「蜀と呉と和平を結ぶというのですか?!」
「そうよ」
御殿の中で一気に騒がしくなる。
魏の重役たちは割と静かだが、報告に来ていた各部署の管理たちも動揺する姿を隠さなかった。
「一体どういうことですか、孟徳さま」
「話している通りよ。両国に和平の使者を送るわ。両国から可と出れば、直ぐに三国が一卓で会える場所を作るとする」
「ありえない話です!我ら魏は今圧倒的な力を持っています!なのにどうして、孫呉の孫策と西涼の馬騰が消え去った今、孫呉を継いだ若い孫権や、蜀の劉備など我らの敵で
はありません!」
「いかにもその通りでございます!奴らから降伏をしてくるとしてもおかしくないというのに、わざわざこちらから和平などと……」
臣下たちの中からそんな言葉が上がってくる。
当然のことだった。
今まで魏は勝利し続けてきた。
以前孫呉との戦いこそ負けてしまったが、実際のところ、こちらの被害は少なく孫呉は孫策を失ったことを考えると結果としてはこちらに損はなかった。
西涼の地を得たことも魏にとっては力となりつつある。
下からみると、もう魏がすることは弱った孫呉と蜀を叩くことしか残ってない。
なのに何故今更和平と出てくる。
しかもあの覇王、曹孟徳が!
「あなたたち、馬鹿じゃないの?」
そこで口を開けたのは桂花こと荀彧であった。
「いや、あんたたちが馬鹿なのはいつものことだけど、今回にかぎっては益々馬鹿さを増してるわね」
「な、なんですと!」
「いい?その耳がまだついてるうちに良く聞きなさい!」
桂花が異議を唱えた臣下たちに向かって言い返した。
「確か今の私たちの力は増していつつあるわ。もう少しいると孫呉でも蜀でも敵えないでしょう。でもね、それと逆に今私達はとても危険な状況よ。下手するとこの国は一気
に崩壊するわ」
「な、何を馬鹿げたこを…!」
「孫呉との戦いで私たちは不甲斐なくも他国の君主を毒殺したわ。それが本意であったか否かは関係ないの。孫策が死んだことが私たちに得になると思ってるの?華琳さまは
正々堂々と覇道目指しているお方だったわ。だからこそついてくる人たちも多かった。なのに今回の事件で華琳さまに、私たち魏に不名誉を抱いたわ」
「それは…」
「孫呉との戦いだけではありませんね……」
続いて話をしたのは眠そうな眼をしている風こと程昱。
「この度に亡くなった司馬懿さんが披露した策によって、西涼は壊滅状態となっています。今私たちが全力で復興作業をしては居ますが、西涼の中でも私たちの残酷な戦術で
家族を失った西涼の人たちの私たちへ呪詛の言葉を叫ぶ人たちも居るとか……こんな状況ですので、魏の民たちも人口移動に協力してくれず政策が失敗気味を見せています」
「むむむ……」
「何がむむむよ。とにかく今この状況で蜀と呉が同盟を組んでこっちにせめて来るハメにでもなればその被害は甚大なものになるわ」
桂花と風の話を聞いて、文官たちは反論する者が居なかった。
彼女二人は、華琳さまが一番信用している一等軍師二人、その発言力は強かった。
最も、彼女らに反論できる要素もなかったが……
「そうは言っても、和平と言う形はどうもぬるいと私は思うのですが…」
そこで口を開けたのは稟、郭嘉であった。
「どういう意味よ」
「桂花と風が言ったとおり、蜀には私たちに復讐の爪をといでいる馬一族の残り馬超、馬岱らがいるし、王を失った孫呉も、そう簡単に我らの和平の申し出を引き受けるとは
思いません」
「それは……」
中間役の管理たちは動揺した。
桂花と稟の対立というのはいつものことではあった。
だけど、それはあくまで見解の差があるというものであって、稟が華琳さまがやろうとすることに反する考えを発したことはなかったのだ。
そんな稟が、今は華琳さまが言った和平に否定的な意見を発していた。しかも自分たちを代弁して……
「取り敢えず孫呉には正式な弔意文を出していますが、それだけでは少し難しいでしょうね。何せ急な申し出ですし……」
「蜀の方も同じです。大体馬姉妹が居る限り、蜀との和平は不可能も同然です」
「それなら心配ないわ」
