No.226119

鳳凰一双舞い上がるまで 雛里√ 14.5話

TAPEtさん

真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。

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2011-07-03 19:03:37 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3517   閲覧ユーザー数:3038

雛里SIDE

 

うぅ……気持ち悪いです。

もうどれぐらい狼さんの背中に乗っているのか分かりませんけど、一刀さんが操っていた荷馬車の中よりも酔います。

 

「雛里!」

「あわわっ!ごめんなさい!」

「は?」

「あ、いえ、何でもありません…どうしたんですか?」

「…あれを見ろ」

 

一刀さんからの話を聞いて強い風の中で少し目を開けてみたら…

 

「あ」

 

倉ちゃんたちが居る森から、黒煙が上がっていました。

 

「あれって…」

「…あいつら、森に火を付けやがった。しかも周りに兵を配置している。一人も逃がさないつもりだ」

「…本当に、裴元紹さんたちを…皆殺しにするつもりなんですか?」

 

ここまでするなんて…一体どこの官軍が……

 

「!」

「どうした、雛里」

「牙門旗が……」

 

普通の官軍が使う旗ではなく、赤い色の旗。その中には『孫』の文字が書かれていました。

 

「孫家の人……です」

「何?」

「あの森を叩いているのは江東の虎と呼ばれる孫堅さんの軍です」

 

荊州の劉表さんが孫家の人たちに助けを申し出たという話は耳にしていました。

だけど、水鏡先生の話では確か……

 

ぐるる

 

「そのまま正面で突っ込んでくれ。時間がないんだ……出来るか?」

 

一刀さんがまた狼さんと何か話してます。おそらく、森を囲んでいる兵たちをどう突破するかの話をしているみたいです。

 

「雛里、もっと身を伏せていて。危ないから」

「は、はいっ」

 

正直な話。

怖くて仕方がありません。

今あの山の奥は、きっと地獄絵になっているに違いありません。

人たちが死んでいくこと。それも自分があれほど助けようとした人たちが……

 

がしっ

 

「あ」

「……大丈夫?」

 

一刀さんが私とつないでいた手を強く握るのを感じて、私は一刀さんの方を見ました。

 

「……今頃あの中で…人たちが死んでいってるのですね…あんなに幸せを求めていた人たちが…」

「助けなければならない」

「…怖いです……ごめんなさい、ここまで来てこんなこと言っちゃって…」

「……俺も怖いよ」

「……」

「…雛里が一緖に来てくれなかったらきっと俺も雛里と同じことを考えてただろう」

「……今はそうじゃないんですか?」

「……そうしている時間がない」

「あ」

 

怖がってるだけじゃ人たちを助けてあげることが出来ません。

しっかり精神と保っておかないと助けられる人も助けられません。

自分一人の命も守れるか分からないはずの場所に、私たちは人たちを助けに突っ込んでいるのですから。

 

「一度あの中に入ったら、雛里」

「?」

「俺は……悪い癖があるんだ。一度頭に来ると周りのものが見えない。きっとあの中に俺が頭に来るようなことが起きてるに違いないのにそうなったら状況がややこしくなる」

「……」

「その時は、雛里、お前は絶対俺のこと止めてくれ」

 

官軍相手に倉ちゃんたちを守ることを再優先にするのなら、まずは官軍の大将と話し合う必要があります。

でも、相手が孫家の人……彼らはここの出身ではありません。水鏡先生の言葉だからと言ってまんまと引いてくれるかも良くわかりません。

最悪の場合、あそこに居るのが孫家の長女、孫策さんだとすれば、話し合いはほぼ不可能と言っても過言ではありません。

孫家の人たちは誇りというものをどの豪族よりも大事にします。そんな彼女らが、自分たちの過ちを認めて軍を引いてくれる可能性は皆無と言ってもいいぐらい。

 

「一刀さん、もし、総大将にあって、その人が孫家の孫伯符さんだったら、話し合いより戦った方がいいかもしれません」

「孫策……なら?」

「孫堅さんや、他に孫家の重臣たちならまだ良いですが、孫策さんは孫堅さんの娘の中でも好戦的な人です。話し合い軍を引いてくれないはずです」

「事実を知ってからでも、そうだというのか?」

「……………最悪の場合、口止めのために私たちにも手を出すかもしれません」

 

