1
先に試合フィールドで待っていた松さんの向かい側に、ゆっくりと歩いてきたエイミーさんが
立つ。
普段の松さんからは考えられないくらいの、強力な気迫が感じ取れる。それとは逆に、エイミー
さんは静まり返っていた・・・
この試合結果が果たしてどうなるのかまったく予想ができそうにない。
ゆっくりと二人を見やる審判。いよいよ試合が始まる。
「始め」
「神の領域発動、二ツ木の契約により我が依代(よりしろ)となせ」
シュゥゥゥゥ
「神の領域?天敵器官のまねごとなの?」
松さんは至って冷静だ。向こうの様子見といったところか。
「まねごとかどうか、その目でご確認を・・・
柱魔法皇旧姓一代の巫女(はしらまほうおうきゅうせいいちだいのみこ)」
エイミーさんはなにやら自分の能力の底上げをしているようだ。どんどん気が上がっていく。
「なるほどー。神の巫女柱魔法皇ね。まさか旧世代の巫女なんて洒落てるねー。でもそれで
わたしに勝てるのかしら?」
これだけのものを見せられながらもまだまだ余裕の表情の松さん。いったいどれほどの実力なのだろうか?
「崩術未開泉砲冷脚(ほうじゅつみかいせんほうれいきゃく)」
どどどどっ
先に仕掛けたエイミーさんの強力な連続蹴りが、松さんに直撃する。
「ぐっ、女神転生、発動。第一段階を飛ばし一気に第三段階へ・・・」
ザザザッ
あまりの攻撃に、松さんの張っていた障壁が破れかかった。
それと同時に松さんが反動で後ずさる。
「本気でいかないと失礼に値するわね・・・」
表情が変わる松さん。もう女神モードが発動したようだ。
「これほどまでとは予想してなかったよ。まったく、最強種の吸血鬼をあまり脅(おびや)
かさないでくれるかい?」
「ふふふー。本当の恐怖はここからだよエイミーちゃん。復活できる程度に攻撃してあげる・・・一死水無月蓮華(いっしみなづきれんげ)」
トトトトトトッ
「なっ、五十の分裂結界(エタルミロキレアッソ)」
ばばばばばっ
松さんから放たれた無数の突き。しかもただの付きではなく、かするだけで死にいたる猛毒性
のものらしい。それを、特殊結界を張りつついなすエイミーさん。
「女神の悪戯(ホルジャワ・ロキ)」
「古代の・・・」
ドカアァァァァァン
強力な波動のようなもので吹き飛ばされるエイミーさん。
かなり押されぎみだ。
「げほげほげほ、技の造りのスピードが異常過ぎる。まったくついていけない・・・」
「ふふっ、もう終わりかしら?でもここまでよく戦ったわ。身体が重いでしょ。一死で
常人なら既に死にいたる所なのよ・・・
強力な毒があなたの身体を蝕み続けているわ。その再生能力がどこまで持つかしら?」
「長期戦においてはわたしのほうが有利だ。吸血鬼の御刀(ホルディマティカ・ソルディアム)」
スバァ
ブシュウウッッ
エイミーさんは自分の身体を斬りつけた。
「なるほどー。身体を傷つけて毒に侵された血を排除したのね・・・
でも、いくら吸血鬼といえど、傷ついた肉体は再生できても削られた体力は再生できない。
御神の貢納、重複転生」
「ばかな?女神と同時に御神も転生かい?あり得ない・・・」
松さんは今、一つの器に二つの魂を入れ込んでいる状態だ。
「吸血鬼の御刀、斬句六点撃(ざんくろくてんげき)」
エイミーさんの斬檄が、六本に分かれて松さんを襲う。
「御神の絶対悪(ミルホルゴシアーセ・ホルノウイタイヤ)」
ギギギギギギン
「なっ?あんなことだけで・・・」
松さんから出た黒いオーラが斬激をすべて打ち流す。
「女神の絶対権(ヴィーナスフルミレ・ワルドラガラーディオム)」
ギュァァァァッ
「双刀紅の御刀(そうとうくれないのみがたな)、無還裂霧(フィーレマアルゼ・マラドラグレーフィシス)」
松さんが放った白光りする強力な一撃を、エイミーさんは新たに出した紅い双刀の斬激で霧に
変えた。しかし、
「黒焔途愕凌(こくえんとがくりょう)、落花狼藉(らっからうぜき)」
ごしゃぁぁぁぁぁ
白い攻撃を塞いでも、黒の攻撃が待っている。絶対攻撃の前に、エイミーさんは対抗できるのだろうか・・・
2
シュウゥゥゥゥ
松さんの黒いオーラを帯びる強力な踵(かかと)落としを受けたエイミーさん。
あまりの攻撃に、周りは煙に包まれている。
「一発目の反撃は驚いたけど、まさかここまでとはね・・・
でもかなりガタが来てるんじゃない?」
煙が晴れた先には、今の攻撃を受けきったエイミーさんの姿があった。
腕をとっさにクロスさせて挙げ、攻撃に耐えたのだ。だが、受けた両腕はボロボロになっている。
「その両腕の傷は多少再生に時間が掛るでしょ?黒いオーラは進撃の力。本来再生できないはずなんだけどね・・・」
「ふふふ、そこいらの吸血鬼とはちょっと違うんでね。それよりも随分と辛そうじゃないか?
