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遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・七話

月千一夜さん

お久しぶりの更新ですw
遥か彼方、一章七話目公開しますww

今回は“夕”さんのお話

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2011-05-22 22:29:47 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:9792   閲覧ユーザー数:7810

『さらばだ・・・っ!』

 

 

“ザクリ”と、私は“ソレ”を地面に突き立てる

それから、そっと手を離した

目の前には、私が突き立てた“ソレ”を含め“四つ”

それらが、さながら“墓標”のように我々の前に立っていた

 

 

『よいのじゃな・・・?』

 

 

ふいに、それらを見つめていた私に向い声がかけられる

その言葉に、私はゆっくりと頷いた

 

 

『ああ・・・構わない』

 

 

視線の先、三人の女性は私の言葉に目を伏せた

その様子に内心苦笑しつつも、私は視線を再び突き立てたソレへと向ける

 

 

 

 

『今ここに・・・私は、■■という一人の武人は死んだ』

 

『同じく・・・■■も、ここに死した』

 

『妾の名も、ここに置いていくのじゃ』

 

『はい、置いていきましょう』

 

 

 

 

言いながら、それぞれに突き立てたソレを見つめた

 

ああ、そうだ

今ここに、“私”は死んだのだ

愚かな武人は、ここに死したのだ

 

大切な主を守れぬ武人は、もう・・・

 

 

 

『しかし、お主はどうするのじゃ?』

 

『何がだ?』

 

 

その言葉に、私は彼女へと振り返る

彼女は、顎に手をあて苦笑していた

 

 

『いやな、儂らは“真名”を名乗ればよいとしてじゃ

お主、真名がないのじゃろう?』

 

『む・・・そういえばそうだな』

 

 

“どうしたものか”と、私は腕を組む

そんな私の様子を見て、一人の少女が大げさに手をあげた

 

 

『じゃったら、妾が考えてあげるのじゃ』

 

『え~、お嬢様がですかぁ?』

 

『お・・・お主がか?』

 

『お、お前が考える・・・だと?』

 

『な、なんじゃその“うわ、こいつ何言ってんの?”みたいな顔は!?

妾に任せれば、万事解決なのじゃ!!』

 

 

そう言って、“うむむ”と深く考え込む少女

そんな彼女の姿を微笑ましく見つめる我々三人

それからしばらくして、彼女は何やら思いついたのかパァッと表情を明るくさせた

 

 

『うむ、決めたのじゃっ!』

 

『いや待て、決めるのはあくまで私であってだな・・・』

 

『うはははは、聞けい!

妾が考えし素晴らしき名を!』

 

『コイツ、人の話を聞いちゃいないぞ・・・!』

 

『まぁ、お嬢様ですから』

 

『まぁ、こやつじゃからなぁ』

 

『くっ・・・思わず納得してしまった自分が憎い!』

 

『よいか、お主の名は今日から・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 第七話【いつか帰る日まで】

 

 

 

 

 

「“夕”・・・歩くの、早い」

 

「ぁ、ああ・・・すまない」

 

 

かけられた声に、彼女は・・・“夕”はハッと、我に返った

目の前ある光景は、もう“あの時のもの”ではなく

それが彼女の表情に、苦笑を浮かばせていた

 

 

 

「一刀、大丈夫か?」

 

「ん・・・」

 

 

言いながら振り返る夕

そんな彼女に対し、一刀はいつものように無表情のまま頷く

彼のその返事に、夕は苦笑しながら“もうすぐだ”と言った

 

 

さて・・・二人は現在、天水の近くにある山の中にいる

緑が深く生い茂る道を、二人は歩いていたのだ

 

何故、2人がここにいるのか?

 

それについて説明するためには、今より数時間前まで時を遡る必要がある・・・

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「ふむ、大分筋肉もついてきたな」

 

 

そう言って、何かをサラサラと紙に書き込むのは華佗だ

そんな彼の姿を無表情のまま見つめる一刀は、その言葉にひとまず頷いて見せた

 

 

「これならば、普段通りの生活に関しては問題はないだろうな」

 

「おおっ!