華琳さまが稟のその言葉を待っていたかのように答えた。
「馬超と馬岱には、和平がうまくいけば西涼の地を返すつもりよ」
「なっ!」
「苦労をして得た西涼を馬一族に返すとおっしゃるのですか!?」
「そうよ。第一、西涼の地は既に私たちの力ではどうにもならないことが判明した。彼女らでなければ、西涼を鎮めることは不可能でしょう」
「実際、司馬懿の献策にも、西涼の復興がうまくいかない場合、蜀と和平をむすび、馬一族の残りに西涼の地を返し、外患を防ぐべきだと書いてあったわ」
華琳の言葉に、桂花が添えるように言った。
「しかし、それだけではまだ足りません。彼女らにとっては私たちは酷い方法で自分たちの仲間を殺したのですから」
「そうね。戦だとしても最小限の礼儀というものがある。それを破ったのは紗江、そして私だわ。それを突かれたら、私とって言う口はないでしょう」
「なら……」
「けど、これならどうかしら」
華琳は自身ありげな顔で稟と自分を注目している臣下たちに言った。
「馬騰が見つかったわ。今この陳留に来ているわ」
「「「!!!」」」
それは、華琳さまが一刀の助けで五丈原が『あった』場所に来た時でした。
スッ
「………」『木が全部…燃えてる』
「元々は森が広がっていた場所よ……長安と西涼の地を分ける場所であったけど、まさかこんなにあっさり燃えてしまうなんて…儚いわね………」
「………」『ここで…一体どれだけの人たちが死んだの?』
「少なくも五万……それ以上あったわ。した…」
死体を片付けるだけでも何週がかかったという言葉をしようとした華琳さまの口が途中で止まりました。
「行きましょう」
「<<コクッ>>」
華琳が向かう場所は紗江の墓がある場所。
紗江が二度も散っていったその場所へ…
・・・
・・
・
「…!」
「?」『どうしたの?』
「一刀、ここに居なさい」
「……?」
例の場所に近づいてきた時、華琳は何か変な気配を感じ一刀を止めました。
そして、持っていた「絶」を構えました。
「…誰か居る……」
「……」
それを聞いた一刀は、ゆっくりと華琳が持っていた大鎌に手を付けました。
「……<<ふるふる>>」
「…分かっているわ。殺しはしないわ。それに、ここまで来る相手なら…心当たりがあるから……」
「………」
そう言った華琳は一歩一歩、慎重に墓に近づきました。
そして、やがて司馬懿が死んだ場所が眼に見えるぐらい近づいた時、墓の前に膝をついている人が見えました。
「!」
「やはり……生きていたのね、馬騰……」
「孟徳……」
墓の前から立ち上がった馬騰は地面に刺していた側の十字槍を握った。
「貴様を待っておった。お主ならきっとここに来ると思っておった」
「馬騰……私は」
「黙れ!」
「!」
馬騰の槍の先は変わらず華琳に向いているまま。
馬騰は戦うつもりで待っていたのでした。
「妾には…妾には分からぬ。何が起きたのか、どうしてこんなになってしまったのか、妾には未だに理解できぬ。じゃが、これだけは確かじゃ。お主が、またしくもこの娘を
侮辱しおったことじゃ。一度で凝らず二度も…死者までも自分の覇道のために使いおった。そんな貴様を、妾は絶対に許さん!」
「そう……あなたがどうしてもというのなら、仕方ないでしょうね」
「……<<ぐいぐい>>」
横で一刀が裾を引っ張り止めようとするにも関わらず、華琳も馬騰に向かって【絶】を構いました。
「感謝するわ、馬騰。今まで待ってくれたこと。あなたとは勝負を付けたかったわ」
「勝負はもうついておるわ。お主が紗江を殺したあの日から、この戦いはお主の負けだと決まって居るのじゃ!!」
馬騰は叫びながら横に一刀が居るのか見えていないのではないかと思わせるほど凄まじい剣幕をだしながら駆けてきた。
「一刀、下がっていなさい。これは避けられない戦いよ」
「……」
華琳も馬騰の槍に向かって【絶】を振るった。
ガキーン
「っ!強い!」
「まだまだじゃ!」
勢いがついていた馬騰の一撃に、曹操は圧されつつあった。
司馬懿、紗江に関しての馬騰の華琳への憤怒か感じ取れた。
「はっ、いやああっ!」
ガチーン!
