No.219431

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・十話

月千一夜さん

十話、公開します
いよいよ、山場に差し掛かってきましたw

ていうか、忙しくて一作品しか書けない
祭、間に合うかな?

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2011-05-29 16:59:36 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:8894   閲覧ユーザー数:7153

「良い天気ですね~」

 

 

ここは、天水城にある執務室の中

机の上に積まれた書簡を見ることなく、姜維は窓から空を見上げ言った

 

 

「そうですね・・・はい、太守様

新しい書簡が届きましたよ」

 

「うっ・・・」

 

 

その言葉を軽く聞き流し、部下である文官は彼女の机に新たな書簡を置く

その書簡を嫌々ながらも手に取り、彼女はコンコンと肩を叩いた

 

 

「こんな良い天気の日には、きっと子供たちが元気に遊んでいるでしょうね

ああ~、小さな男の子がいっぱいですよきっと

パラダイスですね、まさに」

 

「はいはい、まだまだお仕事は溜まってますからね」

 

「ちょ・・・まっ、まって」

 

 

言いながら、文官はさらに書簡を置く

姜維は、グラリと揺れるその“山”を慌てておさえた

 

 

「む~・・・ちょっとぐらい、いいじゃないですか

少しは休まないと、働き過ぎで死んじゃいますよ私」

 

「はいはい、ワロスワロス」

 

「ちょ、おまっ・・・」

 

 

“なにこの文官、冷たい”と、姜維は溜め息を吐きだした

それから見つめた先

窓の向こうは、相変わらずの快晴だ

 

 

「仕方ないですね・・・」

 

 

呟き、彼女は苦笑した

 

まぁ、先に結論から言おう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは強行策でイかせてもらいます!!!!」

 

「へぶぁっ!!!??」

 

 

“無理だった”

このような天気の中仕事を続けることなど、彼女にはむりだったのだ

 

彼女は素早く机の上にできた書簡の山を文官に向い崩した

その突然の出来事に文官は反応することが出来ずに、その崩れゆく山に飲まれていく

 

 

「安心してください

ちゃんと一声かけてから出ていきますから♪」

 

 

 

“それじゃ”と、姜維は部屋の窓から外へと飛び出していったのだった

 

 

それは、晴れ晴れとした空の下

まだ太陽が真上まで昇っていない頃の出来事だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 十話【虹の見える丘】

 

 

 

「“ピクニック”に行きません?」

 

 

それは、ある晴れた日のこと

青年にとってはもはや日常になりつつある光景のさなか

窓から顔をひょっこりと出しながら、一人の少女が言ったこの一言から始まった

 

 

 

「あれあれ?

皆さんもしかして、ピクニックって知らないんですか?」

 

「いやまぁ、そうなんだが・・・それだけじゃなくてな」

 

 

窓から“よいしょ”という声と共に入ってくる少女・・・姜維の姿を見つめながら、夕は眉間をおさえ呟く

それから深くため息を吐き出し、苦笑を浮かべたのだ

 

 

 

 

「お前、仕事はどうした?」

 

「サボりm・・・押し付けてきました」

 

「言い直した意味ないな、オイッ!?」

 

 

“ニコニコ”としたまま言う姜維に、夕をはじめその場にいた皆がズッコケそうになった

唯一人、青年・・・一刀だけは無表情だったが

そんな夕たちの様子も気にせずに、姜維はそのまま椅子に座りくつろぎ始めていた

 

 

「まぁ、大丈夫ですよ

重要な仕事はあらかじめ片付けてありますから

うちのお城で働く皆さんなら、問題ないはずです・・・多分、もしかしたら、きっと、自信ないですけど」

 

「物凄く、不安になるんじゃが・・・」

 

 

祭の一言

姜維は笑顔のまま、“冗談ですよ♪”と答えた

 

 

「とにかく、お城のほうは大丈夫ですから」

 

「なら、いいんですけど~」

 

「ところで白蘭よ

“ピクニック”とは、いったい何なんじゃ?」

 

 

