土野市のほぼ中心にある鎮守学園から車で北へ50分弱。
市街地から離れ、周りには家々もなく、畑と緑豊かな森があるだけの人里から隔離されたような地方都市の一部とは思えないような場所。
周りを森に囲まれた丘の上に歴史を感じる小さな神社がある。
真司と郁はそんな神社に居た。
-数日前 放課後の学校裏山-
「修行・・・?」
「そう、修行」
やっと1日の締めとも言える郁との修行を終えた真司に郁からまたもや修行という言葉が掛けられる。
「今までの修行でそこそこまでは鍛えられたと思うから、ちょっと行って欲しい場所があるのよ」
「そこそこ、なぁ・・・」
今までの日々の修行により、基礎体力や霊力。霊力を扱う技術から戦術面まで、独学で鍛錬していた時の倍速と言っても過言ではない速度で成長しているのを真司は実感していた。
流石は(一応)優秀な師匠だけあって、そういった面では感謝をしている。
「1日掛かると思うから、今度の土曜日、正午に学校前で。良いわね?」
「りょうかーい」
反論しても無駄と分かりきっているので、大人しく承諾しておく。
幸い、前日などでは無かったので友人と遊ぶ約束などもしていなかった。
後は恵理佳に連絡を入れておくだけだ。
「んで、修行って・・・何をするんだ・・・?」
「行ってからのお楽しみよ」
こうして真司と郁は人里は慣れた神社へと来ていた。
長い石階段を昇ると、歴史を感じさせる古びた鳥居が見えてくる。
小さな神社と言っても古いながらもしっかりとした作りで、未だに脆さなどは感じさせなかった。
そんな神社の境内に一人の老人が待っていた。
「先生」
「おぉ、久しぶりじゃのぅ。元気じゃったか?郁よ」
真司の前を歩いていた郁は老人を見つけるとそのまま前まで行くと軽い会釈と共に挨拶を交わす。
(あ、あの師匠が敬語を・・・しかも名前呼び捨てか・・・)
それだけで真司には目の前に居る老人が只者ではないと感じる理由になった。
見ためは気の優しいおじいちゃんなのだが・・・人は見かけで判断出来ないものだ。
「はい、それでコレが連絡したときにお伝えした弟子の・・・」
「日比谷真司です」
郁に老人の前へと出されると軽く会釈をし、自己紹介をする真司。
流石に少し緊張気味である。
「そうかそうか、この師匠にしてこの弟子あり、じゃのぅ」
真司のことをしばらく眺めていた老人は、そういうと楽しそうに笑い始めた。
「先生、準備の方は・・・?」
「郁の連絡を貰ってすぐに準備を始めたからのぅ、既に出来上がっておるよ」
そういうと老人は境内の奥にある賽銭箱に立てかけておいたリュックを持ってきた。
「何ですか、コレ・・・?」
そのリュックを何も言われずにただ手渡された真司は当然の疑問を投げかけた。
「この中に最低限の水と食料が入っておる。無くさんようにな?」
「今から真司にはこの神社の地下にある空洞に入ってもらうのよ。そのための必要物資」
「はぁ・・・なるほど」
とりあえず中身はおおよそ理解した真司はそのままリュックを背負う。
片方の肩には竹刀袋を背負っているのでリュックは片方だけで背負う形になる。
神社の境内から歩くこと10分ほど。
森の中にある獣道を歩いていくと目の前に石で囲まれた祠が見えて来た。
その祠の裏には錆び付いた南京錠で頑丈に施錠が施されている鉄の扉がある。
扉の先は丘の中、岩山の中へと続いているようだった。
老人は使いこまれた古びた鍵を取り出すと南京錠を開け、鉄の扉を開けていく。
草を引きずりながら、ゆっくりと鉄の扉は開いていく。
「行くわよ」
「あぁ」
老人が中へ入り、続いて郁に先導され、真司も中へと入っていく。
(・・・!今のは・・・結界か・・・?)
