アインハンダー。こいつは、元々は■■■■(検閲)の持つ機械の手=マニピュレーターを見た時空管理局の連中が、■■■■(検閲)につけた名称だったが、今では戦術戦闘機を指す俗称として■■■■(検閲)も使っている。

 アインハンダーの主任務は、■■■■(検閲)で■■■■(検閲)、■■■■(検閲)することだ。■■■■(検閲)。私は、機体によって■■■■(検閲)。およそ■■■■(検閲)ではない。

 もっとも、アインハンダー乗りに■■■■(検閲)だろう。■■■■(検閲)は、■■■■(検閲)を要求する。だから、

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■、

■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■(検閲)私は■■■■(検閲)を救いたいだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.

第二話『最終蒐集兵器。彼女は、もう、引き返せない。』後編

 

原作:アインハンダー

原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ

原作設定:日本製シューティングゲーム各種

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、オーリス姉さんがアインハンダーの資料を抱えて見舞いへとやってきた。

 今日は紙資料ではなく、空間映像投射式のバインダー。見た目はノートサイズの金属板だ。

 

 私はそれを受け取って、バインダーのスイッチを入れる。

 両腕はまだ骨が折れたままで繋がりきっていないが指と肘関節に損傷はなかったので、ダライアス製の補助具を使うことで軽いものを持ったりする程度のことが可能だ。

 

 投射映像を操作し、写真資料を表示する。

 新聞に載っていたものより詳細まで写されているカラー画像だ。

 

 機体全体の色は青。装甲の角を縁取るようにつけられた黄色の装甲が青い機体のアクセントとして映えている。

 後部へ突き出した二門の巨大なアフターバーナー。両脇に広がる細い機械翼。唯一の左右非対称のパーツである巨大な左腕。

 

 そして、その機体を装着する、青いパイロットスーツを着た人物。

 パイロットスーツにはところどころ小さな装甲がついており、武装局員の装甲服と私の使うパイロットスーツの中間のような格好だ。

 頭には白いヘルメットを被っており、どのような顔をしているか解らない。ヘルメットからはみ出して背中で束ねられた青い髪の毛だけが、唯一この人物が露出している生身の部分だった。

 人種、年齢、性別全て不明。身体への内部スキャンは機体以上の対透視魔法プロテクトかかっているようで解析不能。

 髪の毛の一本でもあればそこから解析できるものなのだが、髪を露出しても抜けないようになっているのだろう。

 

 寸法データは……うわ、この人、今の私より身長が低い。

 一般的な人類種なら、私より年下か。

 

「……年齢性別不明なんですね。新聞には魔動少女とか書かれていたのに」

 

「カガリを連想させられる姿と、髪を束ねるリボンから少女って想像されているんだろう」

 

 操縦者は不明。では機体はどうだろう。魔動機械の技術者として気になるところだ。

 動力源は方式不明の搭載魔力炉。

 兵装は右アームに取り付けられた機銃二門。それと中小企業解放戦線の魔法機械兵器の装甲を貫ける左アーム。

 

 あれ、意外としょぼい?

 

「実はこの機械、厳密には魔法機械兵器ではない」

 

「へ? 純科学兵器なんですか?」

 

「いや、これは全身を覆う形のデバイスだ」

 

 何だ、それは。

 魔力炉が積まれていて武装がついていてアフターバーナーがついている装甲服型戦闘機が、魔法の杖(デバイス)

 

「魔力炉も搭載されていて、推進器もついていて、身を守る装甲もついている。それでもこれは、魔法を使うためのデバイスなんだ。推進器も機銃も全部操作者がベルカ式の魔法を使って始めて稼動してる。魔力炉は操作者の魔力を切らさないためだろう」

 

 いや。

 いやいやいやいや、なんだその超高級デバイスは。

 時空管理局製のエリート魔導師のSSランク用最新デバイスだって、ここまで無茶苦茶な構成をしていない。

 

 

「……馬鹿げてます」

 

「アームドデバイスとはもう言えない、アーマードデバイスとでも言うべきものか」

 

 

 ダライアス一族が魔法を使うために機械を通すのは、そうすることでしか一部を除いて魔力を利用できないからだ。

 

