No.224491

少女の航跡 第2章「到来」 24節「共闘」

ディオクレアヌ達の罠にはまったカテリーナ達。しかしながら、ブラダマンテとカテリーナは共闘し、この窮地を脱そうとします。

2011-06-24 09:13:35 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:286   閲覧ユーザー数:252

 

「私達は、お前に夢という形で、お前の役目を教えてきたはずだ。それを忘れたのかね…?」

 

 ハデスという男は、まるでカテリーナに囁きかけるように言った。

 

「夢…? どういう事だ…。私が見ているのはただの夢さ…」

 

 カテリーナは剣をハデスの方へと向けたまま微動だにしない。

 

「お前は夢の中の啓示など信じないのか? カテリーナ? まあ良い。お前の使命を教えてや

ろう。それは簡単だ。お前は救世主になればいいのさ…」

 

「救世主…?」

 

 私は、思わずハデスの言った言葉を反復していた。

 

「その救世主になるための手筈は、全て我々が整えているし…、お前はただ、我々に従って行

動すれば良いだけさ…」

 

 ハデスは、カテリーナに剣を向けられている事など、全く気にしないで話を続けていた。

 

「なるほど…、どうやれと言うんだ?」

 

 と、カテリーナが尋ねると、ハデスは手近にあった、広間の、これまた豪華な椅子に腰掛け、

優美な声で答えるのだった。

 

「ディオクレアヌが滅ぼしたこの大陸の文明の救世主となるのさ。ディオクレアヌを打ち倒し、後

に繁栄して行く事になる文明…、その第1番目の指導者になるのがお前だ」

 

 彼は微笑さえしていたし、まるで、理解し難い事を、誰でも理解できるように説明するかのよう

な、雄弁な口調さえしていた。

 

 それが、どれほどの事を言っているのかを、忘れさせてしまうかのように。

 

「ディオクレアヌが…? 滅ぼす…? この西域大陸を? さっきはあんな風に締め出したと言

うのにか?」

 

 カテリーナは、ハデスの座っている椅子に近付き、剣の刃も近付けながら彼に言い放つ。

 

「さっきはあんな風に言ったが…、あれはあれで、私達にとっても必要な人材でな…。ただ、プ

ライドが高すぎる。もう自分が世界の覇者にでもなったかのような態度を取るので、多少は思

い知らさなくては、と思ってな」

 

「奴に西域大陸を滅ぼさせて…、一体、お前達は何をしたいんだ…?」

 

 カテリーナは、更にハデスに詰め寄る。だが、彼はその態度を一行に変えようともしない。

 

「それは、お前の知る所ではない。ただこれだけ言っておこう。私達はこの文明を監視させても

らっている。いつ滅ぼすか、どのように繁栄させるかは、私達次第というわけさ」

 

「だから、私の故郷も滅ぼしたんですか?」

 

 ハデスの言葉に、私は思わず割り入っていた。

 

 彼は、私の事を知っているのかさえ怪しかったが、案の定、私の事は彼らに筒抜けであるよ

うだった。

 

「ああ…、その通りだよ。オルランド家の跡継ぎのブラダマンテ嬢。あなたのお父上は、ある時

に非常に厄介かつ邪魔な存在となるのでな…。オルランドの手中にあるものは、滅ぼさせて頂

いた」

 

 私の言葉を前にしても、ハデスの口調はまるで変わらなかった。

 

 私は、いつの間にか自分の剣を抜き放っていた。抑えられない自分の怒りをはっきりと感じ

ていた。

 

「よくも、そんな事を…!」

 

「一つ言っておくならば、これは私だけの意志ではない。我らが一族、共通の意志なのさ。それ

に、個人の恨みなどというものでもないし、国同士の戦争を起こしたいなどというものでもない。

我々はもっと崇高な目的で動いているのだ」

 

 だが、そんな言葉をハデスが並べたとしても、それは私の中の怒りをかき立てるだけに過ぎ

なかった。

 

「あなた達の勝手で…!」

 

 自分でも良く分からなかった。だが、どうやら私はハデスに斬りかかろうとしていたようだっ

た。

 

 剣を振り、彼の方へと駆け、それを振り下ろすだけで良い。それだけで、私は怒りを解き放つ

事ができるはずだ。

 

 だが、そんな私の身勝手な行為は、カテリーナの片腕で簡単に抑え込まれてしまった。

 

「落ち着け。こいつはどうせもう捕えたも同然なんだ!」

 

「だ、だけど…! この人は…! この人は!」

 

 と、わめく私を尻目に、

 

