No.212665

真・恋姫無双 黒天編 第7章 「灰色軍旗」後編

sulfaさん

どうもです。7章後編になります。

もくじ
p1~3    魏
p4~6    蜀

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2011-04-20 23:18:54 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:2772   閲覧ユーザー数:2329

真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第7章 「灰色軍旗」後編 蒼天の霹靂

 

                            ―魏―

 

「あれが襲われた村ね」

 

「そのようです」

 

華琳と秋蘭は数百騎の兵を引き連れて、春蘭、稟が駐屯している村へと向かう。

 

「報告では雇われた賊の仕業ということだったけど、他には報告はあったかしら?」

 

「後は直接報告するとのことです。見たほうが早いからということでしたが・・・」

 

「そう・・・、なにかしら?とりあえず急ぎましょう」

 

報告の内容から賊は無事に退治され、村も平定されたとのことだった。

 

そこで、稟ならもっと詳しい情報が報告書に書かれていてもよいのだが、今回に限ってはこの一文があった。

 

“詳細は現場を見ていただいた方が早いでしょう”

 

この報告を受けて、なにか特別なことがあったのは間違いない。

 

華琳は周りを急かすように行軍を進めていった。

 

華琳、秋蘭が門前付近に到着したとき、春蘭が出迎えに来ていた。

 

「華琳様~~~、こちらです~~~」

 

春蘭は手をいっぱいいっぱい振って、自己主張している。

 

華琳と秋蘭は各兵士長に指示をした後、彼女に近づいていった。

 

「お久しぶりです~。華琳様~」

 

「まだちょっとしか経ってないじゃないの」

 

「いえいえ、私は常に華琳様のお傍に居ないといけませんのに・・・」

 

「ところで姉者、門前にあったあれはなんだ?」

 

「おおっ、秋蘭も久しいな、あれか?それは・・・稟から聞いてくれ!!」

 

「まぁ、いつもどおりといったところね。稟はどこ?」

 

「はっ、こちらです」

 

春蘭を先頭に二人は稟が居る村の一番大きなお屋敷まで行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳達がそのお屋敷に到着したとき、稟は村人数人と書類整理をしていた。

 

賊に荒らされたため、この村にとって重要な書類等ももちろん荒らされている。

 

稟はその整理の手伝いをすると共に、雑務の処理の仕方などを簡単にだが教えていた。

 

「稟、ご苦労様ね」

 

「あっ!華琳様。申し訳ありません、もう少々お待ちになってもらってもいいですか?」

 

「別にかまわないわ」

 

「あとですね。その間に華琳様に見てもらいたいものがあるのですが・・・」

 

「もしかして、門前にあったものかしら?」

 

「はい、それと賊が使っていたこの村の倉庫です。春蘭様、道案内はお願いします」

 

「おう!」

 

話し終わった後、春蘭、華琳は部屋から出ようとする。

 

「稟。私も手伝う。早く済ませてしまおう」

 

「そうですか。でしたら、お願いします」

 

「華琳様、よろしいですか?」

 

「ええ」

 

秋蘭は稟の仕事を手伝うことになり、華琳、春蘭は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

華琳と春蘭は再び門前のカラクリのあるところまできた。

 

「春蘭、これは何のカラクリなの?」

 

「なんでも、横の車輪みたいな物を回すと大量の矢を飛ばせるというものらしいです」

 

華琳はその車輪に手をかけてそれを一回軽く回した。

 

すると、虎のカラクリからカラカラという作動音が聞こえてきた。

 

「ふ~ん、なるほど。相当のカラクリ技師がその依頼者の仲間にはいるのかしら」

 

「真桜以上のですか?」

 

「それは分からないけど、これだけの技術はそう持ってる人はいないでしょうね」

 

華琳は門前に置かれている5台すべてのカラクリを見ていく。

 

「賊に貸し与えて、威力とかを実証したかったのかしら」

 

「実際戦ってみて結構厄介でした。空一面が矢だらけになったのですよ。まぁ、我ら魏の精兵にはあまり効果はなかったですが」

 

「それは当然ね。・・・、次はどこを見ろと稟は言っていたかしら?」

 

「おそらく、賊が使っていた倉庫かと、あそこも訳が分からないものが多くありましたし」

 

倉庫らしき建物を指差しながら、春蘭はそう言う。

 

「なら早速行ってみましょう」

 

「はっ、こちらです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳は春蘭に促されるままに倉庫らしき建物の中に入っていく。

 

「これは・・・、何?」

 

「さぁ、私にはさっぱり・・・」

 

そこには、二人が見たこともないもので埋め尽くされていた。

 

何かのカラクリであろうとは推測できる。

 

しかし、それをいったいどういう目的で、どのように使うのかは全く分からない。

 

大きさも巨大な物から手で持てる小さい物など様々あった。

 

「これは村人が作っていたのかしら?」

 

「いえ、賊どもが勝手にこの倉庫を使っていたらしいので賊の荷物ではないかと・・・」

 

華琳は一番近くにあったカラクリを手に取った。

 

そのカラクリは一見すると弓のような構造をしているが、何か変な物がついている。

 

片手で持ちやすいように取っ手が付けられており、その取っ手を握ると、ちょうど人差し指が当たるところに引き金のような物があった。

 

華琳はその引き金を軽く引いてみる。

 

すると、予め引き伸ばされていた弦が勢い良くビンッと音を鳴らして放たれた。

 

もちろん矢は装填されていないため、そのカラクリは音を鳴らすだけで終わる。

 

「弓の一種かしら?」

 

「華琳様~、あとこちらもご覧になってください~」

 

倉庫の奥の方から春蘭の声が聞こえる。

 

華琳はその声を頼りに春蘭の方へと向かう。

 

そこには巨大なカラクリが置かれており、その上に春蘭が立っていた。

 

「何これ・・・、投石機?」

 

「??その割には岩を載せられそうな物はありませんが・・・」

 

投石機と形状は似ているものの、投石機には必ず岩をのせるための皿のようなものが取り付けられている。

 

しかし、そのカラクリにはそのような物は取り付けられていない。

 

華琳はそのカラクリの周りをぐるりと一周回ってみる。

 

どうやら大きな台に筒状のものが取り付けられており、その筒の後方部分には火薬を入れることが出来そうな空間があった。

 

それだけは分かるものの、いったいそのカラクリがなんなのかということは分からない。

 

