No.233520

オヤシロウイッチフレデ☆リカ

tasaさん

ひぐらし大賞投稿作品その②。24時間で全てを作った作品なのでカオス。時期的に羽入入れていいかどうか迷った末に入れなかったという。

2011-07-26 11:49:27 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:680   閲覧ユーザー数:669

 

 

 

少なくとも私は不幸だった

命の重みを忘れてしまったから

 

少なくとも私は不幸だった

自分への偽りを覚えてしまったから

 

少なくとも、今回ばかりは言いたい

こんな目に遭うのは、例えこの先百回死んでもこれっきりにして欲しい…ホントに

 

                          ※

 

「梨花ぁ。着替えるの早すぎですわよぉ」

「みー、早くしないと置いてくのですよ」

 古手梨花はご機嫌だった。何だかんだと苦労しつつも昭和58年の惨劇を乗り越えて季節はすでに夏真っ盛りの8月。

今日は分校の教室に集まって部活を行うのだった。

「それにしても、7月の時点でもアレでしたのに夏休みに入ってからますますテンション高いですわねぇ」

「当たり前なのです。日々を楽しく過ごすのは人間の義務なのですよ」

「…答えになってませんでしてよ」

 そんな会話を交わしながら着替え、朝食を済ませて学校に向かう。

(うーん、やっぱり楽しい!今の私ならどんな奇跡だって起こせそう!)

 浮かれ気分の梨花はふと、そんな事を思った。やがて、それが最悪の形で実現するとも知らずに…

「あ゛~~~~~、あ゛ぢぃ~~~~~!!!」

 前原圭一はひたすら暑さに悶え苦しんでいた。なにせ、今日はカラッカラに乾燥した空気に強烈な日差し。最早、教室の中は蒸し焼き窯に近い状態だ。

「今日で10回目ぐらいの『あ゛ぢぃ』発言なのです」

「圭ちゃん、いくらなんでも今日は文句言いすぎじゃない?」

「暑いのは私達だって同じですことわよ」

「だってよぉ~~。暑いモンは暑いんだぜ。第一、魅音。なんだって今日に限って教室で部活なんてするんだよ!」

「確かに…魅ぃちゃん空気読めてないかな、かな」

「いやぁ、天気予報じゃ午後小雨が降るって言ってたじゃん。だから、室内ゲームにしようって昨日言ったでしょ」

「だったら、お前の家でやればいいじゃねぇか!」

「くっくっく、圭ちゃんは解ってないねぇ。私の家のゲームばかりやってちゃ、夏休みが明けた時に…地獄、見ちゃうよぉ」

「ブランクに苦しんでかわいそかわいそなのです☆」

「ってか、魅音。お前、受験勉強はどうすんだよ。園崎一族にやかましく言われてるだろうが」

「ご心配なく。園崎家頭首の力を甘く見ないことだね!」

「…答えになっていませんわね」

 と、このようにこの5人は場所も状況も選ばずに相変わらずがやがや騒いでいるのであった。

(やっぱり…みんなはこうでなきゃね)

 古手梨花はご満悦だった。いつもの変わらない日常、いつもの騒がしい仲間達。

「ん?ありゃなんだ?」

 圭一がふと、つぶやく。

「圭一くんどうしたの?」

「いや、さ。教室の隅っこで何か光ったような…、見てきていいか?」

「別に、構わないけど」

 圭一は一体何を見つけたのであろうか。その挙動と顛末に他の4人は釘付けになる。

「これは…なんだ、飴玉じゃねぇか」

「飴…玉、ですの?」

「ああ、ご丁重に包み紙に包まれやがる。もうちょっとマシな物を期待したんだが、誰のか知らないけどこりゃ普通すぎるな」

「マシな物って、何かな?かな?」

「例えば、魅音がこの前みたいにどこかに隠したまま忘れた麻雀牌とか沙都子のトラップの作動スイッチとか」

「何よそれー!この前はこの前でしょー!」

「私達を何だと思っていますのー!考え無しに作動させる前からスイッチを曝け出すなんてこと、絶対にいたしませんわー!」

「まっまぁ、それは置いといてだ。この飴玉誰のだ?」

 2人の猛烈な抗議を遮るかのように話題を切り替える圭一。

「レナのじゃないよ」

「ボクも沙都子も知らないのです」

「そもそも、学校にお菓子を持ってくる人は少ないんだけどなぁ。うーん」

「そうか。じゃあこの場でいただきます!」

「「「「あっ」」」」

 そう言った直後にいきなり飴玉を頬張る圭一。

「お、うまい!こりゃ黒飴だな。ん?みんな、どうした?」

「はぁ、圭ちゃん…」

「全く男の人はどうしてこう…」

「はぅ、ちょっとカッコ悪いかな。かな」

「圭一も空気読めてませんのです…」

 圭一の突拍子の無い行動に呆れ気味の4人。普通拾った飴玉、それも1個しかないものを女の子の目の前でいきなり食べるなんてデリカシーの欠片も無いというか…

(圭一。今日はよっぽど暑さか喉の渇きかで頭がやられているのね…)

 古手梨花はすっかり呆れ顔だ。普段の圭一なら流石に人前では食べないような気もしなくもない、…多分。しかし、

(でも、包み紙に包まれてたならそんなに光を反射しないような…)

同時にふと感じた違和感が非常に重要な物であった事を後に身を持って知る事になるのであった…

「じゃあ、今日はこれぐらいにしよう」

 魅音が本日は終了といった意味の言葉を言う。折しも、外は夕暮。ひぐらしも鳴き始めている。これ以上やると確実に日が暮れてしまうだろう。

「畜生…っ!いつも以上によってたかって俺をいじめやがって…」

「あれは圭一さんが悪いのでございますわ。人様の目の前で拾ったものを食べるなんて」

「うるさい、うるさい!俺は暑くて疲れてたんだ!今日の罰ゲーム…、ぐぅぅ~~!」

 今日の罰ゲームはビリが1位の指摘した服を着て、1位の家まで付いていくというこの部活にしては非常にシンプルなものだ。ちなみに、1位は珍しく沙都子。道中、誰かに見られる可能性を等価と考えるならば、その点で彼女と梨花の家には彼女等しかいないので一見他の2人に比べたらまだマシに見えるかもしれない。しかし、そこは沙都子。圭一にメイド服…それも過激にオーダーメイドされた代物を着る様に要求…もとい命令したのだった。