まさかここまで粘られるとは思って無かったようだね。反動が来てるんだよ、でかすぎる・・・」
確かに松さんはかなり息が上がっている。長期戦ではずば抜けた体力の吸血鬼が有利なのか。
「辛さは見せないようにしてたんだが、やっぱりきついよね・・・
そっちは神モードとやらの不可抗力はないの?」
「治郎右衛門が器を対価にしてくれたから、わたし自体はなんともないよ。無限に発動可能だ」
「なるほど、それはめでたいね・・・
それはそうとこれ以上粘らないで欲しいな。そろそろ限界なのよ・・・」
意識が多少薄れてきたように見える松さん。そもそも、女神転生の制御だけでも辛いはず。
二つの制御はかなりの体力を必要となるだろう。
「相性が悪かったね松さん。普段使う女神転生はまだしも、長期戦になるのに御神まで降ろして・・・吸血鬼の再生能力を誤算したね」
「確かにそうね。長期戦はきついわね。でも、次で決めさせてもらう。
憑喪神(つくもがみ)転生」
「更に追加?正気かい?」
「正気じゃないわ。でも覚悟しておいて。今からわたしはあなたが倒れるまで攻撃をやめない
から・・・女神、御神、憑喪、合式霊精(フィーリオ・マルガルマ)、連続して敵を殲滅せよ(グランヴァリューエチュード・シェリスキルジェノブル)」
ゾクゾクゾクゾクッ
「暴走してるみたいだね。魂ごと持ってかれるよ・・・
聖剣五連魔装(ウラティカサラスティリアル・マギカソルディティオーネ)」
エイミーさんはそれを止めに掛ろうと、2mを超える巨大な剣を五本出す。
「エイミーちゃん、そんなもので受け止められるかしら?わたしは暴走なんてしていない。
至って冷静よ。」
「今にも倒れそうなのがなにを言っても説得できないよ。それにそんな技は一般的な人間に
使ったほうがいいと思うよ。たとえ直撃しても、腕の一、二本なんてダメージに入らないからね」
そう言うエイミーさんだが松さんは、一撃で決めるつもりだ。
「憑喪の御途付き」
「ん?身体が・・・」
「憑喪に憑かれた人間は、わたしの遠隔操作により自由に操れる。憑喪、操り人形劇」
しかしエイミーさんは何ともなってないようだ。
「どうして憑かないの?」
「吸血鬼に憑喪の支配は届かない。吸血鬼は人間を魅了する力がある。霊的存在も同じだよ・・・わたしに向けた時点で効果は無力化する・・・」
「卑怯なっ!でも女神と御神は破られていないよ」
再び体勢を整え直す松さん。しかし、身体が軽くぐらつく。
「長期戦に備えて、女神一つで来るべきだったね。それならわたしに勝てた。でももう
終わり。五連斬撃無我一刀(ごれんざんげきむがいっとう)」
「そんな攻撃御神の前では無意味だよ。」
ガキィーーーン
すべての斬撃が防がれる。しかし、
「わたしの狙いはそこじゃない。砲連甲冑呏開式(ほうれんかっちゅうがろんかいしき)っ」
パキィィィィン
「うそ?御神が、女神の羽衣が、絶対結界が粉々に・・・」
強力な力技で破られる天使の羽衣。更には御神の防御までも甲冑の開式によってどかされ、
もう松さんを守る防御結界は、完全になくなった。
「終わりだ松さん。絶崩掌(ぜっほうしょう)」
浸透性の攻撃が鳩尾に入り、松さんは倒れた。
ゴシャァァァァッ
「げほげほっ。参ったわエイミーちゃん。ここまでやるなんてね。やっぱり長期戦は
きつかったよ・・・」
倒れたまま笑って言う松さん。それに対しエイミーさんが言った。
「わたしも長期戦はかなりきつかったよ。さっきのは冗談で、神の領域は直接わたしに
リスクが来るもの。今ちょっとでも押されたら倒れるよ・・・
がはっ・・・」
そう言ったエイミーさんは、口から大量の血を吐きだした。
「ふふふ。わたし以上のとんだポーカーフェイスちゃんだ・・・」
そう言い終わると、松さんが意識を失った。
勝者、エイミー=エヴァンス
「なんとか勝てたって感じだね。まったく最近の子供ははみんな強いね・・・」
そういったエイミーさんは、その場で倒れてしまった。
まさに倒れる寸前だったんだろう。
そしてこの試合のより、次の準決勝のメンバーが決まった。
準決勝一試合目
孔雀院舞華VS籠山三尋
同じく準決勝二試合目
織物衣VSエイミー=エヴァンス
3
準決勝一試合目が始まろうとしていた。
試合フィールドに上がる二人。
そのうちの一人、三尋さんが呟(つぶや)く。
「まさかあの松がやられるなんて予想できなかったよ。どうやら今年の一年は面白い子
ばっかりみたいだね。次の試合、油断できないな・・・」
そんな三尋さんの表情は、何か楽しそうな感じに見えた。
4
次回予告
ついに動き出す三尋さんの真の力とは。(松さんのときとおんなじじゃんorzwww)
GROW3 第十二章 体育祭、武道大会最終日part6
ではでは
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吸血鬼と女神はどちらが強いんでしょうか?
はい、分かりません・・・
今ないよう考えています
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