No.224484

安城鳴子の憂鬱 超平和バスターズの日々

あなるから見た本編を再構成作品です。原作知らない方にも楽しんで頂けるように努力していますので未見の方もどうぞご閲覧ください。 この作品はアニメ1~2話の部分に該当します。なお、あなるの知りえる情報を元に肉付けして作品を作っているので、本編とは異なった物語となっています。女装王子ブレイクから本領を発揮しますが、しばらくお待ちください


魔法少女まどか☆マギカ
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2011-06-24 07:12:03 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4093   閲覧ユーザー数:3824

安城鳴子の憂鬱 超平和バスターズの日々

 

 

1 後悔

 

「みっともないのは……私だ」

 数時間前の自分の言動を振り返って改めて思うことは自分のバカさ加減。

 アタシは自分のバカさはよく理解しているつもりだった。

 この近隣では学力最低の緑ヶ丘高校に通い、その最低学校の中でも成績は下から数えた方が早い。

 バイト先ではレジ打ちを覚えるだけで1ヶ月掛かり他の作業もよくヘマをやらかす。

考え直すまでもなくアタシはバカだった。不器用だった。

 でも、そんなアタシだからこそ慢心しないように、失敗しないように日々用心しながら暮らしている。

 その、筈だった。

 でも、できなかった。

 気になる幼馴染の宿海仁太(やどみ じんた)を前にしてアタシの用心などは紙切れのように軽く吹き飛んでしまった。

 入学早々不登校になり、引き篭もりになってしまった宿海に以前のような眩しさを取り戻して欲しかった。一緒に学校に通いたかった。

 けれど、天邪鬼なアタシの言動はその想いとはまるで裏腹に宿海を怒らせてしまった。宿海の社会復帰を遠ざけてしまっただけだった。

 

 

 宿海仁太はアタシの幼馴染。昔は名前をもじって、じんタンとあだ名で呼んでいた。

 幼い頃はぽっぽやゆきあつ、つるこ、めんまたちと一緒にいつもみんなで遊んでいた。

 宿海はグループのリーダー的存在で明るく頭も良くて統率力に優れていた。そんなアイツはアタシの初恋の男の子だった。

 我ながらマセた子供だったとは思う。でも、あの頃の宿海は今思い出しても眩しいぐらいに輝いていた。本当に格好良かった。

 でも、そんな太陽みたいに眩しかった宿海は大きく変わってしまった。

 

 最初の、そして多分最大のきっかけはめんまこと本間芽衣子が死んでしまったこと。

 宿海はめんまのことが好きで、めんまも宿海のことが好きに違いなかった。

 めんまは可愛くて、明るくて、和やかで、ひまわりみたいな娘だった。

 太陽とひまわりでとてもお似合いな2人。

 アタシなんか付け入る余地がまるでないぐらいめんまは魅力的な女の子だった。グループのマスコットキャラみたいにみんなに可愛がられていた。

 

 そんな愛されめんまの死はあまりにも突然すぎた。

 もう5年以上前のことになったあの夏の暑い日に起きた悪夢。

 めんまはアタシたちが秘密基地に使用していた、小山の中腹にある資材小屋から駆け出していき、途中で足を滑らせて沢に転落。そしてそのまま帰らぬ人となった。

 アタシたちはめんまの死を受け入れることができなかった。

 そしてめんまが秘密基地から急に駆け出していったきっかけに心当たりがあり過ぎた。

 めんまの死、そしてその死を招いたアタシたちの責任は受け止めるにはあまりにも大き過ぎる衝撃だった。

 その結果、アタシたちはいつしかグループで集まることをやめるようになった。集まるとめんまのことを思い出してしまうから。その悲しみと責任の重みに耐えられないから。

 そしてアタシたちはめんまという娘を失った傷を抱えながら個々に生きるようになった。

 その中でも宿海が負った傷は大きかった。今も宿海は大きな傷を抱え続けているのは間違いないと思う。

 

 変貌の理由の二番目は、宿海のお母さんである塔子さんが病気で亡くなったこと。そしてそのショックを引きずって高校受験に失敗してしまったこと。

 アタシたちにも優しくて蒸しパン作りの上手だったおばさんの死が宿海の心に大きな衝撃を与えたことは想像に難くない。アタシだって大きなショックを受けた。

 そして、その心の動揺が元で受験に失敗してしまったことは現在の宿海の生活を大きく規定してしまった。

 宿海が通う筈だったのはこの学区で一番優秀な進学校。そして実際に通うことになったのはアタシが通う一番の底辺校。

 そのギャップは宿海を入学から僅か1週間で不登校へと追いやってしまった。

 宿海は最初の1週間足らず学校に来ただけ。それから8月末日の現在に至るまで1度も学校に足を運んでいない。

 

 

