曹操は劉備に尋ねた。
「貴方は、この世で英雄になりえる人物を知っている?」
劉備はその問いに、思い当たる諸侯すべてを言った。
しかし。
「いいえ、今名を言った者達は決して英雄にはならない」
それを曹操はすべて否定した。
「う~ん……だったら、もう私が知る人はいません」
劉備は困った顔をしながら曹操に回答を求める。
「それは……ね」
曹操の人差し指が劉備と曹操に向く。
「私と貴方よ」
―――その瞬間。
雷雲が二人の頭上に鳴り響いた。
第一話
『曹操の策、劉備の策』
時は三国志時代の中期の初め。
曹操は逆賊呂布を討ち滅ぼして、徐州を手に入れる。
しかし、北方の袁紹がいつ自分達の国に攻めに来るかもしれないために、すぐさま許昌へ戻って戦う準備をしていた。
だが、許昌においても曹操に暗雲が起こっていた。
漢王朝の帝である、献帝が劉備に曹操暗殺を依頼していたのだ。
だけど、曹操は一切の動揺はしなかった。なぜなら、それは曹操が劉備暗殺するために帝を利用した策略だったからである。
そうとも知らない劉備は、関羽と張飛を呼んで密会をしていた。
「桃香様。今日行われた狩りは明らかに曹操は、帝を侮辱していました。なぜ、それを止めたのです?」
狩りというのは、許田の巻狩りのことである。
その内容は、献帝が鹿を矢を射て倒そうとしていたのが、三度も射た矢が鹿に全くかすりもしないために、見かねた曹操が、献帝の黄金色の矢を奪って、鹿を一発で射止める。
それを見た群臣達から矢から判断して献帝が射たと思って、献帝万歳と唱えて、それを曹操が当然のような態度で万歳を受けたことである。
もちろんこの態度は献帝をないがしろにするものであり、群臣たちは色をなしにしたが、曹操の権勢を恐れて誰も手を出せない。それを一人関羽は激昂し、代わりに曹操に斬りかかろうとするが、劉備が目配せしてそれを阻んだという話だ。
「だって、曹操さんの周りには警備も厳重だったし、それに帝に怪我をさせてしまう恐れもあったもん」
「にゃ~……これじゃ、いくら帝から曹操暗殺しろって言われても何もできないよ~」
その瞬間、関羽は張飛の口を押さえた。
「滅多なことを口にするな鈴々。どこで曹操の手の者が聞いているかわからない。あまり危ない発言はするなっ!」
「む―――う―――っ!」
力強く押されてしまっていたのか顔が苦しそうだった。しかし、それでも言葉の意味を理解している張飛はウンウンと首を縦にする。
「………」
劉備は懐にある巻物を取り出すと、それを広げた。巻物に書かれてあった文字は、すべて血で書かれており、その文面からも壮絶な苦しみを述べる内容だった。
「……安心してください。私は必ず曹操さんを」
劉備は再び巻物を懐に治めると、目をつぶって決意を再確認した。
―――雷雲が二人の頭上に鳴り響く。
「きゃぁっ!」
その途端、劉備は頭を抱えて身を縮こまってしまう。
「どうしたの? 劉備」
曹操が不思議そうな顔で尋ねると、劉備は今にも泣きそう顔で答えた。
「実は、私は雷が怖くて……。それでさっきの音にビックリしちゃたんです」
「あらあら……。そんなことでは英雄になれないわよ? 劉備」
曹操はそんな劉備に微笑みを浮かべて笑った。
「華琳様っ! 一大事です。公孫賛が袁紹に討たれました!」
突如、荀彧が大慌てて報告に来た。
「なんですってっ!?」
「え……白蓮ちゃんが?」
「さらに、袁術が玉璽を餌に三万の兵を用いて袁紹を合流しようとしています」
荀彧は、二人に公孫賛の最後や袁術の進路などを些細に報告する。それを聞いた二人は様々な思想が働いた。
「曹操さんっ! 私に袁術討伐をさせてください」
「劉備……貴方は」
「もし、袁術さんが袁紹さんと合流したらますます強くなってしまいます。だからその前に必ず通る徐州で迎え撃ちます!」
劉備は曹操に出兵要請をする。しかし、それは口実で本当は袁術と曹操を倒すための出兵である。
「………わかったわ。貴方に五万の兵を貸し与えます」
そして、曹操もわかっているため劉備に出兵を許可した。
「ありがとうございますっ! すぐに出兵します」
劉備は笑顔で、曹操に頭を下げるとその場を去った。
「………よろしいのですか? 華琳様」
すべてを知っている荀彧は、あえて曹操に確認をした。
「まずは、劉備も袁術を倒すことだけに専念するわ。後は勝利しても疲弊してるだろうから討伐するのも楽なものよ」
「ですが……五万の兵達が」
「何かをするためには犠牲がつきもの。ましてや彼女は英雄の器なのよ? それで倒せるなら安いわ……それに」
「それに?」
「劉備には私と違って軍師がいないわ。だから絶対に勝てないのよ。絶対にね」
曹操は冷笑しながら、劉備の去った方を見るのだった。
第二話に続く……
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ストーリー
時は三国志時代の中期の初め頃。
覇道を求める曹操。
人徳を求める劉備。
これはその二人が求めた誕生神話の物語である。