「けっ圭一くん。元気、出してね」

「うぅぅ…、神よ~」

「そうそう。沙都子、帰るまで圭ちゃんに『ワタクシは貴方の御主人様でしてよー。メイド口調で喋るでございますわー』みたいな事言ってあげなよ」

「それは試したら蜜の味になりそうですわねぇ。をーほほほ」

 わざと聞こえるように相談する二人。はっきり言って意地悪である。

「屈辱だ…、これは屈辱だぁ!」

「慰み者にされてかわいそかわいそなのです。ついでに、ボクも御主人様って呼んでくださいね」

「梨花ちゃんもさりげなく圭一をいぢめてるね…」

[newpage]

「ほら、置いていきますわよ!」

「うぅ、御主人様。待ってくださいましぃ」

「ここまで引きつった顔で言われると、これはこれで面白いのです」

 3人は神社の境内に続く階段を登っていた。幸い、ここに来るまでに誰にも恥ずかしい格好を見られずに済んだ圭一だが、その代償として沙都子・梨花の容赦ない言葉攻めを終始浴びせられ、それに徹頭徹尾メイド口調で反応するという地獄の連鎖コンボを喰らったのであった。

「こっ今度は俺が勝つからな…」

「圭一さん、メイド口調!」

「はっはいぃ~」

「圭一、かわいそかわいそなのです、にぱー☆」

(それにしても、涼しいなぁ。昼間の暑さが嘘みたい)

 梨花はそんな事を思いつつ圭一いぢめに加担していた。しかし、

「うっ!」

境内に差し掛かったところで突如圭一が呻き声を出した。

「圭一さん、どうしましたの?」

「何か…体が、痛い」

「圭一、大丈夫なのですか?」

「わから、ない。これは…うわぁぁぁぁぁぁ」

 圭一が叫ぶと同時に光に包まれる。

「なっ何事ですの!?」

「これは…一体?」

 眩い光に視界を奪われる二人。その光は数秒程経つとゆっくりと収束していった。

「やっと収まったのです。大丈夫ですか、圭い…あれ?」

「圭一さんが…消えた?」

 光が収まったと思えば、今度は先程まで目の前にいた圭一の姿がない。余りに唐突で予想外の展開にただ呆然とする2人。

「これは一体何事ですの!?圭一さんはどこに」

「ふははははははははははは!諸君、俺はここだ!」

「「!?」」

 突如あらぬ方角から聞こえる高笑い。梨花と沙都子は咄嗟にその方角を見る。

「なっ!?」

「こっこれは…!?」

確かに神社の屋根の上に『彼』はいた。しかし、それを見た瞬間から彼女たちの頭には数々の疑問が湧いてくる。1つはいつの間にあんな所に移動したのかという事。2つに先程までとはテンションが余りに違いすぎること。そして、極めつけの3つ目は…

「うっうわぁ…」

「なんて、なんてあられの無い格好なの…っ!?」

そう、眼前の圭一はいかにも悪役が好みそうな漆黒のマント、それに加えて海パン一丁というあまりにも空気を読まない格好に変わっていた。先程の破廉恥メイド服よりはマシに思えるかもしれないが、どちらも着た本人が羞恥心を感じるであろうに、この圭一はむしろ、この格好を誇りに思っているような、そういうオーラを感じる。そういう意味ではそれを全く気にしていない今のほうが却って回りに恥ずかしさを与えている。

「貴方、本当に圭一さんですの?」

「確かに…、圭一の皮を被った何者かという事もありえるわね…」

 さりげなく黒モードになっている梨花。恐らく、白モードで対応するのは難しいと判断したからかもしれない。

「いやいや、違うな。俺は確かに前原圭一だったさ」

「『だったさ』?じゃあ、何かに体を乗っ取られて…」

「だからちっがーう!俺は、最早前原圭一という存在を超越したって事だ!これからは俺の事を漆黒の魔王・カイザーKと呼ぶがいい!」

「しっ漆黒の魔王ぅ!?」

「カイザーKぇ!?」

 あまりにダサすぎるネーミングにぽかんと固まる2人。

「…どうした?あまりのカッコよさに震えたか?」

「逆よ、逆!大体『カイザー』ってドイツの帝王の事でしょ。漆黒の魔王って言うぐらいだったらサタンKとかエビルKとかそういう名前にしなさいよ!」

「くっくっく、わかってないなぁ。だからこそカッコいいんじゃないか。魔王で帝王!くぅ~、最高だぜ!」

「はぁ、質問した私が馬鹿だったわ…」

 言うまでも無くツッコミどころ満載なカイザーKだが、わざわざそれの名前について言及する梨花も相当まいっているようだ。

「とりあえず、そのカイザーKとやらは何がしたいんですの?」

 このまま2人を放置するとどんどん話が反れる気がしたのか、沙都子が質問する。

「くくく…よくぞ聞いてくれた!人間を超越した俺の目的はだな。それは、」

「それは?」

「萌えの萌えによる萌えの為の世界を作り上げる事だー!」

「「ふーん」」

「ちょっ、何だよその味気ないリアクションは!?」

「だって、ねぇ」

「なんの捻りも無さすぎて…」

 普段時折見せる暴走具合に加えて、興宮辺りで萌えの伝道師を名乗っていると噂で聞いているせいか、2人にはさほど新鮮には思えなかったようだ。

(それにしても、一体何でこんな状況に…あっ)

