<蜀>
<一刀>
辺りを見渡すともう夕暮れだ。
夏も近いし、日は長いんだろう。
…この世界のこの場所の気候なんて知らないけどさ。
日本で言えば初夏に当たると思うんだ。
オレは一人赤みがかった空を見上げながら城へと歩き続けた。
夕焼け空って郷愁を誘うよな…。
…皆元気かなぁ。
オレ…ホントにどうなるんだろ。
……頭ではやっぱり帰りたいんだと思う。
だけど…どこか帰りたくないって気持ちが…帰ると後悔してしまいそうな気持ちが胸にひっかかっている。
まだちょっとしか居ないはずのこの世界だけど、確かに皆と触れ合っているうちに悪くないかなって思ってきているよ。…みんな可愛いし…ゴホンッ。
でも…それだけなのかな。
そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか城庭の辺りまで来ていた。
「お母さん飲みすぎだよ~。」
ん?
あれは、東屋って言ったっけ?休憩所のような所から子どもの声が聞こえてきた。
目を向けてみると…妙齢のご婦人が二人と女の子が一人座っているのが見える。
……この距離でもその女性達の身体の一部の自己主張の激しさが分かるな……ひぃっ。
悪寒が強くなってる気がするんだが…オレ、知らないうちに追い詰められてないか?
それともなんかの病気か?
…考えすぎだな。そうに違いない。そうだと言ってくれ!
「お母さんは全然酔っていないわよ~。」
会話が聞こえてくる。
…酔っ払いのその台詞ほど信頼出来ないものは無いよな。
大変そうだな~…。
なんとなく足を止めて見ていた。
あ。女の子とばっちり目が合ってしまった。
「??おにいちゃんだれ~?」
なんか団欒していた所を申し訳ないな。
かと言って、もはや立ち去ることもできそうにないのでオレは東屋の方へ近づいて行った。
「おや?お主は…どちら様でしたかな?」
薄紫色で、後ろ髪にウェ―ブのかかっている頭に簪を挿した、少し童顔の、気風の良さそうな古風な言葉遣いの女性が尋ねてきた。
足元と胸元が強調されたような服を着ている。
……その胸は反則ではないのかね?くっ。
魔乳としか言いようのないサイズのその胸は、僕の、心を、激しく、揺さぶります!
ばかな!テ、テーブルにのっているだと!
私はテーブルになりたい…。
…ぞくっ。
「あら?どこかでお会い致しましたか?」
紫色の綺麗なストレートヘアーの、物腰の柔らかい穏やかそうな女性が続けて尋ねて来る。
ものすごく深いスリットと胸元が開いたチャイナドレスを着ている。
……えぇい!連邦のMSは化け物か!
こちらもまた立派な胸をお持ちで…。
………ぞくぞくっ!ひぃぃぃっ。
このままではまずい。
とにかくまずい。
……………よしっ!とりあえず自己紹介で切り替えるぞ。
「えぇと、はじめまして。オレは北郷一刀。字と真名はありません。よろしくお願いします。」
「璃々はね~、璃々っていうの~。よろしくね。おにいちゃん。」
紫苑と同じ紫色の短めの髪の左右にリボンを付けて、園児服に似た服を着た女の子が元気にあいさつしてきた。
真名?いや、幼名なのか?
おそらく他の名前を名乗らないことから幼名的なものだろう。
「よろしくね。璃々ちゃん。」
うん、嫌がられてはいないみたいだし…
…なでなで
璃々ちゃんは、驚いたのか一瞬ぴくっとしたけど、すぐに笑顔になった。
「えへへ~…。」
よっぽど気にいられたのか、撫で終わってからもぴったりとくっついてきた。
可愛い子だなぁ…。お利口そうだし、素直そうだ。
「あらあら、あなたが天の御遣い様ですのね。へぇ~…。」
「ふむ。お主が天の御遣いか。ほぉ~…。」
な、なんだ?じーっと見られてるな…。
二人はおもむろに立ち上がり・
「ふふ…。わたくしは黄忠。字は漢升。真名は紫苑。よろしくお願いします。御遣い様。」
「ふむ…。我が名は厳顔。真名は桔梗。よろしく頼みますぞ。御遣い殿。」
五虎将黄忠に、名将厳顔か…ずいぶん若いな。
しかし、さすがにもう慣れてきたな。
でも…
「え?いきなり真名を?良いんですか?」
「良い。人を見る目には自信があるのでな。」
「ええ。わたくしも同感よ。あなたは大丈夫だわ。」
なるほど。歳の功って奴か…
―ひゅっ…
い、今何か頬を掠めたような…
二人には変わった様子は見られないけど…
