No.269321

対魔征伐係.14「春に降る雪②」

シンヤさん

1P目に本文、2P目にその話に出てきた、関するものの設定紹介、小話など。あれば読者からの質問の答えなんかも。質問をする場合はお気軽に。回答は次回の2P目になります。質問内容は3サイズとか趣味とか好きな食べ物とか、設定に記載されていないもの、或いは紹介自体されていないものなど何でもOKです。但し、有耶無耶にしたり、今はネタバレ的な意味で回答できないよ!となる場合もあることをご了承ください。

2011-08-11 01:31:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:502   閲覧ユーザー数:261

「これは・・・」

 

眼下に広がる景色に思わず息を呑む。

後で鉄の扉が閉まる音すら聞こえてはいなかった。

扉を出てすぐにまた目の前に長い石階段がある。

目の前に広がる広大な空洞を一望できるほどの高さに居た。

 

とてつもなく広い。

ここが地下にある空洞だとは俄かには信じがたいほどだ。

真司の持っている知識で考えれば学校の体育館の何十倍もある。

そんな広い空間に木々が生い茂っており、富士の樹海のイメージを髣髴とさせる。

空洞の奥の方にに微かに鳥居が見える。

だが、そこまで行くには歩きでは相当時間が掛かりそうだ。

 

(・・・待てよ・・・?)

真司はふと気がつく。

 

「・・・何で、明るいんだ・・・?」

 

ここは地上から降りて来た地下空洞。

当然日の光などは入り込むはずが無い。

天井を見てみるが、空間や隙間などは無い。

(そりゃそうか・・・)

もしもここから地上が見えれば当然逆も然り。

一般人は立ち入るような場所ではないにしろ、万が一見られれば大問題だ。

(・・・アレは・・・松明・・・?いや、違うな・・・鬼火や狐日の類か・・・?)

よく見れば空洞の壁には幾つも灯りが灯っている。

明るさの原因はその灯りだった。

だが、どう見ても松明とは思えないほどの明るさを放っている。

しかも、全ての灯りから霊的な力を感じる。

 

「・・・早々に降りた方がいいか・・・」

 

もしやと思い眼下に広がる森に意識を集中する。

嫌な予感は的中し、そこら辺から人ならざるモノの気配と霊力を感じる。

こちらからは木々で見えないが向こうからすればこんな高台に居れば格好の的でしかない。

そう思い、急ぎ階段を下りる事にした。

 

「まぁ、どうせここには戻ってくるし・・・」

 

竹刀袋から愛刀を取り出し、腰へ括りつける。

竹刀袋をそのまま扉の前へと置き去りにすると一気に階段を駆け下りる。

 

 

「ふぅ・・・ここからが本番だな・・・」

 

階段を下り、地面へとたどり着く。

数百メートル先の視界もロクに効かない生い茂った木々と薄暗い森の中からは、より霊力を強く感じる。

しかも、多種多様な力を感じる。

どう見ても人外の巣窟である。

 

 

ガサッ

 

 

「・・・流石にバレてるよなぁ・・・」

 

葉を揺らす音と共に、木々の暗闇から真司の目の前に人ではないモノが歩み寄ってきた。

2M近い筋肉隆々の大男。

額には短い角があり、顔の中心には大きく開かれた瞳がひとつ。

こちらを観察していた。

(・・・この程度なら余裕だが・・・)

感じる気配で災忌ではなく、妖怪の類と分かった。

威圧感も霊力もそれほどでもない。

今の真司ならば一太刀で屠れる相手だ。

もしかすると此処はこんな低俗妖怪が多数棲んでいる場所なのかもしれない。

そんなことを考えていると・・・

 

 

ガサッ・・・パキィ・・・ガサガサ・・・

 

 

「・・・」

 

目の前に一匹だけだった一つ目の妖怪は気がつけば6,7匹ほどに増えていた。

 

「おいおい、冗談きついぜ・・・」

 

一匹だけならば余裕だが、多勢に無勢。

 

「戦略的撤退!!」

 

一目散に森の中へと逃げ出した。

 

 

「ハァッ・・・はぁ・・・ッ」

 

走り出してから何分経過しただろうか。

逃げても逃げても追手は途絶えることが無い。

いや、正確には当初追ってきた妖怪は既に居ない。

森の中を逃げていると新しい妖怪にぶち当たる。

そしてまた逃げる。

追手を撒いて、追手が追加され・・・の堂々巡りだった。

ここに入る前に郁に言われたことを思い出していた。

(無理に戦うな、か・・・まさにその通りだぜ・・・)

息も絶え絶えで走りつつ、真司は神経を集中させる。

(・・・苦手なんだけどなぁ・・・んなこと言ってられる状況じゃないか・・・)

覚悟を決めると後から複数の足音と妖怪の気配が迫ってくる中、逃げながらも真司は印を組み始める。

郁のように瞬時にとまでは行かずとも、手順を間違えたり印を忘れたりといったことはない。

「お前ら・・・少しは落ち着けって・・・!」

 

 

ガ・・・ドドドド・・・ッ

 

 