ガチン!
「っ!」
「……」
「どうした!孟徳!この程度か!所詮は女を誑かして駒として使う能しかないのか!一人では戦いもできんというのか!」
「っ…何ですってー!」
ガチン!
馬騰の挑発に流石に華琳もキレたのか絶の振り方が荒くなった。
一刀が側にいるからって手加減していられるほどの相手ではなかったのだ。
「………」
そんな二人を暫く見ていた一刀は、最初は止める気があったのか少し近づいてみようとしたが、二人の戦いには他のものが入る隙なんてまったくなかった。
仕方ないと思った一刀は、ここに来た用件を先に済ませようと思った。
スッ
「……」
二人が戦っているところを通りぬけ、一刀は司馬懿の墓がある場所に来た。
そして、持ってきた花束を墓の石碑の前に置いて黙礼していた。
ガチン!
「……!あの坊主は……」
戦っていた馬騰はふと、さっきまで華琳の後ろにいた子が自分の後ろの紗江の墓で跪いて黙礼しているのを見て驚いた。
「どうやって……」
「……?」
そして刃がぶつかり合う音が消えたことに気づいた一刀も振り向いて馬騰と華琳を見た。
「………」
「……?」
「…一刀」
「…」『戦うの終わったら早く来て。墓の前で騒いじゃ駄目』
「え、えぇ……ごめんなさい」
「?」
華琳が素直に謝るのを見て、馬騰はあっけなかった。
あの男の子が一体何だと言うんだ?
「……」『おばさんも、墓参りに来たんじゃないの?」
「おば……い、いや…違わんが……」
「……」
まだ状況に追いついてない馬騰を放っておいて、武器を下ろした華琳は紗江の墓の前に行って黙礼をした。
そして、墓の碑石に手を置いて呟いた。
「ありがとう、紗江……あなたのおかげで、私にとって一番大切なものが何か分かることができたわ」
「……孟徳…」
「あなたが帰ってきて、私は何度もあなたに私があなたにしたことを話そうとしたけど、あなたはそれを聞こうともしなかったわね。それまでも、あなた自身のためじゃなく
、私のために……あなたが私にしてくれたことを…は何一つもちゃんとお返しできたものがないわ」
華琳は墓の前で、生きていた時の紗江に話せきれなかった話をしていた。
華琳と司馬懿の仲というのは、誰よりも厚い縁として、一番触りにくい互いの恥部であった。
だからこそ、生きていた時では話すことができなかった。だからこうして、墓の前で、全てを吐き出してしまう。
許して欲しいから?それならもっと早くしなければならなかった。
立ち直るために、
この悲劇を、悲しい思い、誤った過去を降りきって前に進むために、
そのために華琳はここに居た。
「私は前に進むわ、紗江。それがあなたへの償いになるからじゃない。それが私の進むべき道だから。あなたをこんなにしてまで進まなければならなかった私の夢だからよ」
「………」
華琳がそこまで言った時、荒れた五丈原に風が吹いた。
強くはない、ちょっとした、一瞬だけの風。
「……」
そして、華琳は振り向いて馬騰を見た。
馬騰も華琳を見ていた。
「孟徳、貴様……」
「馬騰、頼みがあるわ」
「頼みじゃと?」
「あなたの娘と姪子が劉備軍に入ったわ。あなたが居ない西涼は私たちに反旗を起こしているし、正直、馬一族でなければ西涼の騒ぎを鎮める者はいないわ」
「…ふん!貴様の頼みなんて考えるだけ無駄じゃ。あの娘はそうしたのじゃ。儂は止める気はおらぬ!」
「なら聞くけど、あなたはもし私と一刀がここに来なかったら、ここで何をするつもりだったのかしら」
「……!!」
「くだらないわ。くだらないのよ、馬騰。そんなことをしても誰も『幸せ』にはなれない」
「『幸せ』…じゃと?」
華琳から出てきたその言葉に馬騰は豪快に笑った。
「くははははーっ!!面白い!その冗談は儂が今まで聞いたものの中で一番じゃ!」
そして、その顔は一変して華琳を今でも殺しそう鬼のような顔に変わった。
「貴様の口から『幸せ』という言葉が出てくるなんて甚だしいにもほどがあるわい!自分の覇道のために何もかもを人も何も道具として使ってきた奴が、人の幸せを論じるか
!」
「…………」
華琳は唇をかみしめた。