もっとも、それが自分の母の誇りを一番怪我することになるでしょうけど……

アンナ人が孫家を受け継ぐ人になるなんて、孫家は既に江東の重興の時を失ったのかもしれません。

 

「………分かった。雛里、もし本当にお前のとおり相手が孫策で、俺がアイツと戦った場合、倉を見つけたら直ぐ様そこから逃げてくれ」

「…!」

「分かってる。あの中に数百人、裴元紹とその部下たちが死ぬ覚悟で戦ってる。彼らはこんな日が来ることを覚悟していた人たちだ。でも倉はそうじゃない。倉は水鏡先生の弟子であって、裴元紹が一番大事にしている子だ。裴元紹は何を賭けてでも倉だけは守ろうとするだろう。だから、俺たちも裴元紹のそんな想いに同調してあげるべきだ」

「………一刀さんはどうするんですか」

「俺は裴元紹と一緖に彼らを逃がすために動くつもりだ。官軍の追っかけを一度凌げたら水鏡先生たちが後はなんとかしてくれる」

「一刀さん、孫策さんに勝つ自身があるのですか?」

「……歴史の英雄と戦って勝つ自身か?そんなものはないさ」

 

自信なさそうに軽く笑う一刀さんでしたが、直ぐにその顔を真剣にしました。

 

「だが、そこに偽りがあるのならそれをぶっ潰す。それが俺のやり方だ。どんな事をしても……」

「……気をつけてください」

「お互い様で……」

 

そう言ってるうちに狼さんが山を包囲している官軍の兵士さんたちに襲いかかるのでした。

 

 

 

 

 

包囲網を大きく乱して、

 

「お前無駄に派手すぎるだろうが!!」

 

あの、大きく言いましたが、実際この狼さん、山半周しました。時間ないのに……まあ、外でそんなことがあると知ったら中の指揮官も動揺するでしょうから完全に時間の無駄だというものでもありませんが、そんなことより私たちは早く中に入って倉ちゃんたちが無事か確認したい気持ちが大きかったです。

 

ぐるるー

 

「なんと言ってるんですか?」

「ついやっちまった。反省はしている」

「そんなこと言ってる場合じゃないじゃないですか!」

「俺が言ったんじゃねーよ!」

 

パァーーっ!

 

「!」

「あわわっ!」

 

何ですか!?

 

「火が強い…ここからが行けない」

「どうしてこんなに火が…」

 

私たちがいる場所はまだ倉ちゃんたちの陣から遠いです。なのにこんなところまで火がついてます。

混乱させるためだけならこんなに火を使う必要なんてないはずなのに……

 

「森ごと全部焼け死なせるつもりか?」

「そんなことを…!」

「何にせよ行かなければならない……おい、お前、ちょっと飛べ」

 

ぐるるー

 

「お前が鳥じゃねーのは分かってるよ。この炎の奥に入らなければならないんだから!」

 

こういうこと言ってる場合じゃないって分かってますけど、この狼さんと話できたらちょっと面白そうです。

 

 

……あれ?

 

 

「!…一刀さん、おかしいです」

「うん?」

「火が……動いてます」

「は?」

 

火が動いてました。

木から木へ移るとかそういうものじゃなくて、燃えるものが何もない場所に火が動いていました。

まるで火が自分で意識を持って動いているように、森の奥を囲んでいました。

 

「奥へ動いてます」

「どういうこと……火が自分で動くわけないだろ」

「それは分かってますけど…でも実際にそう動いています。しかも今火が動いているのって風向きと逆方向ですよ?」

「………」

 

パァーーーっ!!

 

「!!」

 

ぐるるー!!

 

いきなり炎がさっきの倍は燃え上がりました。

山を囲んで、私の背ぐらいの炎の壁ができあがってました。

 

「よし…火が自分で動いているとしてだ…中に人が居るのなら今直ぐ助けないと皆殺しだな」

「でも、どうやって中に入るんですか?」

「突っ込むしかないだろ…こいつの毛は少し焼けるだろうけど」

 

ぐるるーー

 

「毛はまた生えるだろ。お前は恩を返すんだよ、どうするんだよ」

 

一刀さん、少し狼さんの扱いが酷いと思うのは私の気のせいですか?

後、その原因がおそらくこの前羊の肉を持ってたとき薄情にされたことの恨みだと思うのも私の勘違いですよね?