巨大なカラクリの周辺を見てみると、様々なカラクリがあちこちに散らばるように置かれていた。

 

華琳はまた近くにおいてあったカラクリに手を伸ばす。

 

「これは・・・桔梗の持ってる武器に似ているわね・・・」

 

「豪天砲ですか?」

 

さっき見た巨大なカラクリの縮小版というべきものが落ちていた。

 

春蘭ならともかく、一般兵ならとても両手だけで持ち上げることはできそうにない。

 

どうやら肩に担いで使う物らしい。

 

これにも先ほどの弓のカラクリと同じ引き金のような物がついていた。

 

「・・・・・・、興味深いわね。真桜も連れてきたらきっとはしゃいでたでしょうね」

 

 

 

 

 

「ご覧になられましたか?」

 

声をかけられたので後ろを振り返ると、そこには稟と秋蘭がいた。

 

「ええっ、これらはいったい何なのかしら?」

 

「どうやら、依頼者から受け取った物らしいです。まだ試作段階だといっていました」

 

「なるほど、設計図みたいな物はないの?」

 

「簡単な物は見つかりました。ですが、詳しい製造法は書かれていないようです。真桜が見れば別なのでしょうが・・・」

 

「カラクリの名前は分かるの?」

 

稟は手に持っていた資料に軽く目を通していく。

 

「賊の者が言うに、門前にあったのが弩砲(どほう)、この大きい物が“大砲”、弓の形に似た物は“ぼうがん”、春蘭様が今持っている物の名は分からないそうです」

 

「聞き慣れない言葉が多いわね。特に最後の“ぼうがん”だったかしら、まるで一刀が話す天の言葉みたい」

 

「それは私も感じてました・・・」

 

一刀の名を出すと一瞬だが場の空気が重くなった。

 

その空気を感じた稟がハッとあることを思い出す。

 

「それとですね。もう一つ華琳様に見てもらいたいものがあるのです」

 

稟は倉庫の少し奥の方へ歩いていく。

 

そして、間も空かないうちに稟が何か布のようなものを持ってきてそれを華琳に手渡す。

 

「これは、旗かしら」

 

「はい、これも依頼者からもらった物らしいです」

 

華琳は手渡された物を床に広げ、その旗の全体を見ていく。

 

全体的には黒っぽい灰色をしており、中央には「*」という印が書かれていた。

 

「誰かの牙門旗みたいね。この字・・・見たことないわ。稟は何か知ってるの?」

 

「手持ちの資料で調べては見たのですが、意味も読み方も分かりませんでした」

 

「秋蘭は?」

 

「いいえ、見たこともありません。申し訳ありませんが・・・」

 

あの華琳さえ知らない文字で、稟も知らないのだから他の者が知るはずもない。

 

「謎のカラクリに謎の依頼者、そして何者かの牙門旗・・・」

 

「三国同盟に反対する反乱者の仕業なのでしょうか?」

 

「だとしたら、かなり大きな規模になってるでしょうね。反乱軍といってもいいくらいの」

 

これだけのカラクリをつくるには技術の他にも資金がいるだろう。

 

小さい組織ならこれだけの資金を捻出することも難しい。

 

「いかがなさいますか?」

 

華琳は静かに熟考をし始める。

 

「とにかく分からないことが多すぎるわね。これは一旦私達だけじゃなくて他の隊とも連絡を取り合った方がいいかもしれない。一刀の件とも関わりが全くないとは言い切れないし」

 

「一度、白帝城に戻られますか?」

 

「そうね。いままで細かい報告はしてきたけど、一度戻ってみてもいいかもしれないわ」

 

「魏領捜索の件はいかがしますか?」

 

「秋蘭はこのまま幽州方面へ捜索を続けて。私と春蘭、稟は徐州、予州を通って白帝城へ進みましょう」

 

「「「御意」」」

 

華琳の指示の下、三人は一斉にそれぞれの準備に取り掛かっていく。

 

三人が散会した後、華琳は床に広げられている旗を見下ろす。

 

「・・・、趣味の悪い文字ね」

 

華琳はその旗をさっと拾い上げてから、倉庫から出て行った。

 

 

 

 

 

そして翌日、守備兵を少しだけ村に残し、華琳の指示どおり秋蘭は白蓮と合流するために幽州へ、華琳たちは一刀についての情報収集を続けながら白帝城へ帰還することになった。

 

 

 

 

 

                            ―蜀―

 

ツルギを取り逃がしてしまった愛紗はとりあえず、雛里、鈴々達のもとへと向かう。

 

手には彼らが残していった灰色の軍旗が握られている。

 

そして村から少し離れたところで兵達の駐屯場を見つけた。

 

その中へと入ると愛紗は雛里と鈴々を探す。

 

そして、何も苦労することなく鈴々の姿を発見できた。

 

「鈴々、いま帰ったぞ」

 

「おおっ、愛紗!無事だったのだ。相手は取り逃がしちゃったのか?」

 

「すまない。途中で邪魔が入ってな。それに相手もなかなかの武の持ち主だった」

 

「だったら、次は鈴々がアイツの相手をするのだ」

 

「その時がきたらな。ところで雛里はどこだ?少し見てもらいたいものがあってな」

 

「雛里なら自分の天幕にいると思うのだ。こっちなのだ」

 

鈴々は愛紗の手を引きながら少し早めに歩いていく。

 

何気なく装っているつもりの鈴々だが、実は少し愛紗の身を心配していた。

 

相手と相対したとき、鈴々も相当できる奴だと直感で感じ取っていた。

 

愛紗が負けるなんて考えたこともなかったが、全然心配していなかったといえばウソになってしまう。

 

愛紗の声を聞いたとき、鈴々は心底安心していた。

 

「おい、こら!引っ張るな!!」

 

「えへへ~、愛紗、遅いのだ」

 

愛紗の言葉などまるで聞かず、鈴々は愛紗の服の裾を引っ張りながら雛里のもとへと案内していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雛里~、愛紗が帰ってきたのだ~~」

 

鈴々が愛紗を引っ張りながら天幕へと入っていく。

 

雛里は少し高めの椅子に座って、机に向かっていた。

 

「愛紗さん。よかったです~。ほんとにご無事で・・・」

 

「いま帰った。心配をかけたならすまない。早速なのだが、雛里に見てもらいたいものがある」

 

空気を呼んで鈴々は愛紗の裾から手を離して、自分の持ち場へと帰っていった。

 