「捕えたも同然…、捕えたも同然だと? 分かっていないな、カテリーナ・フォルトゥーナよ。捕え

られたのは私ではない。お前の方だ」

 

 そう言うなり、ハデスは、軽く指を鳴らした。

 

 すると、私達の周囲、正確に三角形を描ける3箇所に、黒い歪みのようなものが現れる。そ

れは空間に突如として出現したもので、次いで、その中から赤い影が3つ現れた。

 

 赤い影のように見えたのは鎧だった。良く見なくても分かる。あの、ナジェーニカとそっくりな

姿をした3人が、私達を取り囲むかのようにして出現していた。

 

「分かっておらんようだから言っておくが、カテリーナよ。お前は既に我らが手中にあるのだ…。

それを忘れるな…」

 

 3人の、ナジェーニカにそっくりな女戦士達は槍を構え、それを私達の方へと向けてきてい

る。

 

 ナジェーニカは、自分達の種族の事を、ヴァルキリーと名乗っていた。だから、似た姿をした

この彼女らもヴァルキリーという種族なのか。

 

 ハデスに向けていた剣の刃を、ヴァルキリーなる種族の女に遮られたカテリーナ。私達は取

り囲まれる形となっていた。

 

「仕方ないようだから、力ずくで分からせてやろう…。カテリーナよ」

 

 と、ハデスが離れた所から言った。彼は戦いはヴァルキリー達に任せ、自分は傍観している

つもりらしい。

 

 幾らカテリーナと言え、この3人のヴァルキリー達を一度に相手して敵うものだろうか。以前、

彼女がナジェーニカと戦ったときは、苦戦していたわけではないにせよ、他のどんな敵と戦った

ときよりも、彼女は力を解放して戦わなければならないでいた。

 

 カテリーナはナジェーニカを3度打ち負かしているが、だからと言って、カテリーナの実力がナ

ジェーニカ3人分に勝るとは限らなかった。

 

 何より、今、私達を取り囲んでいるヴァルキリー達が、あのナジェーニカと同じ程の実力とも

限らないのだ。

 

 しかも、私も一緒にカテリーナと戦わなければならい状況にあるのだ。だが、どうやら私は蚊

帳の外に置かれているらしく、ヴァルキリー達が槍の矛先を向けた相手は、カテリーナ一人だ

った。

 

 彼女一人で、3人ものヴァルキリー達を相手にできるものかどうか、私にしてみればとても不

安だった。

 

 ヴァルキリー達はカテリーナを中心に円を組み、彼女に向って一斉に槍を突き出した。

 

 だが、次の瞬間、カテリーナはその場にいない。よく見れば、何と剣を床に突きたて、彼女は

その上で逆立ちをしているではないか。ヴァルキリー達の3本の槍はカテリーナの剣のすぐ横

で組み合っただけだった。

 

 次の瞬間。ヴァルキリー達が、カテリーナがどこに逃げたのかを探そうとする時間も無く、彼

女はヴァルキリーの円陣から脱した場所へと着地していた。

 

 カテリーナが何をしたのか、ヴァルキリー達もすぐに反応し、円陣から脱出したカテリーナに

向って槍を振るって来る。

 

 大きく振るわれて来た鉄槍を、カテリーナは剣で防御した。

 

 だが、更に別の方向からも槍が振るわれてくる。ヴァルキリー達は全く私の事など気にしてい

ないようだったが、その槍の軌道上にはカテリーナだけではなく私もいたのだ。

 

 たまらず剣で防御しようとする私。しかし、その槍の衝撃は、私の体で防ぎきれる程ではな

く、槍の動くがままに吹き飛ばされてしまう。

 

 私の飛ばされた方向にはカテリーナがいて、背中から彼女にぶつかる形となった。

 

 カテリーナの鎧の硬い部分に背中が当たり、しかも槍で挟み込まれ、かなり痛い。

「大丈夫か…?」

 

 ぶつかられた方のカテリーナは、まるで何も感じていないかのように私に言ってきた。

 

「ご、ごめん…。余計な事しちゃって…。だけど…、あなたが、3人も相手をするのが辛いようだ

ったら、私も…」

 

 2本の槍でカテリーナと私は挟み込まれている。そこに、もう一人のヴァルキリーが迫ってこ

ようとしていた。

 

「さあ…? そこまで協力してもらうつもりは無いかもしれないが…、無理はするなよ…」

 

 と、カテリーナが言った時、2人のヴァルキリーの間を飛び越えて、3人目のヴァルキリーがカ

テリーナへと槍を突き出してきた。

 

