注意点
現代日本風に名前をかなり改悪しています。
「せい(星)」→「ほし」
「あいしゃ(愛紗)→「あいさ」
「秋蘭、春蘭(しゅうらん、しゅんらん)」→「秋、春(あき、はる)」
等。
「華琳」「桔梗」とか日本人でもいそうな名前はそのままです。
「みく~に~みく~に~・・次はあらた~、あらた~」
夏の暑い日の昼下がり。
無人である事が一目でわかるほど、小さくそして寂れた駅に一両編成のワンマン電車が到着する。
『プシュウ~』
空気圧が抜けた音と共に開いたドアから電車に熱気が流れ始める。
その熱気流れとは逆に乗客達は車掌に券と数枚の硬貨を渡しながら、淡々と電車から降り始める。
「しぃ~めます~ご注意ください」
数秒後、片手で数える程度の乗客をホームに残し、電車は次の駅へと動き出すためドアを閉める。
乗客たちは、その姿を見送ることも無く近くの踏み切りから流れる「カンカン」と鳴る信号音を後ろで聞きながら無人の改札から出て駅から離れていく。
数十秒後・・踏み切りの信号音も列車の音も聞こえなくなった。
そうなると・・これから60分、この1時間1本の程度の頻度でしか列車が来ない、寂れた駅は何の意味も無い場所となる。
だが・・。
「・・・」
そんな場所に、一人の青年だけが残った。
「(ココに戻るのは何年ぶりかな・・)」
青年は駅の目の前に広がる水平線を懐かしげに眺めながら、そんな事を考えていた。
「(えーと、高校に入って以来だから・・・2年ぶりかな)」
青年はそんなふうに頭の中で指を折りながらも・・前、横、後ろ=畑、海、山と四方を見回した後。
「(変わらないなーここは・・・相変わらず寂れてるな)」
そんなつまらない結論に達した。
そして、その結論で満足したらしく、青年は先に駅を出た乗客たちと同じように改札に向かいだした。
青年の名前は『北郷カズト』
東京の私立に通う、何処にでもいる高校生である。
とはいえ、本人自身はともかく、その家(北郷家)は特別な存在である。
北郷家は江戸初期に帰農した元は武士の家系である。
江戸期の北郷家は村三役(江戸時の村側の責任者)を代代輩出する村で有力な家で、それは平成になっても変わらず今でも村でも指折りの名家として名を馳せている。
そのため村の老人達の中には幼い頃に両親を失い、家を継いだ北郷(カズト)の事を「北郷家の御当主様」等と敬い呼ぶ者もいる。
ぞじて、その北郷は夏休みを利用して、久しぶりに彼の田舎である「三国(みくに)」に帰省していた。
三国という村は、北郷が先に「寂れてる」と評したように。
近年の日本には有り触れた、海、山、森と自然には恵まれてはいるが、2次、3次産業が遅れ若者離れが進む「過疎化」した村の一つである。
「(でも・・懐かしいな)」
だが、変化がほとんどないその姿は・・郷里への思いを掻き立てるには十分の有り触れた場所でもある。
「(はぁ~・・でも、バスは何十分後だろう?)」
とはいえ、そんな郷里への思い等吹き飛ばすほどの村の停滞感(バスが1時間に大体一本)にすぐ北郷は襲われる。
「おっ、ホームの掲示板にバスの時刻表が・・」
えーと、今は2時32分で・・2時に来るバスは30分と・・・30分と・・・えーと、2時30分一本か。
ま、まあ・・仕方ないか。
なら、次の3時のバスを・・えーと・・・。
「・・3時30分」
い、一時間後か・・。
えーと・・うん、じゃあ・・駅でやすもうかな?
・・って?あれ?
