No.261986

ボディーガードとお嬢(仮)3

深泥さん

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2011-08-06 14:34:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:260   閲覧ユーザー数:257

 

いつから眠っていたのか、見当がつかなかった。着替えてフィンのところに連れて行かれ、注射のようなものを首筋に打たれて痛みとパニックでその場から逃げようともがいていた事は良く覚えている。

それ以降の記憶が一切失われ―――眠っていただけだが。ベッドから起き上がったフレデリックは自分の顔に起こっている違和感に気が付いた。右目が閉じられない。何か筒のようなものが刺さっているようだ。

ついでにその周辺が引き攣れたような感覚がしたり、顔の中心、額から顎にかけて何故かズキズキ痛んだり――とにかく顔の全体に原因不明の違和感や痛みが生じていた。

だがその痛みによって今までの腑抜けたような表情や、ぼんやりとした感覚も無くなって頭が冴えていた。

ベッドから下りた彼はとにかく外に出ようとだるい体を引きずり、ドアに向かう。周りは白い壁に囲まれ、銀色の金属でできた机があって、壁に面している棚には様々な薬品の入った瓶が入っている。

ここはどこなのだろうか。

ドアノブを回すが、鍵がかかっているらしく途中で押し返されてしまう。仕方なくベッドに引き返し毛布の中に潜り込む。

引き攣れている部分に触れると、その部分は固く冷たいものが埋め込まれているようだった。義眼だろうか。今の技術は進歩したんだなぁ、とフレデリックは溜息をついた。

思えば、自分が軍に所属していた時に新聞に小さく義体技術の事が書かれていたような気がする。あれは何年前だっただろうか。……ああもういいや、思い出すの面倒だ。

彼は再びまどろみの中に捕われていく。睡魔が徐々に彼の思考を奪っていく。

その状況で彼はふと誰かが入ってくる音を聞いた。鍵を開け、ドアノブを回す音。

「よう」

アレンが晴れやかな笑顔で入ってくる。フレデリックが布団の中に潜り込み、眠ったふりをする。

「ぁんだよ。連れねえな」

布団を剥ぎ取られた彼は胎児のように丸まって頭を抱えている。

「とりあえず、アンタの顔に何したかだけ教えてやる。まず、右顔面は内出血で変色してたから、尻の皮膚から正常な皮膚を移植しておいた。あと、右目も使い物にならなかったから、………何て言ったらいいかな。義体技術って知ってるよね。それ関連で義眼を埋めた。後でフィンから鏡を見せてもらいな。じゃ、あたし仕事あるから」

そう矢継ぎ早に説明すると、彼女は走って部屋を出てドアを乱暴に閉めた。反動でドアが開けっぱなしになっていたが、閉め直しに行く気はしなかった。

どうせ少し後にあの亜人が入ってくるだろう、という結論に達したからだ。そしてその予想は当たった。あの亜人は手鏡を持って端正な無表情で入ってきた。嘔吐物で汚れていたはずの服は着替えたらしく真新しくなっている。

仏頂面、無感情に彼はベッドの中で体を胎児のように丸めているフレデリックに問いかける。

「どうだ。調子、は。何処、か痛む、か」

「痛いところだらけだ」

掠れた声の返答にフィンは何の反応も示さず、机の傍にある椅子わざわざベッドの傍まで引いてきて「よっこらせ」と年寄りじみた掛け声を上げて椅子に座った。何歳だ。という突っ込みをフレデリックが丸まったまました。

「おい、お、きろ」

フィンの声にフレデリックは不機嫌そうに起き上がる。さっきよりも寝癖が酷くなっている。

「お前、の顔、見せて、やる」

手に持った鏡を彼の眼前に突き出す。

「お、俺の。顔……?」

茫然と、目を見開き彼が掠れた消え入りそうな声で呟いた。

彼の顔はあの機械技師の女の言葉通り、酷い有様になっている。鏡に映った自身の顔を見て視線を逸らす。現実逃避するように額を抑え頭を弱々しく振る。

顔の中央には大きく縫った跡があり、右目に短い筒のようなものが埋まり、その内部にはレンズがあり、照準を合わせようと盛んに収縮拡大を繰り返している。目の周辺には4㎝程の金属プレートが埋め込まれ、それは螺子で骨に固定されているようだった。

だがそのレンズによって失明していた右目が見えるようになっている。喜ぶべきなのか、かえって悲惨な顔になったと悲しむべきなのだろうか。

「前よりは、まし、だろう」

「ましじゃねーよ。顔がいてぇよ。気持ちわりぃよ」

「薬、効いて、いない、のかも、分からない」

フィンがポケットから透明無色の巾着袋を取り出し、彼の手に無理矢理握らせる。巾着の中には毒々しい赤い錠剤が4粒入っている。

「これ、飲め。ただし、必ず、1回、1錠、づつ」

フレデリックは手に握らされた袋に入った錠剤を摘みあげると露骨に嫌そうな表情を浮かべてそれを口の中に放り込み、水もなしに飲み込んだ。

表面の苦みが解けて舌の根元に留まる。何を食べてもこの苦みはしばらく消えそうもない。思わず顔をしかめ、口を抑える。

「み、水。水をくれ」

手で遮られてくぐもった声が漏れる。

「すぐ、に、慣れる。我慢、我慢」

口元を覆った手をずらし、膝の上に置かせる。

「じゃ、行くか」

一息ついたフィンが言う。

「行くって何処へ」

立ち上がり、伸びをしているフィンに尋ねる。

「お前、の、仕える、べき相手、の場所だ」

 


 
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