 

「とまれ!」

「ちっ!お前がうろうろしてるから追っ手が来たじゃねーか」

 

ぐるるー

 

後から弓矢を持った孫家の兵士たちが追ってきてます。

 

って

 

「動物と口喧嘩はいいですから早く行ってください!」

 

ぐるるー

 

「しっかり掴まってろ!」

 

さしゅっ!

 

「あわわっ!」

 

あおおおおおおおおお!!!

 

「!!」

「今だ!」

 

兵士たちが狼さんの泣き声に驚いた隙に、狼さんは後で少し走ってはそのまま跳び上がって炎の壁を乗り越えました。

 

「よっしー!!……あ」

「あわっ!なんですか?」

 

ぶすっ

 

「…これ…帽子に刺さってた」

「…………あわわー」

 

来なければよかったです。

 

 

 

そうやって狼さんの上で炎と兵士さんたちから逃げる中……

 

「……全部…死んでますね」

「……遅すぎた」

 

一人も、生きて居る人を見てませんでした。

裴元紹さんの所の人たちは、もう火計と孫家の兵士たちの手で殺され、森のあっちこっちで火に飲みこまれていました。

そういう姿を見ていると、最後の希望まで失いそうです。

 

「倉ちゃんは…」

「生きてる」

「……そうですね」

 

でも、それじゃダメです。なんとしてでも、一人でも助けなければ……こんな不条理な死を迎えた皆さんに、私たちがしてあげれることはそれだけです。

 

ぐるる……

 

「!ほんとか?」

「どうしたんですか?」

「あの奥に…水鏡私塾からするのと同じ匂いがするらしい。血の匂いが強くて確かではないけど…」

「……まさか」

 

倉ちゃんも、もう……。

いえ、まだ……諦めません。

 

「ああああああ!!!!!」

「!あの声って…!」

 

確かに倉ちゃんの声。

でもいつもは静かな倉ちゃんがあんな声を……

 

「早く行きましょう」

「ああ、あっちに行こう!」

 

アウウウウーーー

 

また大声で啼きながら狼さんは炎を飛び越えました。

 

「!あれは…!」

 

そして、宙に上がってる時に下に倉ちゃんの姿が居ました。

そして、その直ぐ横に剣を持って彼女に迫ってきている人の姿が……

 

「させるかーーー!!」

「!一刀さん!」

 

狼さんが着地もする前に、一刀さんは背中から飛び降りて、持っていた剣で倉ちゃんを殺そうとした女の人に当たりました。

 

タッ

 

「倉ちゃん!」

 

狼さんが地面に降りたと同時に、私もその背中から降りてきて倉ちゃんのところに行きました。

 

倉ちゃんの前にはちまみれになった裴元紹さんの姿が居ました。

 

「!!」

「雛里!!」

 

首筋に手をつけてみたら…既に心臓は止まっていました。

 

「……<<ふるふる>>」

「…なんなんだ、貴様らはーー!!」

 

私が頭を振ると、一刀さんは怒りに満ちた声で女の人に叫びました。

あの覇気……おそらくあの人が孫家の人……直接孫家の人たちの顔を見たことはないですのではっきりはしませんけど、少なくも孫堅さんとは思えません。

最悪の状況になってしまう可能性が高いです。

 

「何故こんなことをした!ここの人たちが何をしたって言うんだ!」

「……何をしたかって?こいつらは今まで人を何人も殺してきた賊たちよ。弱い人たちから力づくで奪ってもので自分たちの腹を満たしてきた、下衆な連中よ」

 

勝手な言葉を言ってくれます。

どうせ財物に目が眩んだ街の人たちが官軍にここの人たちを凶悪な山賊の群れだと教えたはずです。

そして、官軍たちは夜に裴元紹さんたちを奇襲、山を包囲して人たちを焼き死ぬように放っておきました。

後になっておかしなところがあると気づいても既に自分たちがやってしまった真似があるから、認めることはありません。ここの人たちは、このままだと盗賊という汚名を持って死んでいくのです。

…あんなに普通の人たちに戻ろうと頑張っていたのに…一体ここに来てこの人たちが何をしたって言うのですか。

 

「貴様らに何が分かる!こいつらは……この人たちは…!!」

 

