No.276001

そらのおとしものショートストーリー2nd お医者さんごっこ

水曜更新。
やばい、2箇月近くそらのおとしものの新作書いてないからストックが尽きつつある。
これは、あんまり新しい観点がないので封印していたやつですね。
来週あたりはあざとい海イベントでも書けたらなあ。

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2011-08-17 00:59:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3279   閲覧ユーザー数:3034

お医者さんごっこ

 

 

「智子ちゃん、いい加減に英くんにちょっかい出すのやめてくれないかしら?」

「会長こそ、いい加減に守形先輩のことを諦めたらどうなんですか?」

 今日も今日とて美香子は智子を相手に守形英四郎の争奪戦を繰り広げていた。

 守形のいない所での女同士の力比べ。

 脅威の握力400kgの美香子に対して、シナプスの超科学力の恩恵を受けている智子も1歩も退かない。 互角の勝負が繰り広げられる日常。

 故に何の進展もない。

 そもそも守形のいない所で争っているのだから、勝った所で何の利益もある訳ではないのだが。

「そう言えば英くんは今どこにいるのかしら?」

「多分この時間なら新大陸部の部室だと思いますよ」

 2人は取っ組み合いをしたまま器用に横走りをして新大陸発見部の部室へと向かう。

 一見するとダンスを踊っているように見える2人の奇行は毎度のことであり、今更空美学園の生徒たちの注目を集めることはなかった。

 しかしそのいつも通りの筈の日常で美香子はとんでもない光景を見てしまうことになった。

 

「さあ、カオス。服を脱いでくれ」

 幼馴染であり想い人である守形が幼女に服を脱ぐように勧めていた。

 正確には幼女の姿をしたエンジェロイドだったが。

 しかしそんな些細なこと美香子にはどうでも良かった。

「英くんを殺して、私も死ぬしかない……」

 守形が新聞の1面を飾り、刑務所に面会に向かう自分の姿が思い浮かんだ。

「うん、わかった♪」

 カオスは何の疑いも抱かずに守形に言われるままその黒い修道服を脱ごうとしていた。

 守形はその様を普段と同じ無表情なまま見ている。

 しかし付き合いの長い美香子にはわかった。

 守形は興奮しているのだと。

 その証拠に守形のメガネは普段よりも光り方が鈍い。

「英くんに……そんな趣味があったなんて……でも……」

 どんなにモーションを掛けようと守形が自分に靡いたことは1度もなかった。

 水着、プロレスコスチューム、一緒に温泉と考えられる限りの悩殺シチュエーションを重ねてきたが効果なし。

 その為に美香子は守形が女性に全く興味がないのではないか。

 そう考えてもいた。

 だからこそ、女性の魅力を教えるのは自分なのだと固く信じていた。

 でも、違った。

 守形は法的にも世間的にも個人的にも認められない趣向の持ち主だったのだ。

「やっぱりこうなったらいっそのこと心中を……」

 もはやこの世で守形と結ばれる方法はないのではないか。そんなことさえ美香子は考えるようになっていた。

 

 

 しかし、美香子と同じ光景を見て同じように衝撃を受けたはずの智子は異なる反応を見せた。

「守形先輩っ!」

 智子は部室内に駆け込んで服を脱ごうとするカオスの前に立って守形の視線から遮る。

「智子、一体何のようだ?」

 守形の声は若干不満の色を伴っているように美香子には聞こえた。

「先輩っ、カオスを脱がせるのは色々と問題があります。だからやめてください」

 智子の声に躊躇はなかった。

 美香子は今この瞬間だけは智子の味方だった。心の中で盛んにエールを送る。

「しかし脱がさなくては探求ができん」

「そんなに先輩が女体を探求したいなら……智子を、探求してくださいっ! 脱衣(トランザム)っ!」

 智子は秘奥義・脱衣(トランザム)を発動させる。

 桜井智樹の半身であった智子なればこそ使用できた必殺技。

 技名を唱えて0.1秒後には、ブラとショーツ姿となった智子の姿があった。

「やはり女の智子には完全な脱衣(トランザム)はできない。でも、守形先輩を正常に導くにはこれでも平気なはずっ!」

 智子は決死の覚悟で守形と対峙する。

「シナプスの超科学に加えて智樹の変態パワーまで身に付けているとはな。実に興味深い研究対象だ、桜井智子」

 守形は智子の肩に手を置いた。

「俺の探求を手伝ってくれるか、智子?」

「はい、喜んで……」

 うっとりと潤んだ瞳で守形をみつめる智子。

「なっ、なっ、なな……」

 その瞬間、美香子にとって智子は味方ではなく敵になった。

 

 

 智子が守形の信任を得てしまった以上、美香子ももはや黙ってみている訳にはいかなくなった。

「英くんっ!」

 美香子はいても立ってもいられなくなり、飛び出す様に守形の前へと立った。

「何のようだ、美香子?」

 守形の自分を見る瞳には温かさや好奇心、興味をまるで感じさせない。

 挫けそうになる自分を叱咤激励しながら美香子は言葉を続ける。

「お医者さんごっこがしたいのなら、私を脱がせなさいっ!」

 言った。

 それは美香子にしては色々な意味で限界の言葉だった。

「お医者さんごっこ? 何だそれは?」

 だが、美香子の精一杯の想いは守形には伝わらない。

「お医者さんごっこじゃなくても、私を探求すれば良いじゃないの!」

「美香子は普通の人間だ。探求することなど何もない」

 守形の勘違いは止まらない。

 そしてその勘違いは美香子のプライドを散々に引き裂いていく。

 

 

