No.255995

タイブラ

siroさん

Gプリ。学パロ。獄ツナもいたり。

2011-08-02 22:35:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:539   閲覧ユーザー数:537

 

 

言いたくねえが、ジョットは美形の部類に入る。男女問わずから人気があるのも知っている。おまけに成績優秀。歯にモノを着せない態度も、この現代社会では重宝され生徒会長に最も近い男と言われた。

しかし奴は「んなかったるい事出来るか、阿呆」と用意されていた席を蹴る阿呆。

確かに奴は完璧超人、いや宇宙人だが自由という言葉にすら縛られない男である。授業中、机に足を乗せ堂々と寝ていると思ったら屋上で本を読んでいたり、または学食で早々と日替わり定食三人前を平らげていたりする。

行動原理がよく解らないと言われるが、そういう人とかけ離れたモノに奴等は惹かれるんだろう。普段は足並み揃える事を美学としている癖に。

そんなわけでジョットは人気があった。

かく言う俺は波風を立たぬよう生活を送る事を心掛けてはいる……が、何かと問題が多い。煙草は黙認してくれ。それよりこの赤毛のせいで喧嘩が絶えないのが一番だ。俺はあまりこの髪が好きじゃない。

そしてさっき説明した幼なじみの宇宙人も一役買っている。

自由宇宙人・ジョットは俺の幼なじみなのだ。腐れ縁とも言えよう。幼稚園から現在進行中の高校生活までずっと一緒。クラスでさえ違った事がない。

留学を奨められていた癖に、俺が行く予定だった地元の高校に行きたいと言い出した時は流石に「才能、いや人生の無駄遣い」と思った。

ジョットと俺は何故だか行動を共にする事が多い。俺が喧嘩し終わった頃に偶然にもひょろっと現れ「やあー、ご盛況で何より」、さぼって屋上で寝ていたりすると頬をつつき「Gに触るのは寝てる時に限るなあ」……ふざけるにも程度がある。

その分トラブルに巻き込まれる事も多かった。ジョットの学食のつけを払えと婆に迫られた時は奴を正座させ説教したのを覚えている(反省は残念ながらしなかった)。

 

これらの事から解るように、俺とジョットが幼なじみというのは周知の事実らしい。

おかげで神出鬼没のジョットに何か用事がある人間は迷惑も考えず俺に話し掛けてくるのだった。

………綱吉が来たのもそんな理由からだろう。

綱吉はジョットの従弟である。中二。高校から近い並盛中に通っていた。そこには俺の従弟もいて─……いや、今は関係ないから後にしておこう。

「ジオ兄さんに相談があって……Gさん、今どこにいるか解ります?」

ダメ綱吉が高校にまで来たのだから相当なモノなのだろう。

だが綱吉。これだけは言っておく。

「………綱吉。あいつに相談するって事は鬼にピコピコハンマーを渡すようなもんだぞ。」

「すいません、全然意味が解りません。」

 

 

 

呼ばれて飛び出てなんちゃらかんちゃら。綱吉と二人話している所に、偶然にも奴は現れた。まさに神出鬼没。

俺達の間を割るように綱吉の前に立つジョット。何故だか苛ついているように見える。珍しい。感情を表に出す事など無い等しい奴なのに。学食の婆に無銭飲食を咎められでもしたのか?

「どうした綱吉?ここにまで来るなんて。」

「ジオ兄さんに相談しにきたんだよっ!」

「私に相談?」

奴の「面白い事が起きそうだぞレーダー」が頭の中から飛び出した………ように見えた。不機嫌な感情は一瞬にして消え、眼を輝かせ始める。この変態め。

「私を頼ってきたのだな綱吉?よしよし、聞いてやろうじゃないかあ。私とお前は血で繋がった家族なのだから。」

「そんな事いいから!こっち!Gさんは申し訳ないですけど来ないで下さい!」

自己中なのは血か。怒る気もせず、二人がどこかに行くのを見送る。それから煙草を吸いに屋上へ向かう事にした……が、また俺の前に煩い奴が現れる。

 

高校の廊下を無礼にも走り、俺を見つけると獲物を見つけた野獣のごとく駆け寄ってきた。

「G!沢田さんが来なかったか?!いや来た筈だ!答えろハゲ!」

「………来たが言いたくなくなったぜ、阿呆。」

灰色の髪を揺らし血走っているこいつは俺の従弟、獄寺隼人である。綱吉と同じ年齢、学校、クラスだがはっきりいって綱吉のように可愛がりたいと思うような奴じゃない。

昔からそうだった。俺の後をついて回り、喧嘩も煙草も覚えそれを全て俺のせいにされ何度身内に怒られた事か。

ジョットといいこいつといい、何故見えない所で俺に迷惑を掛ける?当事者共が何とも思っていないのが更に癪に触る。

「教えろ!」

「しつけーんだよ。だから綱吉が逃げるんだろうが。」

こいつが綱吉に弱い、というか惚れているのは知っている。俺にはバレバレだが綱吉にはまったく気付かれていないのが哀愁を誘う。

「……関係ねえだろ!つかてめえの方が……!」

「あ?」

「鈍感だろうが………。」

鈍感?俺が?何に対してだよ。

 

 

