No.266983

真・恋姫無双 花天に響く想奏譚 6話(3)

華狼さん

6話の(3)です。 今回は二つの時間軸を扱います。
あぁもう色々放り込むなぁ、と自分で心配になってます。
更にキャラが増えてにぎやかですねまったく。

そして主人公もちょっとアレなことに。一番のキャラ崩壊は主人公かもってそれでいいのか作者。

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2011-08-09 19:03:22 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2359   閲覧ユーザー数:2050

 

 第6話 <動き出す色々(3)>

 

 ・番犬の夜・

 

 ・価値観を共有するのは嬉しいもので。

 

「華陀、交代ですわ。」

 起きた慈霊が民家から出、腕を組んで立っていた華陀の背に交代を告げた。

 

 もう容態が急変するであろう要素は無いのだが、万が一を考えての配慮で医療要員として交代で寝起きして二人は番をしている。 他にも住人が交代で見張りをしていて、その内何人かは…『作業』を手掛けておいてなお起きていた。

 

「ん、もういいのか慈霊?」

「放っておいたら貴方はずっと休まないでしょう?」

「当然だっ!オレは己が身に代えても病魔退散の全快快癒を あいたぁっ!?」

「うるさいのはここでは御法度ですわ。なにより寝ている方も多いのですから。」

 テンション上がった華陀の頭を慈霊、何故か手近にあった柄杓で カコンッ と一発。玻璃扇だと流石に音が大きすぎるからだった。

 

「…しかし華陀、どことなく嬉しそうにしてましたが。 やはり劉備さんと北郷さん、ですか?」

 

 柄杓もなかなかに使い勝手がいいですわ、と思っていた慈霊が、その柄杓片手にそう聞いた。

「分かったのか。」

「何年貴方と幼馴染をやっていると思ってますの?」

 

 そんな二人の傍では、借り受けた布団で桃香、鈴々、朱里、雛里、寧の五人が寝息を立てていた。鈴々は慈霊が何度も掛け布団を直しても寝相の悪さで払いのけて、朱里と雛里は互いに寄り添うように寝ている。寧は起きていたときの平坦さとはうって変わって、可愛らしく丸くなって眠っていて、桃香は寝相こそ悪くは無いが、腕を頭によく分からない形で絡ませていた。

 

「そうだな。 オレと同じ力などというのは生まれてこの方見たことも聞いたこともない。 更には北郷殿の医術の知識だ。慈霊ですら縫合を理解するのに時間がかかったものだが、彼は当然のこととして理解している。あれだと他にも多くの知識があるに違いない。  …それと、」

「心根の優しさ、ですか?」

「…あぁ。 他人のためにあそこまでやるというのは中々出来ないものだが、彼は躊躇い無くやった。 他者を真に想う彼のような者にまみえる事ができたのが、オレは嬉しいぞ。」

「ふふっ 私も、ですわ。劉備さんも北郷さんに近いものを感じますし。 本当の意味で、北郷さんは優しいのでしょうね。」

「こうなるとあの妙な黒い外套の者には感謝だな。」

 そんなことを話していた二人だった。

 

 で。 一刀のしたことというのは以下の通り、だった。

 

 ・懇願 心から

 

「お、おい、なんであんたが…」

 それまでの怒りに沸いた空気が急速に冷めていく。

 原因は、両膝を付いて頭を下げた 一刀だった。

 

「村の仲間や身内が殺されてんだ。 あの賊共は生かしちゃおけねぇ!」

 出産が終わった頃。冷静になった住人の多くが、後回しにしてきた賊の扱いについての話が出た際にこの意見に賛同した。 何人もの犠牲を出した元凶が未だ生きていて、しかも動けないようになっている今の状況。殺してやりたいと考えるのは当然だろう。

「ま、待って下さい!もう動けないんですから」

「嬢ちゃん、あんたらには本当に感謝してる。 でもな、こればっかりは落とし前つけないとおれたちの気がすまねぇんだ。止めてくれるな。」

 桃香の制止も、恨みに沸く住人を止めるには到らない。 だがそれが止まった。一刀によって。

 

「俺からも頼みますっ …この通り!」

 

 前に出てそう言いつつ、地面に両膝を付いて頭を下げた。

 

「お、おい、なんであんたが…」

 それまでの怒りに沸いた空気が急速に冷めていく。

 

 なぜ御主人様が、と寄る愛紗を一刀は手で制した。

 

「い や、頭上げてくれよっ なんであんたがそんな…あんなやつらに同情なんかするこたぁねぇ!」

「違うっ …賊に同情してるんじゃなくて、俺はあなた達に殺してほしくないんだよ!」

 

「俺は家族を殺された事は無い。身近な人を亡くすのは嫌だし、殺されたならそうした奴を許さないと思う。でも実際にそうなったことは無い。だからあなた達の辛さを本当の意味で理解は出来てない筈だ。こうして復讐を止めてるのが証拠だ。『自分が理解してない』ってことを分かってる。」

 

「…でも、でもあいつらを殺しても死んだ人は戻らない!残るのは人を殺したっていう汚点だけだ。

 

 それも何かを守るためじゃない、ただのしかえし、憂さを晴らすだけの自分勝手な殺しだ。死んだ人の為に復讐、なんていったら聞こえはいいけど、復讐なんてそもそも、『死んでいった人を憂さ晴らしの口実に使って自分を満足させる』ためにすることだ!