 カテリーナは即座に反応し、剣で防御していた槍を払い、正面からやって来た槍に向って剣

を構える。

 

 カテリーナは迫って来た槍を防御して、逆にそれを押し返す。カテリーナの剣は、相手の槍の

長さに匹敵するほどの刃渡りを持っていたが、それでもまだ槍の方が長さは長い。

 

 しかし逆に、懐に飛び込んでいけば、カテリーナの方が有利だった。

 

 カテリーナは、一気にヴァルキリーの一人の懐へと飛び込んでいく。相手は兜の面頬を下し

ているので、驚いたのか、どんな表情をしているのかも伺えなかった。

 

 だが、大きく振るわれたカテリーナの剣を、重い鎧を身に着けているにも関わらず、跳躍で避

けてしまう。カテリーナの剣は、彼女の先にあった、高価そうな置物を破壊したに過ぎなかっ

た。

 

 カテリーナの目の前で跳躍したヴァルキリーは、降下しながら、カテリーナへと槍を繰り出す。

更に背後からも別のヴァルキリーが彼女へと迫った。

 

 カテリーナは横に避ける事で、素早くヴァルキリーの槍2本をかわした。更に同時に振るわれ

てきた2本の槍を、カテリーナは剣1本で防御する。

 

 兜の面頬を下したまま、素顔を見せずにカテリーナへと迫るヴァルキリー達の息は、ぴったり

だった。歩幅の感覚も、組み合わせた槍の位置も、ぴったりと合わせてカテリーナへと迫る。

 

 だが、ヴァルキリーは3人いた。カテリーナへと迫る女は2人だけである。

 

 残り1人は、私が戦っていたのだ。

 

 とは言っても、私は、ヴァルキリーが振るってくる槍を、ほとんどぎりぎりの所でかわす事ぐら

いしかできなかったのだけれども。

 

 私の剣の長さは、彼女らの槍の長さの半分程度しかない。もちろん、それは動きやすくて良

い長さなのであるが、今の状況では圧倒的に不利だった。

 

 目の前に、ヴァルキリーの女が突き出す槍が迫る。それだけでもかなりの迫力があった。私

は危うい所でそれをかわす事しかできない。

 

 だが、ヴァルキリーはただ槍を突き出しただけではなく、それを横に薙ぎ払って来る。それは

私も避け切れなかった。

 

 防具の肩当てに打ちつけられた鉄槍の衝撃だけで、私はかなり吹き飛ばされる。磨かれた

床を滑り、広間のテーブルの下へと滑り込んでしまった。

 

 しかし、戦いが終わるまでこの場所に隠れさせてくれるほど、この敵は甘くは無いようだっ

た。

 

 テーブルに飛び越えてくる足音など聞える事も無く、突然、テーブルの下にいる私の側へと槍

が突き出されてくる。

 

 いきなり突き出されて来た槍に、私は思わず悲鳴を上げてしまった。だが直後、私が下に隠

れていたテーブルが激しく蹴り上げられる。同時に、上に乗っていたヴァルキリーの一人も吹っ

飛ばされた。

 

 テーブルを蹴り上げたのはカテリーナだった。

 

「やっぱりあんたじゃあ、彼女達はつらい相手かもな?」

 

 カテリーナは、ヴァルキリー2人と剣を向けたまま私に言った。

 

「でも…、カテリーナ一人で全員の相手なんてできるの…?」

 

 そう私が言った時、テーブルの上から私を奇襲して来たヴァルキリーが起き上がり、まるで何

事も無かったかのように私の方へと向ってくる。

 

 私はカテリーナと背中で向き合う形となり、それぞれ両方向から向ってくるヴァルキリー達と

対峙していた。

 

 私が一人で、カテリーナが二人だ。

 

 何が合図になったのか分からないが、ヴァルキリー達は槍を構え、私達に向って突撃して来

る。3人のヴァルキリー達によって、挟み撃ちにされる形となった。

 

「飛べ!」

 

 カテリーナが叫び、私は彼女のその合図で一緒にカテリーナと飛び上がった。

 

 直後、私の足下で、ヴァルキリー達の3本の槍が組み合う。

 

 だが今度は、彼女達は飛び上がった私達に向け、槍を上方へと向けてきた。即座にカテリー

ナは反応し、私の体を空中で押す事によって、方向を変える。

 

 彼女は空中で体勢を立て直し、剣を振り上げて、ヴァルキリー達に飛び掛って行く。槍の矛

先よりも更に短い距離にまで飛び込まれた彼女達は、その場から飛び退る事でしかカテリーナ

の剣を避け切れなかった。

 