「まさか…」

「梨花、どうしましたの?」

「確か、今日の部活中に圭一が飴玉を見つけて私達の目の前で食べたでしょ?もしかしたら、というか確実にその飴玉の影響でああなっちゃったと思うんだけど…」

「そっそれは、ありえなくもないというか…一番納得出来なくも無い説明ですわね」

 どうも2人とも歯切れが悪い。恐らくは、余りに状況が不可解なので出来るだけ納得のいく理由だと思い込みたいのだろう。

「くっくっく、あの飴玉のせいかどうかは知らんが今の俺は凄いぞぉ!早速、世界を萌えで埋め尽くす為の手玉として、沙都子。お前を我が配下にしてやろう」

「そっそんなのどう考えてもお断りですわー!」

「じゃあ、無理矢理でもこっちに従わせてやるか。それが、メイドって奴だろぉ~?」

「…ひぃっ」

 さっきまでの仕打ちの仕返し、というかどうもそれ以上にあらぬ欲望が暴走しているような感じを受ける。

「…ところで、どうして私は御使命じゃないのかしら?指名されても絶対に行く気なんてないけど」

 梨花はふと思った疑問をぶつけてみた。しかし、その質問に対してKは

「第一に、梨花ちゃんのその腹黒くて斜めに構えた態度は扱いにくい。その点、沙都子は従順な面がある。第二に、表のキャラが狙いすぎている。これは人によっては永続的な反感を抱くだろう。沙都子は、素の状態ながら癒しの属性も持っているし、慣れてしまえばたいていの男供を虜にするだろう。そして第三、梨花ちゃんは将来永劫ロリ、絶対に。沙都子はこの年齢にて発育良好。そして、時代は将来有望なロリ巨乳を求めている!だから、梨花ちゃんは後回しにした方がいいと思っただけだ」

なんて、ものすごく痛烈な言葉を返してきた。当然、

「だ~れ~が~、将来永劫ロリですってぇぇぇ!」

まるで怒龍が火を噴くが如く怒った梨花の怒りの声が響く。

「りっ梨花!どうか落ち着いて…きゃあっ」

 怒りに震える梨花をなだめようとした沙都子を黒い触手みたいなものが襲う。

「なっ!?これは…っ」

「ははははは、確かにこのままじゃ話が進みそうに無いのでとっとと沙都子をいただくとしよう」

 そう言うと、黒い触手の如きものはどんどん増えていく。どうも、これらは地面から発生しているようだ。

「いっ嫌ぁ!」

「沙都子っ!」

 瞬きする間も無くあっという間に拘束されてしまう沙都子。

「りっ梨花だけでも…逃げて、くださいまし」

「嫌だ!沙都子を置いていく事なんて…」

「狙われて…いるのはっ、私…だけですのよっ」

「それでも、あんたを置いていく事なんて…出来ない!」

「う~ん、友情っていいよなぁ。早く俺も同等の同胞を見つけねば」

 諸悪の根源が何か独り言を言っている。その舐めた態度に向かって梨花は言ってやる。

「来なさい…。せいぜい、そちらが退屈しない程度に遊んでやるっ」

 沙都子の前に立ち、両手を広げて抗戦態度を顕わにする梨花。

「くくく、そうは言ってもだ。現実は非常なんだよ!」

 彼の声を合図として触手が一斉に梨花に襲い掛かる。

「くっ。うわぁぁぁぁぁ」

「梨花ぁぁぁぁ~~~!!」

 そして、あっという間に梨花は黒に包まれてしまった。

『梨花、梨花』

 誰かが彼女を呼んでいる。

「ん、ここは…?」

 彼女の目には何も映らない。

『ここには何もないわよ。だってあの触手に包まれてからほんの1秒。状況は何も変わっちゃいないわ。そして、私は貴方の心に語りかけている』

「どうやら貴方は色々知っていそうね。聞きたい事は山ほどあるけど…、まずはどうしてこんな好況になったのか教えてもらえるかしら」

『そもそも前原圭一がああなったのは、彼が「欲望のカケラ」を取り込んでしまったからよ』

「それって昼間の飴玉の事よね?あれは一体何なの?」

『あれは様々な世界の欲望が凝縮し、この世界に落ちてきたモノ。あれを取り込んだ者は強大な力を手にすると同時に欲望丸出しになる』

「…何ともはた迷惑な代物ね。それで、どうしてこの世界に降って来たのかしら?」

『私がこのカケラで遊んでたら、うっかり落としちゃって。』

「ちょっと、どう考えてもあんたの責任じゃん!?」

『だけど、梨花。あなたはその強大な力に対してよく抗い、よく頑張った』

「誤魔化すな!大体あんた、何者なのよ!?」

『くすくすくす。エセ神様とでも言っておきましょうか』

「凄く胡散臭いわね…」

『それはともかく、梨花。貴方に力を授けましょう。それがあれば…沙都子を救えるはずだから』

「力?」

『そう。その為に「オヤシロの巫女、行きます」と言いなさい』

「??? 『オヤシロの巫女、行きます』。これで、いいかしら」

『違う!もっと気合と自愛とやる気を込めて!』

「わっわかったわよ。『オヤシロの巫女、行きます』!」

 そう言った瞬間、梨花の体が光に包まれる。

「こっこれは…!?」

一方、その頃。

「くっくっく、さぁて。後回しにするとは言ったが捕まえちゃった事だし、ついでにこっちもメイド化させちまうかなぁ!?」

「ううぅ…」

 彼の目の前には全身を拘束された沙都子と、もはや拘束されすぎて文字通り顔すら見えない梨花がいた。

「とりあえずだ。その辺りはイリーに相談するか。恐らくは、展開的に考えて奴も目覚めていそうだしな」

「くっ!誰か、助けてくださいまし…」

 沙都子は、基本的にやせ我慢するタイプであるが、頑迷に耐える事が美徳で無い事を経験している。しかし、今回はあまりにも不利な状況な上親友までやられてしまった。そして、ついそんな一言を漏らしてしまったのであった。

