No.221938

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・十八話

月千一夜さん

十八話、更新です
馬遵戦も、いよいよ後半戦
戦場にはついに、新たな風が吹いた・・・

それでは、お楽しみくださいw

2011-06-11 02:22:08 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:7836   閲覧ユーザー数:6451

「はっ・・・はっ!」

 

 

息を切らし、汗を流しながら

彼は走り続ける

暗い夜道の中

荒れ果てた道を、唯ひたすらに

彼は・・・駆け続けていた

 

 

「皆・・・っ!」

 

 

呟き、思い浮かべるのは・・・家族の姿

 

 

『さぁ、早う帰るぞ

妾の・・・“妾たちの家”へ!』

 

美羽

 

 

『なら、お母さんである私は・・・家族の為に、美味しいご飯を作ってあげないとですね』

 

七乃

 

 

『優しくて・・・“太陽”のように温かな、そんな男だったのかもしれんな』

 

 

 

『ずっと・・・後悔しているんだ』

 

 

天水の地で出会った、彼にとって大切な存在

そして・・・姜維という、一人の少女

 

 

『私は、この街が大好きです

父が守ってきた、この美しい街が大好きです

ですから、私はこの街を守っていきたい

父がそうしてきたように・・・これからも、ずっと』

 

 

 

時間にすれば、とても短い間だったかもしれない

だがそれでも、とても“大切な日々”だった

思い浮かぶ景色に、彼はその足をさらに速める

 

そんな中ふと、彼は思った

 

 

「俺は・・・」

 

 

 

 

 

 

“俺は、前にも、こうして・・・誰かの、為に・・・こんな想いをしたことが、あったんじゃないか?”

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 十八話【空っぽなんかじゃない】

 

 

 

 

「ぐ・・・」

 

 

“カラン”と音をたて、落ちた剣

その剣の持ち主である少女・・・姜維は、苦しげな表情を浮かべ膝をついていた

 

そんな彼女の目の前

男は・・・槍を構えたまま、不気味な笑みを浮かべている

 

 

「どうした?

もう終わりか・・・姜維よ」

 

「っ!」

 

 

呟き、男は・・・馬遵は、その槍を下げた

 

“余裕”

そんな態度が、姜維をさらに追い詰める

 

事実、その通りだった

姜維は全身に傷を負い、もう立つことさえ難しい

だがしかし、馬遵は全くの無傷

その鎧には、微かな傷さえついていない

 

圧倒的な力の差

彼女の前に立つ、頂上すら見えない・・・巨大な壁

 

 

「くっ・・・まだ、です」

 

 

それでも、諦めるわけにはいかない

言い聞かせ、彼女はグッと力を込める

そして立ち上がり、再び剣をとったのだ

 

 

「ほう・・・素晴らしい!

流石、儂の娘だっ!!」

 

 

大声で嗤い、馬遵は槍を構えた

そして・・・彼女めがけ、繰り出した“一撃”

凄まじい音をたて、向かっていく槍

 

 

「ぁ・・・」

 

 

“躱せない”

いや・・・正確には、“動けないのだ”

迫るのは、確実な“死”

 

だが、その一撃は・・・

 

 

 

 

 

「白蘭ーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

鈍い金属音と共に、防がれたのだった

 

 

 

「間一髪・・・か?」

 

 

聞こえた声

姜維は、その目を大きく見開いていた

そんな彼女の様子に、馬遵の槍を受け止めた女性・・・“夕”は、フッと笑みを浮かべた

 

 

「どうした?

そんなに驚いて・・・」

 

「だって、夕さんたちは・・・」

 

「安心しろ

雑魚は、無理やり突破したのじゃ」

 

「祭さん・・・」

 

 

彼女の隣、いつの間にか立っていた祭

彼女は姜維の肩をポンと叩き、ニッと笑って見せたのだ

 

 

「まったく・・・二人とも、無茶しすぎなんですよ

ここまで来るのに、何度死にかけたことか」

 

「七乃さん・・・」

 

 

言いながら、剣を構える七乃

彼女はニッコリと笑うと、スッと指を差した

その指の先・・・姜維は、その少女の姿に

不覚にも、泣きそうになってしまったのだ

 

 

 

「白蘭、妾はさっき言ったのじゃ

“助けに来た”とな」

 

「美羽・・・ちゃん」

 

 

笑顔のまま、美羽は姜維の手を握った

それから、彼女は睨み付ける

彼女達の前、笑みを浮かべたまま立つ男を・・・

 

 

「あ奴が、姜維の父だとか・・・死んだはずの人間が、何でここにいるのかとか

何故自分の大切な家族を泣かすようなことをするのか

妾には、わからんことだらけじゃ」

 

 

“けど、そんなことよりも・・・”

握り締めた短剣を胸に、彼女は一歩踏み出す

そして・・・その切っ先を、男へと向けた

 

 

 

「妾の友達を泣かせたことを・・・まずは、反省させるのじゃ!!