 魔力炉を使って機械を動かすのは、ミッドチルダ文明では乗り物や無人機としての発想だ。

 デバイスに装甲服や魔力炉を使うなど、少なくとも私は聞いたことがない。

 例の闇の書のような古代ベルカのユニゾンデバイスなどとは方向性が違いすぎる。

 

 

「そしてアームドデバイスとは思えない使い方をされる巨大なマニピュレーター。異様な外観からついた機体呼称はアインハンダー」

 

「……どこからその名が?」

 

「ベルカの魔法言語で、片腕という意味だ」

 

「ああ、なるほど、隻腕(アインヘンダー)。ということは、近代ベルカの空飛ぶ猪突猛進君ですか」

 

「いや、デバイスとしての構成はミッドとベルカの混合と見られてる。命名したのがベルカの魔導師だっただけ」

 

 こう特異な外観では、デバイスの仕組みにミッドもベルカもあったようではないようにも思える。

 まあ機銃は銃撃、アフターバーナーは飛行とそれぞれの魔法の役割があるなら、ストレージ概念が連想されないでもない。

 

「その片腕の使い方が最大の特徴。破壊した中企戦の魔法兵器にマニピュレーターの指をこう、ねじこんで、そのままキャノンやバルカンなどの武装を奪うんだ」

 

「そんなこと、できるものなんですか?」

 

「中企戦の機体は全部、管理世界共通規格制定でミッドの企業と争って落選した地方世界の工業規格、それで統一されて作られている。テロを行う魔法兵器は中小企業解放同盟の象徴、みたいなものだからだろう」

 

「……ということは、その規格にアインハンダーが適合しているということは」

 

「ええ、考えられるのは二つ。アインハンダーは元々中企戦の機体だった。同じ着想の機体が他に見られないのでこれはちょっと可能性が低いな。捜査上で有力視されているのは、中企戦と戦うために作られたミッドチルダの大企業の私兵戦力という意見か」

 

 確かに、テロの対象になった大手企業が独自に武装しているという報道は見た。

 

 人手不足で手の回らない地上部隊を差し置いて、テロは企業対企業の戦いの流れになってきている。

 

 魔法技術ならば時空管理局に匹敵する組織はないが、魔導師でなくとも研究が可能な魔法科学技術ならば研究所を持つ大手企業で高精度のものを作り出すことが可能だ。

 例えSランク魔導師といえど、魔法科学の結晶である次元航行戦艦にはかなわない。

 

 魔法科学が進めば、ミッドは先史時代の質量兵器を使った戦いの歴史を繰り返してしまう恐れなどいくらでもある。

 

 まあ、それはどうでもいい。ダライアスの技術がアインハンダーに使われていないことが解ったのは重要だが。

 企業の作り出した新しい時代の高級デバイスか。面白い。

 けれども。

 

「わざわざ対中解同戦力を作るのに、こんなに莫大な資金がかかっていそうなデバイスを用意するのがまた、魔導師人材が希少な企業らしいとも言えますね」

 

 機体の費用だけでなく、研究費用も相当なものだろう。

 旧時代の航空戦闘機を思い起こさせられる。

 

「人材が希少、か。この白いヘルメットの操作者自身の魔力資質は、Aにも達していないのではないかと見られている」

 

 Aか。空戦もしくは陸戦Aランクの魔導師なら、武装隊で小隊長を任せられるレベルだ。

 いくら企業といっても、大手ならばAランク魔導師くらいなら用意できるだろう。が、実際にはA未満の幼児が使われている。

 

 機体の開発費を負担できつつも魔導師を自由にかき集められない組織……というのはちょっと具体例が思いつかない。

 ミッドチルダ上空で無断飛行、危険魔法使用を繰り返すような機体を抱える組織や部門と言うのは確かに後ろ暗くはあるが。

 

「搭乗者はA未満。だけれど、魔力出力と機体の性能は空戦AAA相当だ。おそらく魔力炉出力とデバイスの補助のおかげで。トリッキーな動きからして、インテリジェント機構も組み込まれているかもしれない」

 

「飛行装甲デバイスによってAAAを誇る、ですか。近い理念のシップを使う空戦AAの私よりも上……」

 

「何を言っている。カガリはこれまでストレートで試験に受かっている上に、AAとってからというもの海に行ったり怪我したりでAA+の資格試験受けていなだろう。君は使う機体で魔力出力が変わるから実技試験を受けてくれないと、地上本部としても実力の評価に困る」

 

