蜀の劉備さんの承認を受け魏を正式に再建することができた
とはいえ、俺達の拠点は襄陽を中心とした一帯と、前線基地である合肥だけ
その戦力は微々たる物で、晋や呉の兵力に対抗するのは難しかった
風はいつものテンションで
「それではお兄さん、いきなりですが魏の存亡を懸けた決戦に挑みましょう~」
「・・・・・それしかないよな」
魏は再興した
だが、魏の王となったのは華琳の元を逃れた俺だ
俺を逃しただけでも怒り心頭だろうに、さらに国まで作って敵対してしまった
稟も風と同意見で
「司馬懿の怒りは想像もつきません。一刻も早く事態の収拾を目指すには決戦しかないかと」
怒りに燃える華琳を放置するのはあまりにも危険
少なくともその怒りをこちらに向けさせる必要があるわけだ
一方、秋蘭は合肥を心配していた
「霞と真桜の合肥にも手を打たねばなるまい。合肥の戦力はせいぜい1万。
北の晋、南の呉から挟撃されればいかに霞と言えども持ちこたえるのは難しい」
襄陽と合肥は距離が遠すぎた
間に走る淮水の水路が使えるが、そこは晋の領地だ
「淮水を東進すれば晋の水軍と戦闘になるのは必至。援軍を出すならそれなりの規模でなくてはいけないな
けど、俺達に晋の水軍を突破できる船団はない・・・・・」
陸路を進めば晋か呉の部隊とぶつかるだけだろう
敵部隊を突破し、援軍となる大規模な戦力を割けば
ここ襄陽が攻撃対象となり俺達は全滅してしまう
襄陽の地形は防衛戦に適しているとも言えないから苦戦は確実だ
いきなりの手詰まり感が漂った
「合肥への援軍は、私がいきましょう」
声をあげたのは稟だった
「稟、詳しく聞かせてくれるか?」
「はっ、合肥への援軍は私1人で事足りる」
その場にいた皆がざわめき始めた
「それはつまり、兵をつけず単身合肥へ行くということ?」
「そうです」
それはあまりに無謀な提案だった
稟をそんな危険に晒したくなかった
「いくらなんでも危険すぎる。そんなの魏の王として許可できないよ・・・・」
「一刀殿、我々には兵もなければ時間もない。一刻の猶予もないのです。ご決断を」
手が震えた
もしかしたら自分の決断によって稟を失うことになるのかもしれない
そう思うと、意識が遠のいてしまいそうな気がした
そうか、これが王の重みなんだ
「・・・・・・」
何も言えない俺を見ると
稟は立ち上がり、俺をキッ!と睨み付け
「軍師なんてものはどうしようもなく戦が好きで
常に頭の中ではまだ見ぬ敵と、まだ知らぬ過酷な戦を戦っているもの!!」
衝撃を受けた
稟は、郭嘉だ
三国志屈指の名軍師、郭嘉なんだ
それを忘れていたのかもしれない
「・・・・・・稟、合肥への援軍を命ずる。許都で再会しよう」
「必ず」
稟は風にいくつか言葉をかけると足早に合肥へ向かった
関羽さん、馬超さん、呂布さん、陳宮さんの4人にはまだ襄陽に残ってもらっている
これは劉備さんも了承していることなのだが
「一刻も早く劉備さんと再会したいお気持ちはお察しします。ですが、我々には時間がありません。
このまま魏に残り、皆さんには晋との決戦に参加して頂きたいのです」
この提案を関羽さんも呂布さんも了承してくれた
しかし、馬超さんだけは乗り気ではなかった
「悪いんだけど、あたしは・・・・はぐれちまった蒲公英を探したいんだ!」
馬岱さんを単身で捜索したい
馬岱さんは矢を受け重傷だったそうで、戦には参戦せず、呉に乗っ取られた城で療養していたらしい
その後の安否はまったく不明だった
安否不明の妹(正確には従兄弟だけど)を思う気持ちを否定することはできない
俺は快く了承することにした
「分かりました。馬超さんの行動を許可します」
~荊州の外れ~
広大な荊州にはまだまだ未開の地が多く、人里離れた場所は隠れ家として適している
「蒲公英、調子はどうだ?」
「うん、だいぶいいよ凪っち」
そこは山岳地帯のふもとにある洞窟だった
前大戦時に盗賊が根城にでもしていたのだろうか、幸い家財道具一式が置かれたままで
負傷している蒲公英を匿うには最適な場所だった
呉が蜀を裏切った時
蒲公英はある男の治療を受けていた
その男の名は華佗
華佗は異変に気づくと蒲公英を抱え城を脱出しようとした
しかし多数の呉の兵に囲まれてしまい、万事休すに思われた
そこへ、成都へ向かう凪が偶然遭遇したのだ
「ん、出血も止まっている。顔色も悪くない」
「凪っちのおかげでもう大丈夫だよ」
「その凪っちと言うのはどうにかならんか・・・・・」
華佗は戦場に復帰した祭に会うため旅をしていた
蒲公英の治療をしたのも偶然通りがかったためで、蒲公英の傷が安定すると出発してしまった
その後、この隠れ家で蒲公英を献身的に看病していたのは凪だった
「ほら、もう立ち上がることだって、イッツーーー!!」
「馬鹿!無理して傷が開いたらどうする!!」
寝床から起き上がろうとした蒲公英だったが、傷がまだ痛むのか苦悶の表情を浮かべた
凪は急いで蒲公英を寝かせると、背中の傷口から出血がないか確かめた
「・・・・・・よかった、傷は大丈夫みたいだ。おい蒲公英、無茶は勘弁してくれ」
「でへへー、だって早く戦場に出たいんだもん♪」
「戦場に?蒲公英はあまりそういうの好きじゃないと思ってたけど・・・・」
蒲公英は両手を顔の前でクロスさせ、表情を隠した
「・・・・・・あたしだって怒ってんだ」
晋の建国、呉の裏切り、蒲公英としても納得できないことが多すぎた
蒲公英の表情がいつもの調子に戻った
「凪っちはこれからどうするの?」
「私は・・・・・晋を抜け、一時蜀のお世話になろうと思っていたんだけど」
「一時?」
「魏は、華琳様は何かに操られているのかもしれない。私も、その何かの影響を受けていたらしい
けど、華琳様は必ず苦難を乗り越え、魏を立て直してくれる。だって、今は隊長も一緒なんだから
その時まで桃香様にご協力してもらおうって・・・・・」
「ふ~ん、隊長って御遣いの人だっけ」
「そうだ」
「へぇ~、凪っちがそんなに惚れこんじゃうなんて。御遣いさんはきっとすごい男前なんだね」
「た、隊長は男前だけど、それだけじゃないぞ!誰にでもやさしいし
いつも私のことを気にかけてくれるし・・・・その・・・」
「その?」
「隊長と一緒にいると・・・・心がポカポカするんだ。って・・・・・何を言わせる蒲公英ーーー!!」
「あっはっはっはっは、凪っちってばかわいんだもーん、あははははは、アグゥ~」
笑いすぎて傷が痛み出す蒲公英
凪の看病はもうしばらく続きそうだ
補足
稟の「軍師なんてものは」の台詞は蒼天航路の18巻からです
蒼天の郭嘉は名言が多くて本当にかっこいいです
どこかで使いたいと思っていた台詞でした
凪に綾波の台詞を言わせたりもしてますけど、少しやりすぎでしょうか・・・・
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魏再興の第一歩