**

 

 

隼人が言うには、最近綱吉の様子がおかしいらしい。喋っていても眼を反らす、一緒に帰りたがらない、など。

考えなくても解るだろう。綱吉は隼人を意識し始めたのだ。両思いだとは夢にも思っていない隼人を、俺は暇つぶしがてらからかう事にした。とりあえず人目が付くので屋上へと引っ張ってゆく。そういえばジョット達はどこへ行ったのか。

「綱吉さんはきっと好きな人が出来たんだ……!」

「まだわかんねーんだろ。」

「出来たに決まってる!ああああ俺はどうすればいいんだ喜ばなきゃならねえのに喜べねえ……!」

「うっぜーな童貞は。口ばっか達者で何もしねえから困るぜ。聞いてみりゃいいだろ、綱吉に。」

「出来るわけねえだろ……。」

隼人はこういう部類は弱いらしい。だからといって、綱吉を遠目から見てるだけで我慢してるわけでもない。触れ合いたいが、出来ない。怖いのか。いや何が怖いのか……。

「てめえだってジョットさん………。」

「ジョットがなんだよ?」

「………てめえだって、ジョットさんが知らない奴と付き合ったりするの嫌じゃねえのかよ……?」

そう言われて、頭の中で簡単に想像してみた。ジョットが誰かに告白したりされたりして付き合う?手を繋ぐ?それ以上の事をする?………まったく絵が浮かばねえ。

考えてみれば、今までジョットには浮いた話一つない。奴の事が好きな女は無数にいたが、付き合うまでには至った事がない。

正直……興味がねえんだろう。あるいは、恋だの愛だのが人が生きるにあたって必須項目ではないという答えを出しているのかもしれない。完璧超人だから。自分に必要なものを解っているのだ。だからあんなに進められた生徒会長の座にも着かなかった。人が欲しがるものが、自分にも必要だとは思っていない。そういう生き物だ。

俺もその考えには賛成で、面倒な色恋沙汰には巻き込まれていない。素っ頓狂で破天荒な奴だが、ジョットの考える事はどこか的を得ている。

だから俺も、恋や愛には興味がない。

「あーダメだ想像つかね。」

「仮定の中の話だろ。ジョットさんが他の人に心を許したらどうする、って事だよ。」

………そう言い換えられると、なんだか気分が悪くなった。煙草が切れたとか、そういうのとは別のもの。

「……やっぱ嫌なんだろ、お前。」

嫌?ジョットが誰かに心を許す事が?

というか……あいつが心を許すなんて事があるのか?元々無表情、いや無愛想だし。意気揚々としているのは飯を食ってる時だけだ。愛や恋と同じで、これも想像がつかない。

そんなジョットを一番解ってるのは誰だ、と疑問視すれば、すぐ俺という答えが浮かぶ。俺以外有り得ない。あんな変態生物を理解出来るのは、世界がいくら広くとも俺だけだ。

だがジョット自身もそう思ってるとは限らない。もしかしたら疎ましいとも思っているかもしれない。

そうだとしたら、俺は一体なんなんだ。

「なんか苛ついてきた……。」

「………。」

煙草を吸い出す隼人。くそ、てめえのせいだ。

余計な事を考えさすな。俺とジョットはただの幼なじみなんだ。

「……隼人、綱吉探してんだろ。多分保健室あたりにいるだろうから、とっとと連れてけ。」

 

苛立ちの元凶を追い払うべく、俺は隼人を半ば引っ張る形で保健室まで連れて行った。

保健室のドアには「外出中」の看板が掛かっている。あのアホ保険医、仕事しやがれ。

そのドアの前まで近付くと、案の定ジョットと綱吉の声がした。数センチ程開いていたので、隼人はしゃがんで内部を覗き込む。

「おい早く声掛けて帰れよ。」

「しっ!お前も聞いてみろ。」

隼人に手招きされるまま、俺もその隙間を覗いた。その数センチの世界から見えたのは、「見た事がない光景」であった。

 

「だから、獄寺がお前以外の人間に興味を持つと思うか?」

「思う……。」

「か〜〜……。相変わらず阿呆だなお前は!」

「ジオ兄さんだって同じじゃないか………。」

「ち……違うぞ私は!今は準備中なだけだ!」

「何が準備中だよ。そうやって何年も過ごしてる癖に。大事な事を聞けなかったり、言えなかったりするのは同じでしょ。」

「違うっつーに!」

 

表情がくるくる変わるジョット。怒ったり、笑ったり、泣きそうな顔になったり……。

見た事が無かった。

俺の前ではいつでも仏頂面で、天才肌のジョットが、あんなに、「普通」の顔をするなんて。何故かは解らないが、酷く衝撃を受けた。

「やっぱり相談か……。相変わらずジョットさんは賑やかだな………。」

「……ちょっと待て、隼人。」

賑やか?お前何言ってんだ。

「……ジョット、いつもあんな感じなのか……?」

「はあ?今更何言ってんだお前。俺達の前ではいつだって明るくて楽しそうな方だぞ。」

………有り得ない。ジョットがいつだって明るくて楽しそう?有り得ない。というか考えられない。

「何呆けてんだよ。」

俺が言葉を詰まらせているのを見て、隼人の方も困っていた。

「……いや……。」

「ともかく、あんま心配するような相談事じゃなくて安心したぜ。沢田さんに………ん?おい、ちょっと待て。」

それからの自分の事を、俺は覚えていない。理性を取り戻したのは、保健室のドアを開けてからずっと後だ。……悔しさに似た焦燥に駆られ、ジョットの前に飛び出してしまい、自分が何をしたのか、何をしたかったのか問う暇もなく。

