1
スサノオの格好を言っていなかったかもしれない。上半身裸、下は白いふわふわの零服を纏って
いる。頭と腹筋に彫られた龍の刺青が見られる。神はスキンヘッドで眉もなく、睨みつけるその眼力
だけで人を倒してしまいそうなほどだ・・・
今回のバトルフィールドは、雷の鳴り響く空に浮かぶ空中庭園だ。周りを雲の城壁で囲まれているため、落ちる心配は通常はあり得ないのだが・・・
ピシャァァァッ ゴロゴロゴロゴロ
「フィールド内にも雷が降り注ぐのか。まさに貴様に有利過ぎるフィールドじゃな、娘」
「年上に対する口の利き方を勉強しなおして来いクソ野郎。わたしは貴様を絶対に勝たせるわけにはいかない!!」
「なぜじゃ?ウサギを蹴り飛ばしたからか?何も思いつかんのぅ」
「天使がかなりぶち切れ寸前なんだ。これ以上は本気でまずい。あんたに勝って怒りを鎮めさせないといけないからな・・・」
冷や汗を垂らし言う衣さん。仲のいい二人だからこそ何かあるのだろうか。
「くだらんのぅ。お前は絶対にわしには勝てん。その天使とか言う奴も・・・
ウサギを堕としていい気になってないか?わしは甘くない」
「言われずとも分かってるよ。だからこちらは禁呪で貴様を潰す。赤の雷電、青の雷電、黄色の雷電!!」
バリバリバリバリ
「三原色の電気?随分と懐かしい・・・」
「その頑丈な身体、動かなくなるまでしびれさせてやるぜ。黄電(きでん)、壮麗神楽(ルディーティマ・マーラガコルシカ)」
ドドドドドド
「御神楽の壮麗殿。なるほどのぅ、土台作りか」
フィールドのど真ん中に現れる神楽。15mほどの高さである。その上からスサノオを見下ろす衣さん。右手が赤に、左手が青に連動する。
「三色もの雷を操って、わしが手を出す前にくたばるんじゃないかのぅ?指し示すものを破壊せよ(ビガンテス・ワージャマルカ)」
ドドドドドドド
バリバリバリバリィ
「すり抜けた?黄にそんな特性が?いや、黄はスピードの増加だけの筈・・・」
スサノオの放った空弾が、神楽をすり抜けた。予想外の展開に、スサノオは冷や汗を流す。赤、青と攻撃を仕掛けられようとしているのだ。自分の知らない能力では対処の仕方も変わってくる。
そんなスサノオに対し、高みから衣さんが笑いながら言う。
「はははっ、知ってた口だったがハズレたかな?青の電撃、あいつを貫け・・・
関斬霾狩(ゴルヴェリア・ラザーニア・ベルベ)」
ギラァァァァァッ
「龍神の剣、捌き」
ズバァァァァァッ
「ん?斬ったのか、雷を・・・」
スサノオは飛んできた雷を、取り出した刀で一閃した。特殊干渉のできる刀。初代龍神から受け継がれる伝説の刀である。
「厄介な刀だな。青の“特性”をかき消したのか?」
「むん!」
ブンッ
バシュウウウゥ
グラァァァァァッ
「か、神楽が。禁呪の術式で構成された雷をこうもあっさり。反動もなしか?」
「禁呪など、所詮存在する限りでただの魔法に過ぎん。本当に怖ろしいのは、禁止された魔術よりも、危険過ぎで“世間から抹消”された失われし魔法じゃ。貴様は本当に分かっていないな。禁呪など、“本当に恐れられた”魔術の足元にも及ばんと言う事実に・・・」
「そんなにロスト・マジックってのはすごいのか?」
「見せてやろう娘。この魔術に干渉された時点で貴様の“敗北”は決定される・・・」
ドドドドドドドッ
「この感じ、なんだこれは?」
「旧世代の魔人(フェーミリタリア・マルサゴッテ・ブラハリアームス)」
2
「魔人?その割には身体の変化がないな」
一気に気が吹き出たスサノオは、その後はたいした変化もなく人間の姿を保っている。
「もっと派手に変わると思ったけどな・・・」
「中身は大きく変化した。この手の魔術はあまり変化がないのが特徴なのじゃ。ウサギのは例外じゃて・・・
貴様の前回戦った自立人形のプロトタイプも、ロスト・マジックによるものだ。プロトタイプでありながらあの実力。実感がないわけではないじゃろ。」
腕を組みニヤリと笑うスサノオ。自分はあれよりも強いといった余裕の表情だ。
「そんなこと言ってたような・・・」
「造りが違うのだよ、魔術の。発動すれば比にならんほどの実力が出る。もはや貴様など赤子以下じゃ・・・」
「そうかい。赤子の本気を見せてやんぜ!!雷電縫呪(らいでんほうじゅ)、黒電身纏(こくでんみまとい)」