 アタシは1学期の終業式の日、先生から夏休みの宿題を宿海に渡すように頼まれた。ついでに再び学校に通うように励まして欲しいとのことだった。

 気乗りのしない依頼だった。

 けれどアタシ以上の適任者がいないのも確かだった。多分宿海はアタシ以外に今の学校に知り合いが全然いない。

 だから渋々だったけどプリントの束を受け取った。プリントはずっしりと重かった。

 

 プリントを受け取ったものの、アタシはそれを宿海に届けることができなかった。

 気が重くて宿海の家に行けなかった。

 不登校で引き篭もりの男子生徒の家に行くのが嫌なんじゃない。

 幼馴染の宿海仁太の家に行くことがどうしてもできなかった。

 そうこうしている内に夏休みはどんどん過ぎていった。

 そしてアタシは休みが残り2日となった今日になって宿海の家を訪れた。

 先生から話を聞いたらしいお母さんに催促されたので重い腰をようやく上げた。

 

 宿海の家に行くに当たってアタシがしたことは精一杯のお洒落だった。

 とっておきの服を着てネールを鮮やかなピンクに塗り直した。化粧だってバッチリした。

 何故、と訊かれてもアタシ自身返答に困る。

 宿海に綺麗なアタシを見せたいと思ったことは認める。

 けれど、そんな願望が何故沸き起こって来たのか自分でも説明し切れない部分がある。

 初恋の王子様を今でも追い求めているとかそんな単純な話じゃない。

 だって、今の宿海は見ていると凄くイライラするから。腹が立って止まないから。

 でも、それでも宿海に一番綺麗なアタシを見せたかった。

 アタシは明らかに矛盾していた。

 そしてその矛盾は宿海との久しぶりの再会で思いっきり露出してしまった。

 

 

「何やってんの?」

 宿海の家の玄関を開けた瞬間、宿海は玄関脇の虚空を見ながらアクションを起こしていた。何もない空間に向かって手を伸ばしていた。

 そんな不可解な宿海の姿を見た瞬間、アタシは自分のペースを崩してしまった。

「落ち着けって!」

「別に焦っちゃいないけれど……」

 久しぶりに会った宿海にいきなり指摘を受けるほどにアタシは動揺していたらしい。

 でもその動揺さえもよく実感できなくて奇妙な沈黙がアタシたちを包み込んだ。

 視線も合わせられない変な空気に浸っていると、今度は突然肩が重くなった。

「何か、肩重い」

 肩が重くなるような運動や長時間の勉強をした覚えはなかった。

 かといって漫画に出て来る巨乳キャラのように胸のせいで肩が凝ってと自慢したい訳でもない。

 そう、まるで、幽霊に乗っかられているように感じ。

 って、アタシもおかしい。

 宿海を前にしてアタシは少しも平常心でいられなかった。

 

「で、何?」

 用件を訊いてきたのでアタシは封筒にぎっしり詰まったプリントの束を宿海に見せた。

「これ。先生に頼まれていた夏休みの宿題」

「今頃? 夏休みってもう2日しか……」

 宿海が夏休みの残り日数を把握しているのは意外だった。

 そして、それはアタシにとってほんの少しだけ嬉しい情報だった。

 だってそれは宿海が学校に未練を感じている証拠に他ならなかったから。まだ学校に行く気がある証拠となる発言だったから。

 でも、アタシはそれを素直に表現できなかった。

「宿海と違って色々忙しいの」

 アタシの口から出たのは正反対の言葉だった。ただの憎まれ口となっていた。

「だったら捨てりゃいいだろ、こんなもん! どうせあんなアホ高校行く気なんてねえし」

 そして宿海も嫌悪感を隠さずにアタシとのコミュニケーションチャンネルを切ってしまった。

 

 最初よりも遥かに嫌な沈黙がアタシたちを包み込む。

 そしてアタシは言ってはいけない一言を口にしてしまった。

「けど……アンタ、みっともないよ」

 それは偽らざるアタシの本音。

 でも、社会復帰の為に内心はずっと苦しんでいるに違いない宿海に言うべき言葉でないことぐらいアタシにだってわかる。

 そして、アタシには言う資格もない言葉であることはもっとわかっていた。

だって、みっともない人間がみっともないなんて言葉を使って良い正当性はどこにも存在しないのだから。

 

 それでもアタシは宿海に「みっともない」と言ってしまった。そして自分の発言の重みに耐えられなくなった。

 宿海は逡巡した後、真剣な表情でアタシを見ながら口を開こうとした。けれど、その閉じられた口から言葉が吐き出されることはなかった。

 宿海自身も現状に満足していない。不登校・引き篭もりからの脱却を望んでいる。だから、自分を擁護する言葉が出せない。

 そんな宿海の内面の葛藤がアタシにも見て取れた。

 だからアタシは自分の発言を撤回するか、宿海の反論を待って聞き入れるべきだった。

 あの言葉を言いっ放しにしてしまうのは良くなかった。宿海の社会復帰の為にも何かフォローを入れるべきだった。

 でも、アタシには何も選択できなかった。

「じゃあね」

 短くそう告げると、足早に宿海の元を去った。

 家を出てから立ち止まって塗り直したネールを見たけれど、もう後の祭りだった。

 

