~晋~
俺の名前は北郷一刀
天の御遣いと呼ばれる警備隊長、だった
「華雄は袁術に仕えていたはずでしょう!どうして今更董卓に忠誠誓ってんのよ!!」
華琳が椅子を蹴飛ばすと、椅子は大きく弧を描き砕け散った
ああ、愛用の椅子が・・・・
なぜ華琳が荒れてるかと言うと、さっき長安が落ちたと報告が来たからだ
「華琳落ち着けって」
「何か言った?」
華琳は手元の綱を引き寄せ、俺を引きずった
「ウグッ、すいません」
俺の首には首輪がつけられていたりする・・・・
華琳は俺の頭を掴むと顔を寄せた
やっぱり華琳はかわいい
「これも計算どおりよ。今私達が蜀を撃退してみなさい。
晋と呉の大軍があっという間に成都まで制圧して戦乱が終わってしまうじゃない。
だから、計算どおりな、の、よ!」
華琳の持つ鞭がうなりを上げた
バチン!
「いでぇー!」
「劉備め、ここからは一切容赦しないわ。地獄を見せてあげる」
扉を蹴り破り、華琳は帰っていった
ここは俺の部屋
華琳は何かあるとここに来てストレスを発散していく
「ハァ・・・・つい最近まであんなに上機嫌だったのに」
全てが華琳の手の平の上で動いているかのようだった
蜀の劉備さんは仲間を失い
呉の雪蓮は妹の蓮華に裏切られる
「劉備、孫策、私と同じ苦しみを少しは味わえたかしら?ふふ、もっともっと苦しみなさい」
華琳は嬉しそうに俺に語った
他人の不幸が嬉しくて仕方ないかのように
憎しみが増大し、このままでは終息の見えない戦乱に皆が巻き込まれてしまうのではないか
俺の危惧は絶えなかった
俺は春蘭救出に失敗し捕らえられた
華琳の罠にはまり、何も出来ずKOされてしまったんだ
あの時に負った傷は癒え、今はぴんぴんしている
数日眠っていたらしい俺が意識を戻すと、華琳は復帰祝いと大きな木箱をくれた
木箱を開けると5つの首が入っていた
「あなたを傷つけた無能な兵は始末してあげたわ。感謝なさい」
俺に暴行を加えた兵士の首だった
華琳は俺の顎を掴み、くいっと
「一刀を傷つけていいのは、私だけよ」
何が華琳を変えてしまったのだろう
昔からS気質はあったと思うけど、こんな風に力を見せ付けたりはしなかった
謎を解きたい、だけど、この部屋から出ることを許されていない
俺には自由がない、監禁って奴だ
この部屋に監禁されてからだいぶ時間がたった
そんな中で、俺は一つだけ手がかりを掴むことができたんだ
あれは、桂花が華琳との決別を決意したことが分かった時のことだ
「桂花が北伐の指揮権を賈駆に移譲させたですって?
ちっ、孔明なら戦わずして北伐から撤退するはずだったのに
まずいわ、流琉1人では守りきれない」
華琳がどんなに優秀でも、今はたった一人
傍らに軍師はいない
たった一人で大陸を動かすのは無理のある話だ
一人で全てを動かそうとしているから、必然的に綻びが生まれ、その綻びは大きな綻びとなり・・・・
俺はそんな華琳を見ていられなかった
ずいぶん前のことだけど、劉備さんの攻撃を篭城で凌いだことがあった
あの戦いで、俺は体の振るえが止まらなくて、華琳に抱かれて振るえを止めたっけ
それを、今度は俺がやってみた
「あまり無理しないでくれよ」
あれから2年以上の時がすぎた
華琳の見た目は・・・・・あまり変わってないな
俺は華琳の頭を後ろから包んだ
「・・・・・・カズト・・・・ワタシ」
「華琳?」
「チガウ・・・・・ワタシハコンナコト・・・・」
「華琳、華琳!!正気に戻ったのか?」
「カズト・・・・タスケ・・・・・」
「華琳!!」
華琳が元に戻ってくれるかもしれない
俺は必死に呼びかけた
すると、華琳が俺の腕の中で体をこちらに向け、手を、すっと、俺の鳩尾に当てた
このままいけるか?
