「一刀よ
今日は絶好の散歩日和じゃと思わんか?」
「ん・・・」
晴天の下
無表情のまま頷く青年に、彼女は“そうじゃろう、そうじゃろう”と上機嫌に笑う
「して、一刀よ
儂らの前に、店があるのが見えるな?」
「ん・・・」
「うむ
あの店から香る匂いの心地よいこと
このような良い天気の日には、まずはあのような素晴らしい店に足を運ぶことから始めねばならんのじゃ」
「・・・?」
「はっはっは!
なに、お主もすぐにわかるようになる!」
笑い、彼女は歩き出す
その視線の先に、先ほどの店を見据えながら
「さぁ、いざ行かん!
至高の“酒”を求めてブホッ!!!!???」
そして、いざ店に入らんとした瞬間のこと
“スパァン”という軽快な音と共に、彼女の頭に素晴らしい一撃がはいったのだった
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
一章 第八話【優しい光】
「な、何をするんじゃいきなりっ!?」
頭をおさえたまま、半べそをかきながら祭は言った
そんな彼女の様子に首を傾げながらも、一刀は手に持っていたモノを彼女に見えるよう差し出す
「“ハリセン”」
「そうじゃない!
そうじゃなくてじゃな・・・何故、それで叩く!?
地味に痛いんじゃぞ!?」
「七乃が・・・祭が“お酒”って言うたびに、コレで叩けって」
「あやつかあぁぁぁぁあああああ!!!!」
笑顔でサムズアップする七乃を思い浮かべながら、彼女は大げさに叫んだ
そんな祭もよそに、一刀は持っていたハリセンをヒュンと振るう
どうやら、気に入ったようだ
祭はその音に一瞬ビクンと体を震わせた後に、“ハァ”と深くため息を吐きだした
「仕方ない・・・普通に散歩でもするかのう」
「ん・・・」
「はぁ~・・・酒~~あびゅ!!?」
“スパアァァァン”と、先ほどとは比べ物にならないほどに良い音が響く
その直後、祭は自身の頭をおさえその場に膝をついた
「お・・・お主、なにコツを掴んどるんじゃ!?
いらんからな!?
そんな技術いらんからな!?」
「お酒・・・ダメ」
「わ、わかった!
わかったから、ソレを振り上げるでない!
ゆっくり、ゆっくりと下ろすんじゃ!」
「ん・・・」
“コクン”と頷き、一刀はハリセンを下げる
それを見て、祭は安堵の溜め息を吐きだした
「やれやれ・・・七乃も厄介なモノを渡したもんじゃのう」
「七乃、心配だって
祭のこと・・・だから、これで叩いてくれって
そしたら、安心して“ざまぁww”って、思えるからって、言ってた」
「心配してるのか、馬鹿にしてるのかわからんなソレは・・・」
「ざまぁ・・・」
「そしてお主も真似をするでない」
などと、言いながら歩く二人
そんな中、祭の表情はとても穏やかなものだった
2人は現在、もはや恒例となった天水の街中の散歩に出かけていた
もうわかっているだろうが、今日の当番は祭だ
彼女は七乃からお弁当を預かると、一刀を連れ街に出たのだ
そして現在
2人はいつもの場所・・・街の子供たちが集まり遊ぶ、憩いの場へと到着していた
「平和じゃな」
「ん・・・」
祭の呟き
一刀は、コクンと頷く
そんな彼の様子に、彼女は苦笑を浮かべていた
「まったく・・・お主は、本当に無口じゃのう
元から、そうじゃったのか?」
「・・・?」
「ああ、スマンな
お主は何も覚えておらんのじゃったな」
“ははは”と笑い、彼女は一刀の頭を撫でる
「それで・・・何か思い出せたのか?」
「わからない・・・」
「そうか・・・」
“まぁ、慌てることもあるまい”と、祭は笑う
その笑顔に、一刀は首を傾げていた
だがそんな中、彼女は唐突に彼の頬に触れ・・・それから、小さく呟いたのだ
「しかし・・・おかしな話じゃがな
儂は、お主と会ったことがある気がするんじゃよ」
「祭と・・・?」
「・・・いや、儂の気のせいじゃろう」
言って、彼女は苦笑する
“気のせい”だと
自分に、そう言い聞かせながら
「む・・・?」
ふと、感じた違和感
彼女は一瞬だけ眉を顰めるが、その違和感の正体に気づいた瞬間
また、苦笑を浮かべていた
「“また”・・・か」
“またか”
そう言った、彼女の視線の先
震える・・・彼女の手
彼女はその手を、ギュッと握りしめる
しかし、震えはおさまらなかった
「ままならんなぁ・・・」
“酒でもあれば”
そう考え、彼女は苦笑する
そして“違うか・・・”と、彼女は一刀に聞こえないよう呟いたのだった
“恐かった”
情けない話じゃが
無様な話じゃが
薄れていく意識の中
儂は、そう思ってしまった
この国の為
未来ある若者たちの為
その為ならば、この命さえも惜しくないと
そう、豪語していたはずなのに
いざ、そうなってみると
儂は・・・訪れる暗闇に、終焉に
唯々“恐怖”した
“死にたくない”と
そう思ってしまったんじゃ
そして、何よりも許せないのは