ふと、美羽は興味津々といった様子で聞いた

その言葉に、姜維は“よくぞ聞いてくれました”とニヤリと笑う

 

 

 

「ピクニックとは、みんなで一緒に外にお出かけし、自然を満喫しながら楽しくお弁当を食べるという・・・天界に伝わる、伝説の行事のことなのです!!」

 

「な、なんじゃってーーーーーー!!?」

 

 

 

驚く美羽もよそに、他の四人の反応は様々だ

夕は腕を組み何か考え込み、七乃は驚く美羽の顔をウットリとした表情で見つめ

祭は“酒はアリかのう”と想いを馳せ、一刀は何をするでもなくボ~っと窓を見つめていた

ともあれ、皆が皆・・・それぞれ、その“ピクニック”というものに興味を引かれているようだった

 

 

「あ・・・ちょうちょ」

 

 

・・・訂正、若干一名はまったく興味がないようだ

 

 

 

「とにかく、折角こんなイイお天気なんですから

皆さんで一緒に、ピクニックに行きませんか?」

 

「行くのじゃっ!!」

 

 

と、間髪入れずに反応してみせたのは美羽だ

彼女は興奮した様子で、目をキラキラと輝かせながら我先にと名乗り出たのだ

そんな彼女の姿に、すぐ傍にいた七乃は笑顔を浮かべていた

 

 

「なら、今日は気合を入れてお弁当を作っちゃいましょう♪」

 

「ふむ、仕方ない・・・儂も手伝おう」

 

 

“仕方ない”と言いつつも笑顔なのは、きっと美羽の笑顔につられてのものだろう

そのように思いながら、夕は“なら、私は他に必要なものを準備しよう”と美羽の頭を“ポン”と叩き言った

 

 

「ピクニック・・・」

 

 

そんな中、ふと一刀は窓から視線を逸らした

その視線の先、映るのは・・・一人の少女

嬉しそうに笑う、美羽の姿だった

 

 

「しかし、白蘭よ

いったい何処に行くのかえ?」

 

 

そんな彼の視線に気づくことなく、美羽は首を傾げながら言う

姜維は、その言葉にニッと笑みを浮かべた

 

 

「“とっておきの場所”があるんです♪」

 

「とっておきの場所、とな?」

 

 

“はい♪”と、笑顔のまま言う姜維

その一言に、美羽の期待はさらに高まったようだ

 

“うははは、楽しみなのじゃ♪”などと笑いながら、部屋の中を飛び跳ねている

 

 

「美羽、嬉しそう」

 

「ですねぇ」

 

 

その様子を、姜維と一刀は見つめていた

 

 

「まぁ、一刀さんも楽しみにしていてくださいね

きっと気に入ってくれますから♪」

 

「ん・・・」

 

 

無表情のまま、頷く一刀

彼女はそんな彼を驚かせてやると、密かに決意していた・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「おぉぉぉおおお!!!!」

 

 

晴天の下

美羽の驚きの声が響き渡る

そんな彼女の様子に満足そうに頷き、姜維は笑顔のまま口を開いた

 

 

「どうです?

ここ、良い場所でしょう?」

 

 

笑顔のまま、彼女が指を差した先

穏やかな天水の街並みが見えていた

 

さて、六人は現在天水の街を出て少しした所にある“丘”にいた

青空の下、心地の良い風が吹く中で

六人はその丘で座り込み、天水の街並みを眺めていたのだ

 

 

 

「この丘は、私のお気に入りの場所なんです」

 

「うむ、確かに良い場所だ」

 

 

夕の言葉に、姜維は“気に入ってもらえてよかった”と笑った

それから、再び天水の街並みを眺めた

 

 

「ここは、私の父に教えてもらったんです」

 

「白蘭さんのお父さん、ですか?」

 

「はい

といっても、血は繋がっていないんですが」

 

「それは~・・・」

 

 

“マズイことを聞いた”と、七乃は僅かに表情を歪める

だがそんな彼女に、姜維は優しげな笑みを向けた

 

 

