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あらすじ
大陸各地を旅していた一刀と天和達の下に、反董卓連合結成の方が届く。
董卓こと、月達のことを知る一刀達はそれを不審に思い黄巾の民達とともに挙兵。虎牢関へと向かう。
そして連合と対峙した一刀達率いる黄巾党は民の声、民の気持ちを連合軍へと語った。
あるものはその真摯な声に感化され。またあるものは政治的な事情から。またあるものは黄巾からの策により。次々と旗を降ろしていく。
劉備、孫策、袁術、曹操と有力な諸侯が旗を降ろす中、残った有力諸侯は連合盟主、袁紹だけとなった……
(あ~あ。なんつーかなぁ……)
喧々、囂々。
連合盟主たる袁本初の陣に叫び声が溢れかえる、そんな中。袁紹軍の将、文醜こと猪々子はつまらなそうな表情で目前の光景を眺めていた。
「袁紹殿!!連合盟主として、いかがなされるおつもりか!?」
「袁紹殿!?」
「ちょ、お待ちになってくださいます!?そのように巻くし立てられずとも分かってますわ!!」
視線の先では連合内のどこぞの領主か、もしくはその使者かといった連中が喧しく騒ぎ、姫がそれを必死に宥めているという構図が広がっていた。
正直、この期に及んでいかがも糞も無いだろう、とは内心思うものの。それでも姫が何かしらの意思表示をしていない以上、武将である自分が口出しするのもなんだ。
それに何より、民草相手の戦なんて気が向かないのが本音である以上、黙っているのが一番である。
ぼんやりとそんな事を考えながら、猪々子は欠伸を噛み殺す――そんな時だった。
「ええい、言うに及ばぬわ!!」
響く一喝。目線を向けると、一人の男が声を張り上げていた。
(……あん?あいつ、確か……)
見覚えのある顔に眉根を寄せるが、男は前へ歩み出ると、更に声を荒げた。
「あのような者達に頭を垂れるなど恥辱の至りなり。袁紹殿!!ここは盟主としての権威を振るいて他の諸侯達を纏め上げるべしですぞ!!」
男が声高に叫ぶと、他の取り巻き立ちも口々に賛同の声を上げる。
(……あ~、思い出した)
彼女の姫、袁紹の取り巻きの一人で……名を橋瑁といっただろうか。
確か、この戦いの発端となった檄文。アレを姫の元に持ち込んだのもこいつだったハズだ。
(折角始めた戦が危うくなって必死って所か。めんどくせえなぁ)
姫を……というより、袁家の名を利用してまで始めた戦だ。
勝利で得られるはずだった旨みも無く戦を終える訳には行かないという欲か、はたまた姫に責任を押し付けるための演出、といった所か。
まあ、檄文云々については姫も乗り気だったのだから非難するつもりは毛頭ないが……それでもこの期に及んで強行策、更に民草に対してというのが気に食わなかった。
「なぁ姫~。もう止めときません?奴等とかち合っても良い事無いって事くらい姫もわかってるんでしょ~?」
文醜が口を挟むと姫は少しほっとした表情をするものの、不味いと思ったのか、橋瑁がまくし立てくる。
「文醜殿!!親衛とはいえ、一武将が口を挟んでもらっては困りますな。そもそも――」
やれ、力を持つものとして連合に号令を下せ、やら、姫を信じて付いて来た自分達の信を汲んでくれ、やら。巧みに吐く言葉に姫も押され気味だ。
(あ~、もう。姫もどうせならいつもみたいに好き勝手してくれりゃあ楽なのに)
即、黄巾へ突撃命令を下さなかったのだから、姫自身思うところがあったのだろう。
だが、それでも決断を下せないのは……非常に不愉快ではあるが橋瑁の言葉にもあった、『自称、姫を信じて付いて来た者達』に気を使っての事だろう、と文醜は思う。
(姫は自分勝手で自己中な性格のくせに、頼られたり縋られたりするのに弱いとこがあるからな~)
だからこそ、心中はどうであれ頼ってきた者達を無下にする事は出来ないのだろう。
そんな所は姫の良い所でもあると思う。問題はそれが今回は完全に裏目になってしまったという事だろうが。
(……こうなったら、しかたねぇか)
猪々子はそう考えながら姫を挟んで反対側に立つ愛ぼう……もとい。相棒の顔良こと斗詩へと目配せを送る。
猪々子とは違い人の良い斗詩は周りで騒ぐ諸侯やらへ必死に説得を試みていたようだったが、文醜の目配せには気付いたようだった。少し悩む仕草を見せるものの、最後にはコクンと頷いた。
「あ~。なあ、姫?」
「何ですの猪々子!?今私は……っ」
最早テンパり気味の姫がこちらを振り向いた瞬間――
「今だ斗詩!!」
「ごめんなさい、麗羽様!!」
ドゴッ!!