「くっくっく、例え誰かに助けを求めても、俺の強固な意思、そして力と等価に渡り合えるのかな?」

 その瞬間、梨花を包んでいた黒いモノから光が漏れ出した。

「何ぃっ!?これは…一体?」

「梨花?」

 光は徐々に強く、広範囲になっていく。そして、最後には弾ける様に光が飛び出す。

「!こっこれは…何だ?」

「りっ梨花、ぁ?」

 そこには梨花がいた。もちろんさっきからその場所に彼女はいる事は2人には解っていた。ただ、先程と違うのは黒いモノに包まれているのではなく、先程までの少女らしい服装でもなく…その、表現が難しいのだが客観的に言うと全体的にフリフリな巫女服を魔改造したようなミニスカ衣装、手には赤銅色に鈍く光る大鎌、一言で言えばイロモノというか魔法少女の粗悪品というか…そんな珍妙な衣装を身に纏い、まるで眠るごとく目を優しく閉じた梨花がいた。

「「…」」

 目の前のあまりの展開に沙都子は当然としても、どうもカイザーKすらもリアクションに困っている様だ。

「えーと、梨花。ですわよね?」

沙都子が恐る恐る声を掛けてみる。と、その瞬間に梨花がぱっちりと目を開ける。そして、その第一声は

「呼ばれて飛び出てきゅんきゅんきゅん。オヤシロウイッチフレデ☆リカ、ただ今参上!!」

といういかにも魔法少女なベッタベタのセリフ。その上、普段の彼女からは到底かけ離れたキャピキャピトーンの決め台詞とともにウインクしながらポーズを決めたのだ。

「えーと、梨花?これは…何の真似ですの?」

「俺は、この場合『まさか、貴様があの!?』と悪役っぽくリアクションするべきなのか…?」

 先程に輪を掛けて困惑する二人。そして、梨花の方でもその表情・そのポーズのまま硬直する。ようやく数秒後に搾り出した第一声は、

「なっなっな、何よこれぇぇぇ~~~~~~~!!!!」

という自分が直前に行った行動全てに対する疑惑と羞恥心の叫びなのであった…。

『そう、それでいいわ。さぁ、調和の従者フレデ☆リカ。目の前の敵を殲滅しなさいな』

(…すごい投げやりな態度で二つ名と矛盾する行為をやれって言われても困るんだけど。っていうかこれは一体何なのよ!?こんな恥ずかしい格好で戦えって言うの!?)

 思いっきり文句を言う梨花。正直、さっきのセリフの影響との相乗効果で今まで経験したどんな罰ゲームよりもこの格好が一番恥ずかしいと感じているようだ。

『そうよ、これこそが奇跡を起こす力。欲望のカケラに対抗するにはそれ相当の力が必要になる…』

(それが、これって訳!?いろんな意味で間違ってるし!)

「…とりあえず、ブツブツ独り言言ってないで目の前の状況を確認した方がいいと思うんだが」

「悪かったわね!独り言ばっかりで…って沙都子!」

 彼女が謎の存在(どうも梨花にしか知覚できないようだ)と会話をしている間にいつの間にか沙都子は圭一に抱きかかえられていた。

「離せ!この、このっ」

 沙都子は必死に抵抗しているが、芋虫が動くような動作すら許されないようで黒いモノはビクともしない。

「くっ、どうすれば…」

『こんな時こそオヤシロパワーを使うのよ』

(オッオヤシロパワー!?凄くダサいネーミングだけど、どうやって使うの?)

『オヤシロパワーその1。「オニカークシ」。使い方は簡単。対象に向かって手をかざして技名を言うだけ』

(技のネーミングも凄くダサいわね…ってそんな事考えてる場合じゃない。試してみるわ!)

『あ、ついでに言っとくけどさっきみたいに可愛くポーズ決めて、可愛くセリフを言わないと効果ないから』

(うぅぅ…、言うわよ。言ってやるわよ…)

 覚悟を決めたのか深呼吸をする梨花。そして

「オッオニカークシ!」

 彼女なりに精一杯の「可愛い声とポーズ」でカイザーKのいる方角に向けて鎌を持っていない左手をかざす。しかし、

「甘い!」

 カイザーKは攻撃を察知した…というかどうも梨花側の攻撃がバレバレだった模様。結果として梨花は横から黒い波動の様な攻撃を受け、体全体が傾く。

「きゃあ!」

そのまま横倒しになる。肝心の左手はあらぬ方向に向いていた。

「くっそんな…え?」

 その瞬間だった。彼女の左手の先にあった木がすぅっと透明になるが如く消えてしまった。

「…ちょっと、これはシャレになってねぇぞ」

 相手の攻撃のあまりの恐ろしさに動揺を隠せないK。無論、それは攻撃を出した梨花も同じであった。

(ちょっと!何なのよこの技は!?)

『オニカークシ。対象を亜空間に送る技よ』

(ちょっと待てぇ!今はあいつによって攻撃が逸れたからいいものの、もし直撃してたら沙都子はどうなるのよ!?)

『うーん。確実に道連れになっていたでしょうね』

(そんな危険な技人質取られてるのと同じ状況で勧めるなぁ!一応、聞いてみるけど他の技はどんなのがあるの?)

『今のあなたが使える技はまず、対象をバラバラの細切れにする「ワタナーガシ」、次に相手に詩の呪いを掛ける「タタリゴーロシ」、最後に絶対に成功する命乞い「ヒマツーブシ」』

(ろくな技が無いわね…。ほとんど殺傷能力に特化した技じゃない。しかも、「ヒマツーブシ」はこの手の魔法少女が使うような技じゃないし。それに大体、敵の圭一だって腐っても私の仲間なのよ!出来れば殺さずに助けたいわよ!)