 ううむ。まあ確かに私は身体も成長途中なので、歳をとれば魔力炉も成長してそれに合わせて機体性能上げられるけれど。

 でも、今までダライアスの戦闘機乗りは私一人だったわけで、似たようなスタイルの魔導師さんは初めてでつい比較してしまって、うー何だかもやもやする……。

 嫉妬? もしやこの感情は嫉妬? だめ、嫉妬はだめだ。

 嫉妬に狂った戦闘機乗りは四肢を切断され死ぬまで狂って戦い続けることになると教育局の人に教えられている。

 

 気分を晴らすために資料を見続けるが、オーリス姉さんが言っていたこと以上の目ぼしい情報は何も載っていなかった。

 

 ただ中解同のテロに応じて大気圏から降下してくる謎の混合式魔導師というだけ。

 ダライアスの系譜とは違うが、次の時代の魔法に繋がるかもしれない興味深い対象だった。

 

 バインダーのスイッチを切り、オーリス姉さんに返す。

 続報があれば頼みたいけれど、そうほいほいと部外秘情報を持ってこられても困るので復帰後に聞くことにしよう。

 

「で、八神はやて嬢が来るんでしたか」

 

「ああ、後十分ほどで護送車が来るはずだから、連れてくる」

 

 そういってからオーリス姉さんはすぐに病室を出て行った。

 

 部屋がしんと静まり返る。

 魔動機械開発すら出来ないこの入院生活は酷く暇だ。

 

 そんな中でお見舞いに人が来てくれるのはとても嬉しいのだけれども……。

 私を襲った犯人との面会。

 何をしにくるかは解っているが、気が重い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室の扉がノックされる。

 返事を待たずに扉は開き、オーリス姉さんが入室する。

 そして、その後ろに背の高さがばらばらな人たちが連なって入ってきた。

 

 いや、待て。お見舞いって夜天の魔導書一家全員でなのか。

 ベッドの前にずらりと並ぶ一同。見事なまでに統一感のない人達だった。

 

 しかし、多い。

 

 名前がわかるのは麻痺が解けたばかりでリハビリ中であろう車椅子の子、八神はやて嬢。

 それと私を襲った桃色の髪の守護騎士、シグナムさんだけだ。

 

「……ええと、私は報告書で皆さんの名前を知っているだけなので、一応確認しますね」

 

 名前と顔はアナログ式で出席を取っていれば覚えられると魔法学校の先生が言っていた。

 

「八神はやてさん」

 

「はい」

 

 車椅子の女の子。私と同い年。闇の書事件の寄生被害者であり、中心人物。

 

「リインフォースさん」

 

 こくりと頷く銀髪の女性。

 闇の書、もとい夜天の魔導書の管制人格。何故か人としての実体を持っているが、擬人化したインテリジェントデバイスのようなものと思えばいいのだろうか。

 古代ベルカ式のデバイスはこういった人型になることがある。人型状態だとデバイスから術式を引き出して魔法の使用が可能であるなど、デバイスが魔導師化したというか魔導師がデバイス化する奇妙な存在だ。

 

「シグナムさん」

 

「はっ」

 

 凛とした姿の通り魔さん。守護プログラムというが、こう見た限りでは人間にしか見えない。

 夜天の魔導書がある限り死んでも再生するというから、ある種の人間ミサイルとして使える人達だ。

 

「ヴィータさん」

 

「……はい」

 

 ちっちゃな女の子。私よりも明らかに年下に見える。

 小人系の種族か? ベルカに小人族が居たとは聞いたことはないけれど。

 守護プログラムを組んだ人が幼女趣味だったとか。ベルカの魔導師や騎士は肉弾戦を行うから、この体格は不利でしかないと思うのだけれど。

 

「シャマルさん」

「はい」

 

 金髪の落ち着いた感じの女性。

 こう言っては何だが、この中で唯一まともそうに見える。オーリス姉さんも含めて。

 

「……犬?」

 

 青い犬だ。

 

「……いや、何故私だけ名前で呼ばれないのだろうか」

 

「ザフィーラという人が残ってますけど、ええと、その、犬ですね。眉毛犬」

 

「私がそのザフィーラなのだが……」

 

「駄目ですよ八神さん。医療施設に毛の多い動物連れ込んでは」

 

「あはは、こっちの世界の病院も犬駄目なんやなー」

 