「G……。」

「お前……。」

ジョットが「見た事もない」顔で俺を見つめていた。……いや、それは嘘だ。俺は今の奴の顔も、さっきまでのころころ変わる表情も見た事がある。デジャブ………俺達が物心つかない程小さい頃の記憶の中にあった。

そう。ジョットは小さい頃はあんな顔をしていた。いつだって笑っていた。だが突然喜怒哀楽を無くし、口数も少なくなった……。いつから?いつからだ?そして俺はそれを………。

「……いっ……、いたのか、そこに………。」

「ああ………。」

ジョットを責める権利があると、俺は思い込んだ。それが許されると思ったのだ。

「お前……。そんな顔も出来るのか……。」

「……………で、で、出来るさ……、私だって人間だ……。」

「ああ、そうかよ……。じゃあ俺の前は猫でも犬でも狸でも被ってたのか?」

「違う!」

「俺になら笑わなくていい、迷惑を掛けてもいいって?」

「違う!!違うんだG!」

そこから俺は何を言っただろう。もっとひどい言葉も言ったのかもしれない、いや、言った。ジョットはひどく傷付き泣きそうな顔をしていたから。

だがジョットはそんな顔をするだけで、何も言わなかった。唇を噛み締める事もなく、俺からの一方的な「口撃」に耐えていた。その行為は更に俺の癪に触る。言い返せばいい。いつも通り、素っ頓狂でも破天荒でも、どこか的を得ているような口ぶりで。

けれどジョットの口が紡いだ言葉は、予想に反したものだった事で俺は萎縮してしまう。

「………すまない。」

その一言で終わり、奴はのっそり保健室の窓から外へ出て行った。何に謝っているのか。今まで何かを隠して来た事か。俺に迷惑を掛けて来た事か。

どれもこれも当てはまると混乱する中、綱吉の拳が飛んできた。

「……すみません、殴っちゃいました。」

「………出来れば、理由を聞かせてくれねえか……。」

流石はあいつと同じ血を引く人間。俺の頬は引きちぎれたかと思う程の激痛に見舞われていた……。

「確かにジオ兄さんが悪いです。でも、鈍いGさんもおかしいです。」

「はぁ……?」

「よく考えろよ……。何でジョットさんが、お前の前で"変な奴"を演じてたか。」

「………。」

「もういいですお教えします。ただ気を引きたかっただけなんです。小学生と一緒なんです、ジオ兄さんは。」

「気を……?なんでまた。」

「お前を好きだからに決まってんだろ……。」

「獄寺くん!」

「あっやべ………。」

………ジョット、が?俺を?綱吉にぶん殴られただけでも驚いたのに、更に追い討ちを掛けるか。

気を引く為に仏頂面で生き、気を引く為にタダ飯を食らい、気を引く為に………ジョットがしてきた全てを「気を引く為に」を付けてみる。あいつがやらかす、全ての事が俺の為?そんな事なんてあるのか?

気持ちなんて、真正面から伝えりゃいいじゃねえか。

「………今、面倒だって思っただろ。」

「思っ………思ってねえよ。」

「嘘付き。Gさんは自分が何でも口に出来るからそう思うんだ。でも世の中には、そういうのが苦手な人がいっぱいるんです。苦手なのが普通なんです。だから、ジオ兄さんは………普通の人なんです、本当は。」

綱吉が気持ちを前に出す事なんて少ない。俺は自然と殴られた頬をさするのをやめ、綱吉を凝視した。

「普通に笑うんです!怒るんです!泣くんです!でもあなたの前じゃ出来ない!好きだから、普通じゃダメだって。普通の人間じゃ、Gさんの特別には、なれない、って………。」

そんな事を言っていました、までは聞こえなかった。綱吉は下を向き、それだけ言うと押し黙ってしまう。

………なんだよ。それ。俺が普通じゃねえみたいだろう。

確かに俺はジョットを特別視していた。幼なじみ、友達。ジョットが変な奴を演じていたから?演じていたから気になった?だから綱吉の前であんなに感情豊かなジョットに苛立ってしまったのか?

