桔梗√ 全てを射抜く者達 第16射
視点:一刀
俺は洛陽に来ている。もちろん、遊びでは無い。反董卓連合から月様が治める洛陽を護るためだ。
此処に来て、一番最初に紹介されたのは董卓様。真名は月と言うらしい。いかにもお嬢様と言った感じの娘だ。
次に紹介されたのが、賈駆さん。眼鏡を掛けたおさげの軍師。月様に助言したことについて礼を言われたが、その後は、こっちを睨んで来ている。視線が何とも痛い。
次に紹介されたのが、華雄さん。銀髪のショートヘアーの勝気な人だ。俺に真名を預けたいと言ってきたが、真名が無いだろうと張遼さんに笑われながら突っ込まれて、膝をついて凹んだ。
今も体育座りをして、玉座の間の柱に話しかけている。
最後に紹介されたのが、張遼さん。サラシに下駄、そして関西弁。姉御という言葉を体現したような人だ。
真桜並みに露出度が高いので、目のやりどころに困る。
そして、俺達は今反董卓連合戦の軍議をする為に『ある将』を待っている。その将とは呂布と陳宮。
三国無双と言われた呂布。飛将軍という名で知られ、様々な伝説が残っている。そして、その軍師、陳宮。
一体どういう人物なのだろう?俺は楽しみで仕方が無かった。そして、扉が開いた。
2本のアホ毛が特徴的な赤髪でツートンカラーの服を着た女の子が入ってきた。表情は読めない。キョロキョロと辺りを見回している。続いては行ってきたのは黒の帽子を被った小さな女の子。息切れをしている。
「恋殿、歩くのが速過ぎですぞ。」
「…ねね……………知らない人…居る……。」
赤髪の女の娘はそう言って、俺と焔耶を指さしてきた。小さな女の子も俺達の方を見て来る。
小さな女の子の方からは警戒心が見てとれる。しかし、赤髪の女の娘の方は分からない。
おそらく、どちらかが呂布で、どちらかが陳宮だよな。
賈駆さんは突然入ってきた2人に俺達を紹介してくれた。
「2人共厳顔の所の将よ。
女の方は魏延で、筆頭武官よ。もう一人の男の方は北郷、管路の占いに出て来る天の御遣いよ。
紹介が遅れたわね。赤髪の方が呂布。帽子を被っているのが陳宮よ。
呂布は月の陣営で一番強い武将。陳宮はその呂布の専属の軍師。」
「この男が管路の占いに出て来る天の御遣いですか?」
陳宮ちゃんの警戒心は更に上がった。眉間の皺の数が25%割り増しになったように見える。
呂布さんは相変わらず、何を考えているのか分からない。無表情のままだった。
呂布さんがこっちに向かって歩き出した。俺はどうしたら良いのか分からず、その場で立ちつくす。
俺の前に呂布さんが来ると、俺の目をジッと覗きこんでくる。目をそらしても、視線の先に来て、再び俺の目を覗きこんでくる。それが終わったら、次は俺の周りを10周ぐらいグルグル回ると、次は俺の胸に顔を押し付け始めた。あの―――、呂布さん、何がしたいのですか?
「………へんな匂い…しない。」
なんですか?変な匂いしないって?貴方は食べモノを食べる前に匂いを嗅ぐ犬ですか?
それと、あのぉ――、陳宮さん?歯ぎしりしながら、ガン飛ばすの止めてもらえませんか?
あれ?何いきなりこっちに向かって走り出しているんですか?陳宮さん?