 ええと、報告書では獣人形態もとれる守護獣だったか。アルフさんの仲間みたいなものか。

 アルフさんは何かと人型で居たがったが、このわんちゃんはその逆なのだろう。

 病院に大型犬って、子供が見たら泣くのでは。私は泣かないが頭が痛くなってきた。

 

 八神一家総勢六名。全員での訪問だ。

 

「……オーリス姉さん。いくら魔力拘束具がついているからって、裁判前の被疑者全員まとめて病院なんかに連れてきて大丈夫なんですか」

 

「問題ない。私が監視役として居る」

 

「いや、監視って、姉さん魔導師じゃないですし私怪我してるから、腕力で暴れられたらどうしようもないじゃないですか」

 

「大丈夫。反抗したらこれ幸いにと本局と地上本部両方からSオーバー魔導師が魔導書とその関係者を粉々にするために音速超えて飛んでくる」

 

 びくりと八神はやて嬢が震えた。守護騎士の面々も緊張した面持ちだ。

 

「ああ、恨んでいる人多そうですからね、事件の履歴見ると……」

 

 魔導師保有率の高い管理局は今回の事件で多数の局員が襲われているし、過去に何度も繰り返された闇の書事件では死傷者も出ている。

 

 しかし、Sランクの魔導師が飛んできてくれる、か。

 土煙をあげて野太い声で叫びながら走ってくるゼストさんを想像すると、中々に怖いものがある。

 あの人クールを気取っておいて、戦闘中は「ハー! フーン! オー!」と何気に五月蝿い。自称怒りを叫ばずにいられない人種。

 

「おそらく病院ごと吹っ飛ぶ事態になるだろうけど」

 

 いや、それはさすがに……。

 Sランク魔導師というのは魔力や魔法の強大さだけではなく、それを扱う状況判断や精密な魔法操作も得意だということで……。

 いや、そこまで技量があっても結局はパワー一辺倒の人もいるから一概には言えないか。

 

 

 

 

 

 閑話休題。必死にひねり出したジョークで場の雰囲気を沈まないよう努力をしてみたが、八神はやて嬢とは何となく打ち解けられそうな感触がある。

 そこで本題に入ってもらったのだが、まあ予想通りに私に大怪我を負わせたことの謝罪をしたいということだった。

 

 今私の目の前では、私を襲ったシグナムさんが頭を下げている。

 

「……そうですね、シグナムさんには日本式のドゲザなどをして貰わねばなりませんね」

 

「ド、ドゲザ?」

 

「ええ。そうでもしてもらわないと許せませんね」

 

 そんな私に、一緒になって神妙に頭を下げていた八神はやて嬢がノってきた。

 

「よし、シグナムやったれ。侍魂を見せたるんや」

 

「高貴なる戦闘機乗りである私をミッドやベルカの魔導師風情と間違えるだなんて許すまじです!」

 

「ってそっちかいな!」

 

「謝罪で傷は癒せませんが、プライドは癒せるものです。まあドゲザは冗談なので、棚からチョコポットとってくださいチョコポット」

 

 正直なところ、あの報告書を見てしまった私としては正直な謝罪にどう応えて良いか解らない。

 確かに事件の原因と、実際に被害者が出たことは別のお話なんだろうけれど。

 

「む、あ、ああ……どれだ?」

 

「その一番上にある丸い、そうそれです。はい、あーん」

 

「む、うむ」

 

「おおー」

 

 あーんに困惑するシグナムさんと、目を輝かせる八神はやて嬢。

 一々リアクションが新鮮な一家だ。

 

「これを与えればいいのだな。……そうか、私のせいで腕を折っているのだったな」

 

「そこは口移しやろシグナム……って痛ぁ」

 

 オーリス姉さんが八神はやて嬢の頭をバインダーで叩いていた。

 天然ボケのくせに他人へのツッコミはかかさない姉さんだ。

 

「すんまへん、調子に乗りました」

 

 頭を押さえてへこへこ頭を下げる八神はやて嬢に、見下ろしたまま何も言わないオーリス姉さん。

 シャマルさんがそんな二人の様子を見ておろおろしている。

 

「あはは、はい、シグナムさん、あーん」

 

「うむ……」

 

「ん……いやあ、こういうのってハーレムって言うんでしたっけ。次はシャマルさんにもやってもらいましょうか」

 