やったの、一刀っ♪」

 

「ん・・・」

 

 

華佗のこの一言に、美羽は笑顔で一刀に抱き着いた

そんな美羽とは対照的に、一刀は相変わらず無表情のまま頷いていた

 

 

「しかし、油断は禁物だぞ

まだ念の為過度な運動は控え、今まで通り基本的な体力づくりを徹底することだ」

 

「ふむ、なるほどのう」

 

「では、ひとまず今まで通りってことですね~」

 

「まぁ、そうだな

前よりは、行動の範囲は広げても問題はないが・・・」

 

「そうか・・・」

 

 

華佗の言葉

これに、夕は腕を組み考え込む

それから少しして、何か思いついたのか顔をあげた

 

 

「ならば一刀、今日は少し遠出をしてみるか?」

 

「遠出・・・?」

 

 

“ああ”と、夕は微笑んだ

それから、窓の外を指さす

 

 

「なに、いつもより少々歩くだけだ

そこまで、険しい道のりでもないから安心しろ」

 

 

言われて、見つめた先

城壁の上に、緑の生い茂る山の頭が見える

それを見て、七乃と祭は何か気づいたのか眉を顰めた

 

 

「まさか、“あそこ”に・・・?」

 

「ああ、そうだ

久しぶりにな・・・たまにはいいだろう?」

 

「ふむ・・・まぁ、悪くはないがのう」

 

 

そんな2人の反応もよそに、夕は笑みを浮かべたまま二人の肩を叩く

“心配するな”と、そう言うかのように

 

 

「夕方までには帰るさ

さて一刀、準備をするぞ」

 

「ん・・・」

 

「あ、ならお弁当作りますね~」

 

「ならワシは、酒を・・・」

 

「祭さん、ちょっと表出てくださいね~~」

 

「い、痛い痛い痛い!!?

ま、待つんじゃ七乃!

胸を・・・胸を引っ張るんじゃな・・・イタタタタタタタ!!!!!???」

 

 

 

 

賑やかな、朝の風景

この後、七乃特製のお弁当を貰った二人

2人は七乃に見送られながら、街から出てすぐの山に入ったのだった

 

 

それが、数時間前のこと・・・

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「着いたぞ、一刀」

 

「・・・」

 

 

夕の言葉

それに、一刀は無言のまま頷く

ジッと・・・目の前に並ぶ、“あるもの”を見つめたまま

 

 

「これ・・・なに?」

 

 

指を差し、首を傾げる一刀に・・・夕は苦笑を浮かべた

それから目の前に並ぶ“ソレ”を、優しく撫でた

 

 

「これは・・・“墓標”だ」

 

「墓標?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

言って、彼女は自身が撫でていた墓標・・・地面に突き刺さったままの巨大な“斧”を見つめ微笑んだ

その斧は長い間ここに突き刺さったままだったのか、至る所に傷が見える

 

 

「ここには・・・“愚か者”が眠っているんだ

己の力を過信し、全てを失ってしまった愚か者がな」

 

「愚か・・・者」

 

「ああ・・・本当に救いようのないほどの愚か者だ」

 

「じゃぁ・・・」

 

 

呟き、辺りを見渡す一刀

彼は首を傾げたまま、夕を見つめ話を続ける

 

 

 

 

「“他の墓標”も・・・同じなの?」

 

 

 

 

一刀の言葉

夕は一瞬苦笑を浮かべると、目の前にある墓標から視線をうつし・・・同じように並ぶ、“3つの墓標”を見つめた

 

一つは、豪華な装飾の施された“短剣”が突き刺さった墓標

その隣には、しっかりとした造りの“剣”が同じように刺さっている

さらにその隣・・・大きな“弓”が、その場に立てられていたのだ

 

それらを見つめたまま、夕は深く息を吐きだした

 

 

 

「どうなんだろうな

少なくとも、きっと・・・私なんかでは理解できないほどに、悩み苦しんでいたんだと思う」

 

「そう・・・なの?」

 

「ああ、そうだと思う」

 

「皆・・・?」

 

「ああ、皆だ」

 

 

そう言って、夕は空を見上げた

空は、まぶしい程の“青”

夕はそんな空に向い、そっと手を伸ばす

 

 

「ずっと・・・後悔しているんだ」

 

「夕・・・?」

 

「ふっ・・・何でもないさ

さぁ、ひとまず七乃の作ったお昼でも食べるとしよう」

 

「ん・・・」

 

 

一刀が、頷くのを見つめ

夕は背負っていた袋から弁当などを取り出す

 

温かな日差しの中

四つの墓標が並ぶ中、二人は静かに昼食をとるのだった・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

『嘘だ・・・』

 

 

ザァザァと雨が降りしきる中

“私”はたった今聞いた話に、膝をつき項垂れていた

 

 

 

 

“董卓が討たれた”

 

 

 

目を覚ました私の耳に、最初に入った情報だった

洛陽に地にて、“董卓”が討たれたと

その情報に、私は涙を流すことすら忘れていたのだ

 

いや、違う・・・

 

 

 

『董卓・・・様』

 

 

 

この“雨”が、“涙”だ

 