……違うだろう。もっと他のものがあるだろう。

何で苛立った、何で怒った……必死に、気の迷いだと言い聞かせてきた感情が本物だったからだ。

「………綱吉。隼人。」

「……はい。」

「………なんだよ。」

「………ジョットに会ったら、引き止めて、俺を携帯で呼んでくれ。」

俺は固い床を蹴り出し、着の身着のまま、保健室を飛び出した。何を言おう、どうしたら許してくれる……そんな事はジョットを探してからでいい。

ジョットはきっと泣いている。今まで泣かなかった分と、俺の罵倒による相乗効果で。

ずっと、ジョットから貰う「迷惑」で頼られていると安心していた。だから、今度は俺がジョットに与えなければならない。感情を殺す必要のない、安心感を。

 

 

ジョットの家、商店街、食堂、奴がいてもおかしくない場所を俺はかけずり回った。されど見つからず、ただただ走った。こんな全力で走った事はない。俺は喫煙者だから肺活量もねえし。だが足と肺が弱音を吐こうが吐かまいが知ったこっちゃねえ。ジョットが受けた心痛に比べりゃ虫さされだ。

あとはどこにいる。俺が知る全ての場所は行った。………いや、まだ、行ってない場所がある。

ふと浮かんだのは、家から程近い公園だった。昔、一緒に遊んでいた所。日が沈むまでジョットと遊んだ。

そういえばあの頃のジョットは………。

 

既に空は赤い。子供が家路に着き飯を待つ時間だ。人気が無くなったそこに、奴はいた。

砂場に座り、何故か面を被っていたがあれは明らかにジョット。作ったと思われる砂山を崩している。

歩み寄ると、小さな声が聞こえて来た………。

「………G、ごめんなさい………隠しててごめんなさい………。私はお前に好かれたくて、嘘を付いた卑怯者で嘘つきです………、ごめんなさい………。Gを傷付けてごめんなさい………。」

仮面から漏れる贖罪の言葉は、俺の鈍い心を貫く。何故お前が謝る必要があるのかと。

謝らなければならないのは俺だ。俺はお前に、土下座しなくちゃならない。安心感に甘んじて自らを本心から逃していた俺自身を、地面に額を擦り付け謝らせて欲しい。だが、その前に、言うべき言葉がある。

近づき「仮面」を取り上げると、そこには頬を濡らした「本当」のジョットがいた。

「もういい………。」

膝をつき、目線を合わせて、俺は躊躇い無く「全て」を口にした。

「好きだ。」

俺の全て。贖罪の変わりなんかじゃない。本心だ。

ずっと俺はジョットが好きだった。

だが、俺のこの都合のいい告白が、受け入れて貰えるわけがない。

「……同情するな、馬鹿。」

ぐしゃ、と砂山が全て崩れる。ジョットは平坦になった砂場に手を付き下を向いてしまう。俺の事なんか見たくもない、と言わんとばかりに。乾いた土にぽつぽつ落ちる雫が、俺を更に責めているような気さえしてきた。

「同情なんかじゃねえ。」

本心だった。同情なんかで好きなんて言える程、俺は人間出来てない。

今までジョットから逃げて来た癖に、今更一方的に好意を伝えるなんて最低だ。んな事解りきってる。だが伝える事でジョットが安心するなら、喜んでくれるなら、俺は最低になってもいい。ジョットの泣き顔なんて、誰が喜ぶんだ。

「………いい。もういいから、私に構わないでくれないか。私もお前に関わらない。」

「そんな事言うな!ジョット……俺は本当に……!」

「もうよしてくれ。私を惨めにさせないでくれよ。」

惨め………?どうしてと聞いたら、また泣かせてしまうだろうか。でも俺は解らない。

喜んで貰えると思ったのに。笑ってくれると思ったのに。俺はまた、「自分が理解出来ない過ち」を犯してしまったのか。

「…………………帰る。」

俺を無視して砂場から立ち上がり、去ろうとするジョット。未だ涙は止まっておらず、体は砂まみれだ。

「待てって!」

手を伸ばすも振り切られる。ジョットからのはっきりとした拒絶だった。甘かった。俺が。ただ好きと言えば許してくれるだろうという浅はかな俺を、ジョットは拒絶しているのだ。

段々と奴の背中が離れてゆく。

変わっていない。これでは、何も変わってはいない。ジョットが離れてゆく。一番近い位置にいたのに。

俺は咄嗟に叫んだ。後々考えてみたら、かなり幼稚で、馬鹿な提案だったと反省した。

「とっ……友達から、友達からどうだジョット?!」

奴の背中が止まる。

「俺はお前が好きだ!でも今の俺には、お前の隣にいる資格はねえ。だから!最初っから………お前の幼なじみから……友達から、やらせてほしい。俺がお前の知らなかった事を知るように、お前も俺の気持ちを知って欲しい!だから………頼む………。」

こんなの、隼人と綱吉以下だ、恥ずかしい。この俺が友達から、だとは。でもそれぐらい本気だった。絶対にジョットを失いたくなかった……。

「ジョット………。」

「…………好きにしろ。」

ジョットが折れてくれたのだろう。そう返しただけで再び奴は歩き出し、公園から出て行った。

途端に、腰が地面に落ちる。緊張が解け、体の筋肉が限界を告げたのだ。

でもまだ、本当の解決にはなっていない。

俺はジョットの幼なじみで友達。そこに戻っただけなのだ。

 

 

 

次の日、ジョットは要請されていた生徒会長の座に着いた。今までの迷惑野郎とは打って変わり、真面目な生徒として。これには一般生徒達も驚き、後に仕事、有能ぶり、そしてその天真爛漫な表情にやられ追っかけまで出来てしまう。

