No.224089

そらのおとしものショートストーリー2nd 愛を教えて

水曜定期更新。
ふと、あれだけあったはずのストックが目減りしていることに気付く。
まあ、いっか。
今回はカオス。

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2011-06-22 00:06:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3201   閲覧ユーザー数:2842

愛を教えて

 

 

 その日智樹はそはらと共に帰宅の徒についていた。

「はぁ~。強い風でも吹いて下校途中の少女たちのスカートが捲くれたりしないかなぁ」

「何をバカなことを言っているのよ、智ちゃんは。もぉ」

 呆れ声を出すそはら。

 だがその時、奇跡は起きた。

 空美町の通学路に突如風速200mの突風が吹き荒れ、空美学園に通う女子生徒のスカートだけを捲り上げた。

「きゃぁあああああああぁっ!」

 両手で必死にスカートの裾を押さえるそはら。

 だが、後ろからはそのクマパンツが丸見えになっていた。

「おおっ、絶景ぞ。絶景ぞ。って、おわぁああああああぁっ!?」

 そしてついでに智樹も大空に巻き上げられていった。

 遥かなる大空へと飛ばされた智樹はシナプスへと辿り着き──

「アンタ、何をしてるの?」

 空に放り出される直前に無許可で借り受けたそはらのパンツをかぶって検証している所をハーピーにみつかり、即捕まった。

 

「……マスターの危機です」

「智樹が危ないわっ!」

「ひもじい……寒いぃ……」

 智樹の危機はすぐにイカロスたちエンジェロイドたちの知る所となった。

 一刻も早く救出に向かわなければ智樹の命が危ない。

 しかし、イカロスは急病(うどんこ病)を発症させたスイカの看病で桜井家を離れられない。

 ニンフは昼ドラを見すぎて足が痺れて動けない。

 アストレアはバカなので道に迷って南極で凍り付きそうになっている。

 3人のエンジェロイドは誰も智樹を助けにいくことができない。

 智樹の命運は風前の灯火と化していた。

 

 

 だが、空美町にはまだシナプスに助けに迎える戦士が残っていた。

「お兄ちゃんはカオスが助けるっ!」

 第4のエンジェロイド・カオスはシナプスに向けて颯爽と飛び立っていった。

 

 第二世代型の脅威の戦闘能力を活かして瞬時にシナプスへと到着するカオス。

「おチビちゃんは通さないようにマスターから言われ……うわらばぁあああぁっ!?」

 カオスを排除しに来たハーピーも指先ひとつでダウンさせ、智樹の反応があるシナプス中心部へと向かう。

 そしてカオスは遂に智樹の姿をシナプスの奥深い神殿の中で発見した。

「お兄ちゃんっ!」

 智樹は上半身裸の状態で縄で縛られていた。

「かっ、カオスぅううううぅっ!」

 カオスの姿を見て智樹が大声を上げる。

 その声を聞いてカオスは慌てて智樹へと近寄ろうとした。だが──

「くっくっく。遅かったではないか、カオスよ」

 柱の影からシナプスのマスターが智樹の横に現れた。

 マスターは鋭利な物体を智樹の頭に突き付けていた。

 その脅しはカオスが智樹への接近を急停止させる効果をもたらした。

「お兄ちゃんを放してよ!」

 カオスは叫ぶ。

 しかし、マスターは薄気味の悪い笑みを浮かべたまま余裕の態度を崩さない。

「せっかく2万年に1度しか吹かないハイパー悪戯な風が桜井智樹をここまで連れて来てくれたのだ。ただで返すワケがないだろうが」

 智樹の願いは叶えられ、その願いの為に彼は絶体絶命のピンチに陥っていた。

「さあ、このシナプス製の書いたら100万年は消えない超油性マジックで桜井智樹のビーチクを黒く塗り潰してやろう」

「やっ、やめてくれぇええええぇっ! そんなことをされたら、俺はビーチクが黒ずんだ男として一生後ろ指を差されながら生きることになってしまうぅうううぅっ!」

 智樹は縄を解こうと必死にもがいていた。

 見た目も中身もお子ちゃまであるカオスには何故智樹が取り乱しているのか理解できない。しかし、智樹が嫌がっていることだけはわかった。

 