「俺の探求は新大陸と関連あるものと決めている。美香子とは無縁の世界だ」

 それは守形の物を見る際のフレーム。

 新大陸と近いほど彼にとっては重要であり、遠いほど関心を惹かないものとなる。

「ねえ、偶には新大陸以外に興味を向けてみる気はないの?」

 美香子にとっては新大陸は二律背反したものとして認識されていた。

 イカロスたちがシナプスから降りて来る前からそうだった。

 新大陸は守形にとって生きる力の源であり、活動の原動力であり、意固地の根源だった。

 新大陸への飽くなき探究心は、守形に学生らしからぬ卓越した知識と身体能力、そして行動力を与えた。

 一方で新大陸に対する固執は、守形が家を出た後に決して戻らせない為の核となった。

 美香子は新大陸に生き方を左右されていく守形を複雑な想いで見つめていた。

 イカロスたちが現れてから更に事態は複雑になった。

 新大陸の存在が証明され、美香子の目には守形がよく笑うようになったことがわかった。

 守形の表情の変化は瞬きの回数やメガネの光具合などでしか判断できない。けれども、守形を一番近くで見てきた美香子にだけはそれがわかった。

 けれど、新大陸の存在は美香子と守形の間に距離を作った。

 正確には美香子と守形の距離が離れたのではなく、イカロスたちが美香子よりも守形に近い位置を占めるようになった。

 シナプス絡みの事件では美香子が蚊帳の外に置かれてしまう場合も少なくない。

そして守形の一番近くにはいられない存在となってしまっていることを嫌でも意識してしまう。

 それが、美香子にはとても悔しくて悲しかった。

「英くんは……女の子の体には興味がないの? 私の裸とか、見たくない?」

「そんなものに興味はない」

 そして、新大陸以外に興味がなさ過ぎる点が更に問題だった。

 

 

 それでも、イカロス、ニンフ、アストレアのエンジェロイド3人娘は智樹に心惹かれていた。だから美香子が焦る必要はなかった。

 しかしカオスと智子が現れてから彼女を取り巻く環境は大きく変化した。

 智子は智樹から分離した存在。だがその誕生にはシナプスのオーバーテクノロジーが大きく作用している。

 カオスはつい最近完成したばかりの第二世代型エンジェロイド。いわばシナプスの技術の集大成。

 2人とも、シナプスとあまりにも近い存在だった。

 そして、2人の守形に対する想いも厄介だった。

 智子は守形にわかり易いほどに惚れている。

守形はカオスと馬が合う。更に大人バージョンも存在し、そちらのプロポーションは美香子にも引けを取らない。

 2人とも強敵だった。

 美香子は守形の相手は結局自分しか務まらないとタカを括っていた部分があった。しかし、2人の存在は美香子の自信を根底から覆した。

 とはいえ、相変わらず守形には恋愛というものにまるで興味を示していないのが唯一の救いではあった。

 

「とにかく今はこれ以上戦況が悪化しないようにしないと……」

 美香子にとって、今の三竦み状態よりも事態が拗れるのだけは勘弁して欲しかった。

 けれど、そのような願いは往々にして聞き入れられないものだった。

「何、これ?」

 新大陸発見部の部室に突然円状の黒い穴のようなものが開いた。

 それは現代科学ではとても説明できないようなもの。

 つまり──

「シナプス?」

 美香子にはそれがシナプス絡みとしか思えなかった。

 そして美香子の予想は当たっていた。

「守形くんっ、力を貸してっ!」

 黒い穴から白い腕が伸びて来た。

 腕は守形の肩を掴んだ。

 そして更に穴から髪の青い少女の上半身が出てきた。

 瞳は髪の毛で隠れており見えなかったが綺麗な少女だった。

 そして少女が人間ではない証拠に背中から大きな翼が生えていた。

「どうしたんだ、ダイダロス?」

 守形は女性をダイダロスと呼んだ。

 守形の知り合いであるらしかった。

「とにかく一緒に来てっ! 守形くんの力が必要なのっ!」

「フム、何だか知らないがわかった。一緒に行こう」

 そして2人は美香子たちを置き去りにしたまま穴の中へと入ってしまった。

 それからすぐに穴は閉じられ元の部室に戻った。

 

 

「何だったの、今のは?」

 美香子の額から冷や汗が流れる。

「新たな敵に決まっているじゃないですか!」

 美香子の狼狽に答えたのは智子だった。

「敵?」

「そうです。格好良い守形先輩を狙う新たな敵の登場ですよっ!」

 智子のその言葉は支離滅裂だった。けれど、美香子の耳には驚くほどよくすっきりと入った。

「そうよね。あの人も英くんを狙ってそうよね」

 美香子の中の何かに火が付いていく。

「そうです。あの人は倒すべき敵ですっ!」

「そうね。シナプスの美少女たちを倒さない限り英くんは手に入らないわよね」

 美香子の中で激しく炎が燃え上がっていく。

「あっ、そろそろシナプスに遊びに行く時間だぁ」

 カオスが時計を見ながら翼を広げた。

「智子も一緒に行くっ! そして守形先輩を智子の手に取り戻すんだから」

 智子はカオスの右足にしがみ付いた。

 その智子の決断力の良さを見て、美香子は自分が受けに回っていることを思い知った。

「そうね、私もシナプスに行くわ。英くんをあの人から取り戻さないと」

 そう言って美香子はカオスの左足にしがみ付いた。

「いざ行かん。新大陸よぉ~」

 こうして美香子の戦いは新たなる局面へと突入していくことになった。

 

 

エンドレスに続く

 

 

 

 

 

 


 

 
 
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