――2011年10月17日 8:52
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室
『雨無先生』
「ん?珍しいこともあるものだ」
一騎のデスクにあるインターフォンが珍しく鳴り響いた。二重に珍しいことだが受付の学校事務からだ。
学会の発表を終えて晴れて自由の身になった晴彦は、長いすの上に横たわり携帯ゲームに勤しんでいた。
『お客様がお見えになっています』
「……まあいい通してくれ」
「珍しいね。アポイントあった?」
晴彦に問いかけられるが、身に覚えがない上にアポイントもない。
自他認める変わり者である一騎に客と言えば、同じ変わり者かそれとも夢見がちな研究者か。それとも……。
第十三話 交錯するR/ライダーの流儀
「俺は探偵。あんたに聞きたいことがある」
開口一番。黒いハット帽を被った探偵が、一騎のデスクに腕をつきそう言い放った。
「翔太郎。君は色々と言葉が足りなさすぎるよ」
その探偵の横では本を携えた少年が、探偵を諫めていた。
「馬鹿、こういう時は相手を威圧して攻めるんだ」
翔太郎と呼ばれた青年が少年のほうを向いたところで一騎も席を立ち、備え付けの湯沸かし器に歩いていく。
「やれやれ。君たちが来たせいで忙しくなった」
そのまま紅茶を淹れ、備え付けの二人に長椅子に座るように促した。
「僕はフィリップ。彼は左翔太郎。二人とも探偵さ」
そう言ってフィリップは長椅子に座り紅茶を手に取る。
「どうもコーヒーばかり飲むせいか、紅茶は新鮮だ」
紅茶を一口含んで美味しいと呟き、翔太郎も椅子に座るように視線を送り、彼も釣られて席に座る。
「コーヒーのほうが良かったかな?生憎ここには紅茶しか無くてだな」
「いや、出された物に文句付けるほどハードじゃない」
そう言って紅茶を口に含んだ。
「君はレイモンド・チャンドラー……フィリップ・マーロウを好むようだな。探偵物語に詳しくない俺はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズがお似合いと言うことか」
そう言って紅茶を一口含んだ。
「一騎。用件はいいの?」
「ああ、そうだったな」
思い出したように一騎は彼らの正面に座った。
「学園都市にあるガイアメモリを回収したい」
「ふむ……まあ回収したいというより砕きたい……と言うことか」
「話が早くて助かるよ」
「……付いてこい」
――2011年10月17日 9:22
――学園都市 理系学区 特殊実験棟
――??
一騎が二人を連れてきたのは警備が厳重な特殊実験棟であった。外見からは門をG-6が二人守っており、警備ロボットがあたりを探索している。
「おいおい、どこに連れてかされるんだ」
「ガイアメモリはこの先にある」
屋内に入ると、物騒にアサルトライフルを首から吊した警備が巡回しており、翔太郎とフィリップをじろりと見る。しかし彼らの先を一騎が歩いているので誰も二人を止めはしない。
そんなピリピリした空気の中をしばらく歩くと、再びG-6が守っている部屋へとたどり着いた。
「エレベータだ。乗ってくれ」
釣られるがままに翔太郎とフィリップはエレベータに乗り込んだ。エレベータは円柱型でガラス張りとなっていた。
エレベータは地下へと降下を始めた。しばらく壁のような光景が続くが、急に三人の視界が開ける。
「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」
あまりの光景に翔太郎が声を上げた。形容するのであれば、地中のとんでもなく広い空間にドームが埋まっている。
「Root of Knowledge。学園都市における稀少な研究対象を保管、隔離する"特別に凄い"エリアだ。学園都市を統括する十人委員会から、加えて三人の門外顧問と一人の海外顧問から許可が下りないと立ち入ることが出来ない」
「"君は創始者の一人だから入ることが出来る"……と?」
「まあな。大深度地下施設だが免震、耐震の最先端技術が使われており、計算上モーメントマグニチュード12まで耐えられる。まあそのクラスの地震だと世界崩壊レベルだな」
翔太郎はまるでアミューズメントパークに来たように外の光景……というのも語弊があるがその光景に目を奪われていた。
対するフィリップは一騎の話の方が楽しいらしく、次の話を催促する。
「"知識の根"とは随分興味深いな名前を付けたね」