その後、愛紗は机に近寄っていき手に持っていた旗を広げた。

 

「これは・・・?」

 

「あいつらが残していった。何か手がかりになるとも言っていたが」

 

「わざわざ残していったのですか?」

 

「ああ、戦いが中途半端になってしまった詫びだと言ってな」

 

雛里はその旗の端を手にとって、じっくりと観察していく。

 

「わざわざ残していくということは、そこから足がつくことはないと考えているのでしょう。あと・・・この文字は・・・」

 

そして、雛里の目線は中央に描かれている文字で止まる。

 

「雛里でも何という字か分からんのか?」

 

「すみません。読めないですけど・・・確かどこかで・・・」

 

「見たことあるのか!?」

 

「ちょっと待ってくださいね」

 

雛里は何か頭に引っかかる物があるらしく、自分の鞄の中を漁っていく。

 

「えっと・・・、どれだったかな?」

 

鞄の中から丁寧に一枚ずつ紙の資料や竹簡を取り出していく。

 

 

 

 

 

「これじゃなくて・・・えっと・・・あっ!!あったあった。これです」

 

雛里は鞄の奥底から一つの竹簡を取り出した。

 

それを旗の印の真横に見比べられるように置く。

 

「これです。似てませんか?」

 

「確かに似てるな・・・ってこれはご主人様の報告書ではないか!?」

 

その竹簡の内容に目を通してみると、報告者“北郷一刀”となっていた。

 

報告が竹簡いっぱいに書かれており、文末の最後に「*」が記されていた。

 

その後にまた短い文章が一文書かれている。

 

そして「*」の横に一刀の文字ではなく、雛里の文字で「補足」と書かれている。

 

「ご主人様の報告書を見ているときにこの文字があったので何なのか聞いたことがあったんです。そしたら、この文字自体には特に意味はなくて“注釈”とか“補足”を付けたい時に使う記号のような物だと言っていました」

 

「“付け足し”みたいな意味を持つ記号なのか?」

 

「ご主人様の話ではそうだと思います」

 

二人は改めて旗の中心に書かれている記号を見て考え始める。

 

「つまりは天界の言葉・・・ということになるのか」

 

「少なくとも私達が使う言語にはこのような記号はありません」

 

これがツルギの言っていた私の問いに対する答えなのか

 

この記号は天界の文字の可能性が出てきた。

 

しかし、だからと言ってこれがご主人様とどう関係しているのかが分からない。

 

「しかし、これは重要な手がかりになるかも・・・、貂蝉さんの話にも関係があるかもしれませんし、ご主人様を見つける手がかりにもなるかもしれません」

 

「そうだな・・・。なぁ、雛里」

 

愛紗は返事をした後、少し間を空けて再び雛里の名を呼ぶ。

 

「なんですか?」

 

「もしかしたら、敵にご主人様のような天界から来た者がいるのかもしれないな・・・」

 

「??どうしてですか?」

 

「雛里だって言ったではないか。少なくとも我らが使う文字ではないと・・・なら、この文字を敵に授けた者がいると考えられるだろう?」

 

「そうですね・・・」

 

「ならば、その天界人も敵に文字の他に天界の知識を分け与えているのではないか?」

 

その言葉のあと“ご主人様がそうしてくれたように”と愛紗はボソッと小さく付け加える。

 

「それは脅威ですね・・・私達の考えでは及ばない作戦を敵が使うかもしれません」

 

実際、一刀が自分達に与えてくれた知識は到底自分達では及ばない考えが多くあった。

 

町の警備に関する作戦や、様々なカラクリなどがその代表に上げられる。

 

ほとんどが今現在の技術では使えない知識のほうが多かった気もするが、聞いているだけでも興味深い知識がたくさんあった。

 

「一度、白帝城に戻ってみてはどうだろうか?あそこなら三国の最新の情報がそろっているだろうし、この旗も持って行ったほうがいいのではないか?」

 

「そうですね。それもいいかもしれません。なら早速伝令を・・・」

 

「いや、これは最重要機密だ。誰かに託すなどはあまりしたくない。私自身が城へ行く」

 

雛里はその言葉に驚いて、愛紗の顔をまじまじと見てしまう。

 

「いや・・・ですが愛紗さんには・・・」

 

愛紗には頼みたい仕事が山のようにある。

 

今回の事件の報告や村周辺の捜索などを任せたいと雛里は考えていた

 

「頼む、雛里!!私に行かせてくれ!!」

 

机に広げられている旗をバッと手にとって、それを胸に抱えるようにして持つ。

 

北郷一刀に関する唯一の手がかりとなるかもしれない。

 

これだけは自分で持っていたい。

 

大切にして、誰にも奪われないようにしたい。

 

そのような愛紗の意思や感情がひしひしと伝わってくる。

 

「・・・、わかりました。最重要機密を奪われるわけには行きませんしね。愛紗さんは白帝城へこの旗を持っていってください」

 

「すまない・・・」

 

愛紗は“ありがとう”といわず“すまない”という言葉を口にした。

 

わがままなことは充分分かっている。

 

組織には規律が重要であり、身勝手な行動はすべきでない。

 

しかし、これだけは譲りたくなかった。

 

「なら、私と鈴々ちゃんはこの周辺を少し調べた後、成都へと戻ります」

 

「桃香様にはうまく伝えてくれ」

 

「わかっています」

 

雛里は自分の鞄から出した様々な書類を鞄の中にしまいながらそう返事をした。

 

 

 

 

 

「鈴々も愛紗と一緒に行くのだ!!」

 

すると、天幕の外にいたはずの鈴々が愛紗の後ろからひょっこりと顔を出した。

 

「鈴々ちゃんはダメですよ。ちゃんと指揮をしてもらわないと・・・」

 

「大丈夫なのだ!鈴々の代わりは翠がやってくれるのだ」

 

そう言って鈴々は天幕の入り口をバサッと広げる。

 

そこには見慣れた蜀の五虎将が一人、馬超こと翠が立っていた。

 

「久しぶりだな。愛紗、雛里」

 

「翠さん!?なんで、ここにいるのですか?」

 

「久しいな。翠、いったいどうしたのだ?涼州になにかあったのか?」

 

「ああ、涼州にも小規模だがちょっとしたいざこざがあったんだ。まぁ、霞と蒲公英とで難なく鎮圧は出来たんだが、一応報告しようと思ってさ。ご主人様のことの報告も兼ねてさ・・・」

 