馬騰の話通り、自分は今まで何も人を道具として扱ってきた。
それは一刀に会って今まででもかわってないことなのかも知れない。
結果、自分を助けに再びこの地に参られた一刀を傷つかせ、自分のためによみがえってきた紗江をまた死なせるハメになった。
だから、そんな自分に人の幸せを言う口はないのかもしれない。
それでも、華琳にはそれが必要だった。
この先を歩くために。
ぐいぐい
「うむ?」
「一刀」
馬騰の服を引っ張って自分を見させた一刀は、静かに墓の方を指しました。
「<<ふるふる>>」『もう許してあげて。華琳お姉ちゃんのこと』
「……小僧、お前はこいつがあの娘に何をしたのか知っておるのか?」
「…<<コクッ>>」
「…知っておるのか。それでもあ奴を庇うか」
「……」『華琳お姉ちゃんは変わったよ』
「変わったじゃと?儂は認めん!あの自分の目的のために自分以外の全てを犠牲にしたあの女が変わったなら天地が変わったも同然じゃ。それにだ、もしあ奴か変わったとし
ても、儂はあ奴を許すつもりはない!」
馬騰は華琳を指しながら言った。
「孟徳、貴様のその罪、永久の時をもってしても取り消すことはできぬ!それを忘れるでない!誰もが忘れようと儂が覚えておる。お主がやってきた残酷な真似を…!誰もが
忘れるといっても儂が、そしてそこに眠っている紗江が覚えておる。じゃから、儂はお主のことを絶対に許さん!」
「……くだらないわ」
華琳は馬騰の話に呟いた。
「なんじゃと……!」
「くだらないわ、馬騰。あなたは私が思っていたよりくだらない女だったわね」
「くだらない……お前がやったことがくだらないと言うのか!」
「もっと大切なものがあったはずよ。もっと守るべきものがあったわ。なのにあなたも、そして私も過去の亡霊に捕らわれてそれを失った。あなたにはそれが分からないとい
うの?」
「!」
もし、馬騰があの時紗江という名に動じていなければ、西涼の戦士たちが皆殺しにされることはなかったかもしれない。
逆に、華琳が紗江への過去の業に捕らわれて彼女を遠のけていなければ、紗江はあんな酷い真似をせずに済んだ。
この五丈原の残酷な結果は、つまり華琳と馬騰の過去が創り上げた悲劇と言っても間違いなかった。馬騰はそれに悟った。そして歯を噛み締めながら華琳を睨むだけだった。
ここで馬騰は自分のせいで西涼の勇者たちが死んだということに初めて悟ったのだ。紗江のことで何もかもをうまく考えこなせてなかった馬騰は、今になってようやく自分が
どんなことをしてしまったのか気付いてしまった。
「儂は……儂は…」
「馬騰、あなたと私は同じつみを背負ってるわ。少なくともこの西涼であったことは、私たちの責任よ」
「……くふっ!」
「だから、力を貸して頂戴。あなたと私が力を合わせればこの状況、改善することが出来るわ」
「………」
馬騰は沈黙した。
そんな馬騰の答えを待っている華琳の目に確信はなかった。もしかすると、馬騰はそれでも華琳の願いを断るかも知れない。それでも仕方なかった。二人の間の不和の種はそ
れほど深い根の巨木になっていたのだ。
「……!」
一刀はそんな二人を見ていて一瞬、自分たち三人以外の気配を感じた。
石碑の側で……
「!!!」<<ぐいぐい>>
「一刀?……!」
「なっ…!」
石碑の側に、紗江、司馬懿の姿があった。
「さ……紗江?」
一番驚いたのは石碑から一番遠くにいた馬騰であった。
「お主……」
「………」
薄らな姿を表した紗江は何も言わずに馬騰に向かってお辞儀をした。
「紗江……」
馬騰は一歩一歩近づいた。
やがて彼女の姿が手に届く距離まで近づいた時、
「……<スッ>」
「!」
司馬懿の手がそれ以上近づこうとする馬騰の手を止めた。
「………」
死者は何も言わず、生者が手を伸ばせば届きそうなそんな場所で、安らぎのある表情で馬騰を見つめていた。
「紗江」
その時、華琳が口を開けた。
「……<<にっこり>>」
「!」
馬騰は華琳に向かって微笑む紗江の姿に驚いた。
自分を殺した相手に、こんな笑顔が出せるというのか、この娘は……?