次の瞬間
「ぐふぁ!」
どういう原理なのかは分からない
とにかく俺は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまった
呼吸が出来ない
「グ・・・・・グゥ・・・・・・・・ゲホッゲホッ!!
「フゥ・・・・油断も隙もない男ね。お仕置きが必要かしら?」
俺は確信した
何かが、本当の華琳を隠してしまったんだ
そして、華琳は俺に助けを求めてる
この俺に
「せめて、城内を自由に行き来できれば・・・・」
この部屋には窓がない
あるのは前方の扉だけ
扉の前には常時番兵がいて、外との繋がりは完全に絶たれている
唯一外と繋がっているとしたら、隣の部屋に設置された厠ぐらいか
「と言っても、穴が小さすぎて体が通らないけどな」
ここの厠はなんと水洗式なのだ
作りは簡素で、設置されている桶から水を汲んで流すだけだけど、恐らく世界初の水洗トイレだろう
「首輪も取れないし、ハァ・・・・無力だ」
あれから何度も華琳に抱きついてみた
結果は、そのたび吹き飛ばされ、お仕置きされるだけだった
華琳を元に戻すには俺が鍵になるのは間違いない
問題は、俺が何をしたらいいのかってことなんだけど、それがさっぱり分からない
「・・・・寝るか」
今日も華琳にシバかれただけで、何も収穫が無かった
俺は寝る準備を始め、寝巻きに着替え、さっさと布団に入ろうとした
「っと、その前にトイレトイレ」
厠に入りズボンを下ろそうとした
カズトドノカズトドノ
「ん?」
カズトドノカズトドノ
「この声・・・・明命?どこ??」
ココデス カズトドノ
「て、のわぁ!!明命、なんてとこにいるんだよ」
明命がいたのは厠の下
「一刀殿、これを」
明命が棒の先に手紙をつけたものを差し出した
俺は手紙を受け取った
「・・・・・・・分かった。頼んだよ明命」
「もう少しの辛抱です。必ずお救いしますから」
ここから逃げる
俺の中で華琳と離れたくない気持ちは強い
だけど、俺がここにいても何も解決しないだろう
時間が来たら番兵の注意を引き付けてください、か
そう言えば、番兵さんはどんな人なんだろな
姿を見たことないし、声を聞いたこともなかった
トントン
「番兵さん、少し話してもいいかな。どうも寝付けなくてね」
扉を叩き、番兵がいるであろうところに話しかけた
「少しの時間でいいんだ。話をしないか?」
「・・・・・・申し訳ございませんが、私語は厳禁ですので」
どこかで聞いたことのある声だな
「番兵さんは女の人だったんだね。綺麗な声だ」
「な、何を言うか・・・馬鹿もの////」
どこかで聞いたことのある反応だな
「・・・・・変なこと聞くけど、夏侯惇将軍に似てると言われたことない?」
「今の私はただの兵卒だ」
「やっぱり春蘭なのか!?」
「う、しまった・・・・・」
「こんなとこで何やってんだよ。どうやって脱獄した?」
「人聞きの悪いことを言うな、私は脱獄などしておらん」
「だったらどうして」
「将としての私がお邪魔なら、兵卒として、一兵として華琳様のお力になりたいとお伝えしたんだ。
そしたら、華琳様は私をお許しくださった」
「・・・・・それで、兵卒の夏侯惇なのか」
「ああ、どんな形であれ、私は華琳様のお力になりたい。そのためなら兵卒になることなどどうと言う事もない」
ああ、春蘭は真っ直ぐだ
これでこそ春蘭だよ
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