これが「本当」の姿だなんて、誰が予想しただろう。ジョットは今まで、俺の為にこれを隠してきたのだ。再び俺は自分の阿呆さを反省する。

隠してきたから、こんな人気が出る事も無かった。あのままジョットの思いに気付いていたのなら、誰にも邪魔されず愛を育む事も簡単だっただろうに。しかしジョットのファンクラブまで出来たしまった今となっては後の祭である。

………今度は俺の番なのだ。

 

「ジョット!遊びに来たぜ。」

生徒会室のドアを開ければ、正面にしかめっ面。露骨に迷惑な顔をされても俺が揺らぐわけがない。

「………帰れ、阿呆。」

「何言ってんだよ。今日は何時に終わるんだ?待っててやるからよ。」

「い、い、か、ら、か、え、れ!」

真面目な顔をしていても、俺が近づいてやりゃあすぐ真っ赤になりやがる。可愛い。こんな可愛い奴、なんで俺は放っておいたんだ。本当に阿呆だ。阿呆過ぎる。

……俺は追う側になったわけだが、この様子だともうちょっとで追い付きそうだ。

ジョットが本当の自分を隠して俺にくれた気持ち。感情。それにはまだまだ追い付きそうもない。

せめて同じぐらいにはしたい。沢山の事をジョットにしてやりたい。

「……好きだぜ、ジョット。」

「……やかましい。」

 

 

 

 

 

 

 

訴えたい事がある。

 

私の幼なじみであるGがと〜〜〜っても鈍ちんな事だ。ガキの頃からそうだった。

幼稚園の時だって引っ付いて回って、布団も一緒にして、飯だって分けっこした。風呂も一緒に入った。流石に小学校からは物心がつき始めて何もかも一緒とはいかなくなったが、俺は出来る限りの努力をしていた。その一つが「なんでもいいから、突飛な事をして気を引く」事である。

俺にとっては勉学は娯楽の一環と思える程簡単だったから、一番になる事でGの眼を引くのには成功した。けれどそれだけではダメだ。

Gにとって、特別な存在にならなければならない。Gから見て、その他大勢にはなってはいけない。幼なじみだから平気だろうという考えは甘すぎる。現実はもっとシビアだ。もっともっと保険を掛けていかなければ。神様だって、高校に至るまで私達をクラスまで一緒にしてくれた。

それで俺が考えたのは「怠惰」である事、だ。逆転の発想。

例に授業をサボリ屋上で居眠りを決めGが心配して「おいおい」と来てくれる。つまり心配を掛けさせる事を私は選んだ。

Gは面倒見がいいし、根は真面目だ。中途半端な不良なわけ。心配を掛けさせる事が一番効果ありと私は見込んだのである!

案の定Gはそれに乗ってくれた。高校生になるまで私の作戦は続き、私の学食のツケをGが払ったり、生徒会のオファーを蹴った事をフォローさせたり。ふふん、留学をやめただけの価値はあった。

留学なんてしたらGは私の事など忘れてしまうだろう。私が貸してやった本の事ですら三日で忘れてしまう野郎だ。一週間でも会わなかった私はGの中で存在すら無くなるに違いない。それだけは死んでも避けたかった。努力は誉めてほしい。

自分で言うのもなんだが私は欲がない。将来の夢もないし、金も欲しいとも思えない。何人もの人間に「どうして」と問い詰められた事がある程だ。

私は、Gさえいれば何もいらないのだ。Gがどう思ってるかは知らん。「私は」Gを人生の主軸にして生きてきた。その欲だけを更に助長させた上で言うなら、Gは一生を共にしたい。これは願望のままでもいい。とにかくGの視界に入っているのならば、これ以上の関係は望まん。ただ、迷惑を掛ける幼なじみでいいのだ!ふははは。

 

さて、そこに一粒不安を置いたのは私の従弟である。この子は容姿こそ私に似ているが内気で世話したくなるタイプだった。従弟の前では「普通」でいる事は内密にしておきたい。普通の基準は曖昧だが、ここでは「人に迷惑を掛けない」「自分がやった事に責任を持つ」など当たり前の価値観を持った人間であるという事にしておこう。

……従弟は何をやっても駄目な子であった。勉学も運動も駄目。人徳もない。ほっといたらいじめられてひきこもりになってしまうような子。

そんな従弟には一人の幼なじみがいた。これまたGの従弟である。私とGの関係に似ているが、いかんせんG達の血筋は乱暴者が多く、日常的に他人に絡まれる。従弟はそれを一番嫌っていた。Gの従弟、獄寺は何があったか知らんが私の従弟に絶対服従をしているしく手どころか生意気な口を利く事さえないらしい。反面、他人との喧嘩は絶えないとの事。その事については何度か相談を受けたが、「我慢しろ」と笑って誤魔化した。

おかげで従弟はGにはあまり話し掛ける事は無かった。いくら獄寺繋がりとはいえ親しくなる必要はないし、何より従弟からすれば威圧感があるように見えるらしい。

若干キャラ被りしている従弟の存在にはちょっと危機を感じていたが、杞憂であったようだ。

従弟には頼れる身内、Gには怠惰な幼なじみ。使い分ける事で現状を維持していける─……と思っていたが、その従弟───沢田綱吉が今更になって頭角(?)を表してきたのだ!ああやはり私の血筋。思いもしない事をやりやがる!