「西涼の地は今でも荒らされているわ。あなたじゃないとこの馬鹿を説得できるものがいないの」
「………」
紗江の霊は静かに頷いて、馬騰を見つめた。
「……お主は…それで良いのかえ?」
「……<<ゴクリ>>」
「お主を殺した女じゃ」
「……<<ふるふる>>」
頭を左右に振った紗江はその薄らな両手で馬騰の顔を触った。
感触はない。でも確かにそこに居た。幻覚でも良かった。この娘にまた会えることができただけでも、馬騰はこの世の全てを得たように感じた。
「紗江……」
「……『ありがとうございました』」
「!」
「……」
それだけ言った紗江の霊は手を馬騰から放した。
そして、
姿を消した。
「馬騰は私たちに協力すると言った。これで馬超と馬岱を説得できれば、それは蜀を説得することに繋がるでしょう」
「といっても、まだ孫呉が残っています!」
「難しい場面は戦をする時もいくらでもあるわ。でも、今は戦わずに勝利を目指す時よ」
「私たちはそこからが理解できません!」
文官で一人激しく異議を唱える者が居た。
「孟徳さまが私をどう思っていらっしゃるかは分かりません。ですが、私が、あなたの覇道を支えるために、今まで魏に尽くしているつもりです。今孟徳さまが仰っている言
葉は、その覇道を捨てるという言葉としか聞き取れません!」
「何っ!」
シャキン!
華琳に対しての無礼な言葉に即反応した春蘭は剣を持ってその文官を殺そうとした。
「やめなさい、春蘭!」
「!ですが…!」
「……彼の意見は尤もよ」
華琳はもう一度御殿の全員に向かって話した。
「皆に改めて話しましょう。良く聞いて、これからも私に付いて来るか否かを決めなさい。もし私に付いて来れないというのならそれで結構よ。止めないわ。けど、それでも
私を信じて支えてくれれば、この曹孟徳、心の底から感謝する」
春蘭に死にかけていた文官を含め、その中に居た、桂花や稟の頭の中でも同じく、嫌な予感がよぎる。
そして、その言葉は間もなく事実となる。
「私、曹孟徳は、この場から覇道を捨てることを宣する。覇業を捨て、魏の民たちが安全に暮らせる国を創りだす。そして魏に限らず、大陸の全ての人たちが幸せにするため
に、私は覇道を見捨て仁の道を選ぶ」
コンコン
「誰じゃ」
がらっ
「……」
「お主か、お茶を持ってきてくれたのか」
「……<<コクッ>>」
タッ
「お主のような子供に給仕の仕事を任せるとは孟徳も随分人使いが荒いのぉ…」
「………」
スッ
「ああ、悪かった!訂正するからお茶をくれ」
「……<<ふぅ>>」
「…お主は、本当に孟徳のことが好きのようじゃの」
「……<<コクッ>>」
「何故じゃ?何がお主に、あの娘の過去を知った上でも好かせる」
「…………」
「儂には分からんわ…紗江のことも、そしてお主も、どうしてそんなにあの娘に惹かれておったのか…」
「………」
「まぁ、何はともあれ、あの娘も昔とは変わった。それは認めよう。問題は、今からやり直して良いものかというだけじゃの…」
「…………!!」
ガチャン!
