No.229261

異聞~真・恋姫†無双:十二

ですてにさん

前回のあらすじ:激辛料理を策略で食べさせられた上、変態眼鏡に操られる華琳(金)さまは不憫。



茶々さんに、なんか作品紹介してもらって、ガクブルなんだぜ・・・。ほんまありがとうございます・・・。

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2011-07-20 22:31:28 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11183   閲覧ユーザー数:7614

「蘭樹どのに、一度『縛』と『操』の術をかけさせて頂きたい。この離れた位置からで結構ですので」

 

「なっ・・・!」

 

この野郎・・・。突然乱入してきて、人質を取った上で、何を言う・・・!

 

思わずカッとなる俺の視界の隅で、冷静な華琳の姿が目に入る。

繕っていたとしても、華琳が冷静な姿でいるということは、まだ大丈夫ということ。

 

「一刀、待ちなさい。・・・許可など求めずに、無理やりやればいいことじゃない?」

 

「私は今回、貴方たちに積極的に敵対する意思はありません。貴方達が元の世界に帰る意志がある限りはね。

だからこそのお願いですし、話を聞いて頂けるなら、こちらの覇王様はすぐにでも解放致します。

それと・・・貂蝉、そろそろ出てきたらどうですか」

 

「あら~ん♪ 于吉ちゃんにはお見通しね~ん♪」

 

聞き覚えのある声がしたかと思えば、窓から身軽な動きで部屋に飛び込んでくる、ピンク短パンのマッチョ変態。

・・・なんとシュールなことだろう。あの姿に慣れていなければ、卒倒しないでいられようか。

 

「とぅっ! ご主人様、蘭ちゃん、元気かしらん~♪」

 

「うん、お前見て元気なくなった」

 

「変わらずの非常識な登場方法ね・・・」

 

「あらん、相変わらずの愛の棘が刺さるっ! でも、これが北郷家代々の愛の表し方・・・♪」

 

「とりあえず、そのしなをつくるのをやめてくれ」

 

「・・・貂蝉。話が進まないのですが」

 

ため息をつく眼鏡。だが、そのため息には同意しよう。華琳も全く同じ仕草をしているのも必然か。

 

「で、私に金縛りや、操りの術をかけたい、で良かったかしら。いいわ、やってごらんなさい」

 

「華琳!?」

 

「・・・こちらの華琳に会ってから、私も確かめたいと考えていたことがあるの。ただ、確認方法が無いと思っていたわ。

まさか、こんな風に機会がやってくるとはね」

 

「どうやら、私と似たような疑問をお持ちなのかもしれませんね。では、試行として、まず北郷どのから」

 

「へ?」

 

「縛!」

 

いきなりか、しまっ・・・あれ? 何も起きないぞ? うん、身体も普通に動く。

 

「とまぁ、天の世界の人間には、私どもの術はききません。

天の世界の人間からすると、いかな超絶な力を持とうとも、私ども管理者や剪定者の存在は下位互換になりますから」

 

「ふむ・・・だから、一刀には術ではなく、直接手を下そうとしていたわけね。合点がいったわ」

 

「愛しの左慈は未だに諦めていませんが。ああ、この話は後で。では、蘭樹どの。まずは『縛』から」

 

「ええ」

 

「縛!」

 

俺や貂蝉が見守る中、于吉の瞳の色が変わり、術が発動する。同時に華琳の身体がたじろぎ、硬直したかに見えた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁっ!」

 

が、次の瞬間に、華琳の気合の籠った声と共に、その術はあっさり破られていた。

術を破ったことに、少なからず驚く俺に対して、予想通りという風情の華琳と于吉の姿。

 

「ふむ、少しの間があれば跳ね返せると」

 

「そのようよ。『操』も試してみる?」

 

「ええ、強制力は上の術ですので。いきますよ、『操』!」

 

于吉の術の発動と共に、華琳の瞳から生気が消え、だらんと腕がたれる。

かつて見た、傀儡と化した覇王の姿。ゆらゆらと身体を揺らしながら、華琳は『陽』を構えようとしていた。

 

「華琳っ!」

 

「・・・テストを続けます。北郷一刀を好きな方法で倒しなさい」

 

「・・・御意」

 

言うが早いか、素早い当て身で、俺の身体は寝台に突き飛ばされてしまう。

間髪おかず、華琳は馬乗りになり、俺はあっさり身体の自由を奪われる格好になってしまった。

 

「ぐっ! か、華琳! 目を覚ませ!」

 

「・・・ソノイチモツヲキリオトス」

 

にたぁっと意地悪そうに口元を吊り上げる華琳。あぁ、すごく悪い笑顔だね・・・。

 

「効いてないだろお前ええええええええええええええええええええええええええ!!!!!