 カテリーナの剣が、その大きさと重さに比例した力を叩き出し、磨き上げられた床を打ち砕

く。それだけでも地震が起こりそうなほどだった。

 

 一方の私はというと、カテリーナのように空中で体勢を立てなおす事ができるはずもなく、そ

のままヴァルキリーの方へと飛び込んで言ってしまう。彼女にとっては予想外の攻撃だったの

だろうか、私はヴァルキリーの一人と砲弾のようにぶつかる形となった。

 

 2人とも共に床へと投げ出される。多分、鎧を着ている分、相手の方が痛くなかっただろう。

 

 だが、私がぶつかった時の衝撃で、彼女の兜が脱げ、その顔が露わになった。

 

 血のように真っ赤な髪と瞳が私へと向けられる。あのナジェーニカと特徴は似ていたが、髪

の長さは私ほどに短いし、顔立ちも少し違う。

 

 私には彼女の顔をまじまじと見ている時間などあるはずもなかった。

 

 私の体を片手で押しのけると、その女はすぐさま槍を持ち直し、私の方へと突き出してくる。

 

 カテリーナのように剣で防御しようとするが、相手の槍の突進力の方が強く、簡単に弾かれて

しまった。

 

 更に次々と突き出されて来る槍に対し、私は防戦、いや、ほとんど逃げながら戦うしかなかっ

た。

 

 一方カテリーナは、2人のヴァルキリーを相手にし、大剣で相手の槍を弾きながら、一気に懐

深くまで踏み込もうとしていた。

 

 彼女が剣を突き出す。だが、ヴァルキリー達はとっさに横へと避け、カテリーナが突き出した

剣は、壁を突いただけだった。カテリーナはかなりの勢いと共に壁へと剣を突き出していた。そ

の破壊力は凄まじく、壁が部分的に抉れ、破片も大きく飛び散る。壁際に置かれていた置物が

幾つも砕けるほどだった。

 

 ヴァルキリー達はそんなカテリーナの攻撃を避けるだけではなく、即座に彼女の背後を突い

ていた。

 

 槍を背後から突き出される。だが、カテリーナはそんな攻撃など知っていたかのように跳躍

し、吹き抜けになっている広間の上の通路へと飛び移っていた。

 

 吹き抜けの手すりに立ち、再び剣を構えなおすカテリーナ。そんな彼女に向って、ヴァルキリ

ー達も再び飛び掛って行った。

 

 私と対峙しているヴァルキリーが、跳躍し、私目掛けて、その槍を、落下の速度と共に突き出

してくる。それは、まるで砲弾が迫って来るかのごとくの迫力だった。とっさに背後に飛び退って

避けようとするが、砕けた床の破片が私に襲い掛かる。更に、ヴァルキリーの攻撃はそれでお

しまいではなく、更に槍を軸にして蹴りを放ってくるではないか。

 

 私は両足で繰り出されたその蹴りに、たまらず吹き飛ばされるしかなかった。

 

 再び、磨かれた床を、氷の上を滑るかのような形になって滑った私は、壁際にあった、金の

像を置いた台にしたたかぶつかり、その上にある像を床に落としていた。

 

 そんな私に容赦をしてくれるはずもなく、ヴァルキリーが目の前から一気に迫って来る。槍を

構え、私にはもう避けているような暇も無い。

 

 とっさに、側に転がっていた金の像を自分の前に構え、それを盾代わりにして、槍を防御しよ

うとする私。

 

 幸い、彼女の突き出してきた槍は、金の像のおかげで私をそれてくれた。私はとっさに手に

持った金の像を相手に投げつけ、押し倒すと。剣を構え直し、相手と距離を取った。

 

 ヴァルキリーは金の像を払いのけ、私に向って槍を振ってくる。私はそれを左腕に付けた盾

を使って防いだ。

 

 広間の吹き抜けの上層階ではカテリーナが戦っている。彼女は2人のヴァルキリーに両側か

ら挟み込まれる形になりながらも善戦していた。片側の槍を防御すると、次の瞬間には振り向

きざまに、反対側の槍をも防御する。

 

 更に彼女は意図的に、その槍を反対側のヴァルキリーの槍と組み合わせさせた。

 

 そこにできた一瞬の隙で、カテリーナは大剣を振るい、それをヴァルキリーの一人へと叩き

付けた。

 