「‥!お主?」
「…<<けほ!けほっ!>>」
「おい、どうしたんじゃ?むせたのか?お茶を……」
「<<けほっ!くふっ!けふっ!>>」
ぺちゃっ。
「……お主……血を…!」
「………」
「待っておれ!直ぐに医者を……!」
ぐいっ!
「……<<ふるふる>>」
「何を言っておる!その年で血を吐くなど尋常ではおらん!早く医員に見せなければ命にかかわ……!」
「……<<ふるふる>>」
「……お主……」
魏は大きく激動した。
曹孟徳が覇業を諦めたという話は、両国にも間者によって直ぐに知らされたーいつもなら処理されるはずの間者たちが、生きてそのことを告げられたこと自体が、華琳が覇道
を捨てたということが事実だと告げているものであったー。
華琳ではなく、華琳の覇道というものに惹かれていた武将や文官たちは驚いた。
ある人はその場で魏を放れ、ある者は居残り、ある者は虚妄感を堪えられず自殺したものも出た。
暫くそう魏は混乱が渦巻いた。
けど、和平に一番強く反対していた郭嘉が華琳さまの元にのこることを宣言した後、多くの反対派の者たちも魏に残ることを決めた。
蜀と呉はまだ状況を見守り続けていた。
先ず、混乱が落ち着いた魏に攻められるほど、蜀と呉各々の力は強くなかった。
蜀は以前の長安での戦いで兵の被害は受けなかったものの、軍師である諸葛亮の精神的衝撃はまだ残っていて、魏の侵攻に慎重になっていた。
そして孫呉は、やっと南郡の反乱を沈めて国事を正道に戻しつつあった。
そんな中であってからこそ、魏はこの危険な状態をなんとか乗り越えることができた。
だけど、本当に難しい場面はここからになるだろう。
国がある程度落ち着いた後、華琳は予定通り両国に使者を出す。
蜀には西涼の元主、馬騰を始め、秋蘭と護衛の流琉。
後には、非公式でも呉の将と面識のある桂花、護衛に季衣と凪。
そして一刀は……
あとがき(ネタバレあり。それが嫌な方は次のページのアンケートに飛んでください。)
更新速度が落ちてますね。すみません。
韓国は既に3月に新学期が始まって、今はそれでもまだ時間が余る程度なのにこれですから、3月のうちに終わらせなければ本当にいつ終わせられるか分からないかもです…
今回はちょっと番外編…?みたいな形になりましたね。
馬騰との話。そして司馬懿の霊、
実のことをバラしてしまうと、あれはさっちゃんです。紗江は既に死んでますので霊が地上の残った話があってまだいるわけじゃありませんので……
敢えて一刀ちゃんとの触れ合いがないのはそのせいです。
そして、一刀ちゃんの最後の異常は……皆さん予想なさっていただろうと思います。
はい、そういう終わり方です。
それでも、物語は続きます。
さて、です。
皆さんは、一刀ちゃんがどこに行くことをお望みですか?
身体は一本だけですので、どっちにも行けるわけではありません。
凪√があったんですけどね…没にしました。色々あって…
更新が遅れることになり申し訳ありません。次回更新目標は土曜日ですが、どうなるのやら……
では、もう後少しの虚々、温かい目で見守ってくだされば、答えてみせます。
それが、この悲しき物語を創り上げた自分の、皆さんへの償いです。
1.秋蘭たちと一緒に蜀へ…(√秋蘭、諸葛亮(特別))
2.桂花たちと一緒に呉へ…(√桂花、明命(特別))
3.華琳と一緒に魏に残り…(√華琳、さっちゃん(番外))
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馬騰とのお話となっています。アンケート(すごく重要)があります。押してるキャラを選んでください。