一刀さんも私と同じく興奮していました。

だけど、一刀さんはそうでも私は熱をあげてはいけません。

さっき一刀さんが言ったとおり、一刀さんが必要以上に昂ぶってしまう場合には私がしっかり状況を把握しなければなりません。

戦によって軍師たる者は、常に冷静を保ち、局面を全体的に見る目を育たなければならないというのは、いつもの先生の教えでした。

 

「名を名乗れ!俺は北郷一刀。この山で生活していた『火田民』群れの代表者よ。『普通の民』を賊と貶め虐殺したお前らは一体何者だ!」

「私は孫伯符。江東の虎、孫堅の娘よ」

「!」

 

やはり…この人が孫伯符。今の私に考えられる最悪の状況です。

 

 

 

シャリーン

 

「!」

 

一刀さんが鞘に収めていた剣を引き抜きました。

 

「っ!!」

 

剣を見た孫策さんは一瞬びくっと動きました。

だけど、

 

シャーっ!

 

一刀さんはそのまま刀を地面に刺しました。

 

「……何のつもり?」

「はぁ……嫌……俺はこいつらとは違う……人を殺すことなどしない。……これ以上俺に囁くな」

 

一刀さんが何か変なことを言っていました。

 

「よく分からないけど、剣も無しで私と戦うつもり?相当下手に見られてるものね」

「……その剣の握り方を見たら分かる」

 

ガチン!

 

「なっ!」

 

剣を手から離した一刀さんは、鞘を剣のように握って孫策さんの方に素早く迫っていきました。

 

「孫伯符。強いのは分かる。君が好戦的なのも分かった。だけど、君は『獣』だ。剣なんて使いこなせない獣よ」

「なんですって…」

「身分を弁えろっつってんだよ!」

 

ガチン!!

 

ガチン!

 

「っ!」

「北郷流師範は伊達じゃないんだ。貴様ほどの実力で剣をふるってる赤ん坊は数人も知ってるぞ!ちっぽけな力と誇りで人の上に立つつもりならこの歴史から失せろ!」

「っ……山賊群れの分際で知ってるような口振りを……!」

 

ガチン!

 

孫策さんも負けずと剣を振るい始めました。

 

一刀さんの方から私は裴元紹さんと倉ちゃんの方に目を移しました。

 

「………」

 

裴元紹さん……ごめんなさい。

もう少し早く来ていたら……

 

「倉ちゃん……ごめんなさい」

「………」

 

それしか言えることがありませんでした。

倉ちゃんは何も言わずにただ裴元紹さんを見つめていました。

 

「倉ちゃん…」

「…全部殺す」

「…え?」

「全部……あたしと一緖にここで焼かれて死ぬの」

「大丈夫だよ、私たちと一緖に逃げれば……」

 

チーーー!!

 

「雪蓮!」

「!!」

 

その時、炎の壁が水に消され、向こうから指揮官らしき女性が兵士たちを連れて来ていました。

 

「冥琳!あそこに居る女の子を仕留めなさい。炎を操ってるわよ!」

「何っ!」

「!」

 

何を……

 

「雛里!」

「あなたの相手は私よ!」

 

ガチン!

 

「ちっ、雛里、逃げろ!」

「あわわー!」

 

一刀さんは孫策さんと戦っていてこっちを守れくれそうにありません。

孫策軍の兵士たちがこっちに来ています。

このままだと……

 

「全部死ね…!」

「!」

 

その時でした。

倉ちゃんが手を伸ばした瞬間、

周りに消されたはずの火が蘇って私たちの方に来ていた兵士たちを囲んでしまいました。

 

「ああああーーー!!!」

 

そして、中から兵士たちの悲鳴が聞こえると思ったら、炎が消えた瞬間、中に居た兵士さんたちは黒く焼かれて人の形を失っていました。

 

「!!」

 

 

 

一刀SIDE

 

孫策の力はなかなかのものだった。

だけど、なんというか………成ってなかった。

剣の使い方が間違っていた。

力は確かだったけどこの程度なら……

 

ガチン!

 

「っ!」

「……これが歴史の英雄だと?」

 

過去の英雄たちを貶めるつもりはないが……この程度の力なら重圧感を感じる必要もない。

それが負けたら死ぬかもしれない戦場での相手だとしても…だっ!

 

ガキン!