『人生は等価交換。生きるためには何かを犠牲にしなくてはならないのよ。勝者敗者の出ないゲームを求めるのは現実論としてかなり難しいわね』

(ぐっ…。でも私は…っ)

 自分の出した答えは机上の理論なのか?そのような苦悩を強要される梨花。しかし、今はそれに耽る時間すら許さない。

「うらぁ!」

「うわぁ!?」

 再び、カイザーKの黒い波動の如き攻撃を受けて転がる梨花。

「どうも、構っているとキリがない様だな…。早めにケリつけて俺は同胞の所に行かせて貰うぜ!」

「どっ同胞!?」

『また言い忘れてたけど、落とした欲望のカケラは4つあったのよ。この分じゃ、既に彼の他にも取り込んだ人がいそうね』

(最悪こんな奴を後3人も相手にしろって事!?)

「いくぜ。はぁぁぁぁ…」

 カイザーKの周囲から黒いオーラが滲み出す。

『溜めの動作に入ってるわね。とりあえず、早くしないとやられるわよ!』

(でっでも)

『いいから早く!』

「うっうわぁぁぁ!」

 鎌を構え、掛け声を挙げてカイザーKのいる神社の屋根に向かって跳躍する。

「このぉぉぉぉ~!!」

 一応、身体能力も上がっているらしく彼のいる高さまで難なく到達する。しかし、

「喰らえ!」

 どうやら溜めが終了したらしく、先程までとは段違いの攻撃を受けてしまう。

「あっああああああああああああああああああああああああああ」

 そして、全身に訪れた痛みと共に彼女の意識は沈んだ。

「起きて、起きて」

「んっんんぅ…」

 梨花は目を覚ました。

「大丈夫?頭とか痛くない?」

「あ…鷹野」

そこにはナース服に身を包んだ鷹野三四がいた。

「ここ…は、診療所なのですか?」

「そうよ。全く、心配させるんだから」

言われてみれば周りの背景も白い壁に白い床。第一、梨花はベットの上にいた。

(あれは…夢だったのね。あはは、そうよね。あれは絶対夢よね!)

 不気味な笑みを浮かべながら心の中でそう言い聞かせる梨花。

「こらこら、笑わない。あなたは私達にとっては大切な存在。それを心がけてもらわなきゃ」

「ごめんなさいなのです」

「とりあえず、あんまり寝ている時間は無いわよフレデ☆リカ」

「…はい?」

「これ以上あいつ等を放っておくと世界はとんでもない事になるのよ。まだ芽の出ないうちに潰しておかなくちゃ」

「あっあの、えーと…」

 相手の予想外の発言にどう声を掛けていいかわからない梨花。

「どうしたの?」

「その…あなたは鷹野、ですよね?」

 その結果としてこんな当たり障りの無い質問をしてしまう梨花。しかし、

「何を言ってるの?私の名前はポイズンナース・ミーヨよ」

「…」

 今度は自分の格好を確認してみる梨花。…彼女の目に映ったのはフリフリな巫女服を魔改造したようなミニスカ衣装。

(夢…じゃないのね。)

『くすくすくす。残念ながら、ね』

(大体、ポイズンナース・ミーヨって何なのよ!私の味方みたいだけど、鷹野まで変なカケラでも取り込んだ訳!?)

『うーん。どうやら、欲望のカケラの影響で世界そのものが歪んでしまったようね。とにかく、急ぐ必要がありそうね』

(とりあえず、全部解決したら何もかも元に戻るわよね…?)

 梨花は一抹の不安を抱えていた…。

                       ※

 

 ここは雛見沢分校。夜も更けたせいか、営林署の職員すら見えない。

「くっ、くうぅ…」

 その教室の1つに沙都子は手を縛られた上、吊るし上がりにされていた。しかも、メイド服…先程の圭一のものとは異なり、所謂「純正品」ともいえる古式ゆかしい代物だった。あえて先に言っておくが、こんな服を用意するのはこの雛見沢ではたった一人しかいないだろう。

「ふっふっふ、気分はどうですか沙都子ちゃん」

「これがご機嫌に見えまして!?私をどうするつもりですの監督!」

 彼女の視線の先には監督…入江京介が立っていた。しかし、その格好は普段着ている白衣を真っ黒に染めたような上着を羽織り、「メイド命」と書かれたハチマキを頭に絞めている。正直、こんな格好で町に出たら速攻で通報→検挙されそうな非常に怪しい格好である。

「愚問ですねぇ…。これから貴女をご奉仕メイドとして再教育し、我等ソウルブラザーの野望の手駒とするのです。あ、それと今の私は監督ではなくメイドクター・イリーですのでそこのところよろしくお願いしますね」

「メッメイドクタァ!?」

 珍妙な自称に思わず声を挙げてしまう沙都子。

「んっふっふ。イリー、準備は出来ましたかなぁ?」

 その時、ガラガラという音と共に教室の扉を開けて誰かが入ってくる。

「おお、クラウド!外には誰もいませんでしたか?」

「大丈夫です。国家権力を利用するまでもありませんでしたよ。んっふっふ」

「…大石刑事。その格好は一体…」

 沙都子の目の前には今年で還暦を迎えるというのにノースリーブのジャケットを着て、背中には鉄塊としか言いようの無い巨大な剣を背負った少々肥満した初老の刑事が立っていた。はっきり言って、入江以上に怪しい。と、いうか格好が致命的に大石の風貌と合っていない。