 

 …そんなのはあの賊共と何も変わらない。そんなのは胸を張れることじゃない。

 

 その殺しは心から、死んでいった人達に誇れることだって言えるか?

 

 子供が居る人はその子供に自分のやったことを、お前の親は人を殺したんだって胸を張って言えるかっ?

 

 

 言えないなら、それがしたらいけないことって分かってるならしないでくれっ!」

 

「わ、私からも、お願いしますっ!」

 

 一刀に続いて桃香も両の膝を付く。

 

「桃、香っ? いや桃香は!」

「私だってもう人が死ぬのなんていやなんですっ! それにっ 赤ちゃんが生まれた日にその周りの人が誰かを殺すなんてだめです、絶対だめですっ! あの子に『あなたが生まれた日に自分達は人を殺した』って言えますかっ!? 言えないならっ… お、お願いしますっ!!」

 

 主とした者二人の行動に、愛紗も倣って膝を付いた。

 

「私からも頼むっ このお二人の意気を無碍にしないでほしい!」

 

 最後には寧も。

 

「ワタシは一刀さんとは逆にアナタ達の気持ちは嫌ってぐらい分かりますよ?色々ありましたので。

 でもこの人達は恩人でしてね皆さんと同じように。ですから劉備さん達に味方します。 さて、恩人がここまでしてるのを無碍にする恥知らずは何人いらっしゃるのでしょうね?いませんよね?」

 

 そして一刀が最後の一言を。

 

「沸いて出たみたいなよそ者が何を、って思ってると思う。でも俺は子供が産まれたのを皆で喜べるあなた達が、…あんな賊と変わらない奴らに成り下がるのを見たくない。

 …ただ、それだけだよ。」

 

 静まったその場に、もう殺意は存在しなかった。

 

 

「…分ぁったよ。 他でもねぇ、あいつらふん縛ってくれたあんたが、そこの嬢ちゃんたちがここまでするんなら、 止めねえと恥かくのはオレたちだな。」

 

 まぁ、そんなことがあったわけで。

 

 ただ、このまま『いい話だなぁ』で終わらないのがこの作者流です。

 

 ・番犬、In the Darkness

 

「…だからあんたらは生きてるんだよ。 あぁ、別に感謝しなくてもいい。俺はあの人達があんたらと同じに成り下がるのが嫌だったから必死で説得しただけだから、ね。」

 

 せめて椅子でも との勧めを、ムシロでいいと言ってムシロを貰い、その上に座して一刀。横では篝火から分けてもらって自分で大きくした焚き火が、パチパチとその場を照らしていた。

 

 仮の番をしていた人達が去ってから、賊共の縛り具合を確かめて、賊の処分のいきさつを本人達に話してを経た今現在。番に就いてから二十分。夜中の十一時を回っていた。

 

 なぜ正確な時間が分かると問われれば、一刀の腕に巻かれた腕時計のおかげ、と答えようか。 自分と共にこの世界に来たデイパックの中に入っていた物の中にこれがあり、番に就く際に付けていた。太陽電池で半永久的に作動し続け、有名なGショックと同じ機構を持つ極めて頑丈な黒一色でシンプルなアナログ式。これも軍事産業系列の機関で作られたものだった。

 

「とにかく。今から朝までの間、あんた達は俺が一人で見張る。 殺したいって思ってるの我慢してもらったんだから、それなら俺が見張るのが筋ってもんだからね。」

 手足を縛られ、そのお互いの手と足を更に連結する形で繋がれて、且つ目隠しと猿轡をされた賊共に一刀は淡々と言葉をかける。

 

 しかしそれは理由の一つだった。他の理由は…賊をこっそり殺しにくる人を見張る、というのもあった。 あのときは引いてくれたが、それでもやっぱり殺してやると考えてそれを実行しようとする人が居るかもしれない。 そう考えて、一刀は賊と同時に住人をも見張ることにしていた。

 住人に見張りを任せればそういうことが起こる可能性はかなりの高確率。それでは止めた意味が無くなる。だから一刀は一人で寝ずの見張りを買って出た。

 

 桃香は休んでって言ってたけど… ごめん、桃香。

 

 桃香への罪悪感を感じて、一瞬表情が申し訳なさそうになったがそれもあくまで一瞬。

 

 その表情は冷たかった。 見下したものではなく、せせら笑っているものでもなく。 被検対象の実験動物でも見ているような。

 

 その表情のまま、一刀は適当な賊一人に近づいてそいつの手の拘束を解く。目隠しされた状態で何かをされるというのはかなりの恐怖で、且つ数時間も目隠しの状態が続いているせいで全員の精神的な疲労はかなりのものとなっていた。

「まぁ、殺さないのはそうなんだけど、」

 

 近づく際に周囲の賊が一刀の歩く気配に、触れた際にそいつが猿轡のせいで声にならない引きつった声を出したが、意に介さず一刀は地にうつ伏せに転がってるそいつの腕を取って捻り上げた。

 

「反省はしてもらうけど、なっ」

 

 

 ・Pain Pain Pain  …いや、パインじゃなくてペイン(痛み)ね。

 

 ゴきゅリっ そんな音がした。近くに転がっていた小柄な賊…最初のあたりで気絶していた一刀を追い剥ぎしようとした三人の内のチビ…にもその音は聞こえて、

 

