No.287711

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・七話

月千一夜さん

さて、二話目です
今回は七話ということで、物語は少しだけ時を遡ります

それでは、お楽しみください

2011-08-29 13:46:23 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:9133   閲覧ユーザー数:7348

「何故気付かなかったのじゃ!?」

 

「お前が“酒じゃ、酒じゃ”うるさかったからだろ!!?」

 

 

“ギンッ”と、辺りに響き渡る金属音

森の入口で、二人の女性が睨み合い言い争っていたのだ

一人は大きな戦斧を、もう一人は巨大な弓を

それぞれ、構えながら

 

 

「な、儂のせいにするか!!?」

 

「そうだろうがっ!!」

 

 

再び響く、金属音

そんな様子を眺め、溜め息をつく女性がいた

張勲こと、七乃である

彼女は若干イラついたように、深く深く息を吐き出す

それから、無言で二人のもとまで歩み寄ると・・・

 

 

 

「いい加減に、しなさいっ!!!!」

 

「ぷげらっ!!?」

 

「もっぷぅ!!?」

 

 

その腹部に、容赦のない一撃を放ったのだった

その威力は2人の反応と、すぐさま膝をついてしまった様子からも窺える

 

 

「まったく、祭さんも夕さんも・・・さっきから聞いていれば、2人とも少しは冷静になってください!!!!

ほら、美羽様を見習って!!!」

 

 

 

かくいう張本人は、プンプンと怒りながらビッと指を差していた

その先には、彼女の言うとおり袁術こと美羽がいた

ただし・・・

 

 

 

 

「一刀が・・・一刀が、何処かへと・・・一刀が・・・・・・」

 

 

彼女が言いたかった状態かといえば、それは明らかに“否”であろう

そのことは指を差した彼女自身もわかっていたのかもしれない

若干の間を置いたのち、七乃は“コホン”と咳払いを一つ

 

それから、いつものように笑顔を浮かべたのだった

 

 

 

 

「ほら♪」

 

「「何が“ほら”だ!?

思い切り動揺してるじゃないか!!?」」

 

 

まぁ、2人・・・祭と、夕の言うとおりである

美羽は明らかに動揺していた

それはもう、普段とは打って変わって暗い表情を浮かべながらだ

 

 

「一刀が・・・」

 

「美羽様・・・」

 

 

あまりの痛々しさに、七乃まで表情を暗くさせる

そもそも、いったい何故こうなったのか?

 

 

 

ことの発端は、今より数刻前のことだった

七乃が集めた情報にあった、成都への近道となる深い森

しかしこの森は、一度迷えばどうなるかわからないほどに危険な森だったのだ

そのような森、はたして入っていいものなのだろうか?

祭と夕と七乃、三人は真剣に話し合っていた

そんな中、ふと気づいたのだ

 

 

『あれ?

そういえば、一刀さんは・・・?』

 

 

不意に零れ出た、七乃の呟き

これに、他の二人も視線を泳がせる

そんな中、美羽は頬を若干赤くさせながら声をあげたのだ

 

 

『か、厠ではないかの?』

 

『あ~・・・』

 

 

その一言に、夕は苦笑を浮かべる

彼女もまた、以前の美羽の話を聞いていたからだ

そうして、ひとまず一刀を待つこと数刻・・・

 

 

『おかしい・・・』

 

 

初めに声をあげたのは祭だった

彼女の言うとおりだ

厠にしては、明らかに長すぎるのだ

そんな中、四人の中にある“考え”がよぎった

 

 

『まさか・・・っ!』

 

 

七乃の声に続くよう、四人が向けた視線の先

深く不気味な森の入口が、彼女達をあざ笑うかのように風に揺れた

はじめは、ただの“予感”だった

それからしばらく待ったものの、一刀が帰ってくる気配はいっこうにない

それが彼女達の中で、“予感”を“確信”へと変えていったのだ

 

 

「やはり・・・森へ入るしかないか」

 

「しかし、儂らまで迷ったら・・・それこそ、収拾がつかなくなってしまう」

 

「なら、いったい・・・!!」

 

 

 

 

 

「お~、なんや騒がしいなぁ思うたら・・・なんか、見知った顔があんなぁ」

 

 

 

 

夕が、声をあげた瞬間のことだった

四人の耳に、何やら声が聞こえてきたのだ

その声にいち早く反応したのは、美羽だった

彼女はバッと視線をその声の主へと移すと、その表情を僅かに驚きに染める

 

 

「お主は・・・」

 

「久しぶりやな~、元気やったか?」

 

 

彼女の視線の先

ヒラヒラと手をあげる、黒い外衣に身を包む女性

そんな彼女を見つめたまま、美羽は小さく呟く

 

 

 

 

「“王異”・・・」

 

「お~、覚えとってくれたんかぁ」

 

 

 

 

“王異”

以前に天水の地で出会った人物が、そこにいたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 第七話【人探し、時々人助け?】

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「なんやてぇ!?