あの日・・・奇跡的に助かった儂が、最初に思ったこと
目を覚まし、覚醒していく意識の中
“戦は、どうなったのか”ではなく
“皆は、無事なのか”でもなく
儂は、思ってしまったんじゃ
“ああ・・・儂は、生きているのか”と
そう・・・心から、“安堵してしまった”
「・・・」
握り締めた手を開く
だがしかし、未だに震えは止まらない
「駄目じゃのう・・・はぁ」
“震える手”
それは・・・忘れることのない、“恐怖”からくるもの
それを、彼女自身もわかっていた
しかし・・・
「誤魔化すのにも・・・もう、疲れてしまった」
それを克服することは、彼女にはできなかった
どれだけ時が流れようとも
どれだけ楽しい時を過ごそうとも
どれだけ誤魔化そうとも
ソレは・・・絶えず、彼女を縛り続けていた
(儂は、恐かったんじゃよ・・・)
国の為に
皆の為に
そして・・・自身が抱く“誇り”の為に
自身の命を、犠牲にしようと思った
そんな一人の武人は・・・気付いたのだ
(儂は・・・死にたくない
生きていたい
皆と共に・・・生きていたい)
震える手を見つめながら、彼女は思う
自身が抱く、本当の想いを・・・
「のぅ、一刀よ・・・」
「・・・?」
不意に、彼女は自身の前にいる青年の名を呼んだ
そして・・・スッと、自身の手を差し出した
弱々しく震える手を
「手を、繋いでくれんか?」
「手を・・・?」
「うむ・・・」
言って、彼女は彼の返事も待たずその手をとった
それから、スッと瞳を閉じる
「祭、どうかした?」
「別に・・・何でもない」
「そう・・・」
会話が、途切れてしまう
無言のまま、流れていく時間
そんな中、彼女は思う・・・
気付いてしまった
“生きていたい”と
自分の、本当の想いに
許せなかった
“情けない”と、“無様”だと
そう、自分を責め続けた
恐かった
“暗闇”が、“終わり”が
堪らなく、恐かった
そして・・・震えは、止まらなくなった
起きていても
夢の中でも
頭の中、何度も浮かんでくる
燃え盛る、炎の中で
儂は何度も・・・何度も、殺される
この胸に、何度も刺さる
終わりを告げる、あの矢が
何度も・・・何度も
儂を、恐怖させる
あの暗闇を
あの終わりを
儂は、何度も繰り返す
数えきれないくらいに・・・繰り返す
『恐い・・・』
震えは、止まらない
このまま、ずっと・・・
「祭・・・?」
「なんでもない・・・なんでもないんじゃ」
問いかける声
それに、祭は目を閉じたままで答える
“なんでもない”と
たったそれだけの会話
「ぁ・・・」
しかし、彼女は気づいた
気付いてしまった
自身の手
彼と触れ合うその手
その手が、震えていないことに
その手が、とても“温かい”ことに
(温かい・・・)
“不思議”だと、彼女は思った
無表情で、感情もろくに出さない青年
その手が、ここまで温かいことが
彼女は、心底不思議だと思った
そして、彼女は“忘れていた”
先ほどまでの“恐怖”も
頭の中に浮かぶ、あの“終わりの矢”も
この温かさに、かき消されていた
「もしかしたら・・・」
「・・・?」
「お主は・・・記憶を失う前は、優しい男だったのかもしれんの」
「優しい・・・?」
“ああ”と、祭は微笑んだ
「優しくて・・・“太陽”のように温かな、そんな男だったのかもしれんな」
瞬間・・・風が、吹き抜けていく
その風に揺られ、見えた彼の瞳
それは相変わらず、色のない感情の見えない瞳だった
だがそれでも、彼女には見えた気がした
色のない、空っぽの瞳
その中に・・・“白き光り”を
「太陽・・・」
呟き、見上げた空
彼は太陽を見つめ、小さく息を吐きだした
「ああ・・・そうだ」
そして、再び呟く
「“君”も・・・そう、呼んでた」
散らばった“大切なモノ”
その、本当に小さな“欠片”を・・・
★あとがき★
こんにちわw
遥か彼方、一章の八話公開です
今回は祭さんのお話でした
他の人たちよりもコメディ色が強いのは、きっと彼女の仁徳によるものでしょうwwww
マジで結婚してほしいですね(ぉぃ
割かし、シリアスなお話です
祭さんの抱える闇・・・“恐怖”
どうなってしまうのかは、今後の展開にご期待くださいw
さて、次回は美羽のお話です
徐々に深まっていく絆
繋がっていく、“欠片”
ストーリーも徐々に進んでいきますw
そして、ここで質問です
祭用の作品なのですが・・・
①シリアスな、魏√afterなお話
②カオスな、萌将伝のお話
③多分、初公開!?ダークでヤンデレな、救いのないお話
どれがいいですかね?
いえ、まぁあくまで参考までになんですが・・・
それでは、またお会いしましょうww
Tweet |
|
|
49
|
10
|
追加するフォルダを選択
こんにちわw
一章の八話、公開です
今回は祭さんのターン
え?珍しく更新が速くないかって?
だって、このシリーズしか書いてないもんww
続きを表示