「っ!! う゛うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 次いで聞こえたのはくぐもった叫び。猿轡のせいで不明瞭ではあるが、仲間のただ事じゃない様子に恐怖を覚えて、少しずれた目隠しの布を地面で擦って下にずらすと、

 

 見えたのはのたうち回る仲間の一人。しかし上に捻り上げられた腕と踏みつけられた背中のせいで、動くのは残った四肢ぐらい。それも体勢がうつ伏せだからまともに抵抗も出来ないでいた。 

 

「全員。仲間が何されてるか分かるか? 今肘の関節を外した。骨同士は腱と筋で繋がってるから、関節を外したら結構自由に曲がったりある程度伸びるんだよ。ほらこんな…って言っても見えてはないか?」

 

 必死に強く呻くのを聞こえないかのように、一刀は関節を少し伸ばしてありえない方向に捻りつつ淡々と一方的に話す。更に呻きは必死になり、周囲の仲間の恐怖も大きくなる。

 

「関節を外して骨同士を擦ったりしたら相当に痛いけど、入れて固定しとけば勝手に治る。しかも別段傷も残らない。よかったな、痛いだけで傷も残らなくて。 でもあんた達が殺した人達は生き返らないんだよ。傷と違って、あんた達は取り返しの付かないことをしたんだからな? 言わなくても分かりきってるとは思うけど。」

 

 ぐりっ ごりゅっ と腕の中に擦れと共に激痛が響く。

 

「さっきまで村の人達がなんの『作業』してたか知ってるか? 死体を埋めてたんだよ。自分達の仲間、身内、友達の死体をね。 周りの人は泣きながら、当人達も我慢しながらやってたよ。 俺はそんな経験無いけど、気持ちは推して知るべきだよなあんたらも。  なぁ?」

 

 言葉に一区切りついたので、一刀は捩り上げた腕を ぺいっ と地面に無造作に放り投げて、踏みつけていた背中から足をどかした。 関節が外れたままの腕が地面に落ち、衝撃が肘関節に電流の如く更に奔った。

 

「む゛ぅぅっ! フーっ フぅーっ、 う゛ぅぅっ!!」

 両腕は自由だからか、左肘関節を右手でかばってその場から離れようとするが。足は未だ他の賊の手と一緒に縛られていて、当然もがこうが這いずり回ろうが、汚れて他の輩にぶつかるだけで徒労に帰した。

 

 そりゃあもう地面で蠢く虫、もとい蟲みたいに。アハハハ暗い中でうぞうぞしててほんとにゴキブリの足全部もぎ取って放置したらこんなかんじになるんだろうなアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハいやそしたらそもそも動けないかなアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ

 

 とまぁ地の文での発狂風ジョークはこのあたりで。引かれても困るし。 …もう遅いかな?

 

 ぶつかられた他の輩も、いきなり体に何かが触れたことでパニックに陥りそうなのが数人。

 

「さぁ、次は誰に何しようか。

 

 髪の毛を頭皮ごと引き剥がそうか。

 

 鼻を鉈で削ぎ落とすか 耳を鋏でざっくりいくか 目を金串で抉るか、

 

 手足の爪一枚ずつ剥がすか 歯ぁ全部ぶち折るか、

 

 指を残らず潰して少しずつ断ち切っていくか それとも全身に針を刺してみようか?

 

 焼けた火箸や刃物で背中や腹に『私は人を殺しました』って刻み込もうか?

 

 それか宦官にしてあげようか。役職に就けるほどの能力があるかどうかは知らないけど。

 

 

 人間ってのは案外頑丈でね、今言ったことしたぐらいじゃ死なない。だから安心していいよ。

 

 あんたたちは『死なない』し、

 

 俺も『殺さない』から。な。

 

 幸い腕のいい医者が二人も居るし。 お誂え向きってこのことを言うんだろうな?」

 

 肘関節を外したやつは放っておいて。一刀は他の太った賊の髪の毛を掴んで頭を引き上げる。奇しくもそいつも、一刀を追い剥ぎしようとした三人の内の、デクだった。

 

「あんたの目玉くりぬいてあんた自身に見せてあげようか。普通見られないよ? 鏡使えば別だけど。」

 

 そこに、一刀の表情・口調に愉悦は無い。

 

「丁度いい。裸にひん剝いて痛みに悶えるところ、村の人にも見てもらおうか?そしたら許してもらえるかもねかなり引かれるかもしれないけどな?」

 

 あるのはどこまでも冷たい、殺意に近い怒りだった。

 

 

 

 ・少し時間はさかのぼって・

 

 ・はりぼてプリンセス

 

 浅い角度で朝日の差し込む無駄に広い部屋。否、部屋自体広いは広いのだが、そう無駄に広いという程でもない。 その部屋の主のサイズ、そして内包する家具の数からすると、相対的に無駄に広い印象が付いてしまうというところか。 机の上にも小物すら少なく、言ってしまえば簡素。その机や椅子に他の家具、造りは上々で年季が入っていても、数の少なさはカバーできない。

 

 「んぅ~… …の~、こんな服いらぬからはちみつ…」

 そんな部屋の中、寝台…今で言うベッド…で もぞり と動くのが一人。ただでさえ大きいベッドの大きさからすると、その者、この部屋の主はかなり小さく見える。

 