「でも、どうしてここにいることが分かったのですか?」

 

「朱里から早馬があったんだ。一度寄ってきてくれないかって頼まれてたんだよ」

 

「そうだったんですか」

 

「っていうか、鈴々!!どうしてあたしが鈴々の代わりをしないといけないんだよ!あたしは報告に行かないといけないんだから、愛紗についていくのはあたしだ!」

 

「ええぇ~、成都に行くんじゃないのか?」

 

「成都には雛里に報告したら充分だろ?なら、次は白帝城に行かないと・・・」

 

「ぶぅ~、鈴々が行くのだ~」

 

「あたしだ!」

 

“鈴々なのだ”“あたしだ”という言葉の攻防が始まった。

 

この騒がしい雰囲気は実に久々かもしれない。

 

「涼州のほうはどうなっているんですか?」

 

「いまは蒲公英と霞に任せてる。あと少しで風も到着するらしいし、心配はないだろ」

 

「そうですか・・・でしたら、鈴々ちゃんには申し訳ありませんが、翠さんが愛紗さんについていってください」

 

「よっしゃぁぁ~」

 

「ぶぅ~なのだ」

 

二人は正反対の感情を顔に浮かべている。

 

「鈴々ちゃんには兵の指揮を、翠さんは詳しい話を聞かせてください」

 

「分かったのだ・・・はぁ~」

 

鈴々は背を丸めながら天幕から出て行った。

 

翠は雛里の机の上に幾つかの書類を広げていった。

 

「愛紗さんはもうお休みになってください。明日の早朝には発ってもらいますから」

 

「分かった」

 

「愛紗、頬にかすり傷があるけどなんかあったのか?」

 

「ああ、そのことについては明日移動しながら話そう」

 

愛紗は天幕からそう言って出て行った。

 

「では、翠さん。報告の方をお願いします」

 

「えっ、ああ、えっとだな。まずは・・・」

 

そうして、翠の涼州に関するさらなる報告がなされていくのだった。

 

 

 

 

 

                            ―呉―

 

カガミのよって妨害を受けてしまった雪蓮、祭の隊は一晩の休養をとった後、襲われた村へと直行していた。

 

予定よりもかなり遅れてしまっているため、二人は出来るだけ急ぐことにした。

 

そして、その後は何もなく報告のあった村へと無事到着することが出来た。

 

村へと入る二人を出迎えたのは、痛々しく傷つけられた家々の姿

 

村の中心にあった井戸も無残に壊されている。

 

「これはひどいわね・・・」

 

雪蓮は素直に村の惨状についての感想を述べた。

 

湧き上がってくる怒りをぐっと堪えながら拳を握り締める。

 

それでもまだ抑えきれない怒りを歯を食いしばることによって無理に押さえ込む。

 

雪蓮はゆっくりと村の中心にある壊れた井戸へと近づいていった。

 

中を覗いてみると、どうやら水が干上がってしまっているようだった。

 

祭は周りを見渡しながら雪蓮に寄ってくる。

 

「兵達には誰か人がいないか確認させておるのだが・・・おかしいな」

 

「おかしいって、何が?」

 

「まるで人の気配がせん。いい意味でも悪い意味でものぅ」

 

雪蓮は改めて村の周囲を確認する。

 

村の建物にはここで激しい戦闘があったことを思わせる傷が多々ある。

 

しかし、これだけの戦闘による傷跡があるにもかかわらず、倒れている人の姿が見当たらない。

 

「本当ね。どういうことかしら?」

 

村は荒らされてはいるが、つい先ほどまで人が生活していたと言う生活感が少しだけ残っている。

 

それなのに人の姿が全くない。

 

一人思案していると、一人の兵士が駆け寄ってきて祭になにやら報告をしている。

 

「どうしたの?」

 

「すべての家の中、村の中を捜索したが人っ子一人もいないそうじゃ」

 

襲われた村は比較的小規模の村だったので意外と早く捜索を終了できた。

 

その結果、誰も村人を発見することが出来なかった。

 

「無事に逃げられたのかしら?」

 

「そうだといいのじゃが・・・もう少し捜索を続けてくれ」

 

兵士は小さく頷いた後、再び元いたところへと戻っていった。

 

「敵に捕えられたことも考えねばならぬか」

 

「村人全員を?そんなバカな・・・第一そんなことをする意味が分からないわ。それなら村長だけとか村の子供だけを捕えた方がはるかにいろいろと効率がいいでしょうに」

 

「ふむ・・・ならこれはいったい・・・」

 

 

 

 

「報告します」

 

先ほどとは違う兵士が雪蓮のもとへとやってきて片膝をつく。

 

「この村の一番大きな屋敷でこのようなものが」

 

そういいながら兵士は雪蓮にあるものを手渡した。

 

それを受け取った雪蓮はそれを広げてみせた。

 

「何・・・、敵の旗?」

 

灰色を基調にした黒い旗がそこにはあった。

 

「この中心の印は・・・確か策殿が持っていた矢の印と同じじゃな」

 

「ええ、それは私も思ってた」

 

旗の中心には「*」の印が描かれていた。

 

「これで私を襲った女とあの占い師みたいな女がつながったわね」

 

「そのようじゃな・・・。策殿、これからいかがなさるおつもりじゃ?」

 

「分からないことばかりだけど、とりあえず今日一日は村周辺まで範囲を広げて村人の捜索、それに何も進展がなかったら明日の早朝にでも建業へ戻りましょう」

 

「了解した。それじゃあ、わしも捜索に加わってくるとしよう」

 

「ええ、私はその大きな屋敷にでも行ってみるわ。案内して」

 

「はっ」

 

雪蓮はそこで祭と別れて兵士の案内の下、黒い旗があったという屋敷まで行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし結局、他には目ぼしい収穫はなかった。

 

祭も捜索に加わり人を捜すが、誰も見つけられなかった。

 

そして、その一日が虚しく過ぎていき、少しの兵を残して雪蓮・祭は建業へと戻ることになった。

 

 

 

 

 

それから少しの時間が経って、場面は建業の城

 

蓮華は少しずつであるが調子が戻りつつあった。

 

雪蓮が出立した日はおとなしく部屋で休暇をとり、その翌日から政務をこなしている。

 

穏や亞莎は会うたびに“大丈夫ですか?”と蓮華の体調を気にしていた。

 

その答えとして蓮華は誰でもわかるような無理な笑顔をつくり、“問題ない”と返事するのだった。

 

