No.210215

そらのおとしもの二次創作ショートストーリー  勝負です

今月は某小説大賞募集の締め切りが迫っており新規に書いている余裕がないので
未発表作品やpixivからの転載作品、また過去の小説大賞で清清しく落選した作品などを
あげていきたいと思います。

そらのおとしものは先月書き溜めた物語がありますので

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2011-04-06 01:25:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10969   閲覧ユーザー数:10587

「勝負です、イカロス先輩っ! いえ、ヤンデレ・クイーンッ!」

「…………塵となって消えなさい。マスターに付きまとう淫蟲(エロダウナー)」

 桜井家上空で対峙するアストレアとイカロス。

「行きますよぉっ!」

 アストレアは必殺の剣を構え、空中要塞ウラヌス・システムを操り万全の迎撃体制を敷くイカロスに向かって突撃を敢行する。

 飛び道具を持たないアストレアは接近戦に持ち込み、ウラヌス・システムごとイカロスを粉砕するしか勝つ手段はない。

 だが、アストレアが挑んだ勝負はあまりにも勝算のない戦いだった。

「…………さようなら、淫蟲(エロダウナー)」

 1秒間に何千発という対空砲火がアストレアを襲う。アストレアは最強の盾であるイージス・Lを展開するものの360度オールレンジから放たれるイカロスの砲撃には耐えられなかった。

「うきゃぁあああああぁっ!?」

「アストレアも毎度無茶をやりやがるよなぁ……」

 撃ち落され頭から落下していくアストレア。

 そんなアストレアを見ながら智樹は大きな溜め息を吐いた。

 

 

そらのおとしもの二次創作ショートストーリー  勝負です

 

 

 アストレアは畑の中央に頭から墜落して地面に大穴を開けていた。頭から地面に深く突き刺さっているアストレアを引っ張り上げようと智樹は懸命に努力する。しかし引っ張っても引っ張ってもアストレアの頭は抜けない。

「なあ、アストレア。お前、一体何がしたいんだ?」

 智樹の目の前にはアストレアの白い下着が丸見えだった。しかしアストレアが大根のように地面に生えている状態では色気も何もあったものではない。

 5分ほどの時間を掛けてようやくアストレアを地面から引っ張り上げる。引っ張り上げられた彼女は泡を吹きながら目を回していた。

「こんだけ毎回派手にやられているのに何で挑むんだ? 言っちゃ悪いが、お前じゃヤンデレ・クイーンと化したイカロスには幾らやっても勝てないぞ」

 戦いに関して素人である智樹から見てもアストレアの戦いは無謀でしかない。

 接近戦で勝負するしかないアストレアにとって、近距離に入れさせない戦い方を得意とするイカロスは最も相性が悪い。

 幾ら挑んでみた所でアストレアに勝機があるとはとても思えなかった。

「多少頑張ったくらいじゃ勝てないのなら、もっともっと頑張れば良いだけのことよ」

 目を覚ましたアストレアが智樹の瞳を見ながら決意を述べる。アストレアの瞳には何の迷いも躊躇も見られない。

 だから智樹は逆に不思議に思ってしまう。

「何でそうまでして勝ちたいんだ?」

「目標を高く掲げる。後はそれに向かって突き進む。私バカだからそれしかできないのよ」

 アストレアが自分の回答に確信を持つかのように首を力強く縦に振る。

 しかしその回答は智樹から見れば最も肝心な部分への言及がないものだった。

「イカロスに勝って最強のエンジェロイドの称号でも欲しいのか?」

 ヤンデレ・クイーンに勝利して得られるものといえば智樹の頭には最強の称号ぐらいしか思いつかなかった。

 不思議がる智樹の顔を見ながらアストレアは楽しそうに笑った。

「私がイカロス先輩に追いつくのが早いか、アンタが私の意図に気付くのが早いか。それもまた大勝負ね」

「何が言いたいのだかさっぱりわからんのだが?」

 目が点になる智樹。

「さあ、いつまでもこんな所でぼぉ~としてないでお買い物に行くわよ!」

 智樹の左手首を握りながらアストレアが宣言する。

「何で俺まで? というか、その手を離せ」

 智樹が嫌そうな顔をアストレアに向ける。

「手を掴んでないとアンタ逃げちゃうじゃないの。それに、私バカだから1人で買い物に行ってもまた違うもの買って来ちゃうわよ!」

 訴えるアストレアの顔は真っ赤だった。

「確かにこの間1人で買い物に出掛けた時は、じゃがいもとガンプラ間違えて買って来たからな」

「“が”が合っているじゃないのよ」

「“が”しか合ってねえだろうが。というかお前はプラモデルを食うのか?」

 アストレアに買い物を任せたあの日の食卓が惨憺たるものだったことを思い出す。

「仕方ねえ。一緒に行くか」

 智樹は空いている右手でアストレアの左手を握った。

「なっ、何をしているのよ!?」

 手を握られてアストレアの顔が真っ赤に染まりあがる。

「手首握られているよりはこっちの方が歩き易い」

「う、うん……」

 アストレアは智樹の手首を掴んでいる右手を離した。

「じゃあ、行くか」

「う、うん……」

 智樹は商店街に向けてゆっくりと歩き出す。

 アストレアは真っ赤になって俯いたまま智樹に引っ張られる形で。

 夕日が眩しい田舎道を智樹とアストレアがゆっくりと歩いていく。

「そう言えばお前、最近よく家事を手伝うようになったよな」

 歩きながら思い出す。

 昔桜井家の家事はイカロスに任せきりだったが、最近は3人のエンジェロイドによる分業体制が確立している。中でも、昔は遊んで食べて寝る専門だったアストレアが積極的に家の中の仕事を手伝うようになったことを。

「そんなこと当たり前よ」

 ずっと俯いていた顔をアストレアは上げる。

「だって、私、イカロス先輩に勝つんだから!」

 アストレアの強い意志の篭った瞳が智樹を捉える。

「別に買い物ができるようになったって、イカロスに戦いで勝てるわけじゃないだろ?」

「戦闘にだけ勝ってもイカロス先輩には勝てないもの」

「はぁ?」

 智樹にはアストレアが何を言いたいのか理解できない。

「戦いにだけ勝ってもイカロスには勝てないって、アストレアはイカロスに勝ちたいんだろ?」

「そうよ」

「矛盾してねえか、その言葉?」

 アストレアがバカだから理に適っていないことを言っているのか。それとも何か自分が見落としているのか。

 智樹にはそれがよくわからない。

「矛盾なんかしてないわよ」

 アストレアが智樹を見ながらニンマリと笑った。

「私絶対、イカロス先輩よりもいい女になってやるんだから」

「何で突然いい女が出て来るんだよ?」

 智樹の思考は四次元へと飛ばされ掛けていく。

「覚悟しなさいよね、智樹」

「何で俺なんだ?」

 全く訳がわからない智樹。頭の中がこんがらがってショートしてしまいそうだった。

「さあ、遅くならない内に買い物を済ますわよっ!」

「お、おぅ?」

 アストレアは走り出す。

 智樹の手をしっかりと握ったまま。

 2人の影法師は家に着くまでずっと隣り合っていた。

 

 

 了

 

 


 
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