「あー……もぉ……」

 結局、何の為に宿海の家に行ったのだかわからない。

 宿題を渡すという指令はクリアしたものの、宿海が一層の学校嫌いになってしまったのでは何の意味もない。

 気合を入れたファッションは話題に上ることさえなかった。宿海はきっとアタシが普段よりもお洒落していたことにさえ気付いていないと思う。

 そしてアタシが宿海をどう思っているのかもよくわからないまま。

 久しぶりに顔を見れただけで嬉しかったのは確か。

 学校に未練を残していることを知っただけでも嬉しかったのも確か。

 でも、口から出たのはみんな憎まれ口。

 そして、昔は太陽みたいに光り輝いていた宿海が暗く引き篭もっている姿を見るとムカムカするのも確か。

 お母さんはそれを

「おー、思春期思春期」

 なんて表現で茶化してくれる。

 確かにアタシの悩みは“思春期”という単語一つで表せるものなのかもしれない。

 でも、その単語一つはアタシにはあまりにも重過ぎた。

 そして、アタシはみっともなさ過ぎた。

 枕に深く深く顔を埋める。

 後悔だけがアタシの周囲をグルグルと渦巻き続けていた。

 

 

 

2 友達

 

 友達って何だろう?

 たまにそんな哲学してみたくなる。

 

 幼い頃のアタシには宿海、めんま、つるこ、ゆきあつ、ぽっぽという友達がいた。

 6人で秘密基地を共有し、超平和バスターズという正義の組織まで作った仲。

 大切な友達だった。

 けれど、その超平和バスターズの友情はめんまの死によって呆気なく崩壊してしまった。

 

 そして今のアタシには春菜(はるな)と亜紀(あき)というクラスメイトの友達がいる。

 春菜はサロンに行って肌を焼いている、一昔前のギャルタイプの少女。

 性格は自己中心的で良くも悪くも自分の価値基準とペースで動いている。

 漫画で言うとジャイアンの女版。そんな感じ。

 亜紀はショートヘアで化粧の仕方なんかも今風の女の子。

 性格は春奈とは対照的に他律的で状況と相手によってクルクル風見鶏みたいに対応を変える。虎の威を借りてやたら大きく出たり、反対に亀の様に小さくなったりと差が激しい。

 漫画で言うとスネオの女版。そんな感じ。

 

 そんな2人なので学校内での評判は良くない。春菜と亜紀の交友関係は極端に狭い。

 そしてそんな彼女たちにくっ付いて回っているのがアタシ。

 そう説明すればアタシの現在の学校でのポジションを容易に理解してもらえると思う。

 

 元々アタシは見た目が地味で根暗な性格で人付き合いも下手だった。

 加えて高校デビューを決めて明るく華麗な自分になろうとしたのが失敗を招いた。

 

 太ブチメガネをコンタクトに変えてみた。

 癖っ毛セミロングの髪を伸ばして両サイドで結んでツインテールに変えた。髪を染めて茶にしてみた。

 その他にもネールを塗ってみたり、化粧をしてみたりと様々なイメチェンを施した。

 自分で言うのも何だけど、外見は中学時代に比べてかなり可愛くなったんじゃないかと思う。

 けれど内面は何も変わらなかったのでそのギャップに周囲から浮いてしまった。

 派手系の子たちのテンションに付いていけず、真面目系の子たちには外見で避けられた。

 気付けばアタシはクラスで浮いた存在になっていた。そして同じように浮いていた春菜たちの所しか身の寄せ場がなかった。

 そうしてアタシは春菜たちのグループに仲間入りした。その結果、教室内では更に浮いた存在として見られるようになった。

 

 春菜と亜紀がアタシの友達なのは間違いない。

 いつも一緒に行動しているのはこの2人なのだし、イジメに遭っている訳でもない。

 でも2人は時々、アタシに対して友達をしてあげてるんだという上からの態度を取ってくることがある。

 アタシもそれに合わせて友達してもらってますという下からの態度を取ることがある。

 それはアタシが知っている超平和バスターズの友達とはまるで違う関係だった。

 だから友情って何なのかって考えてしまう時がある。

 

 

 宿海の家を訪れた日の翌日の夜、アタシは超平和バスターズの一員だったつること再会を果たした。

 でもそこにかつてのような友情は全く感じられなかった。

 あったのはつるこからの侮蔑と拒絶。そしてアタシからの反発だった。

 

 つるここと鶴見知利子(つるみ ちりこ)は外見と中身が一致する堅物メガネ優等生。

 おまけに自己中心的で他人を見下すことに何の躊躇も示さない嫌な女になっていた。

 