「蓮華様、あまり無茶はなさらないでくださいよ」

 

「大丈夫よ。心配しないで・・・やることはいっぱいあるのだから」

 

「本当ですか?体調が悪くなったらすぐに休んでくださいね」

 

「ありがと、穏」

 

蓮華が倒れた理由に関しては、呉の臣下一同は誰も聞かなかった。

 

その話を持ち出せばまた蓮華が倒れてしまいそうだったから

 

傍にいた思春や小蓮に訊いても突然だったと言うだけで理由までは分からない。

 

その原因については、もう少しで帰ってくる雪蓮に任せようと言うことになっていた。

 

「それにしても、穏。姉様と祭の帰りが遅いんじゃないかしら?」

 

「はぁい、馬で半日ぐらいのところだと聞いていたので2、3日で帰ってくると思っていたのですが・・・」

 

ここ2,3日の蓮華は口を開くたびに“姉様は大丈夫か、祭は、冥琳は、一刀は”と言っていた。

 

一刀はともかく、雪蓮、祭、冥琳に関しても異常なぐらい気をかけている。

 

先日は冥琳からの定期報告が少し遅れてしまっただけで、伝令に必要以上に怒鳴っていた。

 

嫌な事が度重なって起こっているため、蓮華にもかなりの心労が溜まっており、心に余裕がなくなってきていると穏は感じていた。

 

そのような王の姿を見て気が気でなかった。

 

「もしかして何かあったんじゃ・・・」

 

「大丈夫ですよ。今日の夕方には帰ってこられるのではないでしょうか」

 

「そうね・・・大丈夫よね・・・」

 

蓮華は机に両肘をついて、小さくため息をつく。

 

その顔からは明らかに疲れている表情が見てとれる。

 

「やはり、蓮華様。少しお休みになってはどうですか?顔が少しやつれている様に見えます」

 

「そんなことないわ・・・。いつもどおり――」

 

「いえ、やっぱりダメです。今決めました。蓮華様はお部屋でお休みください」

 

穏は蓮華の机にある書類を自分の方へと寄せて、蓮華の座っている椅子を軽く引く。

 

立たざるを得なくなった蓮華の背中を穏は扉の方まで押していく。

 

「ちょっと!?穏、こら、やめなさい!」

 

「ダメです~~。蓮華様は雪蓮様が帰ってこられるまでお部屋で休んでください~~」

 

そして、蓮華の体が執務室の扉をくぐり廊下に出たとき

 

「孫権様」

 

一人の兵士の声が廊下の向こう側から聞こえてきた。

 

「どうした?」

 

「伝令です。孫策様、黄蓋様が本日の夕暮れ頃にはお帰りになられるそうです」

 

「そうか、分かった。下がれ」

 

報告を終えた兵士はその後、自分の持ち場へと戻っていった。

 

その報告の聞いた蓮華の顔からは少しの安堵感を感じる

 

「ほらほら、蓮華様。雪蓮様が戻られるまでお休みになった方がいいですよ。そのようなお顔で会われては雪蓮様も心配になってしまいます」

 

「・・・、そうね、姉様の報告も聞かないといけないし・・・、分かったわ。建業に帰ってきてから、穏には心配かけてばっかりね。ごめんなさい」

 

「いえいえ~これも臣下の勤めですから。後は亞莎ちゃんと私に任せてください」

 

穏は蓮華が本当に部屋に帰るかを確かめるために一緒に部屋までついていき、入室を確認した後、亞莎と一緒に残りの政務をすばやく片付けていった。

 

 

 

 

 

そしてその日の夕暮れ遅く

 

雪蓮と祭が報告のあった村から帰ってきた。

 

そしてそれから少し経った後、呉の臣下達は王座の間に集合し、報告会が開始される。

 

「姉様、祭、無事でよかったです」

 

「行く時に言ったでしょ。絶対帰って来るって」

 

「それにしても少し帰りが遅いのではありませんか?」

 

「それについては、報告を聞いてちょうだい」

 

「それでは、はじめてもよいかのぅ」

 

祭は皆の注目を集めるために軽く咳払いをする。

 

「まずは村の状態についての報告からいこうかのぅ。村の状態は悲惨なもんじゃった。あちこちの家が崩れ落ちて、田畑も荒らされとった」

 

「村の人たちは大丈夫でしたか?」

 

「それがのぅ・・・人っ子一人おらんかったのじゃ。生存者も・・・そして死体もな」

 

「えっ、どういうことですか?」

 

「分からん。周辺を捜索してはみたのじゃが、村出身者は発見できんかった」

 

「賊の仕業でしょうか?」

 

「おそらくな・・・しかし、たぶんただの賊ではないじゃろうな。これを見てみい」

 

亞莎の言葉を受けて、祭は例の灰色軍旗を取り出した。

 

「なんですか?これは?」

 

「見たまま旗じゃな。その村で一番大きな屋敷にこいつが立てられとったらしい。それで、穏と亞莎に聞きたいのはこの字はなんて読むのじゃ?」

 

祭の問いかけに二人は首をかしげた後、横に振る。

 

「見たことありませんね~」 「申し訳ありません。分からないです」

 

「ふむ、まぁよい。冥琳にでも聞けば分かるじゃろう。それでな、次はこれを見てほしい」

 

手で広げていた旗を一旦机に置いた後、今度は真桜が開発した“かめら”で撮られた写真を一枚取り出した。

 

実際に雪蓮がへし折った矢は出発前に白帝城に戻る明命に渡している。

 

「これは策殿を襲った黒布の女が放った矢の一部なのじゃが、この部分を見てみろ」

 

一同は机から身を乗り出して、祭の指差す場所を目を細めて見て行く。

 

「あっ!この旗と同じ印がついてる!」

 

真っ先に気づいた小蓮が祭と同じところを指差しながら声を上げる。

 

「ほんとですね、明らかに同じ印です。ということは、村を襲った賊と雪蓮様を襲った賊は同じ可能性がありますね」

 

「わしらもそれを考えとった」

 

「ということは、これを手がかりにすれば賊とその首謀者の特定も難しくないかもしれません」

 

「首謀者ね・・・実はその村へ向かってる最中にそれらしき奴に会ったのよね・・・」

 

いままで黙って祭に報告を任せていた雪蓮が口を開く。

 

「どういうことですか?」

 

「村へ向かっている時にのう、いきなり先方の兵達が混乱しだしたんじゃ。龍だの、巨人だのとか言っての」

 