全ては、その後じっくり聞くことにしようぞ!!!!」

 

 

 

叫び、駆け出していく美羽

それに続き、七乃・祭・夕も駆け出していく

 

 

「なるほど・・・面白い

一度消えた光のはずが、まさかここまで強い光りを放つとはな」

 

 

その、四人の行動

馬遵は、小さく呟く

 

そして、振り上げた槍

 

 

 

 

「だが、所詮は・・・“その程度の存在”だ」

 

 

 

 

 

その槍の周り・・・黒き光りが、渦巻いていた

 

 

 

 

「ぁ・・・」

 

 

何が起こったのか、全く分からなかった

 

唯一つ

“自分は今、宙に浮いているのだろう”

それだけは、理解できる

 

 

そして、次の瞬間・・・彼女達は、地面へと叩きつけられたのだ

 

 

 

 

「うぁっ・・・!?」

 

「ぐっ!?」

 

「うぐ!?」

 

「きゃぁ!!?」

 

 

呻き声をあげ、叩きつけられる四人

理解出来ない状況に、しばし意識を持っていかれそうになるが・・・それでも、四人はなんとか立ち上がる」

 

そして睨めつけた先・・・四人は、驚きに目を見開いた

 

 

「なんだ・・・“アレ”は!?」

 

 

夕の叫び

他の三人も、まったく同様の意見だった

彼女達の視線の先

馬遵の持つ、巨大な槍

その周りを、禍々しい“黒き渦”が包み込んでいたのだ

 

 

「素晴らしいだろう?

これが、儂の与えられた力・・・全てを消し去る、絶対的な力だ」

 

「全てを、消し去る・・・」

 

 

馬遵の言葉に、祭は身震いした

たったの一撃

何をされたのかもわからない、それほどの一撃

それで自分は、一瞬のうちにボロボロになってしまったのだ

 

 

「く・・・」

 

 

それでも、何とか立ち上がろうと・・・“立て”と

彼女は、己に必死に言い聞かせる

だが・・・

 

 

「まだ、足掻くか・・・」

 

「ぐぁ!!?」

 

 

再び襲いかかってきた、黒き渦により・・・彼女は、思い切り叩きつけられてしまったのだ

 

 

「祭っ!」

 

 

夕はそれを見て、慌てて彼女に駆け寄る

だが、彼女もまた襲い掛かる渦に吹き飛ばされてしまう

 

 

「祭さん・・・夕さん・・・」

 

 

七乃は、震える手を伸ばす

彼女は先ほどの一撃で、もう立つことさえできないようだった

 

 

「そんな、嘘じゃ・・・」

 

「いや、これが現実だ・・・」

 

 

美羽の言葉

馬遵は、彼女を見つめ・・・笑みを浮かべ言った

そして見つめたのは、彼女のすぐ傍

カタカタと震える、姜維の姿だった

 

 

「どうだ・・・姜維

お前の父は強いだろう?」

 

「く・・・」

 

「そうだ、その顔だ姜維

儂が憎いのだろう?」

 

 

言って、槍を構える馬遵

彼は、それから・・・その槍を、その槍に纏われた黒き渦を

 

 

 

 

「その憎しみを抱いたまま・・・終わるのだ、我が愛しの娘よ」

 

 

 

 

彼女に向かって、放ったのだ

 

 

 

 

 

違った

自分が想像していたものと

全く、違う

 

終わりとは、もっと痛いものだと

苦しいものだと

とても、冷たいものだと

そう思っていた

 

だけど、これは違う

冷たくなんてない

とても・・・“温かい”

 

 

 

「ぁ・・・あぁ」

 

 

気付けば彼女は・・・“彼女達”は、その瞳を震わせていた

 

その光景に

その姿に

 

“その光”に、全身を震わせていたのだ

 

やがて、姜維は自身を“突き飛ばした青年の名”を呟く

その青年・・・

 

 

 

 

「“一刀さん”」

 

 

 

 

一刀の名を・・・

 

 

 

 

「姜維・・・」

 

 

その声に反応し、彼は振り返った

 

 

「美羽・・・七乃・・・祭・・・夕」

 

 

相変わらず無表情で

とても、小さな声だった

 

だが・・・

 

 

 

「皆・・・一緒に、帰ろう」

 

 

 

 

その声は、何よりも大きく

彼女達の心に、響いたのだった

 

 

 

 

「く、くく・・・ハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

突如、響いた笑い声

その笑いの主である馬遵は、現れた一刀を見つめ愉快そうに表情を歪める

 

 

「面白い!