 そのつることの再会はファーストフード、ワックドナルドの店内のことだった。

 その時アタシは店内で春菜と亜紀の話を聞いていた。

 2人は昨日アタシが訪問した宿海の悪口を面白がりながら喋っていた。

 その話は聞いていて全然楽しいものじゃなかった。

 アタシは愛想笑いを浮かべながらも宿海の悪口を止めようと何気なく口を挟んでいた。

 でも、2人の悪口は止まらない。

 そんな時だった。

 隣の席に座っていたメガネの少女が如何にも不満という感じで大きな音を立てながら店外へと出て行った。

 その時になってアタシは初めて隣に座っていたのがつるこだったことを知った。

 つるこはノートを店内に忘れていた。

 アタシはそれを持ってつるこを追い掛けて外へ出た。

 

「つるこ……鶴見さんっ!」

 追い掛けながらつるこを何と呼ぶか躊躇った。

 つることは超平和バスターズが崩壊して以来疎遠になっていた。ここ数年、まともに会話した記憶もない。

 かつて毎日遊んだ友達は、今では何と呼べば良いのか分からない程に他人になっていた。

「ちょっと待ってよ! 忘れ物!」

 信号を渡った所でようやく追い付く。

 けれどここでつるこは思ってもみない行動に出た。

 不機嫌そうな顔をして近寄って来たかと思うと、乱暴にノートを引っ手繰ったのだ。

 おまけに発した一言が酷かった。

「こういう時は放っておいてくれて良いから」

「へっ?」

 礼を言われるどころかダメ出しされてしまった。

「みど高の子と話している所を誰かに見られたら恥ずかしいし」

 そしてつるこがアタシのことをバカにしているのだと知って頭に来た。回り込んで文句を叩きつける。

「人がせっかく持って来てやったのにっ!」

「頼んでないから」

「ハァ?」

 上から目線のクソ生意気なガキみたいな屁理屈をこねるつるこにアタシの怒りが最高潮に達した。

「いつからそんな偉そうになったの、アンタ? 昔はいつもオドオドしてて!」

 昔の彼女からは想像もできないほどの鉄面皮の冷血女につるこは変わり果てていた。

 だけどそんなアタシの非難もつるこにはどこ吹く風だった。

「そっちは変わってない」

 自分の変化を当然のように受け止めるつるこ。

 そのつるこの悠然とした態度にアタシの方が面食らった。

「昔から他人に影響されやすかったから、貴方。一緒にいた股の緩そうな女たちとそっくり」

「グッ」

 そして歯に衣着せぬ辛らつな物言い。

 つるこの言い分に間違いはなかった。アタシの現在のファッションセンスやメイクは明らかに春菜と亜紀の影響を受けたものだった。

 つるこは勉強をこなしながら横目で現在のアタシという存在を看破していた。

 

 でも、その次につるこは口にしちゃいけないことをごく平然と述べた。

「昔はいっつも本間芽衣子の真似してたのに」

 その一言はアタシの中の何かに大きな炎を燃え上がらせた。

「死んだ娘の名前、軽々しく口にすんなっ!」

 叫びながら脳裏にめんまの姿が思い浮かぶ。

 その姿を思い出したらもうダメだった。

 涙が毀れて止まらなくなってしまった。

「自分で言って自分で辛くなるなんて。救えないわねホントに、貴方も。……ゆきあつもそう」

 つるこは何か重要なことを言っている気がした。でも、何が重要なのかアタシにはよくわからなかった。

「じゃあね」

 そしてつるこは何の補足説明もないまま場を立ち去っていった。

 

 

 つるこが去ると、頭に思い浮かぶのはめんまのことばかりになっていた。

「めんま……」

 立っていられなかった。地面にしゃがみ込んで必死に悲しみに耐える。

 大好きで、大好きで大好きで大好きで、でも羨ましくて悔しくて憎らしくて。アタシには持ってないものを沢山持っていた親友のことを考えると胸が張り裂けそうだった。

 

 アタシはめんまみたいになりたかった。

 じんタンやみんなに好かれるめんまが羨ましかった。

 だからつるこの言う通り、幼い頃のアタシはよくめんまの真似をしていた。

 でも真似は真似でしかなかった。

 本物の輝きには敵わなかった。

 それはめんまに対する嫉妬を含んだ対抗心となって現れた。

 その嫉妬の最たるものが、めんまが事故で帰らぬ人となったあの日の出来事だった。

 

『ねえ、じんタンってさ』

『うん?』

 秘密基地の中でアタシは意を決して尋ねた。

『めんまのこと、好き、なんでしょ?』

 それは質問であり、誘導尋問でもあった。

 アタシはじんタンを、宿海をけし掛けていた。

『だ~れが、こんなブスっ! あっ……』

 そしてじんタンはアタシが望んだ通りの回答をくれた。

 アタシがめんまの死の間接的な原因となった瞬間だった。

『えへへぇ』

 アタシが誘導したじんタンの酷い答えを聞いてもめんまは笑っていた。

 