「沙都子さぁん。私は刑事ですが大石ではありません。私はそう、デブコップ・クラウドです!」

「自分でデブって言えるのはある意味ふてぶてしいですわね…」

 段々テンションが低くなる沙都子。この不可解な連中を見ていると自然にそうなってくる。

その時、窓から閃光が入ってきた。

「っ!?これは」

「イリー、窓を開けて下さい。やはり、彼も目覚めたようですねぇ」

「了解~。ルルルルルゥ~~」

 鼻歌を歌いつつくるくると回りながら窓に近づく入江、もといイリー。はっきり言って変態以外の何者にも見えない。

「おお!矢張り、あなたでしたかトミィー!」

 窓を開けたイリーは嬉しそうに叫ぶ。

「勿論だよ、イリィー!このファインダー・トミーも微力ながら協力させて頂くよ!」

「それじゃあ、校門の見張りをお願いします~」

「はっはっは、了解!さて、」

 彼の返事を聞くと、イリーはあたかも瞬間移動したかのように沙都子の眼前に移動した。

「沙都子ちゃんのご奉仕メイド化を済ませなくてはねぇ~~~~」

「ひっひいぃ」

「K。居ますね」

「おう」

 バリッと天井を突き破って圭一…もといKが教室に侵入してきた。いつの間に天井裏に潜んでたというのだろうか。

「沙都子ちゃんを押さえていてください」

「了解っ」

 そう言った直後にあろう事か沙都子の胸を後ろから鷲掴みにするが如く押さえる圭一。

「ひぅ!どっどこを押さえていますのっ!」

「ふっふっふ、恥じらいを感じる沙都子ちゃんも可愛いですねぇ」

 そんな事を言いながらイリーはポケットから何かを取り出す。

「そっそれは、一体!?」

「見れば解るじゃないですか。注射器ですよ、注射器。これにはある薬が入ってるんですよ」

「くっ薬!?」

「これは感情をある一定方向に固定させる薬です。他の薬との配合バランスによって固定する感情をある程度は操作できるんですよ」

「ひぃ、ちっ近寄らないでぇ!」

「さぁ、これで最初から最後までご奉仕メイドですよぉ~~~」

「んっふっふ、大人しく我等ソウルブラザーの手駒になってしまいなさい」

「観念するんだな、沙都子」

「いっ嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!!!!」

 沙都子は絶叫した。心の続く限り。

                 ※

 

「…一つ聞くけど、急がなきゃいけないんじゃなかったっけ?」

 梨花達は診療所の前にいた。

「そうよ、だから特訓するんじゃない」

 真顔でそう答える自称ミーヨ。

「特訓って、どれぐらい掛かるのよ?」

「あなた次第ね。私の見たところあなたはオヤシロパワーを完全に引き出せてはいない。それでは連中に勝てないから特訓するのよ」

『せっかくだから受けてしまいなさいよ。あなたが力を引き出せていないのは本当の事だし』

(分かったわよ…)

 渋々承諾する梨花。

「具体的には何をするの?」

「くすくすくす、コーチを呼んでいるわ。来なさい。」

 ミーヨがそういった瞬間、

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

という掛け声と共に何かが空から降ってきた。

「これは、まさか…わぁっ!?」

 その何かは梨花の眼前に着地…というか落下した。

「フレデ☆リカ!私があなたを強くしてあげる!」

 着地の衝撃で形成されたクレーターと空中を舞う粉塵の中心にその何か―エンジェルモートの制服を着て、巨大な槍を手にした竜宮レナがいた。

「…一応、聞いてあげるわ。お名前は?」

 やややりなげ気味に質問する梨花。

「よくぞ聞いてくれました!私は竜騎士レナ!」

「ああ、そう。で、何の特訓をするの?」

「あなたには、ジャンプ力が足りない。とりあえず、奴等の根城となっている分校の校舎ぐらいを飛び越えるまでにはならなきゃね」

「…あんまり意味無いような気がする」

「こら、そんなこと言わない。それと、コーチはもう一人いるのよ。来なさい」

(まだいるのか…ってええ!?)

 梨花は診療所の中から現れた人物に驚愕する。その人物は…

「さっ悟史!?」

 昭和57年に鬼隠し北条悟史その人だった。ちなみに、彼は学校の制服に大きなス○イルマークのバッジを付けているだけで他の連中に比べたらずっとマシな格好をしている。

「悟史…?ちっが~う!僕は決して北条悟史などというどこぞの貧弱な坊やじゃなぁい!」

 最早、この作品においてはお決まりの解答。当然、梨花は尋ねる。

「じゃあ貴方は誰なのよ!」

「僕の名は…微笑みの戦士、スマイリー・ムゥだ!」

「ハァ…、そう」

 最早、突っ込む気力すらも無くした梨花。

「僕は君に笑顔とキャラ作りについて教えに来た!」

「キャラ作りと笑顔?」

「そう、君は最近本性を曝け出す事が多くなっている!それに意味ありげで不気味な笑みも多い。その辺を矯正しなければ、オヤシロパワ-を100%引き出す事が出来ない可能性がある」

「頼むから、憶測で喋らないでくれる…」

「なんだいなんだい。僕達の事が信用できないのかい?」

「正直、そんな感じ」

「と、いうか私には自分すら信じていないように見えるわ」

「自分を…信じてない?」

「確かに、あなたからはものすごいやりなげ具合を感じるな」

「やりなげ…。あっ」

 梨花はハッと気付く。

(そうだ。私はこの世界のあまりの馬鹿馬鹿しさに最初からやる気がなかったんだ。そんな気持ちでいちゃ勝てるものも勝てないよね。うん、こういう世界になってしまったんだったら仕方ない。出来るだけ、この世界のルールに沿って精一杯戦ってみよう!私は戦って勝ち取った世界はどんなのもよりも尊い事を知っているから…)

