No.227840

【ショートショート】つる屋の人々

川木光孝さん

※この作品には裸が出てきますので注意。

無職の男(35歳)はお腹をすかせていた。
しかし金はない。
そこで偶然見つけた食堂「つる屋」。

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2011-07-14 00:14:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:593   閲覧ユーザー数:587

「はぁ…」

 

無職の男(35歳)は腹をすかしていた。

所持金はない。預金もない。

お金が無いので食べ物なんて買えない。

ため息が止まらなかった。

ふと横を見ると、一軒の食堂が目に入る。

 

「ふふふ…今日もやるか…」

 

とつぶやくと、無職の男は食堂「つる屋」へと入っていった。

 

「いらっしゃいませ」

 

店長が出迎える。

 

「この店で一番うまい食べ物はなんだ?」

 

「つる定食なんていかがでしょう。

 1万円ですけど、抜群においしいですよ」

 

「じゃ、それで頼む」

 

数分後、店長はつる定食を持ってきた。

無職の男はつる定食を食べ始める。

やがて、無職の男は大声をあげた。

 

「おい、髪の毛が入ってるぞ!」

 

と右手で一本の髪の毛をつまみ、店長に見せつける。

もちろん店長の髪の毛ではない。

自分の髪の毛だ。

言いがかりをつけて、慰謝料をせしめようというのだ。

 

「はぁ。私どもの髪の毛、ですか…」

 

「こんなもん食えるか。慰謝料よこせ」

 

「わかりました。お客様。お店の裏へ来てください」

 

無職の男と店長は、店の裏へと消えていった。

 

店の裏には、食堂で働いているすべての店員が集結していた。

その数、店長を含めて6人ほど。

 

「なんだ? 全員で俺に謝ろうってのか?

 そんなことしても無駄だぞ。慰謝料はいただくからな!」

 

「お客様。私どもの頭をごらんください」

 

店長と店員たちは、いっせいに帽子を脱いだ。

 

「な…なんだって!?」

 

無職の男は絶句した。

店長と店員たちは、全員スキンヘッドだった。

 

「髪の毛など一本もありませんが?」

 

「…いや、定食に入っていたのは髪の毛じゃない。

 ワキ毛だ!」

 

無職の男は苦しい言い訳をした。

 

「ワキ毛、ですか」

 

店長と店員たちは服を脱ぎ、両腕を天に向かってつきあげた。

 

「げげ…」

 

無職の男はまたしても絶句した。

ワキ毛が、一本も無かった。

 

「ワキ毛など一本もありませんが?」

 

「悪い。ワキ毛は間違いだ。

 す、すね毛かもしれないな」

 

無職の男はまたしても苦しい言い訳をしようとした。

 

「これでも文句は言えますか?」

 

店長と店員たちは全裸になった。

毛は、一本も無かった。

 

「体の毛など一本もありませんが?」

 

もはや無職の男は言い訳などできなかった。

 

「ま、待ってくれ!

 警察に通報するのはやめてくれ! 何でもするから!」

 

「何でもするんですか?」

 

「あ、ああ。無職に二言はない」

 

「服を脱いで裸になってください」

 

「そんなことできるか!」

 

「もしもし、警察ですか?

 今、柄の悪い男が私の店で脅迫を…」

 

「わ、わかった! 脱ぐから通報はやめてくれ!」

 

無職の男はしぶしぶ全裸になった。

店の裏に、全裸の男が7人。

あまりに奇怪な光景だった。

 

「で、俺を脱がせてどうするつもりだ?」

 

「われわれの仲間になってもらいます」

 

店長は右手にバリカン、左手にカミソリを手にしていた。

 

「われわれの仲間になって、店で働いてもらいます。

 もちろんタダ働きです」

 

体の毛を全部そられるうえに、タダ働き。

無職の男は目の前が真っ暗になり寒気を感じた。

全裸になったから寒いのではない。

心の奥底からくる、精神的な寒さだった。

無職の男は思わずつぶやく。

 

「寒くなってきたなぁ…」

 

 


 
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