 「はぁ~んもう、夢の中の私にどんな格好させられてるんですかぁ?」

 そしてこの部屋の主の寝顔をずっと見ている女性が一人。起こしに来たはずなのにベッドの横にかがんで寝顔観賞としゃれこんでいた。なんかハァハァしながら。こら頬を上気させるな。

 

 しかし今日も今日とて忙しい身、これが活力になるのだから批難も出来ないというものだろう。

 

「…と、そろそろ起こさないと他のがうるさいですねぇ。 というわけで起きてください美羽様。」

 寝ている相手に というわけ と言ってもあまり意味は無いが。 言うと女性は寝ている部屋の主を優しく揺する。すると主は

 

「…ん、ぅ、 なな、の?もう朝かや?」

 目を開けて緩慢に上体を起こすと、可愛らしく目を手の甲でくしくしと擦った。

 

 ここは寿春の領主の城。

 

 そしてこの子供が、部屋の、城の主であり、寿春の領主である 袁術 公路。真名は美羽。

 

 起こしに来た女性は張勲。袁術こと美羽の側近であり、真名は七乃。

 

 ・大きな木の 枝の上で 

 

 同じ時間軸。少し時間は進んで、江東の孫家が治める街、孫家の者と臣下が住む屋敷。

 

 孫家は江東一帯に名を馳せていた家柄。 『いた』と過去形なのは、当時孫家の長だった孫堅が亡くなった後、袁家に客将として身を寄せてから力の分散のために各地に散らされてしまったためだった。

 

 庭の大きな木の、少し位置が高い太い枝の上に、一人の女性が幹に背を預けて心からのんびりしていた。

 ピンクの長い髪、褐色に寄った肌、あと起伏の大きい体のラインを際だたせるような露出の多い気がする服を着た目立つ美人で、しかしどこか高貴な印象の女性だった。 

 

「ん~ こんな日はこうしてるのが正解よねぇ」

 女性は誰にとも無く独白して、手近な枝に引っ掛けていた酒を取ってぐいっと一飲み。一拍溜めて、

 

「ぷっはぁっ! やっぱり人間こうでなきゃねっ」

 満面の笑みだった。が、

 

「ほう。 仕事そっちのけで昼間から酒をあおるのが人間らしいとしても、」

 

 凛とした声が耳に届いた途端に、花が咲いたような笑顔は瞬時に凍結。錆びたような動きでギギギと声のほうに、すなわち後ろ斜め下に顔を向けると、

 

「王としてはどうなのだろうな、雪蓮?」

 長い黒髪の、眼鏡をかけた同じように褐色の肌で、胸の辺りががっつり空いている意匠の服の女性が腕を組んで見上げていた。上からみるとほらもう谷間が強調されてぐはぁっ ってなかんじ。

 

「げっ 冥琳っ? ってちょ おっととと落ちる落ちる冥琳、王が落ちるっ!」

「一回落ちろ。それで性格が矯正されれば儲けなのだがな 」

 

 慌てた拍子に崩れたバランスを直そうとして枝の上でわたわたわた。その様子を見て黒髪の女性は呆れたようなもう半分諦めたような。そんな表情で「はぁ…」とため息をついた。

 

 ・七乃視点

 

「調練は任せますねぇ。どーせ討伐は孫家の方々とかに任せるんですけど一応やってて損は無いですし。 あぁ、食料はいつも通りで。 その件はてきとーにやってていいですね。 あれはもう終わって…ませんかぁ。とろくさいですねぇ。 はいはいこれは私が見ときましょうか。」

 

 そんなことがあって四半刻(三十分ぐらい)ぐらいでしょうか。執務室にはようやく私こと七乃と美羽様の二人だけになりました。 まぁ執務って言ってもそれらしいことを意識してやってるのは私で、美羽様は印を押すしかやってないんですけどねぇ。私が目を通した、印を押すだけでいいやつに。

 

「ほれ七乃っ、こんなに早よう終わったぞ。」

「まぁ美羽様。やっぱり単純作業は単純な人がやるに相応しいってことの証明ですねぇ♪」

「相応しい、か。 ふふん、もっと誉めるがよいぞっ!」

 

 はぁんもうほんとに単純な方ですねぇ。 でもそこが可愛いんですけど。

 

「七乃、ほれ他にやることはないのかや?」

「ありませんよ~。どの道私もこれ書いたら終わりですから。終わったら街にでも行きます?」

「おおっ、妾はまた蜂蜜がほしいのじゃ! じゃがの、なんぞあれば遠慮せずに言うがよいぞ。妾はこの街の領主、なのじゃからのっ」

 ふふっ、無邪気に言うところも可愛いですね美羽様。領主の意味、分かってるんですか?