操られている奴がそんなニヤリと笑うもんかぁあああああああ!!!!」

 

俺の悲鳴が客室に響き渡り、大騒ぎになったのはお約束なのかどうか、それは外史のみが知る。

 

 

「・・・于吉ちゃん、結論としてはどう思うのん?」

 

結局、俺の大声で警備兵やら夏候姉妹やら、星たちが駆け付ける羽目となったが、

于吉が幻術を使って、何事もなかったように見せた。

 

んで、今回の目的とか、お互いの予想の答え合わせとかを、お茶を啜りながらの話し合いである。

 

・・・ただ、何故、俺の膝の上に風が当然のように座っているのかが謎だ。

窓辺に腰掛けて酒を呷っている星は当たり前としても。

華琳も時折、不満そうな視線を飛ばすものの、既に諦めモードに入っている様子で。

 

ちなみに、稟は気絶中。貂蝉は強烈過ぎる、いろいろと。

記憶のある星はともかく、風の適応力は異常かもしれない。

 

「お兄さんの膝の上は風の指定席ですから~。華琳さまの下がお兄さんの指定席と同じように~」

 

いろいろ聞き捨てならないですよ、風さん!?

 

「いやいや、相手に動いてもらうのを下から見上げるのが好きじゃないか、兄ちゃんは」

 

・・・さらに、宝譿に言わせるのって卑怯だよね。もういい、あえて口をつぐもう。

 

「ぷっ・・・いや、これは失礼。さて、私の中の結論なのですが・・・」

 

于吉が身体を震わせながら、笑いをかみ殺しつつ、なんとか会話を戻そうと言葉を紡いでいく。

 

「蘭樹どのは、ほぼ天の世界の存在になったと見て、問題無いかと。

私の術が短時間でも効いたのは、元々、この世界の住人だった余韻のようなものだと推測します。

・・・おお、この茶は美味ですね」

 

「上手に淹れられるようになってきたわね。殺すのは惜しいと思わない?」

 

「思います。ただ、左慈は思い込んだら一途ですので。なんとか北郷どのに止めて頂くしかないかと。

私も左慈にお願いされたら断れない身体ですし・・・」

 

「男同士の友情と愛情の狭間で戦っているんですね~」

 

「風! そろそろ混乱に拍車かけるのやめて! お願いだからっ!」

 

「一刀はなんとか鍛えてみるわ。素質が開花しつつあると思うし。

・・・さて、私の存在は、天界寄りとは思っていたけれど。

ある意味、逆にこの地に残る可能性はとても低くなったと判断するべきか」

 

「今回、私がこの外史に介入出来ているのも、

北郷一刀がこの三国の成り立ちに介入する最後の機会だから、とも考えられます。

歴史の流れそのものを、我ら管理者は変えられるわけではありませんので、

おそらく外史そのものが、北郷一刀の関わる外史の流れに決着をつけようとしているのかと。

・・・ただ、これも推測の域を出ないのですが」

 

「于吉ちゃんの推測はおおよそ当たってる気がするけどねん♪ 漢女の勘がそう言ってるわん」

 

「しぇ・・・孫伯符と違って、それは当たらないと思いたい俺がいる。

・・・ところで、こっちの華琳はいつ解放したんだ?」

 

「先ほどの騒ぎに乗じて、術を解いておきました。

本人の意識では、騒ぎを聞きつけて駆けつけたのに何事もなかった不思議な現象・・・になってますね」

 

「そうか・・・後で問い詰められないといいけど。あ、そうだ。左慈自体はどこいったんだよ」

 

「・・・この大陸を彷徨っているとしか言えないのです」

 

于吉の説明によると、先の外史で俺を仕留め切れなかった左慈は、

管理者としての能力を、修行の結果・・・体術に特化させたらしい。

その結果、個人の武としては『恋』に並ぶ者に間違いなくなっているけれど、術者としての能力は『地和』並みになった。

・・・それって、なんて脳k(ry

 

「んで、あまりに術者として脆弱になって、こっちから探知するのもままならないと・・・」

 

「その不器用さが愛らしくて仕方ないのですが、さすがに見つからないのは困ってしまいまして」

 

蕩けた顔で、手のかかる幼馴染に仕方ないなぁ、とでも言うような。

 

「于吉ちゃん、恋してるわねん♪」

 

そう、こいつらは男なんだよ・・・。

俺自身が巻き込まれないなら、同性同士でも勝手にしてくれって感じだが、この面子だと明らかに俺も巻き込まれる。

 

「お兄さんは男性にもモテモテだったのですね~」

 

「一刀、反応したら貴方の負けよ・・・」

 

間髪いれずに呆れ顔の華琳のフォロー。ありがとう、華琳! 反応したら負けだよな! 負けないぞ、俺!