黒い電気を身に纏う衣さん。電圧がどんどん上がり出す。
「禁呪など無意味。わしの身体は悪魔とドラゴンの二種で生成されている。その程度の電流など通らん」
「死獅電(ししでん)っ」
ギュァァァァァッ
バリバリバリバリィ
「むむむっ、熱いのじゃ。電熱じゃと・・・」
腹筋に電撃を喰らうスサノオ。熱で真黒になり内出血を起こす。
「太陽のプラズマ並みの電圧なんだけどな。皮膚すら貫通しないってありえねぇなww」
「調子に乗るな。今の貴様など一撃でも当たれば粉微塵じゃ。魔王の鉄槌(ブガザッテマゴリア・ハグラメスティア・アックス)」
「くっ、最高の伝熱死(プルミエール・ビカンゼオ・セブルバ)」
ガシュゥゥゥゥ
「あああああああああああああああああああああああああっ」
悲鳴を上げたのは衣さんだ。右ストレートで斧を溶かしに掛ったのだが、斧で右拳を弾かれて粉々にされてしまう。
スサノオの斧も半分くらい溶けてしまったが、すぐに次の武器が出てくる。
「驚いたぞ。こちらも素手だったら溶かされていたのぅ」
「怪物野郎が、しびれやがれ・・・」
苦しい表情を見せる衣さん。あれほどの電撃を出し続けている上に激しいダメージを受けたのだ。
体力はかなり削られている。
「あああああああああああああああああああああああああああっ!!!破滅の電撃、獄核醸抹(セブカナーブランゼ・ハイドヴァカドグランゼ・ミールデモチー)」
ゾクゾクゾクゾクッ
「な、なんじゃこの寒気は?電気が荒ぶっておる・・・
これ以上電圧が上がるものなのか?」
「そっちが強ぇぇんなら、こっちも強くなればいい。懺悔無道(ざんげむどう)の修(おさめ)・・・」
「脅かしおって。身体から無駄に電気が流れ出ておるだけじゃな・・・」
「零速の無干渉(デッド・ベガルナジャウェイ)」
ゴシャァァァァァッッ
「ぐぐっ、いつの間に・・・」
目にもとまらぬ速さで、スサノオの鳩尾に攻撃を叩きこむ衣さん。左ストレートが突きささる。
「電気が通らないのは相変わらずか・・・」
ぐいん
180度回転して、スサノオの首を両足で攫む衣さん。攻撃により体勢が崩れたスサノオは反応しきれない。
「雷態身堕(らいていみおとし)」
バコォォォォン
ガラガラガラガラ
顔面から地面にたたき落とされ、身体半分地面に埋まるスサノオ。そこに衣さんは留めを刺しに行った。
「無限地獄(インフィニティー・ファゴルズマ)」
バリバリバリバリィ
強力な電気の塊が、永遠とスサノオを襲い続ける。無限に続く電撃の攻撃は止むことなく続く。
「いくら頑丈でもこれだけの電撃を喰らい続ければちょっとは効くはず・・・」
バチバチ
「ん?」
バチバチバチバチィ
ヒュン・・・スタッ・・・
「まったく、かなり効いたのじゃ。禁呪も使い方次第では怖ろしいのう」
黒い煙を上げながら、ニヤリと笑いながら言うスサノオ。あちこち焦げてはいるものの、大きな
ダメージは見られない。
「5分以上もあれを喰らい続けて良く無事だったな。普通なら蒸発だぞ」
焦りで歯を食いしばる衣さん。体力はもう限界だ。
「随分と効いたぞ。正直殴られたらぶっ倒れそうじゃ。ここまでのダメージを浴びせられたのは結以来3人目じゃ・・・」
「三人目?」
「そう。一人目はウサギ。わしはなめておったのぅ。貴様らの学校を・・・
ここで倒れたいのも山々じゃが、ウサギに続きわしまで倒れてしもうたらしめしがつかん。気合で
掛らせてもらう!!」
「あーあ。電気の受け過ぎで性格までボジティブになっちゃたか?残念・・・」
ドサァァァ
「しょ、勝者、龍神スサノオ」
「フン、好き勝手言いおって。結局わしもまだまだじゃな・・・」
ゴシャァァァァッ
両者、ともにフィールドへとひれ伏した。僅差でスサノオの勝利となった・・・
「衣、まで・・・」
見ていた天使さんは握りこぶしを強く握った。
「次の三回戦。覚悟しててね・・・」
スサノオを見る天使さんの目は、怖ろしく冷たかった・・・
3
次の試合、第二回戦第六試合目。
湖都海天使(流水1)VS天海蜜柑の試合である。
「試合の前に、二人に紹介がある。どうぞ、パンパカパーン♪」
【瑳塵欧轍牡丹(さじんおうてつぼたん)でぇ~すww】
『おいおい』
《これはまた面白いのを引き入れたのう》