 

見てしまったのは、綱吉がわざわざ並盛高校の私達が通う教室にまで来て、Gを呼んでいた所だ。ああああああ。私の脳内はぐるぐる。綱吉ぃいい〜と泣いた。しかしそれも無駄な嫉妬。

綱吉は私に相談しにきただけらしい。顔色から予想するに、相当な事を私にぶちまけようとしているのが眼に見えた。

獄寺くんが好きなのかも、綱吉は涙目で言った。

いや綱吉、そんなの見てれば解るんだ。だってお前達空気が違うじゃないか。両思いじゃないか。

──自慢かこの中房めが!……いや、羨ましい。

叫びそうになるも、ここは保健室だ。奥歯を咬んで堪える。

私と綱吉は保険医がいないのをいい事に保健室に潜り込んだ。隅のベッドに向かい、カーテンを閉めてから並んで座る。

しかし、内気な綱吉が高校まで来てこんな事を言い出すとは。相当切羽詰まっているように見える。……それは私も同じか。詰まってはいないがな。

「でも獄寺くんには好きな人がいるみたいなんだ。きっと可愛い子に決まってる。京子ちゃんみたいな。」

「おいおい。その、京子?だか何だか知らんが他人を引き合いに出すのはやめんか。惨めになるだけだぞ。」

「可能性はあるんだよ!」

……こいつ。自分で自分を苦しめているようにしか見えんぞ。愚痴を言う暇があるなら確かめに行けばいいものの。

「綱吉。お前は、自分がその女子より劣っていると思うのか?」

「……思うよ。だって俺は男だよ。野郎なんだよ。」

"男だよ"、その言葉だけ、私にも深く突き刺さった。何故にこう、綱吉は自らの心を抉るのか。触れなくてもいい所を裂くのか。

まるで……いや、……そうだ。さっきから何だか苛々するのは、この綱吉は「私」だからだ。私も少なからず、片思いである事、男である事に不安と不満を感じているんだ。

まるで自分を見ているようだから、苛立つ。

「そうだな………綱吉。」

「?」

「私も……………Gが好きだと気付いた時ほど、自分を憎んだ時はない。」

今も思い出せる、あの惨めな感情。女々しくだらしなくおこがましい気持ち。情けなさ。思いを告げる勇気もない癖に、現状だけを憎んだ。

「女というだけで意識をしてもらえて、バレンタインだのそういうイベントでプレゼントをこさえても何も気味悪がれない。………そうだな。辛いな、"男"は。」

いつまで私は片思いなのだろう。いつまでGの気を惹けば満足なのか……。

ベッドのシーツを思わず握った。悔しい、いや情けない。私は自分を偽ってGの気を惹いている。最低だ。それを見てか、綱吉はぼそりと言う。

「あのさ……。前から思ってたんだけど。」

「なんだ?」

「ジオ兄さんって……自分の事嫌いだよね?」

 

……ええそうですとも。思わず言いそうになった。私は自分を好きだと思った事はない。特別だと思った事もない。地球に存在するただのイチ生物であるだけ。

私は顔もいいし、頭もいい。生徒会長に指名されるぐらいなのだから人望もあるのだろう。……言わせて貰う。「だからなんだ」と。

ここまで卑屈になったのは多分Gのせいだ。Gが好きだから、自分が嫌い。Gに好かれない私自身が嫌いなのだ。

「綱吉……お前友達いないだろう。」

「なっ……今関係ないだろ?!」

「私もいないけどな。」

いや、一人いたか?……私の中で、友達であり幼なじみ……憧そして憧れ。Gだ。

Gに私を意識して貰いたい。好きになってほしい。何もいらないから。そう何度願った事だろう。まあ自分自身を好きになれない奴を、好いてくれる人間はいないだろうと薄々気付いてもいた。

「……俺には、獄寺くんだけだよ……。」

私もGだけだ。

「そうか……。」

「だから嫌なんだ。俺、獄寺くんが離れていっちゃったらまた一人だ。……ううん、一人がやなわけじゃない、獄寺くんが離れてくかもしれないのが嫌なんだ。」

「好きになってしまって、罪悪感が芽生えているのだな?もし、告げたら、と。」

「うん……。」

綱吉と私は同じだ。そっくりだ。ただ違うのは──相手に好かれているという事。綱吉、あんなに獄寺はお前を愛しているじゃないか。見て解るぐらいに。どうしてお前はそんなに鈍いんだ。

「獄寺はそんな奴じゃないだろうに……。」

「でも、人気者だし、頭もいいし、運動も出来るし……かっこいいし……。」

「だから、獄寺がお前以外の人間に興味を持つと思うか?」

「思う……。」

「か〜〜……。相変わらず阿呆だなお前は!」

イライラしてきた。羨ましいからだ。なんでこんなに鈍いんだ、綱吉は。

「ジオ兄さんだって同じじゃないか………。」

………前言撤回。

綱吉の涙目から作り出される視線が私を貫く。恥ずかしい。私がGの為に色々取り繕っているのが綱吉にはバレているのかと直感すると、これ以上ない恥ずかしさが私の中を染めた。