 何故めんまはあそこで笑ったのか。

 女の子同士として理解できる部分もある。けれど、それだけじゃ説明できない部分がある。それは、めんまという女の子だけが持つ自身の性格に関する部分。

 言い直せば、あの笑いの不可解さはアタシがめんまをよく理解していなかった証拠。

 きっと、宿海も同じだったのだと思う。

 宿海はめんまの笑顔に耐え切れずに秘密基地を逃げ出した。

『待って、じんたんっ!』

 めんまは逃げ出した宿海を追い掛けて外へと出た。

 そしてめんまが秘密基地に戻って来ることは2度となかった。

 

 アタシは一番大切な友達のことさえよく理解していなかった。

 その無理解はめんまの死という最悪の結果を招いた。

 そしてその大き過ぎる失敗からアタシはまるで何も学んでいない。

 ただ状況に流されるままの自分を続けている。

 めんまは死んで、めんまを死に追いやった自分は生き残っているというのに。

 

 

 携帯がやかましい音を奏でる。

 追憶と後悔の世界から引き戻されて慌ててメールを確かめた。

 メールの差出人はバイト先のCD・GAMEショップの店長だった。

「やっばっ!」

 メールの内容はアタシがシフトの時間になっても来ていないことへの理由説明を求める、要するにお説教だった。

 アタシにこれ以上過去や友情について考えている余裕はなかった。

 運動は苦手だけれど、全力疾走でバイト先へと向かった。

 

 

 

3 ゲーム

 

 かつてめんまはアタシという人間を説明するのにこう述べていた。

 

『みんなに優しくてゲームとか漫画とかいっぱい持ってて……』

 

 当時のアタシはめんまの言う通り、漫画やゲームを沢山持っていた。

 そして集めたものを几帳面に分類して整理整頓しながら大切に保管していた。

 ゲームであれば、ケースから説明書まで含めて全部大切に取っていた。

 そんな少女時代だったので、“ゲーム博士”“ゲームマスター”などのあだ名はよく付けられたりもした。

 そしてそんな収集癖や整頓癖は現在になっても続いている。

 ゲームや漫画は好きだし、集めたものは整理整頓しておかないと気が済まない。

 おかげでアタシの部屋は積み重なったカラーボックスで一つの壁が形成されている。

 そんなアタシがCD・GAMEショップをバイト先に選んだのはごく自然な成り行きだった。

 けれどゲームが好き、整理整頓が好きというのとそれを仕事にするのでは次元が異なる。

 アタシは前に述べた通りにバカで不器用なので、このバイトが向いているとはお世辞にも言えなかった。

 そろそろバイト歴も5ヶ月に入るというのに店長からの信頼はまるでない。

 おまけに今日はつるこに構い、めんまのことを思い出している内に大遅刻してしまった。

 軽く死にたい気分に駆られながらバイト先へと向かう。

 

「遅くなりました」

 エプロンを巻きながら店内へと入る。

 すると、とても珍しい人物を発見した。

「あっ」

 昨日気まずくなって別れた宿海だった。

 宿海は似合わないニット帽とメガネを掛けていた。

 引き篭もりになってから他人の目をやたら気にするようになった宿海の下手なファッションだった。

 正体を隠せていないのだから何の意味もない下手な変装。

「やあ」

 その宿海は昨日のことをなかったかのように、ぎこちない表情で気さくを装った声を掛けて来た。

 トラブルの、臭いがした。

 

「はあ? のけモン?」

 宿海が尋ねた商品名はあまりにも予想外のものだった。

 のけモン……のけぞりモンスターはアタシが小学生の時に大流行した携帯用ゲーム。

 超平和バスターズのみんなも大嵌りした。

 けど、それはあくまでも昔の話。最近の新作はそんなに人気ない。

 そして小学生をメインターゲットに据えたこのゲームは高校生向きとは言い難い。

 画面に出て来る文字なんかみんな平仮名だし。

「客が買うもんに文句付けんのかよ?」

 アタシのバカにした響きを含んだ返答に対して宿海は不満の声を上げた。

 けど、アタシから言わせてもらえば宿海の行動の方が意味不明。

 少なくても中学の時のコイツがのけモンに嵌っているということはなかった。

 何で今更のけモンなのか理解できない。

「のけモンのどれですか? オパール? エメラルド?」

 最近販売されたのけモンの種類を空で述べる。

 すると宿海は恥ずかしそうに小さな声で返答した。

「……金」

「はぁ? のけモン金? 何年前に出たやつよ、それ」

 宿海の答えはアタシを驚かせ、呆れさせた。

「とにかく、あるなら売ってくれ! つーかさっさと売れ」

 宿海の顔は真っ赤に染まっていた。

 