 

「そこで、左慈が見つかるまで、共同戦線、といきませんか。

左慈は本能で北郷どのの臭いを嗅ぎ付けてくると思うものですから。ああ、なんて羨ましい。

・・・あ、見つかったら即裏切りますのでご安心を」

 

「安心できるか!」

 

「でも、見つかるまではちゃんと斥候として働きますよ。術を使えば広範囲の情報収集もできますし。

あ、そうそう。歴史を曲げるような暗殺とかは勿論出来ませんのでご安心を。

さらに、裏切るときにはちゃんと裏切り宣言しますよ?」

 

「・・・それ、死刑宣告っていわない?」

 

 

結論。于吉の仲間入りを承認。但し、変装をすることが条件。まぁ、手短なところで夏候姉妹対策ともいう。

 

というのも、俺には最強の召喚術があるから、左慈が見つかって急に于吉が反旗を翻しても、問題無いということだった。

俺は道術なんか使えないんだけど、と思ったが、華琳に『大丈夫、今に判るわ』と疲れた顔で言われたので、

とりあえず黙っておくことにした。

貂蝉が意味ありげにウィンクしてきていたけど、俺の脳味噌が絶対に理解したくないと、

断固拒否していたので、それに従うまで。

 

星は以前の記憶から、道士の存在を知っていたので、風や稟にはこちらから補足説明。

稟はなかなか納得いかない様子だった・・・いや、良識人としては当然だと思うんだ・・・が、

風はあっさり納得した様子。

 

「お兄さんの昨日の敵は今日の味方・・・つまり、お兄さんは男女問わぬ人たらし。なんら問題ありませんね~」

 

風の、俺への人物評って本当にひどい気がしてきた。

なんか詳しく聞いたら二度と立ち上がれなくなりそうな、そんな感じ。

 

「ところで于吉さん~」

 

「なんでしょう?」

 

「天の世界への強制送還の際に、お兄さんか華琳さまにくっついておけば、一緒に行けます?

それとも、管理者さんの力でなんとかなったりしますか~?」

 

「その時になってみなければ、はっきりとしたことは判りません。

ただ、可能性があるとすれば、送還の際に働く力に一緒に相乗りするしか無いとは思いますよ。

ちなみに、私たちには、天の世界にこの世界の住人を送り込む力は、存在上与えられていません」

 

「自分達の行き来は出来るのにねん。不便な身体だわん」

 

「ふむふむ、なるほど~。三国平和が成り立つ寸前になれば、やはり、常にどちらかにくっ付いてないと駄目ですね~。

寝る時も、入浴時も、お手洗いに行く時も~」

 

どこか楽しげに言いやがりますね、この腹黒軍師さんめっ。

 

「待ちなさい、風。お手洗いは却下。はい、稟。貴女は変な想像しないの。とんとん、とんとんっと」

 

少し焦りの表情を浮かべつつも、とんとんと稟を叩く華琳。風がいない時の為にと、覚えたんだそうな。

稟は鼻血を我慢しながら、ものすごく至高の笑みを浮かべてる。このまま倒れてもいい! って目が語ってるよ・・・。

 

「ふがふが・・・風、いくらなんでも、お手洗いぐらいは」

 

「いや、稟。意外に、その瞬間に消えたということもあり得るかもしれん。ここは縄を各自持っておくべきだと思うぞ」

 

星ぇ・・・。『やはり』余計な口を・・・。

 

「ま、待って下さい。私はまだ、一刀どのや華琳さまと共に天の世界に行くなどと・・・」

 

「ほぅ?」

 

「あらら~」

 

「なんですか、その目は・・・」

 

いや、『あんた本気で言ってるの』みたいな目で、稟を見るのもおかしいと思うんだが。稟個人の判断じゃないか。

 

「稟はこちらの華琳さま狙いであったか」

 

「金髪じゃないと認められないんですね、稟ちゃんは~」

 

「え? え?」

 

「では、稟ちゃんは旅に同行しないのですね。寂しいですが、仕方がありません。個人の意志は尊重しなければ・・・」

 

「残念だが、仕方あるまいな・・・」

 

うわぁ、稟可愛そうに。この二人、揚げ足取るのにかけては三国一、二を争うだろ・・・。

これは助けに入らないと、と思ったら、華琳が先に動いていた。

 

ぱんぱん! と手拍子が響き、華琳は会話の流れを断ち切ってみせて。

 

「そこまでよ。二人とも、稟の反応を見て遊ぶのもいい加減にしなさい。

明日か明後日にはここを発つから、各々準備を始めて。桂花に会う前にここを去るのだから」

 

桂花は記憶が戻れば、二人の華琳の板挟みに深く苦しむ事になりかねない。

 

いつか再会するにしても、逆に桂花が下手に動けない立場になってからの方が、まだ割り切れる救いもあると、

秋蘭の様子を見て、それは二人で決断した事だった。

 

「華琳さま・・・」

 

「稟。こんな私の判断を、あの娘は叱るかしらね」

 

「桂花は、華琳さまの真意を一つの間違いもなく、読み取ってみせるでしょう。叱るなど考えられません。

ただ、一人悲しみに暮れることはあるかもしれませんが・・・」

 

「・・・私への、思い入れが下手に強すぎるのよ、桂花は。

どちらかの私を選べと、追い詰めるようなことは出来る限り避けてあげたい」

 

なんて優しい声色なのだろう。まるで、慈愛に溢れた我が子を抱く、母親の声のように。

いつか来る未来、必ず手に入れると誓っている未来の姿がそこに重なって見えて。

俺は、幻想の眩しく軽い眩暈に、しばし身を預けた。


 
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