「ちんきゅーーーー!とびげりぃーーーーー!!」
俺は寸前で避ける。うぉ―――、あっぶねぇ―――。マジで当るところだった。
呂布さんは陳宮ちゃんの方に歩いて行く。相変わらず、よく分からない表情だ。
だが、陳宮ちゃんは呂布さんが近づいて行くにつれ、怒り一色だった顔がみるみる青ざめていく。
「れ…恋殿。ねねは恋殿に付く悪い虫を追い払おうとしただけで、何も悪い事はしていないのですぞ。」
「………ねね。」
「『ちんきゅ――き――っく』の方が語呂良い。………格好良い。」
えぇ―――――!普通、そこは『客を蹴ってはいけない』と怒るか、『ウチの陳宮が済みません』とか俺に謝る所じゃないの?俺の感覚間違ってる?確かに、『ちんきゅーきーっく』の方が語呂は良いと思うよ。うん。そこは俺も否定はしない。でもね、俺何もしていないよね。うん。なら、間違いなく、俺って謝罪されるべきだよな。
杏里が蒼様の文官を無能呼ばわりした時、桔梗さんが謝っていたし、おかしくないよな?うんうん。俺は戦場でしか、生の充足を得られない狂人野郎だけど、常識は持っているつもりだ。
「ねねちゃん、御遣い様に謝って。御遣い様は何もしていないでしょう?」
「月様、しかし……。」
「ねねちゃん」
「うぅっ。………仕方ないのです。
おい、そこのお前、謝ってやるから、ねねに感謝感激するのです。」
なんじゃそりゃ、まあ、実害は無かったのだし、許してあげよう。
こうして、俺と陳宮ちゃんは仲直りをした。これで、軍議をする為の将が全員集まったらしい。
賈駆さんの最初の一言で軍議が始まった。
「袁紹が各州の有力者にまわしている文によると、袁紹達の連合軍は来月に来るらしいわ。
間諜の調べによると、この反董卓連合に参加しようと軍備を増強している諸侯の中で主力なのは袁紹、袁術、孫策、曹操と言ったところね。袁紹と袁術の軍は兵数が多いけど、錬度は低く、将の質も良くないわ。
注意すべきは曹操と孫策よ。曹操の所は優秀な将の数が多いわ。孫策も同じ、今は袁術の下に付いているけど、その内独立するだけの力を彼女は持っているわ。」
「他にも要注意人物は居るぞ。」
「誰?」
「劉備だ。」
「劉備?曹操と一緒に黄巾党を討って、今は平原を治めているあの義勇軍上りの、あの劉備?」
「あぁ、そうだ。あの劉備だ。あそこの陣営も優秀な将が集まっている。
武官においては関羽に張飛。軍師においては諸葛亮と龐統。」
「そんなにすごいのか?」
「えぇ、一度、5人に会った事があります。
諸葛亮と龐統は杏里の妹分で、軍師としては俺の所の軍師の杏里と同等だそうです。」
「マジかよ。あの徐庶と同等!?」
「知っているの?馬騰?」
「あぁ、俺の治めている西涼で五胡と賊と俺の軍との三つ巴の戦になった事があっただろう?
あの戦で俺の陣営の兵が一万人の内、数人のけが人を出しただけで、俺達は五万人の五胡と賊に勝利出来た。
その作戦を考えたのが桔梗の所の陣営の軍師徐庶。それと同等と言えば、かなりの策士だと俺は思う。」
「そんなのが2人も居るですって!?確かにそれは厄介ね。」
「だが、大丈夫だ!あの戦で策を考えたのは徐庶だったが、あの策は一刀が居なかったら、成功しなかった。
つまり、一刀は5倍の兵力を敗れる策の要になるほどの凄い奴だ!この戦も一刀が居るから、勝てるぞ!」
えぇ―――!なんか蒼様に俺、滅茶苦茶持ち上げられていますよ。
うわ、月様。そんな尊敬の目で俺を見ないで下さい。そんな凄く期待されるような凄い人じゃないですから。
ちょっ、こっち見ないで下さい。月様の目の輝きが眩しくて、目を開けていられないです。
月様の反応に困っている俺の所に華雄さんが敵意丸出しで近づいてきた。
「おい、天の御使いとやら、私と勝負しろ!」
華雄さんがいきなり戟をこちらに向け、決闘を申し込んできた。
華雄さんの気持ちが分からんでもない。迷いを断ち、決意を露わにした主君である月様の成長を、華雄さんは見て感激の涙を流したぐらいだ。華雄さんが月様をかなり慕っているのは見てとれる。
そんな主君がポッと現れた俺を尊敬の眼差しで見ている。華雄さんにとって、気分の良いモノではないはずだ。あれ?さきほど、主君の成長に感激して真名を預けたいと言ったんじゃなかったけ?