 宿海の行動に不審なものを感じながらも、店員としては応待せざるを得ない。

「4571円です」

「5年前に出たゲームが定価ってぼってないか?」

 宿海は値段に不満があるようだった。

「言っとくけど、良心的な値段なんだから。もうなかなか手に入らなくて、プレミア付いているんだから」

 商品を乱暴に宿海に渡す。

 新品だったから定価で販売できた。

 これが中古だったら少なくても1万円はしている。

 これはそういう商品。

 けれどアタシはそんなプレミア価値よりも、何故宿海が昔のハードでしか動かないこの古典ゲームを買おうとしているのかがずっと気に掛かっていた。

 超平和バスターズのみんなで遊んでいたこのゲームを。

 その時、アタシは先ほどのつることの会話を思い出した。

 そしてのけモンが大好きだった今は亡き友達の顔が脳裏に浮かび上がった。

 その瞬間、アタシの頭の中で宿海が何故このゲームを買おうとしたのか、その理由が像を結んだ気がした。

 

「サンキュー」

 宿海は商品を受け取って店を去ろうとする。

 アタシは袋を手放すことができない。

「何してんだよ?」

 宿海が不審げな視線をアタシに向ける。

「宿海、さあ」

 アタシは、宿海にそのゲームを買った理由を尋ねようとしていた。

「えっ?」

 でも、宿海が疑問の声を上げたことでアタシは正気に返った。

 バイト中に、何を尋ねようとしているのだろうか?

 頭を切り替えるべくわざと丁寧に頭を下げる。

「何でもない。ありがとうございました」

 宿海にそのゲームを買った理由を訊きたい。

 めんまの為に買ったのか確かめたい。

 けれど、訊きたくても訊けなかった。

 今のアタシにそれは出来ないことだった。

 宿海との距離が遠過ぎた。

 

 

 翌日、学校が終わったアタシは早めの帰宅を済ませていた。

 着替え終わってベッドに寝転んでいると写真楯が目に入ってきた。

 超平和バスターズのみんなと撮った懐かしい写真。

 その中でも特に可愛い女の子をジッと眺める。

「やっぱり……可愛いなあ」

 悔しいけれど、当時のアタシに比べてめんまは圧倒的に可愛かった。

 宿海が今になってもめんまのことを忘れられないのも納得してしまうぐらいに可愛い。

 

 あの頃、アタシは自分の癖っ毛やメガネが大っ嫌いで、サラサラの髪のめんまが、じんタンに好かれるめんまが羨ましくて仕方がなかった。

 でも、めんまはアタシのそんな醜い感情には全然気が付いてなくて、アタシに沢山の大好きを示してくれた。

 

 その日もアタシは超平和バスターズのみんなと秘密基地でのけモンをして遊んでいた。

『あなるぅ。シールお揃えしよ』

 めんまがすぐ隣に駆け寄って来た。

『へっ?』

 わけがわからないアタシに対して、めんまは自分の携帯ゲーム機に貼ってある犬のシールを見せてくれた。

『ほらっ、これ。可愛いでしょ。1個あなるにもあげる』

 そういうとめんまはアタシの返答を待たずに、アタシのゲーム機に同じシールを貼った。

『はい』

 めんまはとても満足そうな表情を浮かべていた。

『うん』

 アタシもその場では頷いて見せた。

 けれど、家に帰ったアタシはそのシールを指で懸命に剥がそうとしてた。

 シールのデザインが気に入らなかった訳じゃない。

 めんまが貼ったシールだから剥がしたい衝動に駆られていた。

 アタシは、めんまが大好きなのに、めんまが大嫌いだった。

 アタシが望むものを何でも持っているめんまが大好きで、大嫌いだった。

 大切な友達に一方的な負の感情を抱いている自分が嫌だった。

 

 めんまのことを思い出していると涙が止まらない。

 めんまに会って謝りたい。

 けれど、それはできない。

 めんまは死んでいて、アタシは生きているから。

 

 何で、あんな良い子が死ななければならなかったんだろう?

 そんな悲しみに浸っていると、お母さんの声が聞こえた。

「鳴子ぉ。ちょっといい~?」

 

 お母さんに頼まれた仕事は家庭菜園への水遣りだった。

 もう9月に入っているというのに、お母さんのトマトは大きな実を沢山付けていた。

「もぉ~人使い荒いんだから」

 トマトの栽培には結構な量の水を必要とする。

 庭で栽培されているトマトの苗全部に水をやるとなると、ジョウロでちまちまとはやっていられない。

 水道水をホースで引っ張ってきてシャワー状にしながら盛大に撒く。

 すると、敷地の外から男たちの会話が聞こえて来た。

「ここだって」

「そうだっけ?」

 1人は宿海の声で間違いなかった。

 そして、軽そうな調子で喋るもう1人の声は……。

「よぉ~あなる~」

 昔は超平和バスターズで誰よりもチビだったのに、今じゃ誰よりもでかくなっているぽっちゃり体型の男の顔が見えた。

 その隣には宿海の顔も。

 アタシは無言のまま2人に向かってホースの先端を向けた。

「何故ぇっ!?」

 ホースの水が直撃した宿海の情けない声が耳に響いた。

 