たった一人で、この森に入っていったぁ!!?」

 

 

森の入口

王異の驚いたような声が、辺りに響き渡った

その言葉に、美羽は泣きそうな顔をして頷く

 

 

「恐らく、の

妾たちが目を離していた間に、姿を消しておったのじゃ」

 

「そっかぁ・・・そら、参ったなぁ」

 

「一刀はきっと、一刻も早く成都に辿り着きたかったのじゃ

じゃから焦って、あの森の中に・・・」

 

 

言って、見つめた深い森

この中に、彼がいるのだと

彼女は泣きそうな表情のまま、そう言っているのだ

 

 

 

「なるほどなぁ・・・しっかし、追うのは止めといたほうがええで

こんな深い森の中、下手打てばこっちまで迷うてまう」

 

 

王異の言葉

七乃や祭は、“やはり”と神妙な面持ちのまま頷く

しかし、そんな中・・・王異は口元を僅かにあげ、美羽の頭をポンと撫でたのだ

 

 

「けど、あの記憶失くした兄ちゃんなら・・・案外、成都についとるかもしれへんしな

せやったら、こっちはこっちで成都を目指したらええんちゃうかな?」

 

「成都へ、じゃと?」

 

 

“成都”

そう言って、王異はニッと笑う

 

 

「そや

向う先が決まっとるんやから、こっちも其処に行ったらええねん

上手くいけば、向こうで会えるやろ?」

 

「なるほど・・・一理あるな」

 

「それともあれか

アンタらの知っとる兄ちゃんは、一度決めた目標を途中で投げたりするような奴なんか?」

 

 

 

この言葉に、四人はそれぞれ顔を見合わせると・・・クッと、笑みを浮かべていた

思ったのだ

 

彼が、途中で投げ出すわけがないと

彼ならば、きっと大丈夫だと

 

だからこそ、美羽は先ほどまでの表情から一転・・・力強い笑みを浮かべ、王異に頭を下げる

 

 

 

「ありがとなのじゃ、王異

妾たちは、成都へと行くことにするのじゃっ!」

 

「はは、せやせや

その意気やで」

 

 

“カラカラ”と笑い、王異は美羽の頭を撫でる

それから、何か思いついたように手をポンと叩いた

 

 

「そや・・・まぁ、乗りかかった船やし

ウチも、一緒に行ったるわ」

 

「貴女も、ですか?」

 

「せや、どうせあてのない旅やし

それにウチ、もう一個知っとるしな」

 

「知っている、だと?」

 

 

“知っている”

その言葉に、四人は首を傾げる

そんな四人の反応に、王異はニッと笑みを浮かべ被っているフードを僅かに上にあげた

 

 

 

 

「此処とは別の・・・成都への近道や」

 

 

 

 

彼女の瞳

その中に、四人の嬉しそうな表情が映りこんでいた

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「で、こんな険しい山道なわけですね・・・」

 

 

そう零したのは、七乃である

彼女は汗をダラダラと流しながら、険しい山道を進んでいるのだ

そんな彼女の前方、王異は涼しげな声で笑っていた

 

 

「はっはっは、まぁ楽するんにはそれなりの代償が必要っちゅうこっちゃ」

 

 

そう言って、笑う王異

そんな彼女の隣では、これまた余裕そうな表情を浮かべた祭と夕が歩いている

彼女達もまた、体力において七乃を遥かに上回っていた

 

 

 

「はぁはぁ・・・本当に、これが、成都への近道なのかや?」

 

「安心せぇ、確かにこっちは近道や

ウチも何回も使っとるし、間違いあらへんよ」

 

「なら、いいんじゃが」

 

 

“ふぅ”と息を吐き、美羽は足を進める

頬を伝う汗を見れば、彼女の疲労がどれほどか窺える

それでも、彼女は休もうとはしなかった

それほどまでに、心配なのだろう

そのことに他の三人は、フッと笑みを浮かべていた

 

 

「ま、あと少しで頂上や

そっからまた山を下りてけば、成都まではもう後少しやで」

 