「ち……違うぞ私は!今は準備中なだけだ!」

「何が準備中だよ。そうやって何年も過ごしてる癖に。大事な事を聞けなかったり、言えなかったりするのは同じでしょ。」

「違うっつーに!」

立場が逆転してしまい、真っ向から反論する。女のようにヒステリックに私は憤慨した。図星を串刺しにされると苦しいものだ。逃げ道がない。

興奮しベッドから立ち上がった時、視界にある人間達が入った。いつの間にか保健室に来ていたのだろう。思わず思考が停止して固まる。

その人間には、「今の私」を見て欲しくなかった。

「G……。」

Gの前では、私は怠惰で自己中心的で。人に迷惑を掛けて。相談を受けるような人柄じゃない。無表情でぎゃあぎゃあ騒ぐような人種でもない。

しかし今、全てがぶち壊された。自業、自得。

「お前………。」

ああ、終わった………。

終わった。何もかも。本当に終わった。

まさか今日、この時間、そこに、Gがいるとは思わないじゃないか。タイミングとかの問題じゃない。運でもない。綱吉の前であった事と、鍵を閉めてもいない保健室で素を出してしまった私が悪いのだ。本当の自業自得。

今まで作り上げた「私」、Gとの関係がともに溶ける流氷のように崩れていった……。

いや、あの、とか、違うとか言ったかもしれない。女々しく弁明する心が浅ましい。それに嫌気が差したのか、Gは私に「受けるべき罵倒」を投げる。

「人を騙して、いや俺を騙してたのか。飄々としたお前に右往左往する俺を笑っていたのか。俺はお前の事、一番よく知ってると思ってた。変な優越感だってあった。だが全部偽物だったんだな。全部、全部、全部。何が楽しいんだよ……?あぁ?おい。俺には解んねえ。あー解んねえよ。天才様の考える事ぁ、ひとっつも解んねえよッ、この嘘付き野郎!!!」

何も言い返せるわけがなかった。Gが言ってる事は全て正しい。私はGを騙していた嘘付き野郎だ。自身を嘘で塗り固めて、Gの気を惹こうとした愚図なのだ。こんな事をしてきたのだから、いつかこうなるのを覚悟していた筈だろう。しかし私はその刃を真正面から受け、傷を開かせたまま、閉じる事もままならない。深い所を抉った刃は私の中に止まり、後悔、罪悪感、羞恥、ありとあらゆるマイナスの思考を呼び寄せた。私はその全部を昇華させる術を知らない。

……涙もまともな謝罪もする事も出来ず、ただGの前から姿を消す事が一番だと思い、私は体を無理矢理動かして窓から逃げた。

 

 

ふらふらとどこをさまよっているのか解らなくなっていたが、とある男と出会う事で、ここが商店街だった事を確認する。

呆けていた私を見て、奴───アラウディは失笑した。

「いつも以上に間抜けな顔してるじゃないか。」

こいつは同級生である。が、学校にはあまり顔を見せない。飛び級してもう大学卒業してるだの医師免許持ってるだの変な噂ばかり流れている事は知っていた。

私との縁は中学生からだ。私が「作っている」事を出逢ってすぐ見抜いた男でもある。勘が鋭い無神経な奴だ。

「………。」

何も言わない私に少々驚いている。私も今は誰とも話したくなかった。今誰かと話したりでもしたら、自分が嘘付きである事がバレてしまうような恐怖に追われていたのだ。

「……Gにバレたりしたのかい?そろそろかな、と思ってから。」

「ち………。」

慌てて口を開いたのを見て、やはりとアラウディは笑う。……ああ、人通りが多い所で私は何をやっているのか。もっと他にする事があっただろうに。謝るとか、謝るとか、謝るとか、謝るとか。

「図星かい………。」

「わわわわわ私が悪いんだ私が嘘付き野郎だから!」

「まあそうだろうね。嘘付きなんて誰も好きにはならないよ。そんなに慌てるんだったら、やらなきゃ良かったのに。」

………なんだよう、解ってる事言わなくたっていいだろ。

そこでやっと、目頭が熱くなった。

「解ってるんだおぉ!解ってたんだ!私は阿呆で馬鹿で嘘付きだ!うわあああああ……ああ……解ってるんだよぉおお………。」

「ちょっとやめてくれない。僕が泣かしてるみたいじゃないか。泣くなら僕の前以外で泣いてよ、自業自得。」

アラウディの前で大泣きしてしまったのも駄目だと思った。せめてGの前で泣くのが、今まで隠していた事に対してのお詫びではないのか。未だGに全てを明かせない表れではないのか。やはり負の感情が集まって来る。

そのままアラウディに事の経緯を泣きながら話したのが、やはり自業自得と言われた。そんな慰めを求めている自分も浅ましい。益々自分を嫌いになった。

「君が謝れば済む話だ。これ以上もこれ以下も無い。答えを知っている癖に無知なふりをするのは、やはり君という所か。」

「………。」

「慰めを期待しているのなら、君を慕う下衆共の所に行くといい。気休めの言葉くらいくれるだろうさ。」

私の隠れた本心を射抜くアラウディ。当たっている。でもどうしても、勇気が出ない。今更謝る度胸がない。

そうやって暫く黙っていると、アラウディは溜め息を付き、何かを私に差し出してきた。

「?」

「浅利雨月が僕に渡してきた。いらないから、君にあげる。」

押し付けられるように受け取ったそれは、お面。狐のお面だった。

「奴の所で季節の祭をやっていたそうだから、余ったんだってさ。僕には使い道がないから、その小汚い顔でも隠すといい。」

「いやっ……でも……。」

もうアラウディは何も言わない。どんなに呼び掛けても、止まる事をせず商店街の雑踏の中に消えてしまった。

残された私は、渡されたそれをじっと眺め、そして付けてみる事に決めた。顔を隠すお面は私のぐしゃぐしゃな表情を隠すだけでなく、心も隠してくれた気がしたのである。しかし蒸し暑い。