「カガリ、調子に乗りすぎ」

 

 私も叩かれました。

 うわあ、怪我人に手を上げましたよこの人あ顔怖い謝っておこう。

 

「すいません、調子に乗りました」

 

 雰囲気が重たくて、つい。

 ベッドから動けないのに気持ちが沈むというのは、できれば勘弁願いたいのだ。

 

「でも、これくらいなら地上本部の人たちが昼休みとかに来てくれてやってくれますよ。スキンシップです、スキンシップ」

 

「あの人たち、昼に遅れて戻ると思ったらこんなところに遊びに……!」

 

 あれ、やぶ蛇だった。

 

 メモ帳を取り出して何やら書きなぐりだしたオーリス姉さんを横目に、再び八神はやて嬢達のほうへ向く。

 

「まあ慰謝料だの入院費負担しろだのは言いません。ぶっちゃけあなた達無職ですし」

 

 む、と全員押し黙った。リインフォースさんだけはなんのことだと一人涼しげだが。

 

 事件の最中もずっとこの一家はギル・グレアム元提督の資金援助を受け続けていたというから、多少のお金はありそうなものだが管理外世界のお金は換金が大変だし。

 そもそも入院保険が大量に払われているので、慰謝料など必要ない。

 

「でもなあ、大怪我させておいて口でごめんなさい言って済ますんも筋が通らへんし……」

 

「じゃああなた達が襲った魔導師全てに謝罪して回るつもりですか? 無茶です」

 

「でもな……」

 

「裁判と刑の執行という、世の中に認められた罪の償い方があるではないですか」

 

「でもな……」

 

 まだ何か言いたげに、ベッドの上の私に八神はやて嬢はすがるような目を向けていた。

 いやはや、幼く善良な市井の子の純粋さというのは、こうも心にときめくものがあるというのか。

 

 とりあえず私の素直な心のうちを打ち明けておこう。

 

「個人的な見解ですけどね。八神さん、私は今回の事件で貴女に罪があるとは思っていません」

 

 オーリス姉さんのほうをちらりと見る。驚いていたり眉をひそめたりはしていない。まあそうだろう。

 

「え、でも、あたしは夜天の書の主で、皆を止められのうて……」

 

「私が考える今回の事件の下手人さんたちの罪の重さは、報告書を見て予測した限りでは、次のような感じでしょうか」

 

 八神はやて嬢の言葉を無視して話を続ける。

 

「罪が重い順に、ギル・グレアム元提督とその使い魔、ヴォルケンリッターの四人、八神さん、そして純粋な被害者であるリインフォースさんです」

 

「グレアムおじさんが? いや、でも、アースラの人が既望辞職で済まされたて……」

 

「あなた達が裁判待ちなのに、一人だけ処断が決まっているのがおかしいと思いませんか?」

 

 またオーリス姉さんのほうを横目で見る。あ、口元がにやけている。

 

「罪状はクラッキングと捜査妨害? 冗談を言うのも大概にしなければいけませんよ」

 

 私が昨日あの報告書を海の資料だと考えたのは、別に捜査の過程が詳しく書かれていたからではない。

 陸に知られてはまずいであろう海の提督の行動が事細かに記載されていたからだ。

 

「第一級のロストロギアを十年近くも管理局から秘匿し、己の監視下に置き続けた容疑。大規模災害を巻き起こす暴走をすると知りながら、魔導師襲撃を手助けし続けた容疑。闇の書を実際に使いヴォルケンリッターに対して直接の蒐集行為を行った容疑。ええと、他に何かありましたか、姉さん」

 

「捜査妨害で済まされる規模をはるかに超えた、時空管理局嘱託魔導師への危険魔法行使」

 

 シグナムさんとシャマルさんは眉を寄せ、八神はやて嬢とヴィータさんは目を丸くしている。

 リインフォースさんは、唯一の被害者と言われようともギル・グレアムに疑いありと言われようとも無表情だが。

 ザフィーラさんは、犬なので表情が良く解らない。眉毛はあるが。

 

「私の予測では、八神さんはグレアム一家の隠居生活のために、トカゲの尻尾きりとして使われたんじゃないかな、と。彼の人となりは知らないので、報告書からの推理になりますが」

 

「馬鹿な!」

 

 シグナムさんの叫びが室内に響く。そして、一拍遅れて何かが床に叩きつけられた音が響いた。

 って。

 

「チョコポットー!?」

 

「私が罪を被るのは当然の報いとして受け入れよう。だが、奴は主はやてに罪をなすりつけたというのか!」

 

 いや、それよりお菓子に八つ当たりはいけませんよ!