 

「ちっ!なかなかやるじゃない」

「そういうお前は…その程度で剣を習ったつもりか?裴元紹たちより少しマシなぐらいじゃないか」

「うるさいわね。南海覇王さえ持ってこれたらこんなもんじゃ……まったくお母様はどうしてこんな時に限って一人行動にはしるわけ?」

 

一人で何ぶつぶつ言ってるんだかしれないけど、孫堅はもう少し娘を鍛えたほうが良さそうだ。

 

「あああああーーーー!!!」

「「!!」」

 

その時、人と声とは思えないぐらいの悲鳴に俺と孫策は同時に剣(俺は鞘の『鳳雛』だったけど)を下ろして声がした方を見た。

そしたら……

 

サーッ!

 

「なっ!」

「……!」

 

俺が見たのは、炎に囲まれて焼かれている人の姿だった。

あっという間に炎は孫策の兵士たちを飲み込んで、一瞬で兵士たちを灰にしていた。

 

「…どうなってんだ、あれは……」

「……あの娘の仕業よ」

「何?」

 

孫策が剣で指したのは雛里の隣に居た倉だった。

 

「あの娘は炎を操っているのよ。このままだと私たち全部死ぬわ」

「ふざけるな。そんなことが出来るわけが……」

「だけどあなたも見たでしょ?この辺りの火が突然強くなったのもあいつがやったのよ」

「………」

 

信じられない。

でも嘘を言ってるようにも見えない。

少なくも、彼女は言った話自体に偽りはなかった。

だけど、

 

「雛里、倉を狼に乗せて!」

「は、はい」

「逃さないわよ」

「邪魔だ」

 

遊びは終わりだ。

 

ガキーン!

 

「なっ…!剣が……」

「剣をそう持ってると折ってくださいと言ってるようなもんだ。次あったときはもう少し練習しておくようにな。会いたくもないが……」

「っ!逃さないわよ!」

 

孫策は持ってきた壊れた剣を捨てて俺が地面に刺した『氷龍』と手に取った。

 

「!!」

「おい、やめろ。その刀は……!」

「…っ!……な……嫌…やめて……」

「!」

 

刀『氷龍』。

戦国時代に現れ、数万人を殺した妖刀。

その刀を始めて見た時はその冷たい殺気に圧されて指一本動くことができなかった。

始めて自分の手で抜いた時はその殺意に満ちた刀の意志に飲み込まれそうになって数秒経たずに剣を鞘に収めた。

もし、あの時刀を抑えることが出来なかったら……きっと俺もああなったのだろう。

 

「……殺す…殺す」

「!」

 

 

 

「孫策、その剣を捨てろ!これ以上握ってたら危ない!」

「一刀さん、早く来てください!」

「先に行け!」

 

雛里が倉と一緖に狼の背に乗って叫んだが、氷龍をあのまま孫策の手においたままここを去るわけには行かない。

 

「一刀さん!」

「狼、なにしてるんだ。早く二人を塾まで連れて行け!」

 

ぐるるー『貴様はどうする気だ』

 

「………俺は孔明に約束した。雛里を安全にするって。だから早く行け!」

「一刀さん!」

 

ぐるるー『直ぐに戻って来る』

 

アオオオーー!!!

 

「っ!伏せろ!」

 

主狼が啼いて跳び上がると残っていた孫策の連れの兵士たちは身を伏せた。

 

狼は雛里と倉を乗せて山を降りていき始めた。

 

「……ごめん、雛里」

「殺す……」

「!」

「全部…殺す…血を…」

 

刀に操られてる。

 

「雪蓮ー!」

「近づくな、死ぬぞ!」

「雪蓮に何をした!」

 

メガネをかけた孫策と同じく健康に焼けた肌をしている美人さんが孫策に近づくのを見て俺は彼女を止めた。

 

「あの剣に操られてるんだ。あの剣を捨てさせないとここに居る人が全部死ぬまで止まらない」

「どうしてそんなものを雪蓮が持っているんだ!」

「俺が持ってたんだけど……仕方なかったんだ」

 

そうしないと俺が孫策を殺していた。

 

「……」

 

ガチン!

 

「っ!早く逃げろ!」

「雪蓮を置いてはどこにもいかん!」

「だーーっ!どいつもこいつも……!」

 

しかも、さっきより強くなってやがる!

 

「どうにかして急所を狙って気絶させれば……!」

 

ガチン!