 彼女の鎧が砕け、そのまま吹き抜けの通路の柵をも突き破ってヴァルキリーの一人が広間

のテーブルの上へと転がり込んでくる。

 

 更にカテリーナは、もう一人の目の前のヴァルキリーの槍を、剣を使って叩き斬る。すると、

いかにも頑丈そうな鉄槍は中心の部分で、まるで捻じ曲げられたかのように切断されてしまっ

た。

 

 更にカテリーナは槍を叩き斬った剣を再びヴァルキリーの方へと戻し、彼女の体に叩き付け

ようとした。

 

 ヴァルキリーはとっさに、剣を飛び越え、今度は彼女に向って脚蹴りを繰り出してくる。

 

 今度は、ヴァルキリーに、自分の懐深くへと踏み込まれる形となったカテリーナ。剣を振るう

よりも素早く攻撃を繰り出されれば、彼女も不利だった。

 

 ヴァルキリーの蹴りをかわしたカテリーナは、素早く相手との間合いを取ろうとする。

 

 ヴァルキリーは再び蹴りを繰り出して来たが、カテリーナは彼女の脚を剣で払い、無防備に

なった彼女の体に、今度は自分が蹴りを入れて攻撃した。

 

 カテリーナの蹴りを思い切り食らったヴァルキリーは、無防備なまま柵を突き破り、広間へと

落下した。

 

 私はヴァルキリーと、鍔迫り合いをする形になっていた。剣と槍が組み合わさり、お互い、一

歩も引かない状態が続くが、体格も力も相手の方が上だった。私の方が押し負けて、背後の

壁へとぶつけられてしまった。

 

 ヴァルキリーは槍を突き出してくる。壁にぶつけられた直後ながらも、私は何とかその槍をか

わす。

 

 すると、彼女の槍は、私の背後にあった壁へと深くめり込んだ。彼女は槍をすぐに戻そうとし

たが、どうやら深くめり込んだ槍を戻す事に手間取っているようだ。

 

 私はとっさに剣を突き出し、ヴァルキリーに突きを食らわせようとする。もちろん、私の力でも

剣でも、彼女の鎧を貫く事はできないから、その隙間を狙った。

 

 肩と胸の間の隙間に、私の剣が炸裂した。私にとっては全力で突き出して行った。

 

 ヴァルキリーは後ろによろめき、槍から手を離し、更に後ろに尻餅を付く形となった。

 

 そこへ、上階からカテリーナが飛び降りて来て、剣を背中に戻す。彼女は足元で倒れている

ヴァルキリー達の方は眼もくれず、椅子に座ってこの様子を傍観しているハデスの方に目をや

った。

 

「どうだ? こんなものさ」

 

 カテリーナはそう言い、再び大剣をハデスの方へと向けるのだった。

 

「次はお前の番だぞ…。もちろん、お前が抵抗しないのならば、少しはましに扱ってやるが…」

 

 だが、そんな凄みを利かせたカテリーナの声などハデスは無視していた。

 

 そして、変わらない優美な口調のまま彼は話した。

 

「見事なものだ。だが、お前達にはこの私を捕らえている暇などないはずだぞ。こうしている

間、ディオクレアヌを連れて逃げ去ったお前の仲間達はどうしていると思う? 忘れているかも

しれないから言っておくが、ここは革命軍とやらの本拠地であるという事を忘れるなよ」

 

 ハデスは、相変わらずの落ち着きを払ってそう言うのだった。

 

「しまった」

 

 その直後、カテリーナにしては珍しい言葉が彼女の口から漏れた。

 

「仲間達の方を助けに行くか? それも良いだろう。どちらにしろ、お前達はこの土地から脱出

する事はできない。しかも、私は、いつでもお前の側に行く事ができるのだからな…」

 

 そう言うとハデスは、今度は自分自身が椅子ごと、黒い歪みのようなものの中へと呑み込ま

れて行く。

 

「お前は強い…、強すぎるほどだ。カテリーナよ。我々は是非、お前のその力が欲しい。だが、

今はお前の方から協力する気にさせないと、な…」

 

 ハデスはその言葉を最期に、空間の歪みの中へと姿を消した。

 

 カテリーナは彼の後を追おうとしたが、歪みは彼女の前でぷっつりとかき消えてしまうのだっ

た。

 

「ど、どうやったの…」

 

 私は尋ねるが、カテリーナは背中で答えた。

 

「分からない…。だが、今はその扉を開いて、ルージェラ達を追わないと…。彼女達が危険だ」

 

 カテリーナは答え、私の背後にある、大きな扉に向かって駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

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25.疾走


 
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