 姉さんこの無礼者に何か言ってあげてくださいよ。

 

「グレアム元提督の立場なら、事件の前に闇の書の危険性を伝えられなかった管理責任が自分にあると、君達への擁護も可能だろう。だが、当の本人は追及される前に管理局を去り、生家で隠居を決め込もうとしている。見事にスケープゴートにされたものだ」

 

「何だよそれ……。畜生、クソジジーめ!」

 

 あー、オーリス姉さんにヴィータさんまでお菓子の悲劇を無視している。

 転がったポットをくわえて起こしてくれるザフィーラさんだけが心の友だ。

 でもそれ食べ物の入れ物だから口でくわえるのはやめてね。

 

「畜生、畜生……!」

 

「ヴィータ……」

 

 やれやれ、予測だと前置きしたのにみんなお怒りだ。

 

「……というか誰もギル・グレアムの擁護しないんですか? さっき八神さんはグレアムおじさんとか親しげな呼称をつけてましたが」

 

「直接の面識なんてねー! なんだよ、はやては何も悪くねーのに!」

 

「ヴィータ、やめい!」

 

 凛、と通る声で八神はやて嬢が制止の声を上げた。

 涙を流して怒りを叫んでいたヴィータさんは、目をこすりながら押し黙った。

 

「シグナムも。実際にあたしらのせいで怪我した人の前で、あたしが悪うないなんて言うたらあかんよ」

 

 いや、その怪我人である本人が、あなたはさして悪くないと言っているのだが。

 

「それにな、うちはグレアムおじさんが何しようとも、逃げる気はあらへんよ」

 

 ヴィータさんの頭を撫で、だって、と言葉を続けた。

 

「こんなうちの友達になってくれた、ヤマトさんやフェイトちゃん、なのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃん皆の大切な友達を傷つけてしまうのを止められなかったんや」

 

 ああ、そうか。彼女がわざわざこんな遠い世界まで謝りに来てくれた理由がようやく理解できた。

 友達の大切な人を傷つけてしまった。確かにそれは辛い。直接手を下さなくとも、自分のせいで大切な友達が悲しんでしまうのは、辛い。

 

 安っぽい正義感と罪悪感で罪を受け入れたいなどと言うよりも、それはずっと現実的で重たいものだと思わなくもない。

 

「なるほど、そうですか」

 

 理解した。彼女の覚悟を受け入れよう。

 禁固刑などというつまらない罪の償い方などではなく、私への罪の償いとなるように。

 

「八神さん。では……ミッドチルダに住む気はありませんか? 海鳴では天涯孤独とききます」

 

「は?」

 

 唐突な話の転換に、八神はやて嬢が理解できずに首をひねった。だが話はここからだ。

 

「フェイトさんも元犯罪者ですけど、社会奉仕という名目で魔導師として管理局に協力することで禁固刑を免れています。そのおかげでシグナムさんたちと殴りあったようですが」

 

 オーリス姉さんはもう話が見えたようで、また口元がにやけている。

 察しが良い士官さんだ。実際に補佐官としての覚えがいい。

 

「まあそういう感じで、司法取引として魔導師としての自分達を売り込むのもありなのでは、と。知り合いに時空管理局の地上本部のお偉いさんたちがいるんです。いつも人材不足に嘆いているような」

 

 警察機関と法的機関を兼ねている時空管理局では、このような手段がまかり通る。

 

 悪いことではない。罪の償いに禁固刑というのは大昔から未だ続く簡易で前時代的な手段だ。

 教育を施して更正させる教育刑。社会に与えたマイナスをプラスの行為で埋め合わせる労働刑。

 組織として巨大な時空管理局ならば、それらの先へと繋がる刑を用意できる。

 

「つまり、怪我して下がった私の評価を優秀な人材の紹介で埋め合わさせなさいということです」

 

 ここまで言うと、オーリス姉さんが噴き出した。

 声を上げないように口を押さえて肩を震わせている。

 まあ確かに最後は冗談だが。地上部隊の人たちは好きだが、局員で無い私が魔導師不足問題をどうこうする義理などない。

 