と、あまり良くない、鈍い音が響く。
それは猪々子に気を取られた麗羽の頭……正確に言うならば後頭部に斗詩の大槌が炸裂した音だった。
不意打ちの一撃に麗羽は声も無く崩れ落ちる。
「なっ……っ!?」
突然の出来事に周りで騒いでいた連中も声を失った。
「ら、乱心召されたかお二方!?」
その中でもいち早く反応をした橋瑁だったが、それに取り合うでもなく猪々子はピクリともしない姫を肩に担ぎ上げる。
……というか。やっておきながらアレなんだが姫、大丈夫なんだろうか?まあ、斗詩の事だからその辺の手加減は抜かりないとは思うが……
内心冷や汗をかきつつも、猪々子は橋瑁始め、諸侯達の方へと向き直った。
「あ。うちは姫がこんなんなっちまったし、ウチ等は降りる事にするわ。だから連合はお開き、ってことで」
なんとなしの文醜の一言に、場が一気にざわめく。
「なっ、馬鹿な!主に害を為しておきながら家臣如きが勝手を申すなど!!そも、この連合における袁家の責は重大な物。貴様等如きが軽々しく……っ!!」
「――うるせえよ」
怒気を含んだ声。その瞬間には橋瑁の首元へ大剣が突きつけられていた。
「そうだな。もしかしたらあたい等のやってるのは姫の考えとはちがうかもしれねぇ。でもよ。ウチ等は結局、姫の事が一番大事な訳。だから……」
だからこそ。
「この期に及んでまだ姫のことを利用しようとするのを黙って見過ごせるわけねえだろ?」
静かな、それでいてドスの利いた一喝。その迫力に橋瑁は腰から崩れ落ち、その場に水を打ったかの様な静寂がひろがる。
猪々子は大剣を降ろすと、あ~、と頭をかきながら続けた。
「っつってもよ。なんだかんだで姫が袁家の名前で興した連合だ。その責任くらい重々承知してるさ。だから連合盟主の責任としてこの戦は止めだ、て言ってんだ」
勿論それだけで済むかは分かったものではないが。それでもここで意地を張るよりはマシだろう。
それでもし姫の命をとるなんて事になったなら……その時はその時。自分達が命を懸けて姫を逃がすなりすればいいだけのこと。
「ま、どうしても戦いたい、てぇんだったらお前等の好きにすりゃあいいさ。やりてえ奴が矢面に立てばいいだけのことだ。あたい等は降りる。……さて。いこ~ぜ~斗詩」
「え、ちょっと待ってよ文ちゃん!!……そ、それじゃあ失礼します!」
言うなり歩き出す猪々子を、斗詩は小走りで追いかける
残された者達は、その背中を見送りつつただただ呆然と立ち尽くしていた……
こうして、主だった諸侯や有力諸侯。最後には盟主までもが停戦を表明した反董卓連合の戦は終わりを告げたのだった。
「一刀!!天和達も!!」
「久しぶり、華雄。無事でよかった」
あの後、盟主である袁紹が旗を降ろした事をきっかけに、連合は瓦解となり矛を下ろした。
それを見計らい俺達は虎牢関の董卓軍へと使者を送り、とりあえずの停戦と相成ったのだった。
そうして停戦にあたり事態がすべて収束するまでの間、連合軍側は董卓軍側の監視下に置かれる事となった。
そんなこんなで一段落。俺達は董卓軍の責任者たる彼女達と会っていた。
「あんたらが月の知り合い、っちゅう北郷と、張姉妹かい。なんや突然すぎて未だによう分からんけど、あんたらのお陰で助かったわ。おおきにな」
華雄の隣、関西弁の女性が俺の背を叩く。
「いや、礼なんて……え、っと」
「おお、挨拶がまだやったな。うちは張遼。字は文遠や。よろしゅうに。他にも後二人おるんやけど……ねね達は兵纏め取るとこやさかい、後でええか」
「張遼さん」
頭の中で名前を反芻する。確か呂布の配下で、曹操の元に行ってから名を挙げた武将だ。
「なんや。さん、なんて丁寧に呼ばんでも呼び捨てでええよ」
笑いながら張遼さ……張遼。なんだか姉御肌な感じの人のようだ。
「なら、張遼。俺は北郷一刀。北郷でも一刀でも、好きな方で呼んでくれて構わないよ」
そうして天和達や先生も、各々自己紹介を済ませたところで本題へ移ることにした。
「それで華雄。単刀直入に聞かせてもらうけど、洛陽で……というか、月に何があったんだ?」
「ああ。それは――」
苦虫を噛み潰したような渋い表情で華雄が語りだした。
