それはとても日差しの強い日曜日のことでした。
今日は何も無いのでお休み!でもアイドルを目指しているので歌のレッスンです。
でも家で声を出すと怒られてしまいます、なので近くの公園にやってきました。
この公園は広くて草木があり、ベンチや水飲み場があるのですがそれ以外なにも無く誰も来なくなってしまいました。
歌のレッスンには最適な場所!と思って来たのですが……ベンチに15歳くらいの少年が座って下を向いていました。
何やら思いふけっているようにも思えました。
「君、ここで何してるの?」
声を掛けてみることにしました、みんなのアイドルを目指すんです!悩みを聞いてあげるくらい朝飯前です。
「姉ちゃん、誰?」
チラッと片目を見せる程度に顔を上げ、素っ気無い態度で返事をしてきました。
でもこんなことでへこたれません。
「ンフフー!良く聞いたわね!私は初音ミク!世界のスーパーアイドル!…………になる予定です」
つい勢いで言いましたがまだアイドルにデビューすら出来ていません、後になって自分の言ったことを思い返すと意外に恥ずかしかったりします。
「・・・ククッ、姉ちゃん面白いな!」
少年は今度はしっかり顔を上げて笑いました、意外にかっこいい顔をしています。
それで勢いづいたのか、少年はすぐに話し出しました。
「姉ちゃんアイドル目指してるってことは歌を歌えるのか?」
負け時と手を腰に当て高らかに言い返しました。
「も、もちろんよ!」
「じゃあ歌ってみせてよ」
「えっ!?」
実はまだちょっと自信がありませんでした、まだまだ高音も上手く出せていないし、人前で声を出すのはほとんど経験がないのでちょっぴり苦手です。
「そ、それは…」
少年は察したのか、ニヤリと微笑みを浮かべながら続けました。
「姉ちゃんアイドル目指すんだろ?ならもちろん人前で歌えるよな?」
その一言でピキッと何かにヒビが入りました。
「当たり前よ!しっかり聴きなさいよ!」
声を上げ、歌いました。
その歌声は広い広い公園に響き渡り、誰もが魅了し、揺らぐことの無いまっすぐな音が少年の心を大きく揺さぶるものになる……はずでした。
まだまだ高い部分はでないし、人前で歌うというのは意外に力が入ってしまい、変に震えた声になってしまいました。
それを聴き終え、何時の間にか瞑っていた目を開けた少年は言いました。
「姉ちゃん、まだまだだな!」
その言葉に顔を真っ赤にしてしまいました。
「しょ、しょうがないじゃない!まだ練習中の身なのよ!練習中!」
とついつい言い訳してしまいましたが、恥ずかしさは減ることはないし所詮はただの言い訳です。
「そ、そんなこと言うならもちろん君も歌えるんだよね!?」
どうせ口だけに決まっている、そんな気持ちで言った一言でした。
「……そうだな、うん、姉ちゃん、歌ってこういうものなんだよ、しっかり聴けよな!」
少年は歌を歌いました。
もう声変わりが終わっているはずなのにミクが出す声よりも遥かに高く、綺麗で引き寄せられるような素晴らしい声です。
公園の近くを通りかかった犬の散歩をしていた老人らしき人もその声が聞こえたのか公園の端っこのベンチで腰を下ろし始めました。
少年が歌を歌い終えると思わず拍手をしてしまいました。
「す、すごい!すっごい上手いんだね!」
「いいや、全然上手くないさ」
少年は腰をおろし、つぶやくように語りました。
「所詮この程度さ、普通の人より上手くてもコンテストじゃ入賞もできなかった、親も先生も落胆していたさ、どれだけ完璧に歌ったつもりでももっと完璧な奴がでてくる…。」
少年はコンテストの帰りだったようです。
少年はただその日のためにとにかく一所懸命に歌を歌い、がんばりました。
けれど現実は甘くはなく、友達も「大口を叩いてたくせにその程度かよ!」と言うような態度を取りました。
そして、誰も居ない公園に一人ぼっちでいました。
ミクは質問をしていました。
「君は何で歌を歌っているの?」
「えっ?」
「私ね、皆が私の歌を聞いて喜ぶ顔が大好きなの、歌えば喜んでくれる人がたくさんいたし、私も楽しかった、だから歌っているの、君は?」
「僕は……」
少年は何かを思い出そうとするように考えました。
どうして自分は歌っているのだろう?その理由を自分の中で探しました。
やがて答えが見つかりました。
「そうだ、僕はばあちゃんが喜んでくれる顔が見たかったんだ、もう死んでしまったけれど、ばあちゃんや皆が喜んでくれる顔が見たかった……。」
ミクはその言葉を聞いて一安心というニッコリとした顔をつくり。
「じゃあアナタの歌を歌えばいいじゃない!」
少年はその言葉に目を見開きました。
「別にヘタだっていい、誰かに劣ってたっていい、アナタがアナタの望む歌を歌えばいいんじゃない?」
少年にとって、その一言はとても大きく、忘れていたものを取り戻す大きな一言となりました。
じきに涙が流れ始め、ミクはその涙を流す少年をそっと優しい胸で抱きしめました。
――――♪
「姉ちゃん、今度歌教えてやるよ、だから明日またこの公園にこいよな!」
すっかり笑顔を取り戻した少年はとても満足気でした。
「ンフフ、それじゃあお言葉に甘えちゃおうかな♪」
ミクも笑いました。
少年が公園を立ち去ろうとする時にミクは叫びました。
「「ねえ君!」」
大きく生きを吸い直して言いました。
「「名前は!?!?」」
少年は振り向き叫びました。
「……裕太!」
ミクにとって、それはとてもステキな日曜日になりました。
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