なるほど、禁句の匂いがぷんぷんするな。くわばらくわばら。
まるで、タブーを言ったら魂を抜かれる空間に入っちまった気分だぜ…。
「ありがとうございます。それと、あまり御遣いって呼ばれるのは好きじゃないんです。出来れば一刀って呼んでください。強いて言えば、それが真名に当たりますので。」
「なんじゃ、お主もいきなり真名を授けておったのではないか…。変わった奴よのう。じゃが、益々気にいったわ。それより、そんな無理に敬語を使わなくてもいいぞ。一刀殿。」
「ええ、その通りよ。無理しなくてもいいわ。一刀君。」
「わかった。あらためて、これからよろしくな。紫苑!桔梗!璃々!(ニコッ)」
オレが紫苑と桔梗に握手を求めると、二人は快く応じてくれた。
瞬間少し固まって、顔が赤くなったように見えたが、まだほのかに残る西日のせいだろう。
「……ねぇ…桔梗……。」
「…ふむ…これは……思うたよりも…なかなか…。」
「……ふふ…久しぶりに女が疼くわね…。」
「…お主もか…おもしろくなってきたのう…。」
何か二人がこそこそと話している。
…目が妖しく光っている気がするぞ。
その獲物を見つけた肉食獣にも似た眼の光に、オレは得体の知れない嫌な予感を感じた…。
その後、璃々ちゃんと紫苑が親子であること。
紫苑さんが未亡人であることなんかを聞いた。
悪いことを聞いたかなって思い、謝ったけど「気にしないで。」と逆に気を遣われてしまった。
…ちょっと軽率だったな。猛省しよう。
こんな時代だ。いろんな事情を抱えた方が沢山いるのだろう。
もっと色々考えろよ。ホントにダメだな。
…未亡人と聞いて管理人さんを思い浮かべてしまったのは内緒だ。
オレもお邪魔して皆でまた席に着く。
璃々ちゃんはオレの膝に乗って来た。
「ところで三人は何をしてたんだい?」
「これは、奇異なことを…。見ればお分かりになろうものだが。」
「それはまあ…。」
見ての通りの酒盛りだよな。
仕事終わりの一杯ってとこか…。
「ん…ごくっ…ごくっ…ふはぁ~……仕事を終えた後に飲む酒は格別じゃぞ。わしはこの為に生きているといっても過言ではないくらいじゃからな。どうじゃ、お主も一献?」
そう言ってまた飲み始める。
…やばい。絶対うわばみだ。しかも星より危険な匂いがする…。
オレは直感的に危機を感じ取った。
「…遠慮しとくよ。」
「それは残念。ごくっ……ごくんっ、くっ…こくっ…。」
「全然残念そうには見えないけど…。」
オレの言葉なんか聞こえていないかのように桔梗は酒を飲み続ける。
オレはお茶をもらうことにした。
「…っ……ふぅ~。うふふ♪」
紫苑も杯を傾ける。
その仕草は上品で、それでいて色っぽく、つい口元に目が行ってしまう。
オレの視線に気付いたのか、紫苑は目を細めて微笑み、酒に濡れて、艶やかに光る唇をぺろっと舐めた。
たった、それだけの仕草なのに、なんという色気だ。
思わず…いや、なんでもない。
「もぉ~…おかあさんてば、そんなにいっぱいお酒のんじゃって……この前みたいになってもしらないんだから。」
お茶を飲みながら、璃々ちゃんがそう言う。
さすがに璃々ちゃんに酒を飲ませないだけの分別はあるよな。
「ええと…璃々ちゃん。この前ってのは?」
話を聞くと、なんでも、この二人前に飲み比べをして、夜中、前後不覚になるまで飲んでいたらしく、璃々ちゃんが大変だったらしい。
二人は自分が引き分けにしてやったとか、言っている。
うん。二人とも、かなりの酒好きで酒豪だな…。
その後もしばらく話を続ける。いつの間にか日は暮れていた。
…見ていると、なんだかんだ酒とか抜きにすれば紫苑はいい母親だな。
そのうちふいに、桔梗が、
「時に、一刀殿は酒にはお強いのか?」
と聞いてきた。
「え?うーん…弱くは無いと思うけど、二人に比べたらさすがに…。」
爺ちゃんに鍛えられたとはいえ、目の前の二人は別次元に見える。
「いやいや、量の大小は問題でなく……。酔っていても肝心な時にあれが勃つかどうかと聞いているのですよ。」
「はぁっ!?」
「それは確かに重要な事ですね。ほろ酔いで、せっかく良い雰囲気になっているのに、肝心のあれが役に立たなくては大変ですし。」
「ちょっ…紫苑まで…。」
子どもの前で何を言ってるんだ!!あんた達は!!!