「龍?きょじん?」

 

祭はいきなり何を言い出すのかと一同は感じるが、雪蓮、祭の顔はとても冗談を言っているものではない

 

「それで私と祭が先方で何があったのか確かめに行ったときにね・・・気味の悪い体験をしたのよ」

 

その様子を見て、祭と雪蓮以外の者たちは彼女達の話に耳を傾けている。

 

「気味の悪い体験とは何です?」

 

「わしは堅殿に会って、戦わされた」

 

祭の言葉を聞いた雪蓮以外の一同は“えっ”と言う感じで祭の顔を見つめる。

 

「なんでそこで母様が出てくるの?」

 

蓮華は確認の意味を込めて、素直に自分の疑問を投げかける。

 

「わしに聞かれても困ります。ですが、本当に会ったのは事実なのです」

 

「それでは姉様も母様に?」

 

「いえ、私は会ってないわ。というか、先方に向かってる途中、祭が急に立ち止まって黙っちゃったのよ。それで私が祭の心配をしてる時に、その首謀者らしき人物に会ったってわけ」

 

「そいつはいったい何者なんですか?」

 

「確かカガミって名乗ってたわね。あと、幻術士とか言ってたかしら?その後の記憶は私も曖昧なのよね・・・。変な夢を見ちゃって」

 

「“夢”ですか?」

 

「そうなのよ・・・私が母様の墓の近くで誰かが放った矢に当たっちゃって、その矢に毒が塗ってあって・・・それで私が死ぬって嫌な夢・・・ってあれ?」

 

雪蓮は自分で言っておきながら一つの疑問が頭の中に出てきた。

 

確かに夢の中で矢に当たったのは間違いない。

 

でも、なんでその矢に毒が塗ってあったと知っていたのだろう。

 

(夢でそんな事言ってたかしら?)

 

「雪蓮様?いかがしました?」

 

雪蓮が話している途中で急に考えこんでしまったので隣にいた穏が肩を軽く揺する。

 

「えっ!?あ・・・ごめんなさい。とりあえずそんな夢を見たのよ・・・ていうか見せられた?みたいな。相手の幻術とやらにかかっちゃったらしいのよ」

 

「相手は幻術士と名乗ったと言うことは、五胡の者なのでしょうか?」

 

「見た目だけじゃ分からないわ。とりあえずただの賊じゃないってことだけは頭に入れといて。あと、白帝城への報告は私が直接行くわ。直に話した方が冥琳も分かり易いだろうし――」

 

雪蓮がその後、その女についての様子を話そうとした時

 

 

 

 

 

「ちょっと・・・お姉ちゃん?また顔色が悪いよ?」

 

小蓮の言葉で一同が蓮華の方を見てみると、明らかに先ほどよりも顔色が悪くなっていることに気づいた。

 

「蓮華様!?どうしましたか!?」

 

思春がすかさず駆け寄る。

 

その表情は森の中で倒れたときの表情と酷似していた。

 

「姉様・・・、その夢を見たというのは本当ですか?」

 

「ええ、それがどうしたの?」

 

「私も・・・姉様が母様の墓の近くで倒れているという夢をみました」

 

「なんですって・・・」

 

「この頃よくそんな夢を見るんです。姉様の他にも、祭が死んじゃう夢とか、冥琳が死んじゃう夢とか・・・そんな夢を・・・」

 

蓮華が話していくにつれて顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「それに・・・変に現実味があるんです。ただの夢じゃないんです・・・ほんとに・・・」

 

「蓮華、やめなさい」

 

顔色が悪くなっていく蓮華を見かねて、雪蓮は喋るのを止めるよう言う。

 

しかし、何も聞こえていないらしくそのまま話し続ける。

 

「姉様が森で・・・暗殺者を追いかけていったときも・・・心配で・・・、訳が分からなくなっちゃって・・・記憶が・・・ぐるぐるまわってて・・・」

 

「もう喋るのはやめなさい」

 

次は声色を低くして、少し叱り付けるよう強めに制止しようとする。

 

しかし、それでも止まる気配がない。

 

「一刀もいない・・・姉様もいない・・・冥琳もいない・・・祭もいない・・・。そんなの嫌です!!!!」

 

「蓮華!!!!!!!」

 

「ッ!?」

 

最後はかなり語尾を強めながら、蓮華の話を遮るように大きな声で怒鳴った。

 

そうすることによってやっと雪蓮の声が聞こえたのか、少し驚いた表情を浮かべながらも話すのを止めた。

 

「少し落ち着きなさい。私も冥琳も祭も・・・一刀も大丈夫だから」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「今日はもう休んだ方がいいわ。あなたは孫呉の頂点に立つ王なのよ。そんな調子でどうするの」

 

「はい・・・」

 

「思春、蓮華を部屋まで連れて行ってあげて」

 

「はっ、行きましょう。蓮華様」

 

蓮華は思春に肩を抱かれた状態で、王座の間から出て行った。

 

「でも、なんで蓮華が私と同じ夢を見たのかしら」

 

雪蓮の場合はどちらかと言えば“見せられた”といった方が正しいかもしれない。

 

しかし、先ほどの蓮華の様子から考えると、突然見るようになったという感じがした。

 

「それはわかりません。蓮華様はいつからそのような夢を見るようになったのでしょうか?」

 

「建業に来るまでは特に変わった様子はなかったと思いますよ」

 

「雪蓮姉様が暗殺者を追いかけて行ってお姉ちゃんが倒れちゃったときから、おかしくなっちゃったようにシャオは感じるんだよね」

 

「まぁ、本人が落ち着くまでは触れないほうがよいじゃろう。今体調を崩されてしまっては大変じゃからのう」

 

「そのほうがいいかもね。とりあえず、明日の昼前にはここを出立して白帝城へ戻りましょう。亞莎、悪いけど一緒についてきてくれないかしら?」

 

「はい!すぐに準備します」

 

「シャオと祭、穏はまたお留守番をお願い」

 

「え~、シャオも行きたい!」

 

「蓮華があんな調子なのに、シャオまで行っちゃったらダメでしょ?」

 

「ぶ~~」

 

「穏、祭、お願い」

 

「は~い」 「承知した」

 

「それでは、これで会議を終了する。各自解散」

 

いつもは現王である蓮華が宣言するのだが、今回は仕方なく前王の雪蓮が宣言した。

 

