きく息を吸い、そして、大きな声で空へと向けて彼女は叫んだ。

 

 

 

 

 「……それまで迎えに来ないでよねー!分かったー?!もし来てもぶん殴って追い返してやるけどさー!!あっはははー!!」

 

 

 

 

 ~了~

 

 

 

 雹華拠点として書いたこの幕間。皆さん如何だったでしょうか?

 

 特に彼女の生みの親でもあるSiriusさま。彼女の守銭奴に関するエピソードとか、お聞きした設定を上手く活かせましたでしょうか?ぜひまたご感想などコメにてしていただけたらと、戦々恐々としながらお待ちしておりますね?w

 

 というわけで。

 

 作中にて公開した、彼女がお金にうるさい理由はSiriusさまからお聞きしたものに、ボクなりの捏造(笑)を加えて書かせて頂いたものであります。そのあたり、皆様もコメにてご感想いただけたら、嬉しく思いますです。   

 

 さて。

 

 次回の投稿は完全に未定ですw

 

 これの幕間を続けるか、もしくは桂花EDアフターの続きか、そのどちらかだと思いますが、いかんせん作者優柔不断につき、現時点ではなんともいえませんw

 

 では今回はこの辺で。

 

 それでは皆さん、また次回作品にてお会いしましょう。

 

 

 再見~( ゜∀゜)o彡゜


 
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