「これ、もう無敵じゃない?さっきの人から分捕ってきた♪」
【分捕られた~】
《わしは知らんぞ、ケルトはどうするつもりじゃ?》
『いーんじゃないの?お譲の考えだしww』
【裏工作に廻らせてもらいやす】
「牡丹にはわたしの器の代役を務めてもらうことにしたよ。これで、約一分でフェード5に移れる」
『それはすごいのう』
【さらに、場合に応じ僕も参戦可能。フェードが上がればご主人に干渉せず、戦えるよ】
「その通り。牡丹は属性が違うから、直接呼び出して戦わせられる・・・」
『相手が可愛そうだな』
《本当に身体はもつのか?お譲》
「大丈夫、問題ないよ」
【みんな、焦らずに行こう】
『テンションが上がるのう』
《フェード5の同時からスタートか。まじでチートだな》
「さ、さっきから独り言怖いです・・・」
今は天使さんの身体の中にいる三人。一人で喋っている天使さんに不信感を覚える蜜柑。
「ほんとに君が対戦相手?」
《幼稚園から抜け出してきた園児だな・・・》
蜜柑の身長は1mちょっと。服装は水玉のワンピースにサンダルと、ロリ属性爆発である。
「蜜柑は高校生だもん」
「うーん・・・」
『油断は禁物じゃな。一回戦、一瞬で勝負を決めておった』
《いずれにせよ、こちらが一撃で堕ちることはまずないな》
【こ、こっちを見ないで欲しいな。期待が重く圧し掛かる】
「第二回戦第六試合、試合、始め」
4
「殺戮天使(ジェノサイド・オアシス)、フェード1からフェード5まで移行開始・・・
水の神契約フェード2、心酔水々(しんしんすいずい)、水の悪魔契約フェード2、混沌海鬼(トレイスゴルジュ・ブラックカオス)」
ゴゴゴゴゴ
「水斬り(みなきり)・・・」
ズバシュィィィィ
「ぐぐっ・・・」
「うまく斬れない?」
蜜柑は、隠していた長刀を抜き、逆手に持ちだすと天使さんを斬り裂いた。天使さんは切れたものの、妙な音を出し、切り口からは緑の液体が出てくる。
【すごい攻撃~♪】
『しっかりと防がんかい、牡丹』
《おいおい、フェード2の同時発動にあっさり干渉してきたぞ、あのロリ娘》
「フェード3へ移行、水の神契約フェード3、水魔(ウンディーネ)水の悪魔契約フェード3、礼奏水禁(ヘルゴールクレミアン・ザンティオームミルカ)。続けてフェード4へ移行、水の神契約フェード4、水神の涙(リュナディア・ティア)、水の悪魔契約フェード4、静寂なる孤水軍(クレベランス・ドルマージャックルスレンドー)」
一気に進めていく天使さん。未だにフェード7ほどの大きな変化は見られない。
「一回戦見てた感想。“七”までくらいならわたしでも倒せる・・・
鉢巻爆裂士人(はちまきばくれつしじん)」
ギュァァァァァッッ
バチィィィィン
「消された?4なのに?」
【娘っころ、誰が護衛に廻ってると思っている】
「で、でっかい悪魔さん」
天使さんの中から出てくる牡丹。続いて出てくる二名。
『すさまじい攻撃じゃったな。水斬りの“鬼煎”じゃな?』
《随分な業物だな》
「わたしのからだはそれでは“完全”には斬れない。牡丹は純粋な悪魔、水斬りは干渉できない。
そして、水の神契約フェード5、枕電姫松(カイムデーキ・サンドラパウンド)、水の悪魔契約フェード5、臥焔絶雹(リシュタル・ヒューバームリュメスタンダード・ヴァラジマガランゼ)」
「姿が変わった?」
天使さんの姿は、半透明な液体へと変わる。原形を留めきれていないのか、止めどなく水が流れ出している。
【僕はそろそろフェードアップしたほうがいいかな?】
「いまのままでいいよ。キューちゃんが5になった時点で、まず剣術なんて当たらない・・・」
『牡丹は天使さんの肉体補助を続けるのじゃ』
《7までは余裕といったなロンリーガール。見せてくれよ、その力・・・》
巨大な視線が睨みつける中、蜜柑は左目だけをつぶり言った。
「か、帰りたいよぉ~。えへへー」
5
次回予告
蜜柑の本気が明らかに。
さらにフェードを上げていく天使。その勝負の行方とは・・・
次回GROW4第十四章 最強の武術降臨
次回までに武術を確立しないとww
ではでは
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ああ、なぜこうなった