 

孫策の攻撃はさっきより鋭くなっていた。

刀自体さっきまで持っていた脆い剣と違って名剣な上に、呪われてるせいで自分の力を十二分発揮してる。

これぐらいじゃないと英雄って言えないだろう。

 

「おい、あれはどうにかならないのか」

「…分からない…名前はなんだ」

「周公瑾だ」

「あ、周公瑾…はあ?お前が周瑜だって?」

 

いや、今そういうの考えてる場合じゃ…

 

「はあああっ!!」

「避けろ!」

「なっ!」

 

ブスッ!

 

「ぐあああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

雛里SIDE

 

狼さんは私たちを乗せて街と裴元紹さんの森の中間支点ぐらいに来ていました。

 

「今直ぐに戻ってください。一刀さんを一人にして行くわけには行きません!」

 

グルルー!

 

何言ってるのかは分かりませんけど、取り敢えず帰らないのを見てダメだということは分かりました。

 

「狼さん……私は一刀さんのこと詳しくは分かりません。狼さんもそうですけど……まだあの人に付いて知らないことの方が多いです」

 

「でも、あの人は私のことを好きって言ってくれました。愛してるってはっきり言われてました。なのに私はまだそれに答えていません」

 

あの人に言わなくちゃ行けないことがあるんです。

だから、こんなところであの人を一人にするわけにはいきません。

 

「………っん」

「!」

 

倉ちゃんが……

 

「あたし……何を…」

「倉ちゃん、気がついた」

「…鳳統ちゃん」

 

正気に戻った倉ちゃんは私を見ました。

さっき兵士さんが燃え上がったこと…あれは本当に倉ちゃんがしたのでしょうか。

…分かりません。

 

「………おじさま………おじさまが……」

「うん……ごめんなさい」

「あたしのせいで…あたしのせいでおじさまが死んじゃった…」

「倉ちゃんのせいじゃないよ」

「おじさまが…あたしを庇って代わりに……」

「………」

 

倉ちゃんは今とても不安定な状態です。こんな倉ちゃんを連れてあそこに戻るわけにはいきません。もしかすると、またさっきのように人が死ぬかもしれません。

だからって一人で行かせるわけにもいきません。

このまま塾まで行って戻ってくるには時間が惜しいです。

一体どうしたら……

 

ダガダガ……

 

「!」

 

ぐるるー

 

ひぃいいーーー!

 

「雛里!」

「!水鏡先生!」

 

水鏡先生が馬を乗ってここまで来てくれました。

狼さんから降りて、倉ちゃんを連れて先生の近くに行きました。

 

「雛里!……北郷さんは…」

「先生……倉ちゃんのことをお願いします。私は一刀さんのことを助けに行きます」

「……ダメです。あなたが先に倉を連れて帰りなさい。後は私に任せてください。私が行った方が…」

「嫌です!」

「!」

「…ごめんなさい。先生……でも…」

 

今まで先生に向かって直接逆らったことはありませんでした。

だけど、今は…今回だけは、一刀さんのことだけは……

 

「……雛里、あなたは私が号を与えた私の一番弟子の一人です」

「……」

「もし、あなんの身に何かの危険が起きたら……私は自分が持っている全ての手段を使って孫家を潰します。……そうならないように、どうか気をつけて帰ってきてください」

「……はい、先生」

「…倉、こっちに来なさい」

「……鳳統ちゃん?行くの?」

「…あの中にまだ一刀さんが居るよ」

「…………絶対」

「?」

「……絶対、二人とも無事に戻って……来て」

「……」

 

この日、倉ちゃんは裴元紹さんを含めて自分の家族を全て失いました。

倉ちゃんのためでも、これ以上犠牲を増やすわけにはいきません。

 

「『約束』するよ」

「………っ」

「!倉!」

 

倉ちゃんは私の約束を聞いてからそのまま気力が尽きたのか倒れてしまいました。

私ももうとっくに前に倒れそうになっていました。

一刀さんのことでなかったら…ここまで正気に居ていませんでした。

 

「先生、それじゃあ行ってきます」

「ええ」

 

ただ、あの人が無事であることを祈りながら、私はまた狼さんの上に乗りました。

 

「戻ってください!一刀さんを助けに行きます」

 

ぐるるー!!

 

そうすると同時に、狼さんはすごい速さで、また戻っていく道から振り向いて修羅場になっている戦場に向かいました。

 

一刀さん……どうか無事で居てください。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

 

 


 
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