 

 水を掛けてしまったお詫びということもあって2人にはうちに上がってもらった。

 会話から察するに2人がアタシに会いに来たことは間違いなかった。

 なので、居間でタオルを手渡しながら早速用件を聞いてみることにした。

 で、

「何それぇ? わたしまでのけモン? あり得ないんですけどぉ」

 出て来た答えはアタシの予想の斜め上を行くものだった。

 アタシとのけモンで遊んで欲しい。その為に2人は数年ぶりにうちに尋ねて来たのだ。

「いいじゃん偶には。童心に戻ってさ。なっ、じんタン?」

 でかぽっちゃり、ぽっぽは笑みを浮かべながら用件を重ねて押してきた。

「ああ」

 昨日のけモンを買っていった宿海の方は微妙な表情でアタシを見ている。

 一体、どういう流れになっているのか本気でわからない。

 と、そこでぽっぽが瞬きを繰り返しながらアタシを見た。

「あれ? メガネは?」

 この男は再会した瞬間にアタシのことを安城鳴子と認識した癖に、アタシが出迎える際にメガネを外したことに気付いていないようだった。

 この鋭いんだか大らかなんだかよくわからない点はいかにもぽっぽらしかった。

 ぽっぽこと及川鉄道は昔からそんなヤツだった。

「煩いわね。良いでしょ別に」

 メガネの話を始めると、高校デビューの話に行き着いてしまう。

 それはあんまり楽しい内容ではないので話したくない。

 

 と、ここでお母さんがお茶を持って来た。

「お茶どうぞ」

「すみません」

 宿海がらしくなく恐縮しながら氷の入った麦茶を受け取る。

「それにしても2人が家に来るのって懐かしいわねぇ。あっ、夕べ鳴子が作ったゼリー食べるぅ?」

 お母さんは宿海とぽっぽの突然の訪問に特に驚いてはいないようだった。

 確かに以前はよく超平和バスターズのみんなはうちに遊びに来ていた。

 けど、めんまが死んで以来みんながうちに遊びに来る回数は極端に減った。だから宿海やぽっぽが訪ねて来たのは5年ぶり以上のはずだった。

 なのに何の違和感もなく受け入れている。そういう寛容性をアタシは持ち合わせていないので、変だなと思うと同時に羨ましいとも思う。

 

「うっひょぉ~。あなるのゼリー」

 アタシが親子について真剣に考えていると、ぽっぽから聞き捨てならないとんでもない単語が聞こえて来た。

「その呼び方止めて!」

 慌てて大声でぽっぽに抗議する。

 

 あなる……それは幼少時の無知さが生み出した忌まわしきアタシのあだ名。

 あんじょうなるこだから略してあなる。

 幼い時はただそれだけの意味しか持っていなかった。

 後日、中学に入ってその発音を持つ英単語の意味を知った時のアタシの驚愕と後悔はここでは語りたくない。

 とにかくその瞬間からアタシはその忌まわしきあだ名を誰にも呼ばせないように奔走することになった。

 でもここに、まだアタシをその忌まわしき名前で呼ぶ男が存在していた。

 

 だけど、ぽっぽはそんなアタシの葛藤をまるで気にすることなく、マイペースに話を続けた。

「とにかくぅ、レアのけモンはめんまのお願いなんだぜ」

 そしてこの男はまた、重要な話を何でもない風にサラッと言って述べた。

「バカっ! それ言うなって!」

 宿海の焦った止め方を見れば、その話がサラッと流して良いものでないことは確認できた。

「めんま?」

 正座して姿勢を正し直しながら尋ねる。

「あなる?」

 宿海たちはアタシが真摯に聞き直したことが意外みたいだった。

 でも、めんまのことはついさっきまで考えていたことなので、どうしてもキチンと聞いておきたかった。

「あっ……めんまがどうしたの?」

 真剣に聞き直すアタシに、宿海はばつが悪そうな表情で顔を横に背けた。

「いや、ちょっと。夢枕に立ったというか何と言うか」

「めんまが……」

 それは、しばらく前のアタシであれば多分軽くスルーしたに違いない話。

 でも、宿海の家を訪れて、つること再会してめんまのことを強く意識するようになっていたアタシには無視できない話題だった。

 

 

 2人にアタシの部屋に上がってもらい、のけモンのソフトを探す。

「えっと……のけモンはぁ」

 アタシが収集したゲームやカード、漫画はカラーボックス30個以上分に及ぶ。

 分類わけしているとはいえ、その中から5年以上昔のソフトを探し出すのには苦労した。

「あったぁっ!」

 約10分ほどの格闘の末にアタシはようやく目的のソフトを探し出した。

「おおっ! でも、こんなちっちゃいソフトに名前って……お前、本当に几帳面だったもんな」

「うるさいっ!」

 昔の自分のことを指摘されるのは何だか恥ずかしかった。

 