「お兄ちゃんを放せぇえええぇっ!」

 カオスがあらん限りの大声を張り上げて智樹の解放を要求する。

 しかし、マスターは冷たい眼差しでカオスを見つめたまま。

「カオスよ。その男はシナプスのタブーに触れた男。いわば我々シナプスの民の敵だ。何故そのような男を救おうとする?」

 マスターの質問に対してカオスはクワッと目を見開いた。

「そんなの決まってるよ!」

「では、教えて欲しいものだな。その理由とやらを」

「お兄ちゃんは……カオスに、愛を教えてくれた人なんだからぁああああぁっ!」

 カオスの絶叫にシナプスのマスターが仰け反った。

「カオスに愛を教えたってまさかお前……」

 マスターは智樹を今すぐ死にさらせという軽蔑の瞳で見ている。

「ちっがっうぅうううぅっ! お前の考えているようなことは何もないわっ!!」

 全力で否定の声を上げる智樹。しかし──

「カオスはお兄ちゃんとお医者さんごっこしたもんっ!」

「こんな幼女とお医者さんごっこだとっ!? 貴様、どこまで変態なら気が済むのだ!?」

 マスターは初めて自らがダウナーと呼んだ存在に恐怖した。

「お兄ちゃんとはこの間一緒にお風呂に入ったもん。お風呂に入っている間、お兄ちゃんはずっとハアハア言っていたもん」

「違うっ! あれはアストレアが俺とカオスを無理やり熱湯風呂に放り込んだだけで、入りたくて一緒に入浴したわけでも、カオスを見ながらハアハアしていたんでもない!」

「桜井智樹よ……お前の住む地上には倫理や警察力は存在しないのか……?」

 マスターは完全にドン引き状態だった。

「それに……お兄ちゃんはカオスの初めての人なんだからぁああああぁっ!」

「俺はお前に初めて楽しいという感情を教えてやっただけだろうが。誤解を招くことを言うなぁああああぁっ!」

「シナプスはこんな鬼畜生にも劣る悪鬼羅刹を相手にしようとしていたのか……」

 マスターの膝は震えていた。

「うん? カオスよ。何故そんなに腹部が膨らんでいるのだ? まさかお前、この鬼畜王の子を宿しているというのか!?」

「いるわけがないだろうがぁっ!」

「お兄ちゃんの子供?」

 カオスは首を捻った。

「何だかよくわからないけれど、うんっ!」

 カオスはそはらの上履きが入ったお腹を優しく撫でてみせた。

「桜井智樹は鬼畜皇帝だぁあああああああぁっ!」

「少しは俺の話を聞けぇえええええぇっ!」

 智樹の叫びは届かない。

 

「これ以上こんな鬼畜皇帝を相手にしていては、この栄光あるシナプスが桜井智樹によって毒されてしまう。阿鼻叫喚のインモラル空間と成り下がってしまう」

 マスターは智樹から遠ざかり始める。

「お兄ちゃんを放してくれるの?」

「桜井智樹にも、桜井智樹の子を宿したお前にも、桜井智樹に関係するイカロス、ニンフ、アストレアにももう今後一切シナプスは関らない。だから早々に出て行けっ!」

 マスターは柱の影に隠れながらそう叫んだ。

「うん。わかった」

 カオスは智樹の元へ辿り着き縄を解く。

「助かったぜ、カオス」

「お兄ちゃんが無事で良かった♪」

 カオスは背中から智樹を抱きかかえ、空へと飛び立っていく。

「この犯罪者ペド野郎っ! もう二度とシナプスに来るんじゃないぞぉおおおぉっ!」

 そしてシナプスは急速に空美町の上空から遠ざかっていった。

 ここに長きに渡る智樹たちとシナプスの戦いは終わった。

「俺はペドなんかじゃねぇええええええぇっ!」

 とても大きな誤解を生んだまま。

 

 そして数分の飛行の後、智樹は懐かしい我が家へと戻って来た。

 3人のエンジェロイドと1人の人間の少女が鬼の形相をして迎撃体制を取っている我が家へと。

「お前ら……俺がやっと戻って来たのに何でそんなに怒りの形相を浮かべているんだ?」

 智樹はその形相がただ事でないことを察知して原因究明に掛かる。

「…………私たちは、マスターたちの、シナプスでの会話を、傍受していました」

「智樹がカオスとどういう仲なのかよくわかったわよ」

「桜井智樹、殺す殺す殺すぅううぅっ!」

「さようなら……智ちゃん……」

 反論する暇もなかった。

「「「「アポロン・パラダイス・クリュサオル・チョップッ!!」」」」

 智樹が誤解だと叫ぼうとした瞬間に既に攻撃は放たれていた。

 

「どうしてお姉さまたちはあんなに怒ったのかなぁ?」

 日本海溝の底でカオスは智樹に質問を投げ掛けていた。

「まあ、あいつらがシナプスのあの野郎と同じぐらい人の話を聞かない連中であるからなのは事実だろうな」

 智樹は首を振りながら大きな溜め息を吐いた。

「あいつらの怒りが解けるまではしばらく海底暮らしだな」

「わ~い♪ お兄ちゃんと一緒にお暮らしお暮らし~♪」

 宇宙に飛ばされることも珍しくない智樹にとって今更海底に飛ばされるぐらいは何でもなかった。

 塩分の補充にも困らない深海は智樹にとってむしろ住み易い環境に属していた。

「まあ、それはともかく、助けに来てくれてありがとうな」

「うんっ♪」

 カオスは満面の笑みで智樹に返事を返すのだった。

 

 


 
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