「小さい頃、お母さんもお父さんも・・・賊に殺されてしまって

たった一人生き残ってしまった私を、当時天水の太守だった父が拾って育ててくれたんです」

 

「そうだったのか・・・」

 

「父は、優しくて強くて・・・そんな父に恩返しがしたくて、私は必死に頑張りました

そして四年前、父が病で亡くなる直前にこの天水の太守を引き継いだんです」

 

 

そう言って、彼女は立ち上がる

その視線の先

美しい街並みに、目を細めながら

 

 

「私は、この街が大好きです

父が守ってきた、この美しい街が大好きです

ですから、私はこの街を守っていきたい

父がそうしてきたように・・・これからも、ずっと」

 

「姜維・・・」

 

 

この言葉に反応したのは、一刀だった

彼は小さく少女の名を呟くと、彼女の隣に立つ

そして、同じように街を眺めたのだ

 

 

「俺も、“知ってる”」

 

「一刀さん?」

 

 

呟き、未だに街を見つめたまま・・・彼は、手を伸ばした

そのまま、彼は言ったのだ

 

 

 

「これは・・・“忘れちゃいけない景色”、だよね?」

 

「一刀さん・・・はい♪」

 

 

一刀の言葉に、彼女は笑顔のまま頷いた

そんな二人の様子に、後ろにいた四人も柔らかな笑みを浮かべている

 

 

 

 

「一刀ーーーー、妾もまぜるのじゃ♪」

 

「っ!」

 

「きゃぁ!?」

 

 

 

“ドン”という衝撃と共に、その場に倒れこむ一刀と姜維

その彼の体に自身の体を預け、美羽は笑顔のまま座り込んだ

 

 

「おお、羨ましいのう

どれ、儂もまぜろ」

 

「まざるのはいいが、“コレ”は没収だな」

 

「なぬ、儂の酒があぁぁぁああああ!!!!???」

 

 

叫び、コテンと一刀のすぐ傍に倒れこむ祭

そんな彼女の様子を、夕は“フッ”と笑みを浮かべ見つめていた

 

 

「あらあら、祭さんはまたお酒をコッソリ持ってきたんですか

これは後で・・・フフフ」

 

「七乃、恐いのじゃ」

 

「ん・・・」

 

 

 

 

賑やかな、一刀達の様子

平和な光景

それを・・・先に立ち上がった姜維は、笑顔を浮かべ眺めていた

 

 

 

「お父さん・・・見ていますか?

これが、お父さんが守りたかったものなんですよね」

 

 

呟き、見あげた空

思い出す、大切な父の言葉

 

 

「ん・・・?」

 

 

そんな中、彼女は自身の足元に視線をうつした

そこに、一冊の本が落ちていたのだ

 

 

「ああ、そういえば持ってきていましたね」

 

 

それは、以前に美羽達に見せたあの天界語が書かれた本だった

彼女はそれを拾おうと、身を屈める

 

その瞬間・・・風が、吹いたのだ

 

 

 

 

 

「ぇ・・・?」

 

 

“ピタリ”と、本に向けられた手が止まった

その手が、小さく震えている

 

 

「これって・・・」

 

 

視線もそのままに、震える声で呟く彼女

その視線は、今の風でめくれたページのままの本

その開いたページに向けられていた

 

いや・・・正確には、そこに書かれていた“ある言葉”

 

 

 

 

“天の御遣い・北郷一刀”

 

 

 

 

 

「北郷・・・“一刀”?」

 

 

呟き、手に取った本

そこには、確かにそう記されていた

 

 

「まさか・・・」

 

 

呟き、見つめた先

幸せな光景の中、相変わらず無表情のままの青年

 

“一刀”

 

彼を見つめたまま、彼女はその体を震わせていたのだ

自身でも、気付かぬうちに・・・

 

 

 

「貴方は、まさか・・・」

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「あれが・・・“天の御遣い”、か」

 

「ええ、その通りです」

 

 

それは、一刀達がいる場所よりも遥か遠く

普通ならば、見えるはずのない距離

そこから、二人は彼らの様子を“視ていた”