この両目からじゃ足りないから

だから私は、この空を借り泣いているのだ

空を覆う雲の手を借り、涙を流しているのだ

 

 

『うぅ・・・うああぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!』

 

 

“無力”

 

情けない程に、私は無力で愚か者だ

誇っていた“武”を過信し、無様にも負けてしまい

守るべき主君も、失ってしまった

 

 

『私はっ・・・私は・・・・・・』

 

 

私には、もう何もない

何も、ないんだ

 

 

『私は・・・いったい、どうしたらいい?』

 

 

この日

私は・・・“華雄”という一人の“愚か者”は

 

全てを失ったのだ

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「・・・ん」

 

 

目を覚まし、夕が一番最初に見たのは“朱”

赤く染まった空だった

それが何を意味しているのかに気づいた時、彼女は苦笑しながらその場から起き上がった

 

 

「いつの間に、眠っていたのか」

 

 

呟き、見つめた先

彼女は、言葉を失ってしまう

 

その視線の先、緋に染まる四つの墓標を見つめたまま

 

 

「これは・・・」

 

 

ようやく出た声

その声に反応するように、その四つの墓標の前に立つ青年

一刀が、振りかえった

 

 

「夕・・・起きた」

 

「ああ、たった今な

それよりも、これはまさか・・・一刀がやったのか?」

 

「ん・・・」

 

 

一刀の返事

それに、夕は“そうか”と小さく呟いた

 

 

「だめ、だった?」

 

「いや、そうじゃないんだ

ただ・・・どうして、“こんなこと”を?」

 

 

“こんなこと”

夕のその言葉に、一刀は視線を自身の前にある“斧”へと向けた

 

 

「まだ、“終わりじゃない”」

 

「まだ・・・終わりじゃない?」

 

「ん・・・」

 

 

頷き、見つめる先

ここに着いた時よりも僅かに“綺麗”になった墓標を見つめ

そんな墓標とは対照的に、着いた時よりも汚れてしまった自身の体を気にもせず

 

彼は、言ったのだ

 

 

 

 

 

「きっと・・・“帰ってくる”」

 

「っ・・・」

 

 

 

 

“帰ってくる”

 

言って、彼は空を見上げた

それからすぐに、ゆっくりとその場に倒れこんだのだ

 

 

「一刀っ!!?」

 

 

慌てて、彼の体を抱き上げる夕

そんな彼女の耳に聞こえてきたのは・・・規則正しい“寝息”だった

夕は、一瞬呆気にとられた後

安堵の溜め息を吐きだしたのだった

 

 

「全く・・・心配させてくれる」

 

 

呟き、彼女が見つめた先

僅かだが綺麗になった斧を見つめ、彼女は微笑んでいた

 

 

「“帰ってくる”・・・か」

 

 

自身の腕の中で眠る青年の頭を優しく撫で、彼女はその斧を見つめ続けていた

 

 

「は・・・そんな馬鹿な話、あるわけ・・・」

 

 

“ない”

 

その言葉を発することはなかった

変わりに出たのは・・・大きな“笑い声”

自分でも信じられないほどに、無邪気な笑い声だった

 

 

「一体何を言いだすかと思えば・・・ははは」

 

 

“帰ってくる”

その言葉を思い出し、彼女は笑う

 

 

「本当に、何を・・・」

 

 

 

それは、彼女に言った言葉ではなかったのかもしれない

疲れて朦朧とする意識の中、何かを思い出し言った言葉だったのかもしれない

 

だが・・・そのようなことは、どうでもよかったのだ

 

 

 

「“帰ってくる”、か」

 

 

“帰ってくる”

その一言だけで、彼女には十分だった

 

 

「今さら、帰れないさ・・・“私”は」

 

 

その一言だけで、彼女は少しだけ

ほんの少しだけ・・・

 

 

 

 

 

 

「今は・・・“まだ”、な」

 

 

 

 

 

ほんの少しだけ・・・前に進めたのだから

 

 

 

 

 

「だから、もう少し・・・もう少しだけ、待っていてくれるか?

なぁ、“金剛爆斧”よ」

 

 

 

夕焼け空に照らされた、四つの墓標

 

その墓標が、朱に染まり・・・輝いて見えていた

 

 

 

 

★あとがき★

 

ども、いろいろありましたが・・・とりあえず、再開いたします

 

今回は、夕さんこと華雄さんのお話

というよりも、何故あの四人なのか?という疑問に少し触れたお話となっております

 

次回は祭さんの予定

そんで美羽・姜維ときて、その後にstoryが進んでいきます

 

ひとまずは、祭用の作品と同時進行しながらまた~り更新していきます

 

 

それでは、またお会いしましょう

 


 
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