 アタシと宿海がのけモンをプレイし、画面を覗いているのに飽きたぽっぽが漫画を読む。

 いつの間にかそんな役割分担が出来上がっていた。

 そしてゲームとなればアタシの出番だった。

 のけモンのプレイの仕方をもう忘れてしまっている宿海にアタシが指南する。

 いつも教えられて、怒られてばかりのアタシが人に何かを教えるなんて、本当に久しぶりのことだった。

 そして夜を迎え、すっかり深夜となった。

 宿海も昔の勘を取り戻し、ゲームは順調に進むようになっていた。

 そして……

「できた、ポイザーンっ!」

 宿海はレアのけモンをゲットする為に必要なのけモンを遂に手に入れた。

「やったぁっ! じんタ~ンっ!」

 アタシも嬉しくて歓声を上げる。

 数時間に及ぶ苦労がようやく実を結んだ。

 嬉しくない訳がなかった。

「「イエ~イっ!」」

 宿海と両手を合わせてハイタッチ。

 そして手が合わさったまま数秒してから気付く。

 数年ぶりに行ったその行為の意味に。

「「あっ……」」

 子供の頃は何の抵抗もなかったハイタッチも高校生になってやるととても恥ずかしい。

 宿海が男だってことを凄く強く意識してしまう。

 でも、それがとても嬉しかったりもする。

 照れくさくて髪を弄る。

 

「あ、ありがとう、安城」

 素直にお礼を言われるとなお更恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。

「別に、暇つぶしになったし」

 ツンデレみたいなことを言っている自分がいた。

 何か恥ずかしいので次の言葉を紡ぐ。

「協力した見返りってあんの?」

 別にお礼が欲しい訳じゃない。

 でも、言葉に出した瞬間、アタシにある1つのアイディアが思い浮かんだ。

「金か?」

 一方で宿海は思いっ切り誤解していた。

「違うっ!」

 首を大きく横に振りながら否定する。

 そんなにアタシってお金に飢えてる女に見えるのだろうか?

 まあ確かに、高校に入って派手な服装するようになってからは色んな人に金の掛かる女だって誤解されていることは知っているのだけど。

 でも、アタシが提案したいのはもっと真面目なこと。

 アタシが真面目って言うと、何だか自分でも照れてしまうけれど、せっかくの機会だから口に出してみることに。

 

「学校……来なよ」

 

 宿海は黙ったまま俯いていた。

 否定の言葉は出ないけれど、肯定の言葉も出ない。

 やっぱりこのお願いは宿海にはまだ早過ぎたのかもしれない。

 けれど今更提案を取り消すという訳にもいかない。

 微妙に重い時が流れる。

 と、背後でグッスリと寝ていたぽっぽが突然起き上がった。

「どうなったぁ?」

 ぽっぽの声に驚かされ、救われもした。

 あのまま宿海と沈黙が続くのは気まず過ぎた。

「あっ、あっ、後ちょっと」

 宿海もぽっぽが話し掛けてくれてホッとしたみたいだった。

「後はケーブルを繋いで……」

 宿海がケーブルを取り出して自分とアタシのゲーム機を繋ぐ。

 その際に宿海の肘がアタシの腕に当たった。

 宿海は全然気にしていないみたいだけれど……アタシはちょっとだけ嬉しかった。

「よし……これで友達と交換っと」

 宿海がアタシの顔を覗き込んできた。

 そんな宿海からアタシは目を離せない。

「安城?」

 宿海に声を掛けられてハッと我に返る。

「ああ……待って」

 ゲーム機を操作して、お互いのデータをやり取りする。

 そしてゲーム画面に

 

『 おめでとう!

  れあ のけもん なかよしきんぐ が うまれた!』

 

 の文字と、羽の生えた王冠をかぶったのけモンの画像が表示された。

「「「おおぅっ! やったぁっ!」」」

 アタシたちは子供みたいに大きなガッツポーズを取った。

「のけモ~ン」

「「「「ゲットだぜぇっ!」」」

 当時流行ったフレーズとポーズを3人で取ってみる。

 子供っぽいとは思うけど、気分は最高だった。

 

 気が付くともう朝を迎えていた。

 つまり、徹夜でゲームをしていたことになる。

 ゲームで徹夜してしまうと朝に抱く感情は時間の浪費に対する後ろめたさ。

 でも、今日だけは全然違った。

 大きな仕事を一つやり遂げた。

 充実感を胸にいっぱい抱いているアタシがいた。

 多分この充実感は、宿海とぽっぽと一緒だったから得られたものなんだと思う。

 みんなと一緒だったから得られた満足。

 そして、宿海と久しぶりに心を通い合わせることができたからこそ得られた満足なのだと思う。

 

 やっぱりアタシはまだ宿海のことが……らしい。

 

 そんな乙女チックなことを考えながら昇っていく朝日をアタシは眺めていた。

 

 

続く

 

 


 
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