時を少し遡る
一刀の部屋を出た華琳は玉座に着くと伝令を呼び出した
肘を突き不機嫌そうに
「于禁に伝令、捕らえている蜀の捕虜全てを処刑なさい。そして、将の首は劉備に贈り付けてやれ」
「将と申しますと、関羽も含め、でございましょうか」
華琳は鼻で笑うと
「当然よ。ああ、雑兵の死体は処分してかまわんが、将の胴は私に贈る事」
「かしこまりました」
伝令は出立した
(劉備、私に逆らうとどうなるか、思い知らせてあげる)
「ああ、どんな形であれ、私は華琳様のお力になりたい。そのためなら兵卒になることなどどうと言う事もない」
春蘭は言い切った
身分を兵卒に落としてでも、例え華琳から疎まれても、それでも華琳のために生きたい
春蘭らしいよ
そう言えば、道化になるなんてことも言ってたっけ
その後も話は弾み
俺と春蘭は久しぶりの会話を楽しんでいた
「なぁ、北郷」
「何?」
「実はな、華琳様にお許しいただいた後なのだが・・・・・」
「うん」
「その・・・・・閨に呼ばれてな・・・・・」
「・・・・・・・・・・・それで?」
「喜び勇んで華琳様のお部屋へ行ったまではいいのだが・・・・・そこからの記憶が無いのだ」
「はいはい、興奮しすぎて記憶が飛んだのね」
「ば、馬鹿を言うな北郷。久しぶりだったから興奮したのは否定せんが
記憶が曖昧になるなどありえん」
「貴様、何をくっちゃべっておるか!!!」
やばい、警備隊長が来たか
「すいません、俺が話しかけたから」
「御遣い様、部下の無礼、どうぞご容赦頂きたい」
「違うんです。悪いのは俺で」
「御遣い様、さぞお疲れのことでしょう。どうぞごゆるりとお休みください」
だめだ、こっちの話を聞いてくれない
「夏侯惇、番兵の仕事を忘れ御遣い様にご足労をかけるとは何たる不忠。司馬懿様のご厚意を無にするつもりか!」
ドスッ!
扉の向こう側の出来事を俺は見れない
だけど、こいつ、春蘭を殴りやがった
「やめろ!!」
「・・・・・・」
「今の貴様はただの兵卒。そのことをしっかり教育する必要があるようだ、な!!」
ゴスッ!
「グッ・・・・」
「やめろ!やめてくれ!」
俺は扉を何度も叩いた
それでも扉はびくともしなかった
華琳は簡単に蹴破ってたのに、俺はなんて無力なんだ
「前から気に入らなかったんだよ夏侯惇。馬鹿の癖に偉そうにしやがって!!」
俺は近くにあった手ごろな机を持ち上げると力一杯扉に叩き付けた
それでも扉はびくともしない
こんなに頑丈だったのかよ
「くそ、何か、何か使える物は」
俺は部屋を見回した
その時だった
警備隊長の声が止まった
「はうあ、春蘭さんお怪我は」
この声、明命!!
「ナイスだ明命!!」
「菜伊巣、私、菜伊巣ですか?意味は分かりませんがありがとうございます!」
「明命・・・・なぜここに」
「一刀様をお迎えに参りました。さ、春蘭様もご一緒にここを抜け出しましょう!」
まずい、明命は春蘭が再び華琳に忠誠を誓ったことを知らない
「待つんだ明命!」
「え?」
春蘭は立ち上がると明命の左肩を掴む
「お迎えに・・・・それは北郷を華琳様から奪うということか」
明命はなぜか頬を赤らめると
「そ、そんな、一刀様を奪うなんて・・・・・はうあ!そう言う意味ではありません!」
「ではどう言う意味だ」
「一刀様をここから連れ出すのです」
「同じではないかーーーーー!!!」
春蘭は明命を両手で掴むと廊下の壁へ叩き付けた
明命の体は壁を突きぬけ外へと放り出されてしまう
どうやらここは3階だったようだ
3階から大きく開けた中庭に落下する明命は事態が理解できず、なぜ春蘭に攻撃されたのか分からない
(とにかく受身を)
何とか受身を取ることに成功し致命傷は避けた
そこへ春蘭の追撃が降ってくる
明命は身をかわすと爆風に巻き込まれながらもなんとか避けることができた
「どうして邪魔するんですか」
「・・・・華琳様に仇なす者は・・・・全て消し去る・・・・死ねぃ!」
明命に突進する春蘭、明命はその身軽さで避けるしかない
二人は周囲の物を破壊しながら戦った
次第に人だかりが出来初めた
騒ぎを聞きつけた城内の兵が集まりつつあるようだ
(このまままではまずいのです。ならば!)