「駅にイスがない・・」
そ、そうかーべ、別にホームにイスがあるからね。
駅にはイスなんていらないよねー。
で、でもさ・・もう俺改札くぐっちゃったんだよ。
ホームもどれねーよ。
「・・・」
「(あぁ~もう!!なんだよ電車といい!バスといい!この本数!客を熱中病で殺すつもりかよ!)」
真夏の直射日光に晒され、そんな事を考えながらバス停へと北郷は向かう。
田舎しか知らない者には北郷の怒りは醜悪に見えるが、都会を知ってしまえば北郷の怒りは同意こそできないが理解できる。
それほど田舎と言うのは、全てが「ゆっくり」している。
それは良い言葉にも思えるが、都会の合理的な速さを知ると「ゆっくり」等という言葉は「鈍」という言葉に自然に変換してしまう。
・・あえて、直言してしまえばだが。
過疎化した村村から若者が離れるのは、自然の理だ。
仕事、娯楽、交通、人。
その個々の質が田舎、都会両方ともが仮に同じでも、田舎がその顕著な特徴といえる「自然」や「人情」をいかに心を震わせようとも。
都会は圧倒的な「数」を背景に完勝する。
優れた巣を作るオス鳥を選ぶメス鳥と同じく。
生活しにくい共同体より、生活しやすい共同体を動物は自然に選ぶ。
そう考えると、都会に人々が流れるのはある意味、自然に溢れた場所で暮らすより生物として自然であるとも言える。
なによりも・・こんな数行使わなくても、また学者のように何万語を使用しなくても。
田舎と都会の人口の増減を見れば明らかである。
繰り返しだが。
「田舎」は「都会」に劣る。
だが・・。
「(はぁ~やっぱ、家でクーラー浴びながらダラダラしとけばよかった)」
「都会」「田舎」云々など関係なく・・「熱さ」で頭が一杯の北郷はもはや風景等楽しむ気が気も無くフラフラと・・バス停に備え付けられた椅子へと向かっていた。
「(い、イスに座れば少しはましだろ・・日差し避けも付いているだろうし)」
・・そのトタン椅子が日光でとんでもない熱さになっているのも知らず。
とはいえ、結局、北郷はそのトタン椅子のとんでもない熱さを知ることはこの日は(「キャイン!!」と叫びながら数ヵ月後知った)無かった。
「あっ・・」
それはトタン椅子の前に日傘を差し、一人立つ少女を北郷が見つけたためであった。
少女の姿は・・。
白いワンピースに麦藁帽子という、都会の洗練されたというか煌びやかなファションと比べればシンプル過ぎるきらいはあるが。
それでもなんだか「懐かしい」そして「美しい」。
都会は多くのファション評論家が一枚の服に数万語を尽くし語らないと「美しさ」が示せない。
だが、今北郷が立つ場所では、一二言で「美しさ」が済まされてしまう。
それが許されるのが「田舎」である。
数行前に、田舎と都会の人口の増減で二つの場を比較し「田舎」を劣るとしたが。
だが・・一つこの結論には矛盾点がある。
その結論通りなら。
人は優れた都会にしか住まない=劣る田舎に人は存在し得ない。
この様な結果になる。
しかし・・そんな事現実にはありえない。
・・人々は田舎に多く住み生きている。
田舎には田舎の魅力が・・。言い表せない魅力がある。
その事を矛盾であるが、無情で正確な統計学が確かに示している。
「・・」
少女も北郷に気づいたようで、ゆっくりであるが北郷に近づいてくる。
北郷も若干早歩きになりつつ、少女に近づく。
「「・・・」」
数秒後、少女と北郷の距離が5メートル程度に近づいた。
そして・・。
「おかえりなさい・・あるじよ」
少女が微笑み。
「ただいま・・ほし」
北郷も微笑んだ。
『なつこい(田舎)無双』
「(あちーーぃ・・・)」
折角、古くぬるい冷房が日差しに負けていた「サウナバス」から逃れて、ようやく室内に入れたと思ったのに。
なんだよ・・今も体中から流れる汗が全然止まらないじゃないかー。
こ、この家も地元じゃ名家なんだしさー、冷房ぐらいガンガンつけたらいいのに。
冷房つけなきゃ「カッコイイ」なんて思想、もう時代遅れだって言うの・・。
てか、俺、死んじゃうかもしれませんよー熱中症で。
都会の冷房だらけの環境で数年過ごして、か弱くなった北郷さん死んじゃうかも知れませよ~。
そーなったらどうするんですか。
後で『冷房がない事を「カッコイイ」なんて思ったせいで、人様を殺してしまうとは・・』って、後悔しても遅いんですよ。
現状、この滝みたいな汗が流れるごとに北郷さん徐々に天国への道進んでるんですよー。
分ってますー?
返事なしですか・・。
ええ、分りますよ・・俺の心の声ですもん返事は当然ないですよね。
でもね、こころの声が聞こえなくても。
俺の汗の凄まじさをみれば、分ってくれてもいいと思うんですよね。
・・返事なしですか。
見てくださいよ~この汗染み。
都会なら確実に近寄りたくないレベルにまで広がっちゃってますよ。
・・・・返事は?
バス待ちに1時間、バス移動の1時間・・合計2時間、涼を感じてないんですよ俺ー。
五分に一回冷房与えないと死んじゃうかもしれない、北郷さんがですよー。
だから、どーにかしてくださいよ・・。
もう、扇風機でも十分すぎますから。
団扇もらえるなら、一万だしてもいいですから!!
だから・・涼を。
って、やっぱり返事なしですか。
・・・・・・・・・。
がぁあああああああーーー!!!もう!!!!!!!!冷房つけないとー訴えるぞ!!!!