さて、どうしよう?どうやって、華雄さんの決闘を断ろう?普通に断って、引き下がってくれるかな?
この世界に来てから俺のCQCが格段に向上したとはいえ、戟を持った武人である華雄さんに勝てる算段をつけるのは非常に困難だ。ってか、未だに剣を持った焔耶との勝率が3割だから、勝つのは無理だろう。
だから、フルボッコにされたくないので、この戦いは正直避けたい。
俺は戦好きの戦闘狂だけど、緊張感が有って、たった1手で勝者が変わるようなのが好きなのであって、勝利する可能性が著しく低く、負け確定の戦いは正直超ドMの趣味であって、俺の趣味では無い。
さて、どうするかな?
「おい、華雄。一刀は弓の名手だ。お前と槍術で競った所でお前の圧勝は揺るがんから、戦うだけ無駄だ。」
「馬騰様がそう仰るのなら、そうなのでしょう。
………分かりました。あまり気が進まんが私の金剛爆斧を今は納めるとしましょう。」
華雄さんは持っていた戟をしまい、元居た場所へと戻って行った。
フゥー。マジで助かった。俺のCQCのプライドはズタボロなってしまいましたけどね………。
「蒼様、助かりました。ありがとうございます。
俺から決闘の拒否をしていたら、地の果てまで追っかけて来そうだったので、助かりました。」
「気にするな。好いている男の窮地だ。助けるのは当然のこと。
………ここで一刀を貶めておけば、恋敵が増える心配は無くなるからな(ボソッ」
何やら、蒼様はブツブツと笑いながら呟いている。傍から見れば、かなり怪しい人だ。
まあ、歪んではいるが、笑顔だから、何か良い事があったのだろう。だが、声を掛けるのを躊躇ってしまう。
そんな微妙な空気を賈駆さんの声で元の軍議の空気へと戻った。
「はいはい。もう良いかしら。華雄もすぐに誰かに勝負を吹っかける癖を治しなさい。
話を元に戻すわよ。反董卓連合の注意人物は曹操、孫策、劉備。他に反董卓連合で注意人物は居る?」
「うむ。俺が知る限りでは居ないな。公孫瓚はそつなく何でもこなせる人物だから、袁紹や袁術に比べては注意人物かもしれないが、注意人物の欄に特筆するに値する人物では無い。要するに凡人だ。
纏めると袁紹と袁術は馬鹿、曹操と孫策に一刀の言っている劉備の3者は要注意人物だ。そして、公孫瓚とその他大勢は凡人と言ったところか。」
「そうね。次に反董卓連合の兵数はだけど、おそらく25万を超えると思うわ?」
「賈駆っち?ウチらの兵数はどれぐらいなん?」
「5…6万と言ったところね。
単純計算して戦力差は5倍。だから、この戦は籠城戦を提案するわ。袁紹の文に描かれた反董卓連合の集合場所から考えると反董卓連合の進路汜水関と虎牢関。ボク達はそこに籠って籠城戦をするのが得策よ。」
「何を言う!賈駆!
反董卓連合など、我らの軍勢で鎧袖一触すれば、5倍ある戦力も問題では無い。」
「華雄。アンタ………馬鹿?
曹操と孫策の軍はボク達の軍と錬度がほぼ同等。錬度の低い袁紹と袁術の軍を抜いたら、おそらく反董卓連合の兵数はボク達と同じ。そんな連中と正面からぶつかり合って、確実に勝てるの?」
「勝てる!」
「根拠は?」
「私が強いからだ!」
「はいはい。馬鹿はそこで膝を抱えて座ってなさい。籠城戦に異論のある者は他に居る?