「おにいちゃん、あれってな~に?」
「うわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
オレは慌てて、璃々ちゃんの耳を手でふさぐ。
「……おにいちゃん?これじゃおみみ、きこえないよ~。」
「ごめんね璃々ちゃん。ちょっと我慢しててね。」
「で、だ。桔梗、紫苑!璃々ちゃんの前で、なんてこと言いだすんだ!」
「何を怒っておられるのだ?これは男の沽券に関わることですぞ。」
「そうですよ。女にしてみても、お酒のせいとは言え、自分の身体に殿方が反応してくださらないなんて傷つきますわ。」
「もっとも、わしが相手の時は、そんな心配はなさらなくてもよろしいですがな。あらゆる手練手管の限りを尽くして、必ずや硬く勃起させてみせますから。」
「あら、それならわたくしだって、興奮していただくためになら、どんな事でもいたしますよ。」
…ごくっ。 じゃねえ!!!!!
オレは、からかわれてるんだな。
酔っ払いめ。
「だーかーらー!!」
オレはつい声を張り上げてしまう。
「ごくっごくっ…ふむ。お主は、こんなふうにあけすけにものを言う女はお嫌いと。」
「い、いや…嫌いとかじゃなくて…璃々ちゃんの前でする話じゃないだろ。」
「ふふっ♪ 一刀君ったら、璃々にかこつけて恥ずかしがったりして。本当に可愛らしいわね。」
ダメだこいつら…はやくなんとかしないと…
「あー…もー…」
いや、酔っ払いには何を言っても無駄か…。
「おーにーいーちゃーん。おはなしきこえないよー。」
「あ、ごめんごめん。」
オレは璃々ちゃんの耳から手を離して、これ幸いとそのまま立ちあがらせた。
「璃々ちゃん。一緒にごはん食べに行かない?」
「うん。いくいくー♪」
三十六計逃げるに如かず!
「わしらを差し置いて璃々を誘うとは……さすが、とんだすけこましですなぁ。」
さすがってなんだ!
…あ。まさか…“魏の種馬”か?ぐすん。
「激しく誤解されてるみたいだから訂正しとくけど、酔っ払いの所に璃々ちゃんをおいとくと教育に悪そうだから連れてくだけだ。」
もう本気で逃げるに限るな!
「じゃあ、もう行くから。あんまり飲みすぎるなよ。」
「いってきまーす!」
こうしてオレ達は食堂へと向かった。
―城庭では―
「やれやれ。真面目なお方だ。色事はお好きだろうに、わしらの誘いになびいてくれぬとは。」
「簡単に欲望に流されてしまうような不純な輩なら、わたくしたちがここまで惹きつけられたりしないわよ。」
「ああ、まったくだ。本当に、不思議な魅力をお持ちだな。」
「だからこそ尽くし甲斐があるというものだわ。」
「ほう…本気だな。」
「ええ、もちろん。あなたは…?」
「愚問じゃな。」
「なら、うふふふふ♪」
「ふっふっふっふ♪」
―という会話がなされていたとか―
「へーっくしょい!!」
廊下を歩いていると突然寒気に襲われた。
なんだ、今の獣に狙われたような感覚は?
「おにいちゃん。だいじょーぶ?」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと寒気がしただけでどうってことないよ。」
璃々ちゃんを安心させるように笑いかけ、また歩き出す。
食堂で璃々ちゃんと一緒にごはんを食べて、しばらく璃々ちゃんとおしゃべりをしていた。
途中、桃香と愛紗、月と詠、朱里と雛里も食堂に来て賑やかな時間になった。
隣に陣取った桃香と愛紗はやけに世話をやいてくれたな。
…何故かちょくちょく空気が冷たくなったりした気もしたが。
そのまましばらく時間が過ぎ、璃々ちゃんを部屋に送った
さすがに紫苑も部屋に帰っていたようで、璃々ちゃんを預け、オレも自室へと戻ることとした。
身体を拭き、着替えてくつろぐ。
風呂に入りたいが、この時代風呂は高級品らしいしな。
今度、現代の知識から良い方法がないか考えてみようかな。
まあ、今現在の仕組みを聞くところから始めなければいけないし、街を見て回った後かな。
この感じだとすぐに追い出されることも無いだろう。
色々聞きたいこともあったりするけど、追々慣れてからでいいだろう。
―注:一刀君は魏の人が来ることを知りません。ましてや曹操を筆頭とした面子が来ることなんて…。そのためこの時点ではしばらく蜀にいるつもりだったりしてます。…なんにも知らずに………―
さて、今日もいろいろあったことだし寝るか!
窓良し!扉良し!抜かりはないぜ!