真司と追手の妖怪たちの間に淡く蒼い光の壁が張られる。

壁の面積はそれほど大きくは無かったが、追手を立ち止まらせるには十分だった。

壁を回り込まれる前に真司は姿をくらました。

 

 

・・・・・・

 

 

(・・・ったく・・・冗談じゃないぜ・・・)

無事に追手を撒いた真司は重い足取りで森の中を歩いていた。

無我夢中で走り回っていた所為で正確には分からないが、おおよそ空洞の真ん中くらいに居るであろうことは予想できた。

しばらく休みつつ歩いていくと目の前に開けた空間を見つけた。

 

「・・・なんだここ・・・?」

ぽっかりと空いた空間。

特別何かがあるわけではなかったが、体育館1個分ほど木々がなく、開けた空き地のようになっている。

周りにはいくつか大きな穴が空いている。

(・・・まぁ、良いことないなら早々に・・・)

そう思った矢先だった。

 

 

ボゴォ・・・!!!

 

 

「な、何だ・・・!?」

 

豪快に近くの地面が割れ、地中から何かが出てきた。

 

「・・・おぃおぃ・・・」

 

現れたのは真司の何十倍、何百倍もある巨大百足のようなモノだった。

昆虫嫌いな真司からすれば二重の意味で衝撃だ。

その巨体と比例して感じる威圧感、霊力も強大だった。

そんじょそこらの災忌などとは比較にならない。

この空き地に入るまでは近くに感じていた妖怪の気配も今ではすっかり消えうせている。

(・・・コイツがここのボスってとこか・・・)

とてもじゃないがまともにやって勝てそうな相手ではない。

だが・・・

 

「お前を倒せばここでの暮らしも安泰だな・・・!」

 

言いつつリュックを下ろし、刀を抜く。

この空間で最も力のあるこいつを倒せば他の妖怪も従うか手を出すようなことはなくなるだろうと踏んだ。

このまま12時間も逃げ回るよりは強敵1匹倒すことを選んだのだ。

相手も真司の敵意を感じたのか、地中から這い出ている部分で姿勢を整え、今にも向かってきそうである。

(まともに斬っても効果薄そうだしな・・・あの節の部分か・・・)

巨大百足の背中にある甲殻と甲殻の間にある節。

そこに狙いを定めた。

そして・・・巨大百足は真司目掛けて猛スピードで体当たりを仕掛けてくる。

 

「っと・・・!」

 

準備万全にしていた真司は横へのステップで体当たりを避けるとすぐさま踵を返し、巨大百足の節目掛けて全力で斬り付ける。

 

 

ガッ・・・イィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「いってぇえぇッ!?」

 

真司の振り下ろした刀は巨大百足の甲殻に弾かれた。

予想よりもずっと早く体移動をしていた所為でタイミングが取りきれなかったのだ。

相手にダメージを与えるどころか手が痺れただけだった。

 

「あーッ!!くそぅ!!」

 

言うが早いか真司はリュックを拾うとそのまま森へと逃げ出していった。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「そういえば、先生。あの封印のことは伝えてませんでしたよね・・・?」

「おぉ、すっかり忘れておったわ・・・。歳は取りたくないものじゃのぅ・・・」

場所は変わり、地上の神社の境内。

晴天の下、二人は桜を眺めながら茶を啜っていた。

「しっかりと錠もしておるし、注意書きも書いておる。心配はいらんよ」

「・・・だと、いいのですが・・・」

「なんじゃ、可愛い弟子が心配と見えるのぅ?」

「・・・可愛い、は余計ですが・・・まぁ、確かに心配は心配です」

真司の生死に関わる決死の逃亡劇とは対照的にこちらはまったりとした空気が流れていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁー・・・ここは・・・壁ってことは・・・あの鳥居があった空洞の反対側か・・・」

 

巨大百足から逃げ、またもや途中でエンカウントする数々の魑魅魍魎を振り切り・・・気がつけば空洞の反対側まで来ていた。

入ってからどれほどたったのか。

懐中時計を見る余裕すら今の真司にはない。

(・・・何かあるかもしれないし、行ってみるか・・・)

万が一にでも何か助けになるようなものがあるかもしれないと真司は入り口から見えた鳥居へと向かって歩き出した。

 

 

・・・・・・

 

 

「・・・なんだ、扉・・・?」

 

鳥居の下には壁に埋まるようにして祠があり、中には人一人が入れそうな扉があった。

ここの入り口同様、厳重に南京錠で施錠されており、扉は鉄製で何枚もの札が貼られていた。

更には「この扉の封印、決して解くべからず」との注意書きまである。

(・・・これ、出口なんじゃね・・・?)

場所的に入り口の反対側、そして扉の先は壁。

この注意書き、鳥居・・・真司は咄嗟に閃いた。

そうなれば、取る行動はひとつだった。

 

「南京錠ってもな・・・っと」

 

霊力をたっぷりと込めた刀で錠を斬り付け切断する。

そして扉へと手を伸ばす。

(・・・なんだ・・・?)

一瞬、寒気のようなものを感じた気がした。

だが、今の真司には出口への期待感で頭がいっぱいだ。

 

「よーし、いざ、地上の光を求めて~♪」

 

言いつつ真司は札を破り、鉄の重い扉を開けていく。

 


 
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