「堅苦しい名前より意味深な名前の方が何を象徴しているのかわかりやすいだろ?」
「なるほど。ここが学園都市の根っこというわけだ。ゾクゾクするね」
「……おい、俺ら二人はここに入る許可貰ってないぞ」
翔太郎が焦り出す。
先ほど一騎の口から偉そうな……まあ実際偉いのだが……名前が連射されていたのをやや遅れて察しとった。
「安心しろ。顔パスだ」
「それってどういう……」
「付いたぞ」
重々しい扉が開かれた先には、無機質で無表情な壁と横に並んだ扉が彼らを出迎えた。部屋自体は降り立ったエレベーターを芯に円柱状である。
一騎はその壁に備え付けられたコンソールの生体認証部に手を触れる。
『生体認証完了。閲覧したい対象を選んでください』
部屋全体に機械音が響き、宙にホロコンソールが表示される。
「これは凄い。技術が完全に違う。二世代……いや三世代は先を行っている」
フィリップが心の底から感動をひねり出した。そんな彼に対して一騎は操作をしながら説明する。
「過去にいろんな大学や企業の研究室を吸収しているからな。こういったインターフェイスシステムも"知識の根"の一部なんだ」
一騎の操作が終わると、彼らから少し一つの扉が開かれる。一騎はそこに向かって歩みを進め、二人もそれについて行く。
「知識の根は複数のブロック群で構成されている。ブロックを組み合わせることによってランダムに道を作り、固定されている部屋へと導く仕掛けになっているんだ」
三人が歩く道は入りくねっており、所々にブロック同士の継ぎ目が見て取れた。
「道がこんなに入りくねっているのも方角を分からなくするためだ。ちなみに言うなら帰り道も違う」
「なるほど。凄まじい防犯だな」
「と言っても高出力の攻撃を受けたら、さすがのここも崩壊する。そういう時は自爆するに限るので自爆する」
「ははっ。正しい防犯だ」
「ブロック部は非常に弱いが、研究対象が保管されている部屋とさっきの大部屋は異常なまでに頑丈だ。現にここが出来た当初戦闘があったくらいでな」
これ以上は機密事項になる。そう続けようとした矢先、扉が三人を出迎えた。保管部屋にたどり着いたらしい。
「ここだ」
機械的な音が鳴り扉が開け放たれた。
その扉の奥には複数の機械が並んでおり、さらにその奥はガラスの壁によって隔離された部屋があった。
「あそこだ」
一騎が指さしたのはその隔離された部屋のさらに奥に鎮座しているガラスケースだ。
――『Terror』
「あれは!」
「Terrorのメモリじゃねえか……」
だが二人が過去に見たものとは形状が違っている。無骨というより無愛想な形状をしている。
「あのガイアメモリは学園都市が唯一所持を認めているものだ」
そう言って一騎はガラスに拳を打ち付けた。大きな音がなり探偵二人が驚くがヒビが入るどころかビクともしない。
「対戦車ミサイルに耐える108層の強化ガラスが3枚重なった奥にある。加えてあのガイアメモリから得られるデータは構造のみ。中に入っているエネルギーに関しては俺ですら閲覧は許されない」
そう言って今度は手元のコンソールを動かす。一騎が操作するとガイアメモリにロボットアームが伸び、あらゆる角度から観察できるようになる。
「あのガイアメモリはこの学園都市が造られた時に託された物だ」
「託されたぁ?誰にだ!?」
「……鳴海荘吉」
「おやっさんが!?」
「自分の手元以外で一番安全なのはここだって……言ってくれたよ」
そう言って一騎は視線を天井に向けた。
「ガイアメモリの魔力か。もっとも鳴海さんはそんなものに負ける人とは思わないがな」
一騎がコンソールから手を離す。そんな一騎を余所に翔太郎とフィリップの表情は翳っていた。
「ん?誰か来たな」
一騎が上に備え付いていたモニターを見る。モニターには二人の人影が見えたが、顔まで確認することが出来なかった。
「仙道先生!お久しぶりです!」
開かれた扉の向こうには、ひげを生やしがっちりとした体型である老人と対照的に線の細い男性だ。
「おお、雨無くん。久しぶりだね。どうだい、次の学会は講演しないか?」
「ははっ。別の先生呼んでください。俺はまだまだ若輩ですよ。そちらは?」
そう言って一騎は仙道博士の後ろに付いていた男性に視線を移す。
「おお、彼は細川くんだ。海外の大学からの留学生でな、海外顧問の了解を得た。それでそっちは?」
「ああ……」
仙道博士が指した先は翔太郎とフィリップだった。どう言ったものかと一騎が考えていると、彼の立場を察した仙道博士は急に話題を変えた。