トントンッ
「はい、ちょっと待ってね。どうぞ。」
オレはカギをあけて、外に呼びかける。
ちなみに“のっく”はさっき雑談ついでに話したものだから、さっきの食堂の誰かだろう。
そこには、愛紗がいた。
「どうしたんだ。愛紗?」
「い、いえ……その…じ、じつは………」
トントンッ
愛紗の言葉の途中でまた扉が鳴る。
「お兄さーん。今ちょっといい?」
桃香の声だ。ま、まずいんじゃないか…?
「あー、えーと。」
いや、何もやましいことはないんだ。
「あー、うん、いいよ。」
「えっ。一刀様!?」
「じゃ、失礼するねー…って愛紗ちゃん!?なんでここに?」
「い、いえ、少し一刀様に話がございまして…」
「ふーーん。」
愛紗は慌ててるように見える。別にやましいことなんて無いのにな。
桃香はジト目だ。
「そ、そういう桃香様こそどうしたんです!?」
「え、えーと……。あはは。」
今度は愛紗が詰め寄る。
おいおい、喧嘩すんなよ。どうしたんだ?一体。
「まったく。仲がよろしいですなぁ。」
そうなのか…って、
「せ、星!?いつの間に!?」
「先ほどから居りましたよ。さて、一刀殿、今宵も添い寝してさしあげましょう。」
「星~!貴様いつの間に~!」
「星ちゃん。抜け駆けはずるいよっ!」
おお、二人が凄い形相で迫ってくる。
…こわいよー。
くいっ。
ん?
裾を引っ張られる感触に目をむけると恋がいた。
だから君ら、気配を出そうぜ。
「………一刀、一緒に寝る。」
「「ダメ(だ)っ。」」
「恋殿を誘惑するななのです!!」
ねねまで!?
あー、混沌としてきた。
「すいません。一刀さん、お茶をお持ちしま…きゃっ。」
気を利かせてお茶を持ってきた月が、部屋の惨状に驚く。
…お茶をこぼしてないのが幸いだ。
「へぅ~。」
「ちょっと、一刀。どうなってるのよ。」
「オレだってわかんねーよ。」
一緒にいた詠に文句を言われるが、どうしようもない。
そのうち、蒲公英と、一緒に翠が来た…あの服はまだ着てなかったけど…。
「やっほー、お兄様♪」
「な、なんだよこれ?どうなってるんだよ?」
すいません。オレが聞きたいです…。
蒲公英はまったく気にせず楽しそうだし。
「あわわ…。」
「はわわ…。」
うぉっ!!朱里に雛里までいたのか。
「……さすがです。こんな大人数を一気に…。」
「…朱里ちゃん。大丈夫かな…。」
「沢山お勉強したから大丈夫だよ、雛里ちゃん。一緒に頑張ろう。」
なんかこそこそ話しているが、触れるべきではない気がする。
「にゃー、お兄ちゃん。一緒に寝るのだー。」
すぐに鈴々が元気部屋によく飛び込んできて、抱きついて来た。
すぐに愛紗にはがされる。
「にゃ?なにするのだー!」
「やかましい!」
騒ぎは増す一方だ…。
「あらあら、賑やかですわね。」
「ふむ。わしもまぜていただこうか。」
紫苑に桔梗までやってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どうしてこうなった…?
たしか紫苑と桔梗がお酒をもってきたんだよな。
…悲劇って一瞬で始まるんだな。
辺りを見渡せば、死屍累々。
酔い潰れた女の子たちが倒れている。
桃香って絡み酒なんだな…。
他の娘達も色々凄かったけど…。
なんかほとんどの娘が「鈍感すぎる。」、「普通気付く。」とか文句言ってたけど大変なんだなぁ。
そして、オレは絡みついてる数人からなんとか脱出し、出来る限り布団や布を皆にかけてやった。
さて、どうしよう。
食堂の椅子でも借りて寝るか…。
夏だし、風邪はひかないだろう…。くすんっ。
こうしてオレは食堂の硬い椅子で眠りに就くのだった。
明日こそはオレに優しい日が来ることを祈って…。
あとがき
紫苑・桔梗編です。
今回も難しかった…。上手く書けない…。
次回もこの続きの蜀三日目ですね。ホント進まない。
キャラへの違和感はひとえに作者のカスっぷりが原因ですので…わかっててもどうにもなりません(泣)
コメント、メッセージ、支援にいつもいつも助けられます。
こんな作品を応援してくれるなんて…嬉しすぎます。
では、ここまで付き合ってくれた勇者に感謝を!
次回はホントいつになるかわからないですが、なるべくがんばります。
Tweet |
|
|
50
|
3
|
追加するフォルダを選択
おはようございます。
最近忙しさが増してきました。
では つなぐ想い12 です。
続きを表示