「頼む! あんた医者だろ?」
トウヤの声がなんだかとても遠くに聞こえてヤマトは懸命に耳をそばだてる。
「アイツを・・・ヤマトを助けてやってくれ」
(え? アタシのこと?)
「アイツは俺の、俺のたったひとりの家族なんだっっ!!」
(トウ・・・ヤ)
たったひとりの家族------そのフレーズを頭の中で反芻すると、ヤマトは意識を闇に沈
めた。
最初に目に飛び込んできたのは、天井の白っぽい間接照明だった。ヤマトはベッドに寝
かされていた。
(そっか・・・アタシ、アイを庇って爆風に飛ばされたんだわ)
次第に蘇ってくる記憶を辿ってヤマトはため息をついた。
(ハァッ、それにしてもよく生きてたもんよね)
「お、気がついたかい? お嬢ちゃん」
左頬にキズのある初老の男が顔を綻ばせてヤマトを覗きこんだ。
「は・・・はい」
恰幅のいいその男は白衣の腕をまくりながらガハハと笑った。
「そーか、そーか、よかったな」
「あなたがアタシを助けてくれたの?」
「おお、一応医者だからな。目の前で死にかけてるヤツを放っとくわけにはいかんだろが。
それに・・・・・・」
そこで片目をつぶるとドアの方を顎で指した。
「お前さんの家族に泣きつかれたしな」
(トウヤ?)
「あの・・・」
ヤマトはおずおずと声をかけた。
「ん?」
「ありがとう・・・あの・・・?」
「ガボンだ」
「あ、ガボンさん」
「ガボンで構わんよ、カワイイお嬢さん」
「え? ヤッダー、そんなカワイイだなんてホントの事・・・」
と、そこまで口走ってヤマトはハタと気が付いた。
(ちょっ・・・アタシ、人間の言葉しゃべってない? この人と普通に会話しちゃってる・・・
ウ、ウソーーーーッッ!?)
「な、なんでアタシ、コトバ?」
パニック寸前のヤマトはガバと跳ね起き、すがるようにガボンを見つめた。
「あ? ああ、いや、ちょいとな」
まるで悪戯を見つけられてしまった子供のように視線を逸らすガボン。
「もしかして・・・・・・あなたが?」
「ハハ。いいもんだろ? コトバがしゃべれるってのも」
「って、そーゆー問題じゃないでしょ? いきなりこーゆーのって・・・。大体、心の準備
がねっ」
叫びざま両拳を握りしめようとしたヤマトは、再び愕然とした。
(に・・・肉球が・・・ない)
それどころか今自分が握りしめようとした拳は、すでにネコのものではなかった。
いや、手だけではない。恐る恐る触れた己の頬に自慢のヒゲはなかった。艶やかな黒い
毛で覆われているハズのそこは、スベスベと柔らかく、人間の少女のようなふっくらとし
た剥き出しの肌だった。
(まさか------)
「お前さんに一言も断らなかったのは悪いと思っている」
顎をポリポリ掻きながらガボンが切り出した。
「だが、まあ、あの状態から命を取り留めるにはこうするしかなかったんだ」
(ホントかいな・・・)
ヤマトはジト目になりながらガボンを見上げる。
(単なるシュミなんじゃないの? このおっさん・・・)
だが、ガボンを責める気にはなれなかった。事の真偽はともかくこうして一命を取り留
めたのは事実なのだから。
最初はパニックに陥っていたヤマトも次第に落ち着きを取り戻して来つつあった。もと
もとが脳天気な性格なのである。小さな事(そーか?)にはこだわらないのだ。
「い、いやなら、その、元に戻しても、いいぞ?」
黙り込んでしまったヤマトをちらちら盗み見ながらガボンが言う。
「ううん、いいわ」
それに----と、ヤマトは思った。実はちょっぴり憧れてたりもしたのだ。人間の女の子
に。
(トウヤ、びっくりするだろうな)
ヤマトは悪戯っぽい笑みを浮かべて瞳を閉じるのだった。
手術中のグリーンのライトが消えた。
長イスに腰を降ろしていたトウヤはハッとして顔を上げる。かたわらに佇むアイもビク
ッとして身を震わせた。自分を庇ったために瀕死の重傷を負ったヤマトを思い、アイの胸
は罪悪感で今にも押し潰されそうだった。決して彼女が悪いわけではないのだが、アイは
自分を激しく責めていた。
(ヤマトにもしものことがあったら、私、トウヤに合わせる顔がないよ)
『ヤマトは家族』と言っていたトウヤの言葉が蘇り、アイはギュッと唇を噛みしめた。
手術室の扉が開きストレッチャーに乗せられたヤマトがミヤスコに付き添われて出てく
ると、トウヤとアイは弾かれたように駆け寄った。
「ヤマトっ!!」
その名を呼ばれてうっすらと目を開けたのは見知らぬ少女だった。
「な?!」
ヤマトが寝かされているハズのストレッチャーの前で、トウヤとアイは棒立ちになった。
「ちょ・・・おい、ガボン。これは・・・」
遅れて出て来たガボンを認めると、トウヤは掠れた声を漏らした。
「ヤマトはどこだ?!」
「あ? 目の前にいるだろが」
「目の前って・・・」
困惑の表情を浮かべたトウヤは、ガボンと見知らぬ少女を交互に見比べた。
「アタシはここよ、トウヤ」
トウヤの問いに答えるようにその少女はにっこり微笑んだ。
永遠に続くかと思われる沈黙を破ったのはトウヤの長~~~いため息だった。
「ウソ・・・だろ? 君が、あのヤマト・・・なのか?」
「うん」
少女ははにかむとそう答えた。
「ハハ・・・ハ、ま、そーゆーわけだ」
ガボンが悪びれもせずに言い放つ。
「最初は言葉だけ・・・と思ったんだが、そのうちこーなった」
再び深いため息をつくと、トウヤはこめかみを押さえた。
「気に入らんのか? かーなーり可愛いぞ?」
「まぁ、いいけどよ」
ガボンの脳天気なセリフにトウヤは半ばヤケクソのように答えた。
「ヤマトちゃん・・・よかった」
何にでもどんな環境にでも適応できる先天性お元気娘アイは涙を浮かべてヤマトに駆け寄り
手を取った。
「私・・・私のせいで・・・でも、助かってよかったよー」
「アイ、あなたのせいじゃないよ」
(順応している------)
ヤマトと普通に会話しているアイに、更にトウヤはため息をついた。
~《後編》につづく~
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昔出した聖霊機ライブレード同人誌より。
トウヤ×ヤマトで、ヤマトに擬人化かましました(^_^;)