それはいったい、何の真似事だ!?

抜け殻の分際で、それは誰の真似をしているのだ!?」

 

 

嗤い、突き付けた槍

だがそれでも、一刀は表情を崩さない

 

 

「真似、じゃない」

 

 

そう呟いて、叩いたのは・・・自身の胸

 

 

「これが・・・“俺”だ」

 

 

ピタリと、笑いが止まった

馬遵の表情から・・・感情が消えていく

 

 

「舐めるなよ・・・抜け殻」

 

「っ!!」

 

 

声が聞こえるのと同時に、“渦”は一刀へと襲い掛かる

渦は真っ直ぐと一刀へと向かい、そして・・・彼の体を吹き飛ばした

 

 

「あぐっ・・・!?」

 

 

“ゴッ”と、鈍い音をたて地面へと叩きつけられる一刀

来ていた衣服はボロボロになり、その一撃の威力を物語っている

 

 

「一刀さんっ!!?」

 

「一刀っ!!」

 

 

美羽と姜維の叫び

それすらも、今の彼には聞こえない

 

 

「ここまで辿り着いたのは、見事だと言っておこう

だが所詮は、“真似事”だ

その言葉すら、貴様のものではないのだろう

お前が見てきた者達を、お前が真似ているだけにすぎん」

 

「真似・・・じゃない」

 

 

倒れたまま、呟く彼

だがそんな彼の言葉を、馬遵は嗤ったのだ

 

 

 

「いや、真似だ

お前の言葉も、その“想い”とやらも

全ては、他人のモノでしかない

何故なら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

≪お前は・・・心などない

空っぽの、抜け殻なのだから≫

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っぽ・・・なんか、じゃない」

 

「む・・・?」

 

 

不意に、響いてきたのは・・・今にも掻き消されてしまいそうなほど、“小さい声”

だがその声は、不思議と辺りに響いていたのだ

そしてその声に、集まっていく視線の先

フラフラになりながらも、立ち上がり剣を構える少女の姿があった

 

 

「み、う・・・」

 

 

そう・・・“美羽”である

あの夕が、祭が・・・さらには七乃や姜維ですら立てない状況の中

彼女は傷だらけの体をおし、立ち上がったのだ

そして、彼女は歯を食いしばり馬遵を睨み付け叫ぶ

 

 

 

 

 

「空っぽなんかじゃない!!!!」

 

 

 

 

 

叫び声が戦場に、そして・・・倒れる彼女達の心の中、響いていく

胸の奥底、心の中響き渡っていく

 

 

「美羽、お前・・・」

 

 

夕はそんな彼女の姿を見つめ、呟いていた

“気付いたのだ”

彼女が何故、立ち上がれたのか

何故、立ち上がったのか

 

 

「ほぉ・・・」

 

 

その姿に、馬遵は薄らと笑みを浮かべ感銘の息を漏らした

まさかここで立ち上がるとは思わなかったのである

 

 

「その体で、よくぞ立ち上がった・・・が、何がお主をそこまで駆り立てる?」

 

「訂正・・・するのじゃっ!」

 

 

馬遵の言葉

それに、美羽は一歩足を踏み出し答える

 

 

 

「今の言葉を、訂正するのじゃっ!

一刀は、空っぽなんかじゃないのじゃっ!!」

 

 

 

“空っぽなんかじゃない”

美羽の言葉が・・・想いが、響き渡った

 

 

「一緒に暮らしてきた時間は、確かに短かったかもしれん

それでも、一刀は妾たちの大切な家族じゃ!

掛け替えのない、大切な存在じゃ!

それが、なんじゃ・・・お主のような者が、一刀のことを勝手に決めつけるでない!!!」

 

「美羽様・・・」

 

「妾は見たぞ!

一刀が、妾に向い笑い掛けた瞬間を!!

妾は覚えておるぞ!