「そうそう、雨無くん。今度弾性率を検証してもらいたいのだが」
「生体の弾性ですよね?また徹夜を強いるわけですな」
「がっはっは。まだ若いのに何を言っておる」
「お言葉を返すようですが、仙道先生ももうお歳ですから無茶しないでください」
「はっはっは。今考えている注射針が考えたら一線は退こう!」
剛胆にして豪快。一騎の少し毒を含んだ言葉を笑い飛ばす。少なからず一騎に影響を与えた良い先生だ。
「そんなこと言ってたら、注射針の試作品を自分の身体に打つ羽目になりますよ」
「がっはっは。それはいい。もう一頑張りしてクランクを増やすとするかな!」
* *
――2011年10月17日 10:22
――学園都市 理系学区 特殊実験棟 大深度地下施設『知識の根』
――通路
「すまん、仙道先生の前でアレの話は……」
「構わないよ」
「いやはや、凄いセンセイだな」
「まったく。あの歳であの豪快さは敬意を表するよ」
翔太郎とフィリップは肩を竦めた。
理系の教授の中でもかなり剛胆な方だが、全人類を俯瞰してもあそこまで熱い人間はなかなかいないだろう。
「アレの破壊……少し待ってくれないか?」
「ここなら……あれを正しい方向に持っていける?」
「ああ。仙道先生のように、ガイアメモリの技術を応用してよりよい技術に改良しようという人がいる」
「確かに君は信じられる漢さ。だがもしあのメモリが外に持ち出されたら?」
「俺が潰す。それが学園都市としても責任でもあり、鳴海さんとの……約束だ」
一騎がそう離した瞬間、知識の根全体に警報が鳴り響いた。
三人が道を引き返したところには仙道博士が横たわっていた。
「仙道先生!?」
「はっはっは。大丈夫じゃよ、雨無くん」
口から吐血しているのを見ると内臓に傷が付いたか。仙道博士の見かけは元気そうだが、かなりの重傷だろう。一騎が睨み付けた先には怪人。
「ドーパント……」
フィリップが怪人の身体を観察し、結論を出した。
「雨無くん。あれは細川くんだ」
「……」
「救ってやってくれ。彼はガイアメモリの毒に侵されている!」
そこまで言うと仙道博士は再び吐血した。
「ハル!G-6を呼んでくれ!」
『もうやってる!』
一騎はゆらりと立ち上がった。
一瞬翔太郎とフィリップが畏れを抱くほどの威圧感を放ちながら。
「貴様、何のつもりだ」
『俺はミュージアムを再建する』
「なに!?」
今度はフィリップが激高した。
『ミュージアムの崇高な意志。貴様らにはそれが分からない』
かなり無機質な声だ。生物であることですら疑うような声だった。
「てめえは何も分かってねえ」
『分かってないのは貴様らだ』
そう言ってドーパントは手にしているものを誇示するように見せつけた。
「Terrorのメモリ!」
『そうだ。恐怖の王がいれば全て再興できる』
一騎が前に出た。相変わらず威圧感を放っていたが、深呼吸をすると威圧感は収まりいつもの彼に戻る。
「ったく、陳腐な泣き落としになっちまったじゃねえか」
片手で頭を抱えた。先ほど信じろと言っておきながらその数分後には奪われたのでは笑い話にもならない。
「大丈夫さ。君の魂は僕たちに届いている」
「俺もしっかり受け取ったぜ。あんたのその燃える魂って奴をな。だから下がってな」
翔太郎が腰にダブルドライバーをセット、それと同時にフィリップの腰にもダブルドライバーが現れた。
だがここまで言われて一騎は下がってはいられない。ここで下がれば漢が廃る。加えて相手は仙道博士の想いをぶち壊した。内心冷静に戦えるか不安だった。
「おいおい、言ったはずだぞ。俺が潰すってな」
一騎はアインツコマンダーを取り出しコードを入力した。
4――9――1――3
それと同時に一騎の腰にも変身ベルトが転送され、フィリップはそのベルトをじっくりと観察する用に見つめる。
「やはり……君も仮面ライダーか」
「ああ、よろしく」
「ええ!?えええええ!!?」
相変わらず一人だけ付いてきていない。
もっともこの鈍さが彼の良いところであり、仮面ライダーとしての優しさの部分でもあった。
「ロールアウトはこっちのほうが先だ。先輩と呼べ、センパイと」
* BGM:Cyclone Effect *
「よろしく。センパイ」
『CYCLONE!』
鈍い翔太郎を急かすようにフィリップがサイクロンメモリを起動。
「ああ、畜生!行くぜ、フィリップ!!」
『JOKER!』
翔太郎もジョーカーメモリを起動する。
――変身!
