No.208247

幻葬のファントム~忘レモノ~

夢追人さん

ゼロへの回帰。
始まり。

2011-03-26 21:57:09 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1183   閲覧ユーザー数:1150

 学園都市。

 東京都の三分の一の広さを誇り、その名の通り学校やら大学やら研究所やらのあらゆる教育・研究機関の集合体であり、必要な生産・商業施設などの各種インフラを始め行政・立法・司法の三権さえも独自に運営する自己完結した『都市』である。最先端科学の要塞のような場所であり、都市の内外では

技術レベルに数十年の差があるとさえ言われている。

 総人口は二百三十万人であり、その八割が学生だ。

 その学園都市のとある学生寮の一室で、彼――上条当麻は目を覚ました。

 いつもなら『不幸にも』鳴らないはずの目覚まし時計のアラーム音が、今日に限ってけたたましく鳴り響いたのである。それでも針が指しているのは予定より大分遅れた時刻であったが。

 にもかかわらず、そんなものは今の当麻にとってどうでもいいことだった。

 

 「――夢、か」

 

 夢を、見ていた。霞がかかったように内容がよく思い出せない、夢特有の感覚に苛まれながらも、当麻は一時の幻想を回顧する。

 

 「なんか、温かかったな……」

 

 温かい夢。懐かしい夢。ずっと昔の、彼にとって何か大切な、そんな夢。

 上体を起こし、未だに喚いているアラームを殴りつけるように黙らせる。ベッドから跳び出して手早く着替えを済ませながら、視線の隅でちらりと日付を確認した。

 七月十九日。

 その数字が意味するのは――

 

 ――明日っから、夏休みだーっ!

 

 今日一日を乗り越えれば、明日からは待ちに待った学生たちの天国(パラディソ)、夏休みの始まりだ。それだけで当麻のテンションは一気にゼロからMAXへと駆け上がる。遅刻の危険などどこ吹く風だ。

 そんな調子で転がっていた学生鞄をひっつかんだとき、その『右手』がどくんと疼いた。

 

 「ッ――!」

 

 その存在を改めて告げるような強い脈動。思わず鞄を取り落とし、当麻は己の右手をじっと見つめる。

 グーパーグーパーを繰り返し、最後にひらひらと振ってみた。

 

 「何でも、ないよな?」

 

 夢。七月十九日。疼いた『右手』。

 何かが起こる。予感めいた強い確信。

 

 「右手が疼くって……アレですか?上条さんはどこの中二病ですか?」

 

 気を取り直して鞄を拾い上げ、ちらりと時計を確認すると――

 

 「やばっ!遅刻――」

 

 最早本能としか言えないようなスピードで玄関にダッシュ。両足をスニーカーに突っ込み、ドアを開け、一歩を踏み出そうと――

 

 「あ……」

 

 左のスニーカーの紐が切れていた。さらに前に出した右足がドアのでっぱりに引っかかってキレイに態勢を崩し――

 

 「不幸だーっ!」

 

 当麻の叫び声と、少し遅れて転倒する派手な音が辺り一帯に響き渡った。

 

 

七月十九日。夜。21:00。

 

 「久しぶりの日本だな」

 

 学園都市のとあるビルの屋上に、僕たちはいた。頭上には夏にも関わらずよく澄んだ夜空が広がっている。青白く、冷たい月光が、僕らを照らしていた。

 この神秘的な光が、僕は好きだったような気がする。

 

 「上もまた、難しい仕事ばかりを回してきますね」

 

 彼女――狩野由姫が僕の隣に寄り添うように立つ。眼下を見つめる彼女にならって、僕も街灯と喧騒に満ちた下界を見下ろした。

 

 「問題ないさ。僕と君なら」

 

 凛々しく表情を引き締めた由姫に、僕は軽く声を掛ける。由姫は真面目なあまり、根詰めすぎてそれが空回りしてしまうことがよくあった。

 

 ――由姫はもう少しリラックスすることを勉強するべきだな。

 

 まあ、それも彼女のかわいい点と考えれば、それはそれでいいのだが。

 

 「そうですね。私と貴方なら」

 

 フッと由姫は頬を緩める。よし、これでようやくいつも通りだ。

 そう。僕と由姫はずっと一緒だった。これまでも、そして、これからも。彼女がいない人生なんて想像もつかない。

 

 僕は狩野優麻。

 

 任務内容は行方不明となった十万三千冊の魔道書、『禁書目録』の確保。

 

 「それじゃ行こうか、由姫」

 

 「ええ、優麻」

 

 

 

一つの終わりは、新しい始まり。

 受け継がれた物語は、これからも続いてゆく。

 

 to be continued in "Index"

~あとがき的なナニカ~

 初めまして。夢追人です。『にじファン』にて掲載していた『幻葬のファントム』シリーズを一挙に移植させて頂きました。

 

 この二次小説は私の執筆仲間が言い出した、幻想殺しに関する素朴な疑問を基にしたものでした。曰く、

 「原作一巻で記憶喪失になる前の上条サンて、最初から幻想殺しについて知ってたのかな?誰かに教わったのかな?」

だとか。私は残念ながら原作は途中までしか読んでないので幻想殺しについてオフィシャルがどのような切り出しをしているか解りませんが、自分なりに妄想を広げて書いてみました。完成形としてのイメージは『Fate/Zero』。いかがでしたでしょうか?

 

 まだまだ至らない文章ですが、最後まで読んで頂いた方、本当にありがとうございます。御意見、感想等ありましたら、いつでもお待ちしております。

 願わくば皆さんの記憶の中に、少しでも長く優麻たちが残ってくれることを祈って――

 


 
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