 

 それと。

 

 美羽様はただのお飾りの領主様で、

 

 あなたが小さくて何も能力が無いのをいいことに裏で袖の下がはびこっていて、

 

 袁術 公路は重税を課して放蕩してる領主だって言われてること、

 

 分かってますか? 分かってませんよね~。

 

 ・

 でもまぁ、私は別にどうでもいいんですけどねぇ。美羽様と不自由なく暮らしてればそれで。文官さんが横領しようが税を多少重くしようが、美羽様がのんきにしてられるなら必要経費ってものです。

 

 七乃はそんなことを考えながら、美羽の斜め後ろに付いて歩いていた。税のせいで若干活気は薄いが、それなりに大きい街なので人通りはある。 そんな中、美羽と七乃は普段着ているのとは違う地味な庶民服を纏って、且つ美羽は髪を二房の三つ編みにして、美羽の好物である蜂蜜を買うべく商店へ。

 

「七乃、早ようゆくぞっ」

「はいはい、ちゃんと前見てないとぶつかりますよぉ。」

 

 この美羽、三公と呼ばれる名門の内、袁家の一員である。しかしこの寿春の領主の身分であっても、実際は見ての通りの子供。見た目は子供、頭脳は大人、なんてことも無い。先の七乃が言ったように、お飾りのはりぼてなのである。

 

 ではあるが。七乃の存在がかろうじて美羽の領主としての力を保っている。美羽本人よりも七乃は美羽の権力を把握していて、いざ領主としての言葉が必要なときは隣で耳打ちして指示をさせている。他にも七乃は美羽の代わりに領主の仕事をしているの同じで、毒気の無い文官を取りまとめて手分けしてやらせているが、それでもすることは相応に多い。先の美羽がやっていた、印を押すだけの書類も七乃が事前に目を通して書き込んでいたものだ。

 

 そこまでのことをするのは、ひとえに七乃が美羽を可愛く、大切に思っているからだった。

 

 

 だが上がこうだと、下が腐っていくのは必然と言える。着服に横領、賄賂のお定まり。

 

 そして腐敗の影響は、美羽と七乃にも迫るかもしれなかった。

 

 ・こんなでも王様「こんなでも とか言うなぁ!」by雪蓮

 

「だぁってたまには息抜きも必要でしょ?」

「おまえは息抜きの合間に仕事をしているようなものだろうっ!」

 美女二人、執務室で仕事中。 本来部屋は別々なのだが、困った王様のために監視をせざるを得ないのだ。

 

「ほら 冥琳も仕事あるんでしょっ、私にかまわないで自分のを」

「残念だが一段落ついたのでな。雪蓮も私にかまわず存分に手腕を振るえ 」

「ぶー…」

 

 しょうがないからしかたなくしぶしぶ、な心理が顔に出ていて、しかもそれを隠そうとしていなかった。

 

 このピンクの髪の女性、名を孫策 伯符。『雪蓮』の呼び方は真名である。そしてもう一人の黒髪で眼鏡の女性は周瑜 公瑾。真名は『冥琳』だ。

 

 …いや、言うな。 名前からも察せる通り、雪蓮は現在の孫家の長。孫呉の王。それがさっき然り今然りこんなサボってばっかでいいの、なんていったら駄目だ! そんなの冥琳が一番困ってるんだから!

 

 でも大丈夫! いわゆる『やれば出来る子』なんだから!

 ただやる気が起きないだけ、なんだから!

 

「ところで冥琳 なんでそんなの持ってるのよ?」

 筆を…牛歩戦術並みの早さだが…走らせつつ、雪蓮は冥琳の手の鞭『白虎九尾』に目をやる。

 

「ん?いやなに 倉庫で見つけてきてな これで少しは身が入るのではないか?」

 一拍置いて、冥琳は鞭を軽く床に振り下ろす。すると何本も束ねているから必要以上に大きく ズバァン!と鳴った。 なんだろう 変に似合ってる気がする。表情もなんだかそれっぽいような。

「…なに? やっぱりそーいうほうがいいっての?」

「やっぱりとはなんだ …しかし 悪くは無いかもしれないな?」

 ふふっと笑う冥琳だった。そこへ、

 

「おぉ策殿、執務室におるとは珍しい って、 …もしかして、お邪魔だったか?」

 入ってきたのは紫を基調とした際どいチャイナ服を着ていて、これまた褐色肌でけしからん起伏。薄紫色の長い髪を高い位置でまとめた女性、名を黄蓋 公覆、真名を『祭』。

 

 祭は入った途端に冥琳の手の鞭を目に留め、そーいうことと察したらしい。かと思えば慌てて右手を背後に隠す。

「そうじゃな…ん?祭、その手のは徳利」

 そして即座に、

「祭~、冥琳がいじめるのよ~ 助け、ってちょっと待ってなんで逃げるのよ!」

「三十六計逃げるに如かずじゃ!」

 戦略的撤退、だった。

 どうやら君主と同じように、昼間から酒をたしなもうという考えだったらしい。

 

 ・すべからく後顧の憂いは早期発見を

 

「そこのおぬしっ、注文なのじゃ!」

「はいよっ!」

 すちゃっ と手を上げて、屈託無く美羽は近くを通るウエイターを呼んだ。言葉がなんだか上から目線だが、いやみに感じないのはそれが含みの無い自然な口調だからだろう。ウエイターもまた、なんだか変な子だけど微笑ましいな と感じていた。 聞こえ悪く言えばもろ子供、良く言えば純粋なのである。

 

 美羽の両手の平に乗るぐらいの瓶入りの蜂蜜を一つ購入した後、適当な店に入って二人は昼食を摂ることにした。一応でも領主なのだが、街中然り現在の店内然り、一切周囲が気づく様子は無い。服が二人とも庶民の服であることが大きいのだが、

 …まぁ要するに、それだけ美羽にオーラが無い証明だとできる。 子供にオーラもなにもないだろうが。

 嬉しそうに瓶をかざして、琥珀色の光を眺めているその様は、無邪気なただの子供だった。

 