一刀が、妾たちと一緒に過ごしてきた日々を!!

妾は、知っておるぞ!

一刀が、本当はとても優しいということを!!」

 

 

目から、大粒の涙を流しながら

それでも、彼女は叫び続ける

心の中・・・仕舞っていた、大切な思い出を

短くも、とても温かな日々を

彼女は、吐き出していく

 

 

 

「お主が、何度言おうとも・・・妾は、絶対に認めない!!

一刀は、空っぽなんかじゃない!!

一刀には、ちゃんと“心”があるのじゃ!

妾たちとの、絆が・・・ちゃんと、“此処”にあるのじゃ!!」

 

 

 

“トン”と自身の胸を叩き、吐き出した言葉

その言葉を聞き、“クッ”と小さな笑いを零したのは・・・“夕”だった

 

 

「ああ・・・そうだな

一刀は、我々の大切な家族だ

それをいきなり出てきた者が、好き勝手に言う資格なんかないよな」

 

 

言って、彼女は立ち上がる

美羽同様にフラフラで、傷だらけのまま

それでも、彼女は立ち上がった

 

いや、彼女だけではない・・・

 

 

「ですね~・・・流石の私も、少しカチンときちゃいましたよ」

 

 

七乃も・・・

 

 

「まったく・・・美羽の言う通りじゃ

お主のような者に決めつけられるほど、儂らの絆は弱くはないぞ」

 

 

祭も・・・立ち上がったのだ

 

彼女達に残された力は、もう僅かも残っていないだろう

それは、フラフラと揺れる彼女達を見ればわかる

だがしかし、そのようなことは“関係ない”

 

 

 

 

 

「妾たちは、絶対に負けん!!

この絆は、想いは・・・誰にも、負けたりはしないのじゃ!!」

 

 

 

 

満身創痍だとしても

限界など、とっくに過ぎていたとしても

譲れないものがあった

 

だから・・・彼女達は立ち上がり、再び立ち向かったのだ

 

大切な家族の為に・・・

 

 

 

 

 

「美羽・・・」

 

 

呟き、微かに開いた瞳の先

彼は・・・自分の為、立ち上がった“家族”の姿を見つめていた

 

 

「祭・・・夕・・・七乃・・・」

 

 

小さな声

彼は、その瞳に映る家族の名を呼んでいく

そして、震える手を伸ばした

その手に・・・“ポツリ”と、雫が染み込んでいく

 

“雨”が、降り出してきたのだ

 

“冷たい”

小さく呟き、彼は瞳を閉じる

 

 

(体が・・・動かない)

 

 

力が、入らないのだ

そして・・・徐々に重たくなっていく瞼

彼は、フッと溜め息を吐きだした

 

 

(これが・・・“終わり”?)

 

 

“終わり”

彼は、不思議だと・・・そう思った

“知っているのだ”

この感覚を

この痛みを

この苦しみを

この悲しみを

彼は・・・知っているのだ

 

 

(俺、は・・・)

 

 

 

 

 

≪“また”・・・終わってしまうのか?≫

 

 

 

 

 

「嫌、だ・・・」

 

 

“嫌だった”

この感じが・・・この辛さが

“終わりという言葉”

彼は・・・認めたくなかった

 

 

「嫌だ・・・嫌だ」

 

 

“こんなの、嫌だ”

 

何度も・・・何度も、呟く

だが、その呟きは雨音にかき消されていく

誰にも聞こえないまま・・・暗い闇の中、溶けていく

 

 

「嫌だ・・・」

 

 

それでも、彼は“叫び続ける”

 

 

「俺は、まだ・・・終わりたくない」

 

 

その叫びは、やがて・・・

 

 

 

≪まだ・・・終わるわけには、いかないんだ≫

 

 

 

彼の視界の中

“無いはずの、心の奥底に”

温かな光と・・・

 

 

 

 

『どうした?

もう立てないのか・・・“北郷”』

 

 

 

 

“懐かしい姿”を

その瞳の中・・・映しだしたのだ

 

 

★あとがき★

 

十八話、公開です

 

馬遵戦も、いよいよ後半戦

 

掛け替えのない絆

繋がっていく想い

そして・・・気づいた、大切な“記憶”

 

 

 

『私はずっと、お前を“待っていた”』

 

 

今、再び・・・“彼”は、舞台へとあがる

 

 

さて、次回に続きますww

それでは、またお会いしましょう♪

 

 


 
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