「だ、そうだ

頑張れ美羽・・・あと、ついでに七乃」

 

「わ、私はついでですか・・・」

 

 

溜め息を吐き出し、疲れた表情を浮かべ歩く七乃

そんな彼女の様子に苦笑しつつ、向けた視線の先

彼女の瞳には、黒い外衣を身に纏う王異の姿が映っていた

 

 

「お前・・・王異、といったか」

 

「ん、そうやで」

 

 

“そうか”と、一言

それから少し考える様俯き、彼女は溜め息と共に小さく言葉を紡ぐ

 

 

「お前・・・私と、会ったことがないか?」

 

「・・・」

 

 

夕の言葉

彼女は一度足を止め、僅かに口元をあげた

 

 

「あるかもな

ウチ、天水にはたまにいっとったし」

 

「そうか・・・」

 

 

“なら、いいんだ”と、夕は苦笑を浮かべる

そんな彼女に向い、王異は頬を掻きながら声をかけた

 

 

「いきなり、どうしたん?」

 

「いや、なに・・・お前の声が、私の昔の知り合いにソックリだったものでな

少し、懐かしいなぁと思っただけなんだ」

 

「知り合いって、仲良かったん?」

 

「いや、どうだろうな

少なくとも、嫌いではなかったが」

 

 

“ただ・・・”と、夕は足を止める

そうして見上げた空

真上にある太陽を見上げ、彼女は苦笑を零していた

 

 

「随分と迷惑をかけてしまったから・・・謝りたいなぁと、そう思っていたんだ

だから、いつか会いたいと思っている」

 

「・・・そか」

 

 

“会えるとええな”と、笑う王異

その一言につられ、夕もまた“ああ”と笑っていた

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「もうすぐ、山道は終了や・・・って言っても、成都まではまだ時間かかるけどな」

 

「はぁ・・・やっと、一段落ってとこですね」

 

 

そう言って心底疲れたように溜め息を吐きだすのは七乃だ

相当疲れたのだろう

彼女は頬を伝う汗を拭い、もはや乾いたような笑みを浮かべることしかできなくなっていた

そんな彼女の肩をポンと叩き、カラカラと祭は笑う

 

 

「山を抜ければ、今日はひとまず休むとしよう

もうすぐ、日も落ちるしのう」

 

「だな、それがいい

というわけだ、七乃・・・あと少し、頑張れ」

 

「はい・・・はぁ」

 

 

重たい足を前に出し、溜め息を吐きだす七乃

しかし、その瞬間・・・

 

 

 

「・・・っ!」

 

 

 

つい今までの疲れは何処へ行ったのか

彼女は驚くほどの速さで、その腰に差してある二振りの剣に手をやっていたのだ

いや、彼女だけではない

祭と夕・・・それに、王異までもがそれぞれ自身の獲物に手をやっていたのだ

そんな彼女達の様子に、美羽は戸惑う様な驚いたような声をあげた

 

 

「な、なんじゃ急にっ!?」

 

「静かに・・・」

 

 

美羽の言葉

夕は真剣な表情のまま、人差し指を自身の口元に近づけ言った

それから四人が真剣な表情を浮かべたまま見つめるのは、これから自分達が向かうはずだった道の向こう

 

 

「むぅ・・・やはり」

 

「聞き間違い、やないみたいやな」

 

「ですね・・・あぁ、ついてないなぁもう」

 

「まったくだ・・・」

 

 

その道の先を見つめたまま、それぞれ苦笑しながら呟く四人

美羽は若干の寂しさから、表情をしかめる

 

 

「いったい、どうしたのじゃ?」

 

 

美羽の言葉

その言葉に、王異は溜め息を一つ吐き出し言ったのだ

 

 

 

「“悲鳴”や・・・それも、かなり近いで」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「はぁ・・・はぁっ!」

 

 

彼女は・・・いや、“彼女達”は走っていた

 

 

「はぁ・・・!」

 

 

フワリと軽くウェーブのかかった髪を揺らし、その小さな体で必死に走っていたのだ

 

 

「“月”っ!

大丈夫!?」

 

 

そんな彼女の隣を走る少女・・・眼鏡をかけた少女は、乱れた息もそのままに彼女に声をかける

それに対し彼女は、“月”は苦しげな笑みを浮かべたのだ

 

 

「だいじょうぶ、だから!