中へと入ろうとした瞬間、真司は明らかな違和感を体に感じた。
以前にも感じたことのある違和感。
高嶺家に入るときにも感じる感覚。
災忌をはじめ、魑魅魍魎の類を封じる、出入りを制限するための結界だった。
各地の霊的に重要な場所にこのような結界を施す。
(・・・どうなっていることやら・・・)
真司の不安を他所に老人と郁は薄暗い洞窟の中を先へ先へと進んでいく。
しばらく先へと進んでいくとまたもや鉄の扉が現れた。
これもがっちりと南京錠で施錠されている。
老人が南京錠を開け、扉を開ける。
「お前さんにはこれから12時間。この先にある空洞で滞在してもらう」
言いつつ老人に懐中時計を渡される。
何の飾り気もない、シンプルで年代を感じる懐中時計だった。
「その時計で今現在よりきっかり12時間後じゃ。この先にある最後の扉は外側からしか開けられん仕組みになっておる。無論、携帯電話の類も使えんのでな」
(マジか・・・)
「12時間後、ちゃんと扉の前におるんじゃぞ?居ないときは死んだと思うでの」
「・・・はぁ、分かりました・・・」
老人は優しそうな顔をしてさらりと恐いことを口にした。
「真司」
「ん・・・?」
いざ先へ進もうとした真司に郁が話しかけてきた。
「決して無理はしないこと。カッコつけても意味は無いわ。生き残ることだけを考えるのよ?」
「・・・分かった、忠告感謝しておくよ」
普段から罵倒、悪口は日常茶飯事だが、心配や助言などは皆無だった師匠としての郁。
これから待ち受けている修行とやらがどれほど危険かを物語っていた。
「じゃ、行ってくるわー」
いつものように気軽に挨拶をし、一歩先へと進む。
(また、結界か・・・)
扉を潜った瞬間、またしても結界を感じる。
これで2重に結界で封じてあることになる。
扉の先はより薄暗く、足元が見えるか見えないかという程度だった。
目の前には石階段がずっと下まで続いている。
真司は意を決し、階段を下りていく。
何度か階段を踏み外しそうになりつつも、懐中電灯の明かりを頼りに何とか降りきった。
かなり地下深くへ来た気がする。
デパートやビルなどで階段を使い上り下りをしたときの感覚で言えば、8階相当は降りたはずだ。
目の前には今まであった扉よりも一回り大きい頑丈そうな鉄の扉がある。
南京錠などで施錠はされておらず、そのまま開きそうだ。
真司はゆっくりと慎重に扉を開けていく。
(っ・・・これまた・・・)
開けつつ中へと入ろうとした真司に今までとは比較にならないほどの違和感、寧ろ重圧と呼べるものが襲ってくる。
基本人間には害のない、常人からすれば何も感じない筈の結界術だが、体の心まで圧迫されるような重圧を感じる。
圧迫感、異物感・・・なんとも言えない感覚が扉を潜ろうとする体に襲い掛かる。
「・・・どれだけ、強力な結界なんだよ・・・っと・・・!」
吐き気すら感じる違和感から抜け出すべく、急いで扉を開け、中へと入る真司。
そこで待っていた光景はより驚くべき光景だった。
なぜなに!!征伐係!!
◇森の神社に住む和尚。
・土野市の北にある民家も殆どないような山奥の神社に居を構える老人。
・郁のことを名前呼び捨て、上から目線で呼べる数少ない人物の一人。
・過去に郁に術関連の技術を教えた経緯があり、先生と呼ばれている。
・上記のことからも分かるとおり、かなり名の通った退魔師だったが、日々の駆除、戦闘、殺生を繰り返す生活に疑問を感じ、退魔師の地位と職を捨てた。
・退魔師を辞める人間はその力を封じられるが、それまでの数多の実績と、土野市にある封印を施されている祠の監視役をするという条件で特別に力を保持したまま、隠居生活を送っている。
・住居でもある神社の近くにある祠には幾重にも強力な結界が張られているが、それを施したのも和尚である。
・祠は特別な場所であり、普通の人間は勿論、退魔師も普通は立ち入ることは出来ない。
(今回の件も高嶺家にはオフレコ)
・今でも相当の実力者と目されているが、最近はネットゲームをしながら茶を啜り、楽しい隠居生活を送っており、戦前へは長いこと出ていないらしい。
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