何時から…というべきなのだろうか。
僕は小さな方舟に乗っていた。
いや…小さいというより、横に広いのではなく縦に細長いせいで小さく、小ぢんまりとしているように見える。
方舟の前では知らない貧相な服を着た少女が舟を少しずつ漕いでいる、けっして速くはなく、人が歩くのと変らないスピードだ。
僕はそんな舟の後ろで座っていた。
舟の左右には5メートルほど離れた位置にロウソクが火を灯して立っている、しかもそれが舟の進む方向へずっと何本も並べられ、続いている。
そのロウソクは舟を、そして僕とその少女を照らしていた。
僕は少女に訪ねてみた。
「ココはどこ?どこへ向かっているの?」
少女はこちらを見ず、舟を漕ぎながら素っ気無く言った。
「終わりの先にあるところです、そしてこの先に始まりと最後が待っています」
意味は理解できなかった、だから僕はさらに質問を重ねてみた。
「君は誰?」
「私はアナタ、アナタは貴方」
少年は首を傾げて言った。
「君は僕なのに僕は君ではないんだ?」
「間違ってはいません、ただ私は貴方にとって必要の無い存在でしょう」
僕は何かを言いかけたが口を閉じた、言葉に上手く言い表せなかった。
「さっきの言った……そう、始まりと最後って何?」
「それは分からない、アナタのセカイ、でも貴方のセカイであって貴方の思い通りになるセカイではない」
「どういう意味?」
「貴方が手に入れた物なら何時でも出せるし何でもできる、そして貴方が思い描くセカイが待っている」
さらに意味が分からなくなった。
「例えばどんなもの?」
「人はどれだけ親しくとも貴方ものではありません、けれど貴方が作り、自分で使ったものや誰も必要としないで貴方だけが作った物、誰にも話さず貴方の心の中だけで思い描いた物、そんなもの」
僕は「ふ~ん」と受け流すことにした、これ以上聞いても今の自分にはきっとわからないと思ったから。
僕はあることを思った。
「そういえばさ……、僕はどうしてこの舟に乗っているんだい?」
「貴方が乗ったからです、どうして乗ったかは知っています、でもどうしてこの舟に乗ることになったのかは知りません。……あぁ、心配しなくても大丈夫、この方舟はアナタの方舟です、お代などいただきません…いえ、すでにお代は頂いているのでしょう」
こんな方舟を持った覚えなどなかった、そもそも始めて会い、何も渡した覚えもなかった。
「僕、君にお金を渡した覚えは無いんだけど」
「お代は頂きました、お金ではありません」
「じゃあ僕は君に何を渡したんだ?それに僕にはこの舟に乗る理由は無い気がするんだけど」
「それは私が言うべきではないでしょう、アナタは既にその理由を知っています、思い出せず、答えを見つけ出せないだけでしょう」
上手く理解が出来ない、別に少女の日本語が間違っているわけではなく自分が全てを忘れているということみたいだ。
「じゃあもう一つ、どうしてこの舟には僕と君だけが乗っているんだい?」
「ここにはアナタ一人しか乗ってなどいませんよ、私は人として生をうけていません、私はアナタを運ぶために生まれ、運び終えたらそれで全てが終わりです。」
「どうして?」
「それが私の役割だからです」
「君は僕を運び終えてその先も生きたいとは思わないの?」
「私はアナタの分身です、アナタが自分のセカイで私を望めば私はアナタに会えるでしょう、望まねばそれで終わり、それだけのことです。」
「僕が望めば君は会える、そのセカイはまるで現実じゃないセカイ見たいだね」
「そうです、現実ではありません、もうアナタの中で答えは出ているのではないのですか?」
その言葉で僕は口を止めた。
あぁ、そう今になってようやく気がついた。
「そう…か…、終わってしまったんだね」
「はい」
少女は少年のほうへ初めて振り向き、小さく微笑んだ。
そこ振り向いた顔はとても可愛らしい小柄な顔だった。
「じゃあ…さ、僕のセカイでも一緒にいてくれる?」
少女は小さく頷き
「アナタがそれを望むならご一緒いたしましょう」
そして何時の間にか舟は門をくぐり抜け、自分のセカイに僕は立っていた。
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