「ふふん、やはり蜂蜜はきれいじゃの~。 七乃、こはく とやらもこのような色をしておるのかの?」

「琥珀、ですか。確かに蜂蜜に似た色はしてますねぇ。蜂蜜が固まったみたいなやつですよ。」

「おぉっ、ではなめると甘いのかっ?」

「かもしれませんねぇ。」

 にこやかに七乃は言うが、当然そんなわけがあるはずは無い。琥珀は古代の樹液が地中に埋まって硬質化したものだ。無論、七乃は確信犯である。組成を知ってはいないが。

 

 ふふっ 美羽様ったら、琥珀を飴みたいに食べることでも想像しているんでしょうか?ほんとに食べたりしたときの反応… 見てみたいですねぇ。

 

 今更だが、そんな風に素で黒いところのある七乃だった。

 しかし同時に、それなりの先見もできるのも事実だった。

 

 あくまでも七乃の予想ではあるが。 最近ようやく美羽が自分の立ち場をなんとなーく、うーっすらと理解してきだしたような点が見られる気がするたぶん。その例があの印押し作業。

 上に立つもの、とまでの自覚は無いにしても、仕事はするものと一応思い始めたらしく、

 

 けど複雑な案件を任せるなんてのは論外ですし。じゃあ印押しぐらいなら美羽様でもできるでしょうからさせてあげますかぁ。

 と、七乃も思い至ってやらせている。 美羽からすれば遊びの延長程度のことではあったが。それが問題になるかもしれなかった。

 

 そもそもここの状況での横領は、美羽様みたいに領主に力量が無いからこそ下が秘密裏に着服できるわけです。 でもその美羽様に最近、領主としての自覚が大なり小なり出てきてるということは、近い将来に本格的に領主として動く可能性も無きにしも非ず、です。

 

 そうなれば、仮に美羽様が横領や着服に加担すればその人達の分け前が減りますし、やめさせようとすればそれこそ美羽様は邪魔以外の何者でもないですね。

 

 つまりどの道美羽様は邪魔になって、その側近である私もおんなじです。 実際は私が船頭ですから、むしろ私のほうが邪魔ですか。

 ともかく美羽様をなんらかの形で降ろすこともするかもしれませんし、私を殺すかして美羽様を生涯傀儡にすることもあるかもしれません。

 

 まぁ、彼らに今の段階でここまで予想できるような頭があるとも思えませんけどねぇ。第一美羽様の変化は、私以外に理解してる人もいないですし。 って言うか私たちに危害が及ぶ筋書きを予想した時点で、美羽様の変化の情報を自分のところでさえぎったんですよ? 私たちが邪魔だ、って思わせないために。

 

 いずれにしても、私が殺されて美羽様の近くにいられないのは嫌なので。なんらかの対策を考えているのが現状ですねぇ。

 

 え? 私が取り締まったりしないのか、ですか?

 無理ですね。 結構あっちも多いですし、それにそんなことしたら自殺行為になりますし。

 市井の人達には悪いとは思ってますけど、私はやる気は起きませんよ。一切。

 

 ・目の上のこぶってこういうことです。

 

「痛っつつ、急に走るものではないのぉ…」

「腰?」

「違うわいっ、胸が揺れて痛むのはお主等も分かろう!」

「…二人とも、いい加減に反省を覚えてくれないか?」

 

 先の執務室、祭は雪蓮と共に長椅子に座って冥琳に怒られていた。 一応君主と、長年の臣下です。こんなのでも。

 

「そーよ、祭。もう年なんだからいいかげんに」

「くぉら策殿誰が年じゃ!」

「私が小さい頃からずっと居るんだから年でしょ~♪」

「~!! 策殿また昔のように尻を叩かれたいのかっ! 冥琳っ!その鞭を貸せぃ!」

「ちょ、それはまた違うでしょっ?」「問答無用っ!」

 

 そんな二人だったが、背筋の冷える薄い笑顔の冥琳に気づいて即座に『マジ陳謝』。 おぉなんと。ここで管理者、飛鹿とのコラボが実現しましたよそこの人。

 

 と、まぁ与太は置いといて。

「まったく…雪蓮、お前にはもうすこし孫呉の王としての自覚を持ってほしいものだな?」

「いや自覚はそりゃあもうあるわよ? 例えば孫呉の独立とか、ね?」

 

 この言葉に祭、冥琳の二人は目を真剣にする。

「ふむ、やはりそれは常に頭にあるのじゃな。」

「当然よ。 母様が亡くなってからしかたなく袁術ちゃんの客将になって、孫家はばらばらになっちゃったけど。絶対にまた孫家を一つにして、孫呉の独立を成してみせるわよ。」

 力強い笑顔の雪蓮。先程の酒がらみの一件の人間と同じだとは思いづらいほどの王らしい空気がその場に満ちた。 ほんとに、いつもこうなら冥琳もまだ楽なのだが。

 

「だが当面の問題は、」

「やはり袁術、じゃな。」

「って言うより、袁術ちゃんじゃなくて張勲、なんでしょうけどね。」

 

 一転、今度は現実的な問題が挙がった。

 

