呉
雪蓮を追放し政権を奪取した蓮華は国内の掌握に努めた
しかし、呉国内は親孫策派が強く、蓮華にとって呉は磐石と言えなかった
今、呉は二つの派閥に分かれている
・孫権を正統とする孫権派
・孫策を追放した孫権を快く思わない者で結成された孫尚香派
互いが利害を求め反目していた
そして事件は起きた
小蓮が建業を抜けだし、荊州の穏の元へ家出してしまったのだ
小蓮に野心があったわけではない
単に居心地が悪くなったから逃げただけなのだが、孫尚香派からみれば厄介者を蓮華が左遷したように見える
噂は噂を呼び、最悪の事態を引き起こそうとしていた
「小蓮と穏が、荊州で反乱を画策しているですって??」
孫権派は孫尚香派を排除する絶好の好機と捉えた
孫権派武将から蓮華へ連日荊州の不穏な空気が報告されると、蓮華の気持ちも平静ではいられない
蓮華は小蓮を信じているし穏への信頼も絶大だ
裏切るなどとは微塵も考えていない
けれど、今の蓮華に余裕は無い
その原因は合肥にあった
「張遼が魏へ帰順?なんということだ・・・・・話が違うではないか華琳!!」
ドンッと机を叩く蓮華
蓮華の行動は晋との協定に基づいたものであった
協定には、合肥の張遼を西に移し、呉から遠ざけることも明記されていたのだ
それなのに張遼はそのまま留まり、現在もここ建業を狙っている
呉にとっての張遼はトラウマだ
たとえ兵力はなくとも何よりも恐ろしい存在だった
北西の張遼、西の小蓮
蓮華に決断の時が迫られていた
荊州
「小蓮様、お気持ちは分かりますが、今は建業へおかえりになった方が・・・・」
「だってあそこ空気悪いんだもん、シャオやってらんない!」
ぷいっと膨れっ面を見せると、小蓮は意地でもここを出て行かないという姿勢を見せた
(困りましたね。蓮華様の疑念を受けないためにも逐次報告をしないと)
穏は荊州の情報を包み隠さず蓮華に送っていた
小蓮が荊州にいる理由、それは単にへそを曲げてしまっただけだと言うこともしっかり書いている
しかし、その書状が蓮華に届くことはなかった
書状は孫権派によって止められていたのだ
蓮華から返事が来ないことを不審に思った穏は一時建業へ帰還することも考えた
しかしここ荊州は魏、蜀の二国と接す前線であり、小蓮1人を残して帰るわけにはいかない
(今は力を蓄え、来る決戦に備える。それしかありませんね)
長安を攻略し、同盟国を得た蜀
蜀が呉へ復讐戦を仕掛けてくるのは明白で、穏は夷陵に蜀撃退の準備を備えてきた
負けることは絶対に許されない戦いだった
(孫呉の命運この一戦にあり・・・・ですね)
小蓮のご機嫌を取りつつ今日も対蜀戦の準備に勤しむ穏
そしてついに、待っていた蓮華からの返事が来た
使者は書状を読み上げた
「陸伯言、貴公には20条の疑惑があり、ただちに弁明しなければならず・・・・」
それは問責の使者だった
蓮華は追い詰められていた
もはや頼れるのは一人だけだ
「思春、祭はまだ屋敷から出てこないの?」
「はい、何度も呼びかけているのですが、腰痛の療養を理由に・・・・」
「仕方ない、私が直接行くわよ」
祭はあれ以来登庁していない
表向きは腰痛の治療のためであったが、それが偽りなのは誰もがわかっていた
その証拠に
「ごらんください。祭殿は山を盛り、出入りが出来ぬよう封鎖している始末でして」
蓮華が祭の屋敷にたどり着くと、真っ先に目に付いたのが門戸前に盛られた土の山
この山を盛ったのは祭自身だ
「どうあっても屋敷を出ないつもりね・・・・・・・祭!!呉王孫権である。ただちに屋敷を出て来なさい!!」
屋敷内からは物音一つしない
聞こえるのは吹きすさぶ風の音だけだった
「むむむぅ・・・・・・思春!!」
「はっ!」
「火を!!」
「はっ!・・・・は?」
「いいから早く!」
思春はただちに火をつけた松明を用意し、蓮華に手渡した
「そっちがその気なら・・・・これで反省しなさい」
そう言うと、蓮華は祭の屋敷に火をつけた
当日は風も強く、火は瞬く間に燃え広がった
「し、思春・・・・」
「はっ」
「祭が出てこないわ・・・・・」
「出てきませんね・・・・」
火はどんどん燃え広がり、やがて屋敷の半分ぐらいまで燃え始めてしまった
「思春、火を消しなさい!!!!祭が焼けてしまう!!!!!!」
「はっ!お前達、急いで水を持ってくるのだ!!」
「どうしよう・・・祭が・・・祭が・・・・」
蓮華もここまで燃え広がるとは思っていなかったのだろう
思春も思春で火を渡しておきながら消火の準備をまったくしていなかった
全ての行動が後手後手になってしまい
やがて火は屋敷全体を覆いつくした
「あちゃーーーーーーー!!!アツッ!アツッ!」
「祭!早く祭に水を!!」
飛び出してきた祭に水をかける思春
火あぶりにされ、挙句水をぶっかけられた祭は散々な目にあった
「まったく、老体になんと言うことを!」
激怒する祭たが、蓮華は目に涙を溜めながら祭の胸へ飛びついた
「よかった・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・」
「権殿・・・・」
祭に抱かれ何度も謝る蓮華
火をつけたことへの謝罪なのか
姉をあんな形で追い出してしまったことへの謝罪なのか
それはまだ分からなかった
やがて、祭の表情は怒りから慈しみに変わって行った
「権殿、わしの方こそ意地になってしまった。許してくだされ」
「ううん、悪いのは私よ、どうか許して」
「うむ、承知した。さて、王がいつまでもめそめそしてはいけませんぞ。さ、権殿」
祭は蓮華を立たせると、お互いの誤解を解いた
その後、3人は城に戻ると
蓮華、思春、祭に加え、内政統治を行っていた亞莎の4人で今後の作戦会議を行った
「なんじゃ簡単なことではないか権殿」
「簡単なことって、相手はあの張遼なのよ、祭」
「張遼が相手なのは厳しいかもしれん。じゃが、この状況は逆に好機とも取れるのではないか?のう、亞莎」
「その通りです。張遼が残ったとは言え、今の合肥は魏の所属。晋よりも早く合肥を攻略することができれば
呉は晋に対しての拠点を確保すると同時に、建業への脅威を排除することもできます
晋よりも早く合肥を抑えるため、蓮華様のお早い決断が必要かと」
「それは分かっている。しかし、相手は張遼なのだ・・・・姉様でさえ適わなかったあの・・・・・」
蓮華が張遼を恐れる最大の理由
それは、最も信頼していた姉、雪蓮と冥琳が蓮華の目前で張遼に完敗したことだった
雪蓮が適わない相手に自分は戦えるのだろうか
蓮華はそれが不安で仕方なかった
「張遼は強い、じゃが、あ奴には無い武器がここにおりますじゃろうて」
祭が指すのは亞莎だ
「戦は個の武勇が左右するほど甘く無い。亞莎の策なら、相手が張遼であろうと遅れは取りますまい」
亞莎は軍師としての頭角を現しても勉学をおろそかにしていなかった
この数年で飛躍的にその才能を発揮し始めていたのだ
「お任せください蓮華様。祭殿、思春さんのお二人の武を持って必ずや合肥を攻略します」
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