明命は口に指を当てるとピーーーーーと口笛を吹く
すると、どこからともなく大量の猫が城内になだれ込んできた
周囲に集結しつつあった兵達は突如現われた猫の大群に大混乱
「うわーどっから沸きやがった!衛生兵!衛生兵!」「もっふもふじゃねえか!!」「はい死んだ!俺死んだ!」
すっかり毒気を抜かれてしまい兵は役立たずとなった
「いつの時代も、人はお猫様に弱いのです」
兵は使い物にならなくなった
しかし、春蘭は1人だけがんばっていた
「ウ・・・・グググ・・・・・・」
「さぁ、春蘭様、無理せず存分におモフリください」
明命はそう言うとふさふさでモフモフな猫を春蘭に差し出す
「ウウウウ・・・・グ・・・・・ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「ひぃ!」
春蘭の気が膨れ上がり大爆発
それを感じ取った猫達は一斉に逃げてしまった
「ああああああ、お猫様が」
周囲には昇天している兵多数
「お猫様を跳ね返すなんて・・・・分かりました。ならば、直接お手合わせ願います春蘭さん!」
「グオオオオオオオオオオ!」
春蘭の右目は、赤く光っていた
扉の外が騒がしい
明命の作戦は失敗してしまったようだ
「・・・・・俺には何もできない。何が御遣いだよ。ちくしょう」
外の喧騒を聞くことしかできない自分が腹立たしい
諦めの気持ちで心が染まってしまいそうになった
すると、頭上からカチャカチャと音がした
「・・・・扉の鍵?」
俺が顔を上げたその時、扉は勢いよく開いた
バタンッ!!
「一刀!!」
扉は俺の頭に直撃
そこからは何も覚えていない
「う、う~~~~ん・・・・・・・・・・・・・・ここは?」
「北郷!」「兄ちゃん!」「一刀様!」「ぐぅ~~~~おぉ!」
「・・・・秋蘭、季衣、明命、それに風も・・・・・俺、どうなったんだ」
凄い勢いの扉の直撃を受けて、その後どうなったんだろう
そもそも扉を開いたのは・・・・・
「すまん北郷、まさかあんなところにいるとは思わなくてな」
そっか、扉を開けたのは秋蘭だったのか
俺は秋蘭の手を取り
「秋蘭・・・・・ありがと」
「一刀・・・・・」
二人が見つめあう
「オイオイお二人さん、イチャイチャするのは二人の時にしてくれねえか」
宝慧のツッコミを受けるとぱっと手を離し、一刀も秋蘭も赤くなってしまった
そしてなぜか二人以上に赤い顔の明命
どうやら俺は揺れる馬車に乗っているようだ
「心配かけてごめん、もう大丈夫だよ」
起き上がると胡坐をかいて3人と向かい合った
「風と合流できたんだな。すると馬車を動かしてるのは」
「はい、稟ちゃんなのですよー」
前のカーテンが開くと稟がドヤ顔でこちらを見ていた
安心した俺は全身の力が抜けると再び気を失った
詳しい話は後にしよ
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一刀の脱出作戦に春蘭は