熱さの為、その熱さ以上の鬱陶しさを持つクレームをポンポンと生み出していた北郷は。
まあ、最終的には鬱陶しさが溜まりに溜まって・・爆発した。
「(訴えるとなると、この件はやっぱり民事かな?いやっ傷害って事で刑事かも)」
てか、そんな事を考えるほどおかしくなった。
「てっ事で。お互いのため冷房を・・」
「な に が、お互いのためなのかしら・・(ギロッ!!)」
「・・す、すみましぇん」
とはいえ、そのおかしくなった勢いは鋭い眼光一つで止められる(なさけなく惨めな声を挙げながら)程。
狂ってる割には弱弱しいものだった。
「・・・」
「(し、しまった!!さっきより目が怖くなってる!!)」
というより、比較すれば・・北郷の「怒り」なんて虫けら扱いになる程、目の前の少女の眼光が鋭すぎた。
ちなみに、北郷が調子に乗った(狂った)原因の熱さに対し。
目の前の正座している少女は熱くないらしく一粒の汗も無い。
「・・・・」
少女にはとある、理由から熱さを感じる余裕など無かったのだ。
少女の中にあるのは二つの感情のみ。
その一つで・・9割を占めている感情は。
「怒り」
「(そ、そーいえば、発汗しない事は病気の前兆って、なんかのテレビで見たことあるな)」
もしかして・・目の前の少女は病気を患っているのかもしれない。
そ、それなら大変だ、すぐさま俺となんか構わず病院に行くべきだ。
そうなれば、彼女は病気を発見でき。
俺は彼女から圧せられる無言の恐怖から開放される。
うん!!お互い幸せになれるーいい、案じゃないか。
少女が全身から発している凄まじいオーラから、怒ってる事が容易に想像できるが、想像したくない。
北郷はそんな一心で明後日な考えで頭を充満させようとするが。
『・・チッ』
少女の舌打で・・最期まで頑張って想像はしなかったけど。
「自分の死刑が確定した」・・とは本能で理解した。
「「・・・・」」
な、なら・・このまま・・なにも言わずに終わって欲しい。
・・し、死刑宣告聞きたくない。
熱さと恐ろしさで汗が更に酷いけど・・最悪水分不足で死んでも良い。
それぐらい、目の前の娘(こ)怖い。
「・・・・」
「・・・・」
俺、覚悟を決めた。
熱中症で死ぬ!!
「あるじよ・・黙っても、なんにもなりませんぞ」
そんな北郷が悲壮で馬鹿でしかない覚悟を決めた瞬間。
後ろのほうから、他人事ような呆れたような・・そんな熱の無い声が聞こえてきた。
「ほ、星~!」
そ、そーいえば。
声かけられるまで忘れていたけど、今はこの場(屋敷)には俺の家に仕えてくれている星もいるんだ!!た、助けて貰おう!!
そうじゃないとー俺、熱中症で死なないといけない!!
ほ、星!!き、君だけだーー!!その結末を変えれるのは!!!
「そんな情けない声を出しても、私にはどうにもできませんぞ~あるじよ」
・・呆れた顔をしながら突き放された。
「そもそもはあるじの招きし事、覚悟を決めて目の前の嬢様とお話なさい」
というか、逆に追い詰められた。
ほ、星・・君は俺の忠実な家人のはずじゃあないの・・。
「「・・・・」」
か、覚悟を決めよう、目の前の娘のオーラが時間がたつごとにどんどん増している気がするし。
今なら万一で、「半殺し」で間に合うかもしれない!
「ひ、久しぶりだね・・華琳」
覚悟を決めた俺は、2年ぶりに彼女の名前を呼ぶ。
「華琳」・・俺が今いる屋敷の主で、目の前で無言の威を発しつづける少女の名前だ。
華琳は村北部の農耕地域の地主である名家の一人娘。
ご両親は俺と同じく早死にし、地元の高校に通いながら華琳がこの名家を統べている。
しかも、ただ家を引き継ぐだけではなく。
新商品、流通の開拓等で家を更に発展させているという女傑ぷりをこの若さで示していた。
容姿も残念な洗濯板状態を覗けば、完璧であり。
「天は二物を与えず」という「不細工だけど優秀」「整ってるが愚劣」という人々の希望を打ち砕く存在だ。
とはいえ・・。
「・・・・」
「(む、無視か・・)」
3物は与えず・・性格はちょっとキツイ。
すぐ、俺が自殺を考えちゃうぐらい。
まあ、9・・いやっ8・・7割で大体、俺が原因でもあるのだが。
「どうだ、華琳はこっちの高校で楽しくやってるか」
「・・・・」
ま、まだか・・。
意固地になってるな。
「俺はアッチで結構楽しくやってるよ」
「・・・・」
お、幼馴染相手に無視つづけるのは・・酷くないか。
「まあ、一人暮らしだから・・色々大変ではあるけど」
「・・・」
あと、さっきから思うんだけど睨むのはやめて・・。
「とはいえ、充実してるよ都会暮らしは・・出来ればこのままアッチで暮らしていこうかと・・」
「・・そう」
おおっ!!や、やっと、短いけど返答が!!