「だな。徹底的に我々を押さえつけて、人を戻そうにもどうこうと理由をつけてさせようとしない。孫呉は張勲一人に押さえられているとしても過言ではないな。」

 実際のところ、孫家の面々を複数に分断して管理する今の状況も、七乃がメインに立って作ったシステムだった。あんなのでもやれば凄いんです。あんなのでも。

 

「現実に孫家への牽制やらは張勲の手腕によってなされているからのぉ。 まったくあのような孺子にあれだけの側近が付くだけで厄介なことこの上ないものよ。」

 

「いっそのこと張勲がこっちに寝返ってくれればいいんだけどなぁ。ありえないけど。」

 

「それは土台無理というものじゃろ。 あやつが袁術から離反するなど、儂が酒を断つぐらいにありえぬ話じゃ。」

 成程、と誰もが納得する良い例だが、自分で言ってりゃ世話は無い。呑ん兵衛め。

 

「話を持ち掛けようにもあれこれと言って聞こうともしないしな。なんらかの思惑があるのを察しているのだろう。 …本当に厄介なやつだ。」

 

 

「ってか誰が呑ん兵衛じゃ誰が!」

「…祭、どうしたの?」

「はっ、 いやなに、何ぞ無礼なことを言われたような。 …気のせいか?」

 

 

 ・策士なのでぇっ! ななのさん …はい、うさみちゃんのパクりです。

 

 まぁ、いざとなれば孫策さんに鞍替えすることも考えてますけどねぇ。あ、もちろん美羽様と一緒に、ですね。

 

 孫家の三人の悩みの裏で、七乃はそんなことを画策していた。

 

 今でこそ美羽様の客将に甘んじてますが、あの人がそんなので終わるとは思ってません。いずれ大きく名を馳せるだけの器と力があるのは明らかです。 ですから、その後押しをするのが私の考えです。

 

 機が来たらその時に私と美羽様で、秘密裏に孫策さんと提携するんです。こっちは孫家全員の招集を許可して、その代わりに私たちの護衛と城内の摘発、後始末をしてもらう、ってなところですねぇ。

 その時に寿春の統治権でもあっちに渡せればもっといいんですけどね。 その上で摘発してくれれば、利権絡みの報復も全部あっちに行ってくれますし♪

 

 なら少しでも孫策さんのところに人を戻す許可を出せばいいのに、ですか?

 

 いえいえ、徹底的に押さえて敵だって思わせてたほうが、いざ鞍替えするときにその差でより信用してもらいやすくなるってものですよ。それに使える力は確実に確保しておきたいですし♪

 

 つまり。『敵を欺くにはまず味方から』ですね。 悪どいやり口?そうですかぁ?

 

 とにかく私は美羽様を守れて、自分がその傍にいられればそれでいいんです。そのためなら文官さんがしょっぴかれようが最悪今の地位が無くなろうが構いませんね。

 第一この寿春の城の横領してる人達、美羽様の使えるお金も最低限にしてるんですから。特に未練も思い入れも無いですよ?

 

 昼食を終えた二人は、目に留まった衣料店に入っていた。

 

 色とりどりの服が掛かっていて、なかにはちょっとアレなのもあるが、七乃はあえてソレを美羽に着せてみたりしていた。 どんなのって言えば、背中にほとんど布地が無いのとか、胴体部分の横がほぼスリットになってるのとか諸々。 そんなのをまだ小さい美羽に着せたりしてるんだから、真実彼女は淑女の鑑。

 

 ってかなんで美羽が着られるサイズのそんな意匠の服があるのか、と問われれば。

 

 世の中って不思議なのです。 と答えておきます。

 

「七乃、妾は服なんかたくさんいらぬぞ?」

「こーいうのも似合ってますけど(ハァハァ)。 もうほんとに美羽様は花より団子なんですねぇ。」

「?」

「食べるの大好き、ってことですよ。」

 

 これなんですよねぇ。 美羽様はお洒落とかにはまだ興味ないんです。楽しみと言ったら好物の蜂蜜ぐらいで、お金を使うのもそれぐらい。それをいいことに余った分を着服してる人がいるんですから。

 

 未練なんて残るわけが無いんです。 注意したら私の身が危ないですし。

 

 ですからこの案が一番いい感じですねぇ。

 今のところはまだ時期尚早ですけど、機がくれば即座に裏切っちゃいましょうか。

 

 まぁ裏切るなんていっても、最初から横領してる人達を仲間なんて思ったことはないんですけどねぇ♪

 

 …やっぱり腹の中が若干真っ黒な七乃、だった。

 

 ・Side Somebodies ~黄色い火種~

 

 時刻は現代に置き換えると四時頃。太陽も傾きかけてきた時のこと。

「ぅおっとっ?」

「あぅっ」

 城に帰る道中、余所見をしていた美羽。当然の如く通行人の誰かにぶつかってしりもちをついた。

「あ、ごめんよ、大丈夫?」

 その相手はごめんと言うが、どう見ても状況的に非があるのは美羽。 しかし腰が低いらしく、相手の男は申し訳なさそうな表情。

「むぅ、どこを見ておるのじゃ!」

「ご、ごめん、なさい…」

 そして気弱でもあるらしく。自分の目線よりかなり背の低い小女、むしろ幼女にすらしり込みしている体たらく。 

 そんな彼に七乃が助け舟。

「いえいえ気にしないで下さい。(美羽様、自分の非を認めるのも領主としての度量、ですよ。)」

 ( )のなかは耳打ちと思って。

「(む、度量、か。) まぁよい。其の方、気にするな。」

 耳打ちを素直に受けた美羽は、彼に上から目線のセリフを下から言った。

「あ、はい… ありがとう。」

 なぜ「ありがとう」なのかはその彼の性格に拠るのだろう。

 