 

 

「もっとも・・・今では、ただの“抜け殻”ですがね」

 

「“抜け殻”・・・か」

 

「気になりますか?」

 

「ふっ・・・当たり前だ」

 

 

 

呟き、“年老いた男”は深く息を吐きだした

その様子を見て、隣に立つ“女性”はクスリと笑う

 

 

「これは失礼・・・貴方も、“似たようなもの”でしたね」

 

 

そう言って、彼女が見つめた先

彼女の瞳には、仲良く話す六人の姿が映っていた

 

 

「ふふ・・・まぁ、仕方のないことです

“中身”が“器”に惹かれることは極々自然なことなのですから」

 

「“中身”・・・儂は所詮“欠片”なんじゃろう?」

 

「ええ、その通り

よくわかっていらっしゃる」

 

 

言って、彼女は男を指さし笑みを浮かべた

 

 

 

「貴方は所詮、“その程度の存在”です

それ故、貴方はここにいる・・・その身に、“欠片”を宿して

惨めに、醜く、浅ましく、この世界に留まっているのです

あぁ・・・なんて、哀れなのでしょうか」

 

 

“哀れ”

そう言って、彼女は“嗤う”

その瞳に、一人の青年を映しながら

 

 

「さぁ、そんな哀れで可哀想な貴方なら・・・自分が何をすべきかおわかりでしょう?」

 

 

彼女の言葉

男は深くため息を吐きだした後、ゆっくりと振りかえる

そこには、一本の巨大な槍が刺さっていた

男はそれを見つめたまま、小さく呟く

 

 

「あの街を・・・天水を、滅ぼせばよいのだな?」

 

 

呟き、握りしめた槍を男は引き抜いた

そんな男の言葉に、彼女はピタリと嗤うのを止める

そこには、先ほどまでの不気味な笑顔はなかった

 

 

 

 

 

「足りません」

 

 

 

 

 

そこにあるのは・・・“無”

 

 

 

「全然、まったく、これっぽっちも足りません

滅ぼすなど、そのような甘い言葉は二度と吐かないで下さい」

 

 

その瞳には、一切の光もなく

その言葉には、熱を感じられない

 

 

「嬲り、抉り、殺し、千切り、喰らい、潰し、燃やし・・・この世の全ての苦しみを与えなさい

一切の同情も、情けも、慈悲も、慈愛も、加減も必要ありません」

 

 

そのまま、浮かべた笑み

 

 

「泣いて許しを請おうとも、惨めに逃げ回ろうとも

誰であろうとも、等しく、平等に、分け隔てなく与えてやるのです

我々が味わってきた、あの何千年分もの“苦しみ”を」

 

 

今までで一番恐ろしい、純粋なまでの笑顔

 

 

 

「そうして最期に、我々は取り戻す

遥か昔に失った、“大切なモノ”を

何よりも“愛しい人”を」

 

 

 

ユラリと、揺れる瞳

暗く濁ったその瞳の中心

そこに映るのは・・・一人の青年

 

 

 

 

「さぁ“一刀殿”

もうすぐ、もうすぐ迎えに行きますよ

もうすぐ私が・・・“稟”が、迎えに行きますから」

 

 

 

響き渡る、“嗤い声”

暗く深い闇が、動き出したのだ

 

全てを呑みこむ、深い闇が・・・

 

 

 

★あとがき★

 

一章・第十話公開です

いかがだったでしょうか?

今回は、色々と謎が増えたり減ったりと忙しいお話になりましたw

 

皆さんの予想も、半分は正解でしたねw

これでまぁ、“魔王側”の大体の予想がついたでしょうw

 

 

次回からは、少し殺伐としたお話が続きます

一章も、いよいよ中盤にさしかかってきましたww

 

新たな人物の登場

近づいてくる“終わり”

 

 

 

 

“そして・・・彼らの幸せは、終わりを告げた”

 

 

 

 

それでは、またお会いしましょう♪

 


 
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