No.234081

それは、揺蕩う日常

hchizuruさん

自身のブログで以前に発表したショート=ショートです。

2011-07-26 15:14:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:246   閲覧ユーザー数:244

 

少年が何度も往復するは、とある駅前の雑居ビルのあるドアの前。

薄暗い照明と、独特の刺激臭が否が応でも不安にさせる。

「辞めようか、な」

その時。

静かな空間にひとつの雑音。

鍵が開き、

ノブが回る。

「どなた?」

それは、先程の少女。

少年は数秒、静止した。

何を言えば良いのか、どういう顔をすれば良いのか、決めあぐね

出てきた言葉は。

「これ、さっき落としましたッ」

いたって、シンプルな言葉。

 

少女の部屋。

穏やかな笑い声が木霊していた。

「でもさ。声かけ辛いじゃん」

「んー。そうかなぁ」

少女が、ハンカチを落としたのは紛れもない事実で。

それを少年が、見つけて「しまった」。

当然、直ぐ様声をかけるべきだったのだが、どうにも照れ臭く

そのままハンカチを握り締めたまま、後をつけてしまったのだ。

「一歩間違えたらストーカーだよね」

少女の屈託の無い笑顔が、少年に向けられる。

「……まぁ、ね」

あはは、と笑う二人。

 

 

 

                      ◆

 

 

次の日。

今度は別の人間が、その少女の部屋に来た。

手には「落し物」を握り締めて。

但し、その人間は「少年」ではなかった。

如何にも怪しげで。

額に汗を浮かべ、なんども息を荒げながら

チャイムを数回鳴らした。

 

ふぅ、ふぅ、と。

それを遠巻きに見つめる人の反応からも

その人間の見た目が、あまり良いものでないのは

確かだった。

 

少女は、部屋に居た。

だが、

ドアを、

開けなかった。

 

 

その後、少女は、自分が「財布」を落としていることに

気付いた。

「まさか、さっきの?」

 

まさか、ね。

 

少女は何度も自分に言い聞かせた。

 

ぶつぶつ。

独り言を言いながら、その部屋を後にした男は、

手に持った財布をじぃ、と見つめていた。

 

 

その後、警察から電話が来て、財布は無事少女の元に

わたった、というおはなし。

 

 

 

【了】

 

 
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