 顔の造りもその性格が反映されたような人の良さそうな印象で、肩までの長さの朱色の髪を括っていた。背丈は平均より少し高め。それが痩せ型だからか、尚のこと頼りなさそうに見えてしまう。

 

 そこへ、

 

「おいこらなにやってんねやあんたぁっ!!!」

 

 ドップラー効果でも起こしそうな勢いで声が男の後ろから接近、次の瞬間声の主は男の後頭部に鋭い手刀を叩き込み、男は「あぅっ」と声を上げてガックリと落ちた。

 

「ほんにもう勝手にふらふらしいなや  っと、あぁツレが邪魔してもぉたなそんじゃ。」

 かと思えば声の主、銅色のショートヘアでつり目、強気そうで男と同い年ぐらいの小女は、おざなりに言うと彼の首根っこをひっつかんでそのままずるずるずると引きずっていった。

 

 感想:あっという間の出来事でした。

 

「…七乃、あれはなんだったのじゃ?」

「さぁ。 春だから、ですかね~。」

 

 ・

「ったく頭のあんたがふらふらしとったら示し付かんやろ早よ帰ってきいやっ」

「だ、だから最後に確認しとこうと思って」

「やぁから今まで何べんもやったやろ、下手に動いて足付いてしもたらしまいやで今日のこの後なんやでっ」

「分かってる、よ…」

 

 人目につかないように街から出て、街外れの森の中に二人は移動、もとい戻っていた。

 

「…まぁ、失敗出来ひんて思うんもとーぜんやけど。腹くくりぃや。」

 気弱そうな、守りたくなるような表情を見て、まくしたてていた小女もクールダウンして落ち着いた。

 

「ほんで、中の連中は用意出来ててんな?」

「うん。 だからあとは、…やるだけ、だね。」

「…もしかしてびびっとんちゃうやろな? しゃんとしぃ、あんた充分強いで? うちよりは弱いけど。」

「それもあるけど、 …ちょっとやりすぎそうなのも中にはいるから、 無駄に犠牲者が出そうで…」

「ゆぅても、…しゃーないて割り切らんと。うちらがやらんとなんも変わらん。 せやろ?」

 

 そして二人は歩いていく。

 

 多くの同志が待機する拠点へと。

  

 

 

 ・あとがき

 

 『はりぼてプリンセス』が『はらぼてプリンセス』に見えてしまった紳士、なんてのはいないと信じています。そして七乃に変な服着せられた美羽を想像した、なんてのもまた然り。

 

 今回、一刀達の時間軸と雪蓮・美羽達の時間軸は十数日近くのずれがあります。一刀達からすると、雪蓮・美羽の時間は過去に当たります。 面倒くさくてすいません。

 

 さて、ようやく大きな出来事のチラ見せが出せました。まぁ一刀達は関係しないですが。 今までに少しだけ出ていた複数の某場面と繋がっていきます。

 

 …しかしこの話、オリジナルキャラが多い多い。(そうでもないか?)しかもいちいち細かく地の文を作ってるから、その分話が遅々として進まない。 私の話の欠点ですね。

 今回もまた増えましたよ妙な二人が。 銅色髪の関西弁と、朱色の髪の長身痩躯。さてこの二人はどういう二人なんでしょう。

 つっても『黄色い』火種ってところでもろばれですね。

 

 あと美羽と七乃も変更点が多々あります。美羽は本当にただの子供ですし、七乃はかなり優秀になってます。

 

 孫家の面々は変わりません。 見せ場が少ないのは自覚してます。いや書きたいよ?書きたいけど長すぎるんだよ話がぁ! というわけで、孫家ファンの方々にはすいません。

 

 そしてやりたかったことも出来て嬉しいものです。 それは…

 

 黒一刀、降★臨!

 

 闇一刀、爆★誕!

 

 ってなところです。ほんとにやってみたかった。やれて後悔はあまりしていない。

 黒い一本の刀、なんて言ったらとあるストロベリーさんの某天鎖斬月みたいですね。

 

 いや実際関節が外れるというのは本当に痛いです。痛かったです。昔、脚を変な角度で捻ったら悲劇開演。膝がたぶん亜脱臼でも起こしたのでしょう、ごるっ って感触が骨に響いてめちゃくちゃ痛かったです。

 痛みに慌てて膝を伸ばしたらまた ごきっ って音がしてなんとか元に戻りましたが。後にも先にもあんな経験はありません。ってかあってたまるか。 

 おそらく骨がずれただけで本当の関節が外れた痛みとは違うとは思いますが。あれからですね、関節外してぐりぐりするのは尋問や拷問に使える、って実感したのは。

 

 今回で一刀の行動傾向も分かったかと。 基本、自分の体を張る傾向が強いです。人に休めと言っておきながら、自分は休まず寝ずの番をしたりという感じですね。

 

 

 では。 一刀が賊達にどういう仕打ちをするのか。 楽しみにしていて下さい。 フフフ。

 

 

 PS、私に人を痛めつける趣味はたぶん無い。

 

 

 

 


 
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