そのまま猫背になって商店街を歩き、私は公園に辿り着く。

いやはや、この狐のお面を被ったまま歩くなど子供でなければ「不審者です」と言っているようなもの。

すれ違う親子連れ達には当たり前だが冷ややかな眼で見られそそくさ離れていかれた。

公園に着く頃には日が暮れており、もう誰もいない。

私は砂場へ向かった。

どっかり腰を下ろし、一人山を作り始める。お面をしたまま。夕餉の匂い、母に呼ばれて返事をする子供の声。公園を取り囲む住宅地からは沢山の家庭の香りがした。

けれども、私はまだ帰れない。

頬が熱い。また泣いていた事に気付いた。お面が表情を変える事はない。砂山を造りながら、しくしく泣いた。

この公園だって、Gと何度も来た。日が暮れるまで遊んだのだ。思えばその頃の自分はまだ大声で笑っていたと思う。邪な考え一つ無く。

大人になってしまったから余計な事ばかり考えるようになってしまい、こんな結果を生んでしまったのだ。情けない、情けない、情けないと呟く。そしてごめんなさいと。完成した砂山を崩して、泣きながら、G、ごめんなさい、隠しててごめんなさい、私はお前に好かれたくて、嘘を付いた卑怯者で嘘つきです、ごめんなさい、Gを傷付けてごめんなさい、と何度も謝った。

 

「もういい………。」

 

お面を奪われる。

崩れた砂山の向こうにGがいた。

そしてすぐに、私が好きだと、奴は、言った。

その言葉は、私が一番欲しかったものだったろう。しかし今となっては、私を哀れむだけの、ひどいものに思えた。

自業自得だなんて解っている。私が最初から、正面からGと向き合う勇気があればこんな面倒な事にはならなかったのだ。私はGを傷付けた最低にして最悪の人間。同情なんてよしてくれ、こんな奴に。同情で好きだなんて言わないでくれ。

消えようとした私に、奴は言ってくれた。「ならば友達から」と。

どうしてお前は、そんな事が言える。というか、よく言えるな、なんて。私はGに見えないように笑って、その場を後にした。

 

今更生徒会長の椅子に座ったのは、自暴自棄になったのもある。もうバレたんだから、何でもやっちまえ、そんな感じ。

私が有能である事は私が一番知っている。思いのほか生徒会の仕事は簡単だった。ま、生徒がやる事だ、特別な権限もないし、各委員会から来る要望書とか目安箱に入ってる愚痴みたいなのを笑って読む程度。私は生徒会室を我が城とし、菓子を摘みながら怠惰に過ごす事に決めた。

そこに水を差すのが、G。

友達からでいいとか言った癖に、毎朝毎晩メールを寄越し生徒会室に我が物顔で入ってきやがる。そして何か愛の言葉を囁くのだ。私はそれに揺らぎ時めくが、決して「はい」とは言えなかった。

Gの告白を受け止め、今まで何も無かったように付き合うのは多分いけない事。綱吉や獄寺はいいからとっとと〜となんちゃらかんちゃら言っていたが、私はどうしても頷けない。

Gの事は好きだ。大好きだ。これから生きていく中で、G以上に好意を寄せる人間は多分いない。いや絶対にいない。断言出来る自分に乾杯。

保健室での一件があったからこそ、今のような状況になれた。ああ、綱吉達の事だが二人は程なくして付き合う事になったらしい。おめでとうとは言ってやらない。言うものか。

 

私はいつGを受け入れるのだろう。いつだって出来た。でもやらない。こうした態度がまた難解な状況を作り出すのだが……。

生徒会長になってから、妙に人が寄ってくるようになった。私も人な関わろうと思った。視野を広げよう、世界を広げようと。Gだけを追っていたのが私の全てだったが、それは今も変わらない。ただ執着がまろやか?になった、というべきか。

「好きだぜ、ジョット。」

「………そうか、ありがとう。」

「!………つ、付き合ってもいいって事だな?!」

「………色々かっ飛ばすなあ、Gは。」

「いいじゃねえか、俺達両想いだろ?」

「そうだなあー。」

「ジョット、俺も生徒会に入らせろ。お前との時間を増やしたい。」

「ふははは、お前が生徒会だなんて。無理無理。」

Gは私が照れ隠しで拒絶している事はきっと気付いている。ついでに楽しんでいる。

「無理じゃねえよ!」

躍起になるGに、私は思わず笑ってしまった。そんなに必死になる事、ないじゃないか。ありがとうな。ありがとう。私は何度も言った。何度も言った。何度も。

「ありがとう、好きだぞ、G。」

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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