――変身!
左翔太郎&フィリップ/仮面ライダーW
ACTER:桐山漣&菅田将暉
フィリップがサイクロンメモリをダブルドライバーに挿入、すぐさま翔太郎の腰にサイクロンメモリが転送され、続いて翔太郎もジョーカーメモリを挿入。その後ダブルドライバーをWの形へと変形させる。
『CYCLONE!!JOKER!!』
あたりに疾風が走り、探偵は仮面を被った。フィリップは意識を相棒へと飛ばし、一心同体となる。
二人で一人の仮面ライダー……
「風都ライダー、仮面ライダーWか」
そこまで見届けると一騎も右天に左手を突き上げ覚悟を叫ぶ。
――変身!
『EINS』
アインツドライバーから光のリングが飛び出し、そのリングが回り始め光球となる。その光球が内から振り払われた時、同じく赤い眼の仮面ライダー、アインツが姿を現す。
「さて……」
「おい、この遺体はどうすればいい?」
アインツの突っ込みにWの肩ががくっと下がる。
確かにこの閉所でフィリップの身体をその辺に置いておくのは危険だ。
『おいおい、まだ死んでないよ』
アインツの方を向きながら、Wはドーパントの不意打ち気味のラリアットを身を屈めることで回避する。
「いや、しかし生物学的には……生きてるな」
都合良くG-6が二人こちらに走ってきている。倒れている二人を回収してくれるだろう。アインツは瞬時に戦闘態勢へと意識を集中する。
「二人を頼む。ここは任せろ」
丁度体勢を崩したドーパントが足下に転がってきたので、それを蹴り飛ばす。
だが……。
「かってぇ!」
アインツが怯んでいる間にもWが拳をドーパントに突き立てるが……。
「かってぇ!」
こちらも歯が立たない。
Wは兎も角、ショックアブソーバを装甲に内蔵しているアインツが堅さを感じるのだからかなりの堅さだろう。
『翔太郎。ここはヒートで攻めるべきだ』
「よっしゃ!」
Wがダブルドライバーから二つのメモリを抜き、赤と青のメモリを挿入、再びダブルドライバーをWの形へ変形させる。
『HEAT!TRIGGER!』
Wが赤と青のヒートトリガーにフォームチェンジする。左胸にトリガーマグナムが現れ、それをドーパントに向けて射撃する。
あまりの高熱に怯んだドーパントをアインツが掴み、大きく放り投げる。
『ふむ、やはり殴るのが無理と見ると投げを使う。さすがだ。ならこちらは援護に回ろう』
アインツの攻撃方法を見て、Wの右側が身体の意志に反して動き出し、右側のメモリを金のメモリに換装する。
『LUNA!!TRIGGER!!』
金と青の基本フォーム、ルナトリガーにフォームチェンジが終わった瞬間、Wは射線にアインツがいるのにも関わらず掃射する。
銃弾は見事にアインツを避け、ドーパントにヒット。さらに怯んだところにアインツがドロップキックで追撃する。
「おいおい、俺達相性いいんじゃないの?」
『照井が聞くと泣くよ?』
一人でそんな会話をしていると、ドーパントの身体が突然発光しアインツとWが大きく吹き飛ばされる。
「どわ!」
『くっ!』
ライダー二人は起き上がり、Wはドーパントに向かって行こうとするが、アインツがWを諫めた。
「今は逃げろ!通路が崩壊する!」
『しかしあいつはTerrorのメモリを!』
衝撃波に当てられ、通路が崩壊を始めた。ドーパントのいたブロックが落下を始め、それに釣られてライダー二人がいたブロックも落下を始めた。
「大丈夫だ!あいつは墓穴を掘った!この通路が崩壊すればこの底は脱出不可能だ!」
そうして知識の根は崩壊した。
次回予告:
――さあ、お前の罪を数えろ
――さあ、振り切るぜ
――さあ、派手にいこう
第十四話 交錯するR/また会う日まで
* *
長編予告:
――お前は間違ってるよ。この学園都市の意味を
それは学園都市の秘密。
――教えてくれ。こいつは何なんだ?
それは彼の秘密。
――全てがひれ伏す恐怖の根源にして無垢なる邪悪……
そこには過去の秘密。
――……変身
そこには始まりの秘密。
長編:Eine Episode der NULL
鋭意制作中
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
執筆について
・隔週スペースになると思います。
続きを表示