そして、各自自らの役目を果たすために散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日の昼前

 

雪蓮と亞莎は建業の門前にいた。

 

「さてっと、亞莎、行きましょうか」

 

「はい!!」

 

二人は馬に跨って出立しようとしたとき

 

「姉様!!待ってください!!!」

 

後ろから蓮華と思春がこちらに向かって駆けてきていた。

 

「私も行きます」

 

「あなた・・・大丈夫なの?」

 

「はい・・・どちらかと言うとジッとしている方が何かと考えてしまいます。それに姉様の傍にいればいつでも無事かどうかも確認できますし・・・」

 

「思春も体は大丈夫?」

 

「私のことはお構いなく・・・」

 

「そう・・・なら好きになさい」

 

政務で暗い部屋に居るよりも、孫呉の地の見て、風を感じれば少しは気分もよくなるだろう。

 

そう考えた雪蓮はついてくることを許可した。

 

もちろん、純粋に妹が心配だから傍にいてあげたいという姉心もある。

 

「はい!!」

 

「二人の準備が出来次第、出発する!!」

 

こうして、4人は少しの兵を連れて白帝城へ向かっていった。

 

 

 

 

 

                            ―白帝城―

 

皆が出立してから、もう数日が立っている。

 

冥琳は来る日も来る日も各隊から報告される書類に目を通す日々を続けていた。

 

机の上には様々な書類が乱雑におかれている。

 

これだけの仕事を一人でこなせる訳がないため、この頃は月と詠も軍師の仕事を中心にしていた。

 

「二人ともすまないな。自分の仕事があるはずなのに」

 

「いえいえ、気にしないでください。こんなときですので」

 

「ああ・・・しかし、いろんな情報が集まってきたな」

 

三人は冥琳の肩ぐらいの高さまで積まれた資料を見ながら呟いた。

 

「でも、まだ肝心な情報は一つも入ってこないわね。各地で起こってる村の襲撃に関してはかなり集まってはいるけどね」

 

「北郷に関しては愛紗の森での情報しかない訳だからな。これも極めて曖昧な情報な訳だが・・・」

 

「それにご主人様が居なくなった噂を聞いて民が不安がっています。今は張三姉妹の皆さんと美羽さんたちが興行をして不安を紛らわしてくれてはいますが」

 

各捜索隊が出発して数日経った後、張三姉妹と美羽、七乃達が白帝城へと帰ってきた。

 

彼女らの報告により、予想以上の速さで御遣い様がいなくなったという噂が蔓延していることを知った。

 

冥琳は少しでも民の不安を鎮めようと彼女らに興行を頼んでいる。

 

本日も彼女らは白帝城付近で興行を行っている。

 

「村襲撃の件もおそらく貂蝉が持ってきた情報の奴らで間違いないだろう」

 

「どの報告を見ても“黒兜”とか“黒い旗”とかだしね」

 

三姉妹達が白帝城に帰ってきた二日後くらいに蜀の連絡隊と一緒に貂蝉達が白帝城へとやってきていた。

 

そして、貂蝉から黒い集団の話を聞いた後、各地方での村襲撃の話が舞い込んできた。

 

「ほんとに次から次へと問題が増えていくわね・・・いったいなんなのよ!」

 

「愚痴を言っても仕方がないだろ。片付けられる物から片付けねば・・・」

 

「ですね・・・」

 

そういいながら三人の事務処理の速度は衰えることはない。

 

見る見るうちに一枚、また一枚と資料を片付けていく。

 

「すまないが、二人でこの書類を星と桔梗のところまで持っていってくれないか?」

 

「分かりました。行こ、詠ちゃん」

 

「仕方ないわね・・・月は星の所へ行って、私が桔梗の所へ行くから」

 

そういって二人は冥琳から受け取った書類をもって執務室から出て行った。

 

 

 

 

「・・・・・・、明命。もういいぞ」

 

二人が出て行ったのを確認した後、冥琳の言葉を合図に明命が床板を外して顔を出した。

 

「どうだった?」

 

「特に怪しいことはしていません。いつもどおり仕事をしています」

 

「やはり、ボロは出さぬか・・・」

 

「冥琳様はやっぱり怪しいとお思いですか?」

 

「ああ、今の所は・・・だ」

 

「もう少し監視した方がいいですか?」

 

「頼む。それにあれが出てきてしまうと疑わざるを得まい。まぁ、なんとでも言い訳されそうだが」

 

「分かりました」

 

ビシッと敬礼した後、明命は再び床へと潜っていった。

 

冥琳は小さいため息を一つ吐いた後、再び政務へと戻っていった。

 

 

 

 

 

冥琳は少し気分転換をしようと執務室を出て城壁の上にいた。

 

目線を上に向けると空には雲ひとつなく、太陽の光が降り注いでくる。

 

目線を城下町に向ければ商人達と客が賑わっているだろう城下町が見える。

 

そして最後に目線を下に向ければ、凪、沙和、真桜たちが兵士たちを整列させて訓練を行っているようだった。

 

冥琳は少し気になったので、城壁から降りて三人のもとへと向かうことにした。

 

 

 

 

「あれ~~、冥琳様なの~」

 

一番先に冥琳の姿を見つけたのは沙和だった。

 

その言葉に反応して、凪、真桜が冥琳の方を向く。

 

「冥琳様、何か御用でしょうか?」

 

「いや・・・少し新兵達の様子が見たくなってな。続けてくれ」

 

「はっ!」

 

冥琳が見に来たため、凪はいつも以上に気合を入れる。

 

一方、新兵達は初めて冥琳を見たものが多かったため少しざわついていた。

 

その様子を見た凪は新兵達に一喝を入れた後、新兵たちにとっていつも以上に厳しい訓練が始まってしまった。

 

「でも、冥琳様が新兵の訓練を見に来るなんて珍しいんとちゃいます?」

 

沙和の横でカラクリをいじっていた真桜が冥琳声をかけた。

 

沙和の隊と真桜の隊は休憩しているようだ。

 

「気分転換に城壁の上にいたら見えたから見に来たのだ。気にもなったしな」

 

冥琳はそう応えると、真桜の隣にある大きな箱のようなものが目に入った。

 

「その箱は?」

 

「これ?これは螺旋槍入れや」

 

真桜は持っていたカラクリを横に置いて、箱の横に立った。

 

そして、側面につけられた突起らしき物を押すと側面がガラガラと畳まれていき、真桜の武器の螺旋槍が姿を現した。

 