 ただ、さしたる罪もない貴重な古代ベルカの高ランク魔導師を禁固刑などで腐らせるくらいなら、同僚として招いたほうがずっとましなのは確かだ。

 そして。

 

「それよりですね。同じミッドに住む魔導師になって、私の友達になって一緒に遊んでください」

 

 恨んでもいない加害者への私なりの提案。

 いくらか法の上での罰は軽くなるだろうが、他の被害者が納得しなくても私には関係ない。

 レジアスおじさんなら適当に上手くやってくれるだろう。

 

「それは……、シグナムたちも友達でええんかな」

 

「勿論ですよ」

 

 上目遣いで見つめてくる八神はやて嬢に、思いついたばかりの提案が受け入れられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜天の一家は護送車で元の収容施設へと戻っていった。

 処分への介入は、オーリス姉さんがレジアスおじさんへ伝えてくれるそうだ。

 

 護送車まで見送りに言ったオーリス姉さんは、疲れたようにベッド脇の椅子に背をもたれていた。

 謝罪を受けるだけが、何故か罪状分析に交渉とわけのわからなお見舞いになってしまった。

 

「カガリのことだから、一族のために馬車馬のように働けなどと言うと思っていたが……」

 

 口元をさすりながらオーリス姉さんが言った。

 ああ、さっきの笑いのツボ、まだ続いているのか。

 

「冗談言ってはいけませんよ。私たちに必要なのは、繁栄を導く優秀な人材です。戦うだけが能の魔導師が何の役に立つというんですか」

 

 はやてさんの膨大な蒐集済み魔法は、本人が成長すれば万能の魔導師になりそうだが、背景に何の後ろ盾もない人材なんていくらでも代わりがいる。彼女がダライアス一族というのなら別だが。

 

「まあ、裁判と地上への受け入れは『悲劇のヒロイン』コースでどうとでもなるさ」

 

「……何ですかそれ」

 

「対外的には犯罪者をそのまま使うとイメージ悪いから、ロストロギアの被害者がこんな悲劇を繰り返さないために入局を希望したとかそういう方向」

 

 このあたりの詭弁の使い方は親子そろって優秀なので、気にせず任せて大丈夫だろう。

 

「ちなみにカガリは苦難に負けず闘病生活を懸命に頑張り復帰を目指す『蘇る魔法少女』コース」

 

「ちょおーっと! もしかして私の撃墜情報、マスコミに流したの意図的なんですかー!?」

 

 忘年会のイメージアップネタがレジアスおじさん達の中でしっかりと生き続けている予感がした。

 

 

 

――――――

あとがき:報告書を得た地上本部から見た闇の書事件の巻。A.C.E.に入ってずっと背景説明だけで盛り上がりや話の展開がなくて読む側はつまらなさそうだなーと。でも書きたいこと書けて満足なので反省しません。

原作通りリンディ提督に全てを任せていれば提督パワーで海鳴帰還コースでしたが、彼女は、もう、引き返せない。

※ここまでユーノくんの話題無し

 

 

用語解説

■そこまで技量があっても結局はパワー一辺倒の人もいるから

爆発と火災で崩壊しかけている空港に砲撃魔法で穴を開けてはいけません

 

 

SHOOTING TIPS

■あれ、意外としょぼい?

アインハンダーに登場する機体は、機体そのものの攻撃性能は高くありません。

アインハンダーは撃墜されると面の途中からやり直すタイプのSTGですが、マニピュレーターで敵から奪っていた武装が全て無くなってしまうので敵の激しい場所や頑丈なボス戦でやり直しが発生すると涙目になります。

パワーアップシステムのSTGの死亡時強化リセットと似たような悲劇がここに。別名初心者殺し。

 

■怒りを叫ばずにいられない人種

式神の城2ボス戦時のキャラ同士の掛け合いより。式神の城2はアルファ・システムのキャラゲー兼STG。

STGというジャンルの開発に慣れていなかったのか式神1は敵配置などが悲惨でしたが、2で一花咲かせました。

ちなみにアルファ・システムという社名は、似たような名前の全然関係ない企業が一杯あります。一部上場の大企業もあるようですが、就職したのにゲーム会社なんかに入ってんのーとか勘違いで言われてしまうのでしょうか。

 


 
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