「う、うん!!アッチはなんだかんだで色々あるからね・・特に遊ぶ場所なんて・・」
「じゃあ・・コレ」
山と海と金塊と交換した温泉(水源がやばくて7割水道水な・・)しかないこの村と違って馬鹿みたいに数があるから・・って言おうとする前に止められた。
「コレ?」
えーと、その、なんの脈絡も無くいきなり紙を渡されても。
「・・・(ヤルぞ!!)」
い、いや!!受け取ります!!受け取らさせて頂きます!!
だから、その「ヤルぞ!!」って擬音の目やめて!!
「で、では・・お借りします」
・・なんか色々と細かいことを書かれているが。
この手の書類は大方上のほうになんの紙か書いてるから・・。
えーと。
「婚姻届」
「なにこれ?」
なにこれ?
心の中の言葉と、口に出した言葉が一緒に出た。
「妻側に私の名前が書いてあるでしょ」
そ、そういえば・・華琳の名前が妻側に。
判子まで押してある。
「う、うん。えーと、華琳、誰かと結婚するの?おめでと」
「・・相変わらず、馬鹿ね」
「ば、馬鹿!?」
いきなり、なぜ馬鹿扱いをされるんだ。
「・・・はぁ~」
疑問の顔を浮かべた俺を心底、馬鹿だと思ったらしく恐ろしく深い溜息を華琳が吐いた。
「はぁ~・・あるじよ」
えっ!?俺の後ろに控えてる星も!?
しかも、イタリア人よろしく両手を「お手上げだぜ~ぇ」って感じにしながら。
な、なぜ!?
「ここまでとは」
ここまで「馬鹿」とは・・って意味なのが100%の声質で華琳が呟いた。
「まあ、説明してあげるわ、カズト」
「う、うんー頼むよ」
なんかさっきから酷い反応の連続だけど。
分らないものは分らない・・素直に説明を頼もう。
「その婚姻届の夫側はね」
「うんうん」
誰の名前が来るんだ。
そもそも、華琳と結婚するようなやついるのかな?
大人の間じゃあいい娘で通ってるけど、歳が近い奴らには実は華琳って相当な悪童で通ってるし。
となるとーこの村の外の人当たりか?
「あなたの・・カズトの名前を書くの」
「・・ふむ、ふむ」
なるほど、なるほど。
「へっ?」
「私と結婚するのは貴方よカズト//」
少女にはとある、理由から熱さを感じる余裕など無かったのだ。
少女の中にあるのは二つの感情のみ。
そして・・その9割は。
「怒り」
そして・・残りの1割は。
「喜」
人として厳しい・・次話予告
北郷の前に叩きつけられた「婚姻届」。
それを拒む北郷であったが、華琳の指パッチンと共に現れた謎の二つの影に襲われ窮地に陥る。
北郷は暴圧に負けてサインをしてしまうのか・・。
驚天動地、2話でテンション上げ過ぎて、今後は盛下がるだろうなーという宇和の懸念そのままの修正されていないssが次回現る。
夏恋無双(田舎無双)1話・・終
あとがき
「質より量(文字数じゃないよ・・長いの面倒だし)」・・この言葉を主点に7話構成で数ヶ月前から作成していたssですが。
量が多すぎて、逆に特徴が無いという・・最悪の結末にたどりついてしまい。
『結構時間をかけた割には、特徴ないから呼んでもらえないよーどーしよ』
って、思ってたところに「第二回恋姫同人祭」開催の情報を入手。
「渡りに船」で、恋姫同人祭に参加させて貰いました。
(元々、こーいう系の企画に一回でいいから参加してみたかった事もありますし)
とーいうわけで、この強力なバック(恋姫同人祭)の力を借りて「特徴の無い割には時間かけたから人に見て欲しい」ってエゴそのままのssを(全7話構成、連日投稿)無理やり・・いや、読者の皆さんにお送りします・・・。ご、ご容赦を。
本編自体の・・あとがき。
ギャグ(華琳登場以降)の振りである序盤の真面目?な内容がどーも納得できずじまいです。
特に人口がどうこうとか・・こじつけ甚だしい。
振りを(ギャグ前の真面目=ギャップ付け)をもう少し上手く出来たら・・。
そんな後悔しきりの内容です(そんなのをあと7話続けます・・ご容赦を)。
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アレな内容ですが、耐性あればよどうぞ。