 梨花は覚悟を決めた。そして、言う。

「…ありがとう、あなた達のおかげで目が覚めたわ。でも、特訓はいらない」

「え?」

「でも、いいの?」

「本当にそれでいいのかい?」

 各々、彼女を心配して声を掛ける。しかし、

「大丈夫。私は奇跡の起こし方を知っているから…」

彼女はそう言って薄く微笑んだ。

「フンフンフ~ン。さぁて、本当に来るのかなぁ?」

 トミーは校門の前で鼻歌など歌いながらスナイパーライフルの手入れをしていた。ちなみに彼の格好は海パン一丁にサイドバッグだけ。正直、カイザーKの格好と被る。

「Kの話だと、沙都子ちゃんを捕獲する時に梨花ちゃんがフレデ☆リカとかいう状態になって非常にジャマになったとか言ってたけど…。まぁ、例え来てもこのスナイパーライフルの睡眠弾で一撃必殺!眠らせたら是非被写体になってもらうかな…ふっふっふ」

 ブツブツと独り言を言うトミー。はっきり言って梨花とは比べ物にならないほどキモイ。

「む!どうやら来た様だね」

 何かの気配を感じたのかトミーがライフルを構える。スコープを覗いた先には…いた。紛れも無いフレデ☆リカが。

 

『本当に特訓を受けなくても大丈夫なの?ねぇ?』

「さっきも言ったけど大丈夫よ。私は勝って見せる」

『でも…』

「何だかんだ言って、あんたもあんたなりに心配してくれてるのね」

『…まぁ、あなたに死なれると困るしね。じゃあ、ついでに教えてあげるわ。あなた、真正面から狙われてるわよ』

「!」

 目を凝らしてみる。…しかし、よく見えない。

『どうやら敵は校門前からあなたを狙撃しようとしてるわね。さて、あなたならどうする?』

「その前に一つ質問していい?」

『何?』

「オヤシロパワーの技。あれは別に可愛いポーズを決めて可愛い声でやらなくてもいいんでしょ?」

『…よくわかったわね。何故そう思ったの?』

「必然性が見えなかったから」

余りにもあからさまな答え。謎の存在は笑う。

『あっはっはっは!そうね、確かにあなたから見れば必然性が無いわよね!でもね、魔法少女の世界でのそれは魔法少女にとっては必然性のあるものなの』

「…お子様へのグッズ販促?」

『違う違う。そういう生々しい要素じゃないわよ。じゃあ、質問。魔法少女は何のために魔法を使うの?』

「誰かを…助ける為?」

『そう。誰かを助けたいという強い意志。それこそが彼女達の世界における可愛いポーズの必然性を生んでいる。つまり、この力もあなたの意思に反応するわけ。一番最初にああいうポーズをとらせて、ああ言わせたあとに技の説明をああいう風に言ったのはのはあなたの覚悟を見たわけよ。現にあの時、やる気無かったでしょ』

「うっ…!悔しいけど認めるわ。でもね、半分ぐらいはちゃんとやる気あったわよ!」

『それも解ってるわ。もし、全くにやる気が無かったのならオヤシロパワーは発現しなかった』

「ありがとう。…そろそろこちらも動くべきね」

『そうした方がいいようね』

「行くわよ。3,2,1…ドン!」

 梨花はカウントダウンを数え終わった直後に突然走り出す。その瞬間を見ていたトミーは

「梨花ちゃんも青いねぇ、正面特攻とは。残念だけどそう簡単にはいかない…よっ!」

 彼女の腹部を狙ってトミーは引き金を引く…っ!

「…来るッ!」

 それを直感で感じた梨花は右手を構える。

「オニカークシ!」

 前回の迷っていた声とは違うハッキリとした声。しかし、駆ける彼女の周囲にはさし当たって大きな変化は見られない。それもその筈。最後まで彼女には見えていなかったものの、彼女の力は見事に銃弾を消していたのだから。

「当たってない!?馬鹿な!確かに腹部を狙ったぞ!?」

 銃弾が当たらなかった事に驚愕するトミー。しかも、彼を動揺させたのはそれだけではなかった。

「このライフルは…一発しか弾を装填出来ないのにぃ!」

 慌てて弾を装填するトミー。しかし、その時間が致命的だった。

「なっ!?いつの間に!?」

 そう、身体能力の上がっているフレデ☆リカは超人的な速度でこの長距離を瞬時に走破し、今まさにトミーの眼前に迫っていたのだった!

「どけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「へぶぁ!?」

 大鎌の逆刃の部分で頭部を思いっきり殴られるトミー。とりあえず、死にはしないだろうが加速した勢いの相乗効果で気絶は免れないだろう。

「はぁ、はぁ。とっとと白黒付けてやる!」

『頑張るわねぇ…』

 梨花は倒れているトミーには目もくれずに急いで校門を潜り抜ける。

「トミーがやられたか…」

「どうやら彼女との戦いもクライマックスという所でしょうねぇ」

「それじゃあ、私達も出撃するとしましょうか。行きますよ、沙都子ちゃん!」

 彼らの目の前にはメイド服の少女が一人。

「はい、わかりましたわ。御主人様」

 その目には、生気というものがまるで感じられなかった…。

 

「くそっ、奴等はどこ!?」

 学校の廊下に入り、カイザーK達を探す梨花。

「俺達を探しているのか?ここにいるぞ!」

「!?」

 後ろを振り向く梨花。そこにはKだけじゃない。入江っぽい人物と大石っぽい人物。そして…

「さと、こ?」

 まるで、生人形の如き親友がいた。

「ふっふっふ…。前もって言っておきますが彼女に何をしても無駄ですよ。彼女は我々の忠実なるご奉仕メイドになったのですから…」

「イリーの言うとおりだぜ。さぁ、沙都子。あいつを…ケチョンケチョンにしてこい!」

「わかりましたわ、御主人様」

 感情も生気も無い声で答える沙都子。そして、梨花に向けて歩き出す…っ!

(く…っ!予想はしていたけど、沙都子が相手じゃどの技も使えない!)

「んっふっふ。降参するなら今のうちですよぅ」

「降参…。あっ!」

 彼女は何かに気付いたようだ。その間にも沙都子は彼女に近づいていく…っ!