曰く。洛陽へ入ったばかりの頃は良かったそうだ。しかし、洛陽は度重なる賊の出没などで治安がすこぶる悪かったらしい。
それを取り締まる為、月は軍と軍権を預かり治安の維持にあたり、功績を挙げていった。それは新たな帝、劉協様にも覚えがよく、次々に取り立てられていったそうだ。
そうして周囲や民、帝の信頼を集めていき、遂には太師の任を授かるまでになり……そこで問題が起こった。
「月様が太師となったことに各地の有力な諸侯から難色を示す声が上がってきたそうだ。詳しくは聞いていないが、その事は賈詡達が上手くやったらしい。の、だが……」
その事を発端に宮中が親董卓派と、反董卓派に割れたのだという。それでも月に多大な信を置いていた劉協陛下のお陰で表面化はしなかったそうなのだが。
「そんな時や。劉協陛下が病や、ゆうて会えへんくなってもうたんは」
嘆息するように張遼が言う。
それ以後、陛下との連絡は三公の一人、王允しか取れなくなり、押さえがなくなった事で対立が表面化。更に追い討ちをかけるように反董卓連合が……と、言う事らしい。
「……つまり」
人和が一拍。二人の話を纏める。
「その、皇帝陛下さえいれば月さんの件もかたがつく、ってことですか」
「まあ、早い話がそうなんやけどな。せやけど、そう簡単にもいかんねや」
また嘆息するように張遼。
「その王允、ちゅう奴が反董卓派の頭でな、恐らく陛下を隠しとるんは奴で間違いないや思うねんけど、全く尻尾も掴ませんのや。三公っちゅう地位もあって、ウチ等でさえ表立って探りも入れれんさかいな。……まあ、あいつは馬鹿がつく位の愛国人種やさかい、陛下には指一本分も危害は加えんやろが」
その為、今回の一件について、陛下は何も知らされないままになっている可能性が高く、力ずくで通そうにも反董卓派に口実を作らせるだけだ、とは彼女等の軍師、詠の言だという。
「……だったら、こんなのはどうかな?」
そういって俺はある提案をする為に……二人に向かって剣を抜いた。
「……どう言う事や?」
「……一刀。幾らお前達とはいえ、そのような事をするというのならそれなりの対応をさせてもらうぞ……っ!?」
二人の気配が一変、殺気を放ち俺を睨んで……ってっ!!
「違う違う!?俺が言いたいのは『ふり』だって」
「……ふりやて?」
俺の慌てように毒気を抜かれたのか、訝しげに張遼が聞いてくる。
「そう。二人は黄巾と諍いになって、捕虜になった事にするんだ。捕虜になった後ならどう動こうが言い訳は立つから月に迷惑はかからないし、そのまま陛下を見つけ出せれば何も問題は無い。だろ?」
政治的背景の所為で動けないというのなら、一旦悪者にされても――ということだ。
「……なるほどな」
俺の言い分に得心してくれたのか張遼は頷くと、俺の目を一心に見つめ……俺の首元へ、一瞬の間で堰月刀をあてがっていた。
「一つだけ聞かせえや」
ぞっとするような声色。
「月の友達らしいけど、や。月を助ける為だけにこんな大勢集めたわけや無いやろ?。連合が起こった後でこないな人数集めるんは不可能。だったらそれ以前から人集めをしとったって事や。……まあ、あんた等のさっきの言葉を聞かせてもろた限りじゃ後ろ暗い事たくらんどる訳や無いと思うけどな。……聞かせえ。あんたらの狙いは何やねん?」
真剣な眼差しで詰め寄ってくる張遼に……俺は、
「そんなの簡単だよ」
笑って答えた。
「大陸に暮らす民、皆が笑顔で暮らせるような平和な世の中だ。皆が皆、何も気にする事なく歌や踊りを楽しめるような、ね」
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大変遅くなりまして、申し訳御座いません。アボリアで御座います
黄巾党√第二十話です
二ヶ月もの間が開いてしまったこと、お待ち頂いていた方には本当に申し訳ありませんでした
本来なら先月の、自身のTINAMI一周年には間に合わせたいと思っていたのですが……結果は遅れに遅れ、今現在に至ってしまいました
……まあ、言い訳を長々と連ねても意味も無いでしょうから。
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