まだ、まだ大丈夫だよ“詠ちゃん”っ!!」

 

「っ・・・そう

なら、いいけど」

 

 

“無理をしている”

彼女には・・・“詠”にはわかっていた

それでも、今はその強がりでさえありがたかった

“チラリ”と見つめた先

自分たちを追う、数十人の男たちの姿が見えたからだ

 

 

「くっ・・・何なのよ、アイツらっ!!?」

 

 

“不気味”だと、彼女は思った

その瞳には、光がないのだ

まるで死人のような目をした男たちが、ずっと自分たちを追いかけてくる

その距離は、徐々に短くなっていく・・・

 

 

「このままじゃ・・・っ」

 

 

一瞬頭を過ぎった・・・“最悪の結果”

彼女は慌てて首を横に振り、それらを忘れようとする

それと、ほぼ同時のことだった

 

 

「へ、へぅっ・・・!?」

 

「っ・・・!」

 

 

彼女の隣を走っていた月が、勢いよく転んだのだ

その勢いは、耳に入ってきた音から容易に想像できる

かなりの勢いだ・・・それこそ、すぐには立ち上がれないくらいに

 

 

「月っ!」

 

 

急ぎ彼女を助けようと、その場で引き返す詠

しかし、そんな彼女に向い月は叫んだのだ

 

 

 

 

「詠ちゃん・・・逃げてっ!!!!」

 

 

 

 

 

“逃げて”と、月は叫んだ

しかし詠の中に、そのような選択肢などない

“在るはずがない”

彼女にとって、月はそれほどまでに大切な存在なのだから

だからこそ、彼女は走ったのだ

もはや幾らもないまでに迫った男たちのことなど気にも留めず

小さな少女に向い、駆けて行ったのだ

 

 

 

 

「その意気や良し・・・あとは任せよ、娘っこ」

 

 

 

そんな彼女の頬を、一陣の風が吹き抜けていった・・・

 

 

 

 

「ぇ・・・?」

 

 

その風は真っ直ぐと、迫りくる男へと向かうと・・・“タンッ”と、小気味の良い音をたてたのだ

その音の正体が弓によるものだと彼女が気づいたのは、自身の左右からさらなる風が通り抜けていった後だった

 

 

 

 

「一丁上がり・・・ってな」

 

「ま、こんなもんだろ」

 

「はぁ~・・・私、疲れすぎてもう駄目です」

 

「妾も、じゃ・・・」

 

「なんじゃ、だらしないのう」

 

 

 

何が起こったのか

そのことを彼女が理解するのには、さらに時間がかかった

呆気にとられた彼女が我にかえった時にはすでに、自分たちを追っていた不気味な男達は皆地に伏せっており

代わりに、見知らぬ五人の人物の姿があったのだから

 

 

「う、そ・・・?」

 

 

いや、“違う”

 

一人・・・ある人物のことを、彼女は知っていた

自身の肩に戦斧を担ぎ、他の四人と談笑する人物のことを

彼女は知っていたのだ

 

 

「え、詠ちゃん・・・あの人って、まさか・・・・・・」

 

 

そして・・・月もまた、知っていた

その人物の名を、その人物のことを

 

また・・・

 

 

 

「さて、怪我はなかったかお前・・・た・・・・・・ち」

 

 

 

彼女も・・・“夕”もまた、この二人のことを知っていたのである

 

“時が止まったような”とは、よく言ったものである

 

この時、彼女は確かにそう感じていたのだ

しばし流れた沈黙になど、気付くこともなく

 

やがて、彼女は震える声もそのままに

小さく呟いたのだ

 

 

 

 

「“董卓”・・・様?」

 

 

 

 

服装は違う

顔つきも、少し変わったかもしれない

しかし、彼女にはわかったのだ

自分の目の前

足をおさえながら自分を見つめる、一人の少女が

 

 

 

かつて、自分が仕えていた主・・・“董卓”だということが

彼女には、わかったのだ

 

 

★あとがき★

 

さて、いかがだったでしょうか?

現在なろうにて連載中の“遥か彼方~”より最新話をお届けいたしました

 

短編の続きは、もうしばらくお待ちください

さらに、以前に許可をいただき書いている短編も間もなく仕上がりますので

そちらも、気楽にお待ちください

 

 

しかし・・・うん、やはり使いづらいw

前よりは僅か~にマシになったような気はしないでもないですがww

相変わらず小説のとこが見にくいですが

あ~、誰かイメレス描いてくれないかなぁ

 

 

まぁ、TINAMIの今後に期待ですね

 

それでは、またお会いしましょう

 


 
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