「なぁ、すごいやろ?それでやな、これをこうしてこうするとやな」

 

真桜は喋りながら、螺旋槍入れをいじっていく。

 

すると、先ほどの大きさよりもかなり小さくなり片手でも持てるようになった。

 

「大きさも自由に変えられる優れものや」

 

「なぜ、こんなのを作ったんだ?」

 

「うちの武器な、見た目が結構どぎついやろ?この平和な世の中に、そのまま持ってたら“怖い”言われんねん。やから、隠せるように作ったってわけや」

 

「それだと持ち難くないか?その槍もかなり大きいだろ?」

 

「やから、軽い素材にして大きくしたときは背負えるようにしてんねん。それやと持ち易いしな。側面の突起を押したらさっき見たみたいに箱が崩れてすぐに取り出せるようにもしてんで」

 

真桜は饒舌に自分の発明した物を語っていく。

 

「槍の他にもかなり大きな物も入れられるし、結構重い物も入れれるから便利やねん」

 

「そうか、いつも持ち歩いてるのか?」

 

「そやな~、警邏のときとかは持っていってるかな?どうしたんです?やっぱり冥琳様もカラクリに興味があるんですか?」

 

「えっ?そうだな・・・興味はある」

 

「そうなんですか~、なら今度いろいろ教えてあげますわ」

 

「そのときは頼む。そろそろ、行かなくていいのか?」

 

「おっと、そやった。んじゃ、うちは行きます。冥琳様はここで見といてください」

 

真桜は螺旋槍入れを元の大きさにもどしてから兵達の方へと向かっていった。

 

「沙和も行くの~」

 

その後に続いて沙和も真桜の後をついていった。

 

残された冥琳は三人が行った新兵の訓練を見た後、また執務室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

それからまた数日が経った。

 

冥琳、月、詠は相変わらずの毎日を過ごしていた。

 

そして、いつものように資料に目を通していたある日

 

コンコン

 

「入れ」

 

扉がノックされたので冥琳は入室を許可した。

 

入ってきたのは城門の警備をしている者だった。

 

「失礼します。関羽様がお帰りになられました」

 

「そうか、報告ご苦労」

 

「何でも緊急にご報告したいことがあるとのこと」

 

「分かった。今どこにいる?」

 

「蜀のお屋敷で趙雲様、厳顔様にお会いになっています」

 

「“都合がよくなったらここへ来てくれ”と伝えてくれないか?」

 

「かしこまりました。失礼します」

 

兵は一礼した後、その状態で一歩後ろに下がり扉を閉める。

 

「愛紗さんが帰ってきたんですね」

 

月は久々に愛紗の顔が見れると少し顔が綻んでいる。

 

「でも、報告したいことって何かしら?それも伝令に任せず愛紗自身が来るなんて」

 

「だな、それほど重要な物なのだろう。とりあえず、愛紗が来るまでにこの山を片付けるぞ」

 

「それでは私は蜀地方の捜索隊の資料をまとめておきます。愛紗さんの報告に役に立つかもしれませんし」

 

そして、愛紗が来るまで、三人は自分の仕事に集中していった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数刻が経ち

 

コンコン

 

「失礼する」

 

ノックをした後、執務室に愛紗が入ってくる。

 

「愛紗さん、お久しぶりです」

 

「久しいな、月。詠も元気にしてたか?」

 

「ええ、おかげさまでね。それより、報告って何なの?」

 

「それなんだが、これを見てくれ」

 

愛紗は手に持っていた灰色軍旗を両手で広げて見せた。

 

「これが・・・報告書にあった旗か・・・」

 

白帝城にいる者達にとってはこの旗を実際に見るのは初めてだった。

 

報告どおり中心には「*」がついている。

 

「どうやら村を襲っている連中はこの旗の下に集まっているようだ。貂蝉が報告した黒い集団と同一集団とも考えられる。貂蝉から話は聞いてるだろ?」

 

「ええ、それとその集団、全国で村を襲ってるのよ」

 

「なに!?蜀と涼州の村だけではなかったのか」

 

「それで、そいつらについて何か分かったことはない?」

 

「実はこの黒い集団の男と一度戦ったのだが、相当の手練だったな。凪や春蘭のように“気”を使った攻撃をしてきた。それと、気になる事も言っていた」

 

「気になることとは?」

 

「“この世はもうすぐ黒天の世になる”と」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「単純に考えれば“平和の世をつぶす”だな」

 

この言葉を聞いたとたん、場の空気が少し重くなる。

 

「あと・・・ご主人様についてなのだが・・・」

 

「何か分かったんですか!?」

 

月が食い気味に愛紗に言い寄る。

 

「そいつに聞いてみたのだ。ご主人様はどこにいると・・・その答えとしてこの旗を残していった」

 

「ということは、そいつが一刀を誘拐した犯人ということ?」

 

「それだけでは特定は出来んな。煽っただけとも考えられる」

 

「ですが、今の所怪しいのはその人たちしか――」

 

執務室にいる4人はあれだこれだと自分の意見を述べていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、遂にその時が訪れる・・・

 

「し・・・しっ・・・しっっ・・・・失礼します!!!!!!!!!!!!!!」

 

兵士が二人バタバタと尋常じゃないくらい取り乱しながら執務室にかけてきた。

 

「何事だ!!」

 

「な・・・南東の荊州方面から黒い集団がこちらに向かっていると報告がありました!!各砦が次々に急襲され、落とされています!!!!」

 

 

 

今、この外史は転換点にたどり着く。

 

 

END

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか?

 

今回、更新がかなり遅くなってしまいました。

 

私の仕事はこの時期に一番忙しくなってしまうので、執筆速度が著しく低下してしまいます。

 

今年は特に忙しく、この状態が6月中旬まで続きそうです。

 

なので、今まで1週間に一回の更新を目標に頑張ってきたつもりなのですが、めちゃくちゃ遅くなってしまいそうです。

 

良くて10日に一回、もしくはそれよりも遅くなってしまうかもしれません。

 

この物語に興味をもってもらった読者の皆様には大変申し訳ないのですが、ご理解のほどよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

次回予告も今回は見送らせてください。

 

タイトルは決まっていますのでそれだけ載せておきます。

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第8章 「本城急襲」

 

再度、興味を持っていただいた皆様にはお詫びを申し上げます。

 

ぜひ今後もよろしくしていただけたら幸いです。

 


 
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