「何をする気か知らないけど、今言ったように彼女に何をやっても無駄ですよぅ」

 しかし、梨花は不敵に笑う。沙都子はもう目の前まで近づいてきている。

「それは試して見なきゃ解らないわよ。…ヒマツーブシ!」

 彼女は叫ぶ。そして、いきなり泣き出す。

「沙都子…。ううっ。」

「いきなり訳解らない呪文を叫んだと思ったらただの泣き落としか…。正直、苦しいな」

しかし、梨花はKの発言を無視するかのように泣き続ける。

「例え、私はあなたに骨を折られても指を切り落とされても命を奪われてもいい!だけど、あなたがそんな表情をしているのだけは絶えられないッ!」

 沙都子の動きが止まった。

「何!?」

 なおも梨花は続ける。

「お願い、沙都子。私はどうなってもいい!その代わり、また笑って。そんな人形みたいな表情しないで。お願いだからぁ!」

 ついには言葉すら止めて嗚咽だけになってしまう梨花。そして、沙都子は。

「…大丈夫ですわよ、梨花。私は梨花を決して傷つけはしない」

「沙都子っ!」

 そして抱擁を交わす二人。

『まさか、ヒマツーブシをこんな形で使うなんて…』

 謎の存在は驚いていた。そして、もう一人

「私の薬が…馬鹿な!?」

イリーも予想外の展開に驚きを隠せない様だ。

「まさか、こんな展開になるとは…。だが、まだ勝負は終わってないっ」

 再びあの黒い触手を出現させるK。

「梨花!」

 とっさに梨花を突き飛ばす沙都子。そして、またしても触手に拘束される。

「沙都子!」

「はっはっは、形勢変わらずだな!少しでも抵抗するなら、沙都子に『オシオキ』しちまうぜ…」

「くっ…!」

「それじゃあ、2人ともいいか?」

「「おうっ」」

「このまま突撃して…一気にケリをつけてやらぁぁぁ!」

 その声と同時に梨花に突進する3人。

「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」

(この状況で沙都子を救いつつ、あいつ等を倒す。かなり難しいわね…)

『あら、出来ないなんて言わないの?』

(言わないわ。私は最後まで諦めない。そして、あいつ等の命も奪わないで倒して見せる。幸せになる為の等価交換?そんなモノ糞喰らえよ!)

『覚悟は十分、か。それじゃあ、とっておきの技を教えてあげるわ。「今」のあなたなら使えるはず…』

「また独り言を始めたか。だが、どっちみち無駄だぁ!」

 梨花に三人が迫る瞬間。

「ヒナミ・ザ・ワールド!!!」

 彼女はそう、叫んだ。その瞬間、彼らの動きが、止まる。

「成功…か。それより、急がないと」

 成功した事に安堵を浮かべている暇は無い。彼女は沙都子の元へ向かう。

「今…助けるから」

 そう言って黒い触手を鎌で慎重に切る。幸い、30秒ほどで全ての触手を切断する事が出来た。

「まだ、少し時間が残ってる。この時間を使ってあいつ等を…倒す!」

 そして、30秒ほど経つと再び彼らが動き出した、が

「なっ」

「これは…っ」

「うごわぁぁぁぁぁぁ!?」

 足を何かに引っ掛けて思いっきり転び、廊下を転げまわる。その何かとは当然、梨花の大鎌なのであった。

彼女の使った能力、その名は ヒナミ・ザ・ワールド。それは自分の周囲の時間を1分間止めるフレデ☆リカの持つ技の中でも最大級の大技である。しかし、そんな大技使ってやった事と言えば触手切ったり、線路の置石まがいな行為と微妙にセコいラインナップなのは気のせいだろう、多分。

「これで…トドメよ!」

「「「「ぎゃあ!」」」

 転げまわった末に仲良く平行にうつぶせ状態で倒れた3人の後頭部を例によって大鎌の逆刃部分で強打してやる梨花。当然、3人はそのままK.O。

「はぁ、はぁ。これで…終わったわ」

「梨花…ありがとう」

 沙都子は笑った。

「私こそ、ありがとう」

 梨花も笑う。

「ふぅ、安心したら何だか眠くなってきちゃった…」

「いっぱい運動しすぎましたわね」

『それと、力の使いすぎね。今日はゆっくり休みなさい』

「そうさせて、もらうわ…」

 そして、梨花の意識はゆっくりとまどろみに落ちた…

                 ※

 

「梨花、梨花ぁ。起きて下さいましぃー」

「うっうーん…はっ!」

 沙都子の声で目覚めた梨花は咄嗟に自分の服装を見る。

「…ボクが着ているのはパジャマなのです」

「そりゃそうですわよ。何を仰ってるのやらわかりませんわ」

「そう、ですよね」

 何となく安心すると同時にちょっとだけ寂しさを覚える梨花。

(やっぱりあれは夢だったか…)

「さぁ、もうとっくに朝食は出来ていますのよ」

「みー。沙都子、ありがとうなのです」

 沙都子は笑顔で答える。

「朝は朝食を食べないと始まりませんわよ。何せ梨花にはフレデ☆リカとしての仕事があるんですからね」

「…え゛?」

 彼女の発言に凍りつく梨花。

(まさか…、まだあの世界なの!?)

『残念ながらね』

(やっぱあんたもいるのね…。でも、どうして?)

『確かにあなたは4人を倒した。でも、肝心の欲望のカケラを処分してないじゃない』

(あっあああああああああ…)

『更に悪いニュースがあるわ。私の他にもこの世界に欲望のカケラを3つも落としたドジなエセ神がいたみたい。おかげで、カケラを取り込んで目覚めた3人がグギャリオンとかカラケーヌとかショットガン・キャシーとか名乗って大暴れしているわ』

(そっそんなぁ…。あんなのがまた増えたわけぇ!?)

『さぁ、フレデ☆リカ。あなたの戦いはこれからよ!』

「もういやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 少女の絶叫が木霊する8月の朝だった。


 
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