………居ない様ね。配置は汜水関に華雄と霞。虎牢関には恋とねねで良い?」
「俺達はどうしたら良い?」
「そうね。馬騰と御遣い、魏延は汜水関で良いかしら?ボクも直接汜水関に行くわ。
月は洛陽で一人にするのは刺客のことを考えると怖いから、恋の居る虎牢関に居て。」
「分かった。だが、俺は籠城戦が苦手だぞ?何をすればいい?」
「そうね。汜水関と虎牢関の前に罠を作ろうと思っているから、それをお願い。
罠の作り方と設置場所についてはこちらから指示するわ。」
「了解した。」
「じゃあ、月とこの洛陽の民を護るために籠城戦の準備をするわよ。
恋に霞。2人は武器を用意して、特に弩と弓、矢は十二分に頂戴。関の上から落石も準備を忘れないで。
ねねはボクと食料の準備よ。華雄は輜重隊と落とし穴を掘る為の工具の準備をして。
月はボク達がやらないといけない政務の中で分かるのだけで良いから、お願い。
馬騰と御遣いと魏延は長旅で疲れを癒すために5日ほど休息を与えるわ。
他に何かある?…………ないようね。軍議はこれでお終いよ。」
こうして、軍議は終わった。俺達は1時間後賈駆さんの案内で、洛陽の高級住宅街に連れて行かれた。
賈駆さん曰く、此処はほとんどが無人。理由は十常侍を粛正する際に芋蔓式で不正を行っていた有力者や豪族を罰したことによって、此処に住む住人が居なくなってしまったからだそうだ。
要するにこの高級住宅街一帯が洛陽に居る間の俺達の住まいらしい。屋敷の中に入ってみるとその屋敷に俺達は唖然とした。大きな池が広がり、その奥に左右対称の色鮮やかな建物が建っていた。
例えるなら、そう。平等院鳳凰堂を中華風にアレンジして改築したのような感じだ。
屋敷の中に入ると、別の意味で驚いた。
「何も無い。」
そう、何も無いのだ。家財道具や装飾品と言ったようなモノが皆無だった。
これほどの家だ。普通はそう言うモノが合って当然だと思う。
その理由を賈駆さんに聞いてみると、この屋敷の者も十常侍と同じく不正に金を横領し、豪遊していたので、家財道具の一切を回収し、売って、国の金にしたという。
こうして、俺達は董卓軍の援軍として洛陽に入った。
5日の休息もあっという間に過ぎ、俺達は汜水関前に設置する罠の作成のために汜水関へと向かった。
時が過ぎるのは早い。特に必死になっている時ほど、時が過ぎるのは早く感じるモノだ。
俺にとって、この戦争の準備でも心躍る楽しい一時だ。これから死地へ赴き、極限の状態の中、命のやり取りを行う。あぁ――、楽しみで仕方が無い。
さあ、反董卓連合よ。俺に生きる実感をくれ。俺を失望させてくれるなよ。
黒山羊です。今晩は。
今回は短くなってしまいましたね。区切りをつけようと思ったら、この文章量となってしまいました。
恋とねねが登場しました。で、早速出ました。ちんきゅーきっく!!不発でしたけどねww
そして、華雄は普通に脳筋ですねww
というわけで、華雄さんとねねからあまり良い目で見られていない一刀君。
果たして戦場で彼は2人からの印象が変わるでしょうか。今後の展開に期待しておいて下さい。
唐突に思ったことが2つ。
まず1つ目。この外史の一刀の味方の脳筋率が結構高い気がするのは気のせいでしょうか?
焔耶、翠、蒼、華雄。桔梗さんも準脳筋ってことにするとヤバイなww
そして、2つ目。一刀君が主人公にあるまじき戦闘狂。大丈夫か?この一刀?
と言う訳で、いつもので最後は閉めましょう。
それでは御唱和下さい。
へぅ( ゚∀゚)o彡°
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プリンと赤ワインが合うと言うことを発見した黒山羊です。
いやいや、本当ですって。神戸プリンに赤ワイン。
これが合う。テンションがだだ上がり!!
最後になりますが、
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