No.220901

愛紗と一刀 

k.nさん

k,nです!不定期で申し訳ないです。
愛紗メインの話です。

2011-06-05 16:25:39 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4935   閲覧ユーザー数:4414

薄い橙色の空。

それを受けて、それより下の空間は、受動的にその色を帯びていた。

雑草は緑色ではなく、白く黄色がかっている。

 

町のにおいがほんのりと漂ってくる。だが薄れていく。

活気溢れる町の声も、次第に遠のいていく。

 

浅い風が定期的に流れる。

それが彼女の整っている髪をほんの少し乱した。

 

彼女の困っている姿が愛らしい。

それを隠すかのように、乱れた髪を大げさに直す。

その仕草も愛らしい。

 

俺は目線を逸らさない。

彼女が何か言うまで何かを言う気が起きない。

見ているだけで、中枢神経が満たされるからだ。

彼女の、俺だけに見せる、本当の姿を。

 

困り果てた彼女は、一声をようやく出した。

名前を呼ばれたので、何?と目線を細めて言った。

慌てて彼女は「な、なんでもありません。」とよろめく。

 

驚かせただろうか。

いや、数刻前まで彼女の方が圧倒的に有利だったのだからそれはない。

怖がらせただろうか。

いや、「関雲長」に限ってそれはない。

というような推論をたてる必要はない。知っていての態度だったのだから。

 

唐突に髪を撫でてみる。

今度は驚き、目を見開いていたが、やがて行為に従った。

数秒前までの彼女とは表裏を為すかのように、穏やかな表情になった。

 

少しだけ罪悪感を感じていたので、もっと優しくしようと思った。

彼女をゆっくりと引き寄せ、左手を左肩まで回す。

もっと寄ってきたので、それに合わせて力を入れる。

彼女は安心したようで、全身の強張が抜けて、全心を胸に預けてきた。

俺の好きな香りを堪能しつつ、辺りが闇に沈黙するまで、ずっと抱き合っていたーー。

 

 

 

ーご主人様はずるいです。

私が注意をしても、ああやって黙って。

嫌いにならない。それはわかっています。優しいですから。

でも、それでも、冗談でも、心配になるに決まってます。

不安になります。

もし、もしもご主人様が私の事を嫌悪なさったら、私はどうすればよろしいのですか。

生きてはゆけません。

貴方は心の奥の、私でさえ届かない、私の生きる糧となる部分を占領しているのです。

その最後の拠点を失えば…。もうどうにもなりません。

強く、誰よりも強く生きようと思っていた私をこうも簡単に攻略し、弱い私に変える…。

故に、貴方は罪深く、ずるいのですー

 

 

 

重なっていた唇を離して、俺は愛紗の目頭を掬う。

 

そしてもう一度口を重ね、できるだけ優しく、強く、抱きしめた。

 

こんなに可愛くて素直な娘を嫌いになるわけないよと。

 

俺は君を失えば、死ぬことよりもつらいと。

 

さっきは意地悪してごめんと。そして“愛してる”と。俺はそう言った。

 

「誰よりもですか」と聞かれたので、今までの目線をずらす。

 

愛紗は笑いながら、ご主人様らしいですと言っていた。

 

 

 

朝。

 

名残惜しみながらも、手を離し服に手を伸ばす。

寝ている主君を見て、満面の笑みを浮かべる。

 

ー果たして私は、本当に弱くなったのだろうか。

いや、もうそんな事はどうだっていい。

私はこの方、…ご主人様…を守れれば、それでいい。

もちろん桃香様や鈴々、他の皆、そしてこの国の民達を守っていくことも当然だ。

しかし、心や体は嘘をつけない。

…ご主人様。どうかお許しください。この嫉妬深くわがままで面倒で嫌な女を。

貴方さえいればいいと思ってしまっている、この私をー

 

それほどまでに、…貴方を愛しているのです。

 

「誰よりも?」と俺は聞いた。

 

聞かれていたことに驚き恥じらった後に、2文字で返答が返ってきた。

 

俺は着替え終わっている愛紗に手招きし、今日初のキスをした。

 

弱くなった愛紗にさらにもう一度キスをし、耳元で名前を呼ぶ。

 

少し経って愛紗が俺の背中に手を回し、「……ご主人様の、ばか。」と耳元で呟いてきた。

 

ー…もう、弱くてもいい。貴方の傍にいられるのなら…-

 

 

外では小鳥がさえずっていて、日が差していた。

 

暖かな日差しに、俺は、春の訪れを確信した。

 

 

 

 


 
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