~とある桂花のデレ日記~
〇月×日。
今日は三国会談の日。
いつものように、りりしくお美しい華琳様を補佐しながら、私もその場でいろいろな懸案に取り組んでいた。
その最中、この席の主役であり、都の主であるあいつに、私はその視線をちらりと移す。
いつもほかの女の尻ばかり追い掛け回しているあいつ。
けれど、この席ではさすがに、真面目に会議に臨んでいる。
・・・・・・・・・この場に集まり、そんなあいつの顔を見てると、私はいつもこう思う。
・・・・・・やっぱり、かっこいい、と。
もちろん、そんなこと、あいつや他の者たちの前では決して言ったりしない。
でも。
初めて会ったあの時から。
まだ、華琳様の軍師ではなく、食糧管理官でしかなかったあの時。声をかけてきたあいつを見て、一瞬で”恋”をした。
でも、生来天邪鬼な私。素直さなんて、これっぽっちも無い私。照れ隠しに思わず、思いつく限りの悪態をついていた。
それ以来、あいつの前に出ると、どうしても素直じゃない自分だけが出て来てしまう。
「こっち来るんじゃないわよ!この全身精液男!近寄ったら妊娠しちゃうでしょ!離れなさいよね!てか、今すぐ死んじゃいなさいよ!」
・・・などなど。
我ながら、良くこれだけ出てくるものだと思う。
妊娠できるものならしてみたい。彼の子供を生んでみたい。そして温かい家庭を築いてみたい。
でも、あいつを目の前にすると、口から出るのはこれでもかというぐらいの悪口ばかり。
・・・だからせめて、日記の中ぐらいは、素直でいたい。
・・・天の御遣い、北郷一刀が、心の底から好きな、荀文若で。
△月□日。
今日は大失敗をした。
華琳様の政務を手伝っている最中に、うっかり墨を、華琳様の全身にぶちまけてしまった。
・・・・・怖かった。
華琳さまの、あの笑顔が。
そして、その華琳さまから与えられた罰。
「今夜、一刀の所に行きなさい」
顔は心底嫌そうな顔をしつつ、私の心は喜びではちきれそうになっていた。
・・・べつに、そのためにわざとやったわけじゃないわよ?
で。
夜になって私は彼の部屋に行った。
久々に彼に愛してもらえると。
有頂天で彼の部屋の前に来た。そして、聞いた。見てしまった。
「一刀・・・今日はいつも以上に、激しくしてよね?」
「・・・めずらしいな、華琳がそんなことをいうなんて」
彼と華琳さまが、”こと”の真っ最中だった。
わずかに開いていた扉の隙間から、部屋の様子を伺う私。そして、華琳さまと目が合った。に、と。華琳さまは口の端を吊り上げて、笑われた。
はじめから、そのつもりだったのだと。
そして、その目が語っていた。
「逃げちゃだめよ?」
と。
華琳さまは、私が一刀に嫉妬する様を、楽しもうとしておられるのだろう。けど、私の嫉妬は一刀にではなく、華琳様に向けられているのだと。もしそのことに気づかれたら、華琳さまはどう思われるだろうか。
・・・二人の”こと”がすべて済んだ後、私はその場をすぐに離れた。
そして、自室の寝台で、一人枕を濡らした。
「・・・・・・一刀の、馬鹿」
某月某日。
今日も今日とて、あいつ用の落とし穴を作る私。
・・・・・・なんで、好きな相手にそんなことをするのか。
だって、私の作った罠にかかって、私に食って掛かって来ている間は、私があいつを独占できるのだもの。
・・・・・・怒った顔もすてきだし♪なーんて、なーんて!!
けど。
今日はちょっと失敗した。
「・・・・・・で、どうやって出ようか、桂花」
「し、知らないわよ!大体、あんたが落ちるときに、私の服をつかむのが悪いんでしょうが!」
「いや、人の服をつかんだのは、桂花のほうじゃ」
つまり。
こいつは見事罠にかかったんだけど、その時、私はその傍にいて、彼が落ちると思ったその瞬間、思わず手を伸ばして彼の服をつかんでいた。
いや、確かに自分で罠を掘っておいて何だと思うけど、つい・・・・・・ね?
でもって、経緯はともかく、今現在、私は彼と一緒に落とし穴の中。しかも、もうそろそろ夜になろうかという時刻。季節的にも、正直今の格好では、朝まで過ごすのは難しい時期。
・・・このまま見つからず、二人そろって凍死・・・・。
なんか、心中みたいで良いかも。
・・・・という冗談はさておいて。
「・・・ほんとにどうしよう?このままじゃ、二人そろって凍え死にかねないしな・・・」
いや、解決策はあるわよ?あるけど・・・言えない。・・・・でも、まだ死にたくない。彼と幸せになるまでは、死んでなんかたまるもんですか!・・・こうなったら。
「・・・脱ぎなさいよ」
「は?」
「は?じゃないわよ!あんたばか?!このままじゃ二人そろって凍え死ぬかもって、たった今あんたが言ったでしょうが!だ、だからその、は、肌で暖めあうしか・・・無いでしょうが」
も、顔から火が出そう。恥ずかしくて死にそう!
「・・・いや、でもさ。桂花はその」
「・・・・あんたの事は確かに嫌いよ!こうして傍にいるのも嫌よ!でも!ここで死んで、華琳さまにもうお仕えできなくなるより、はるかにましよ!良いから早く脱げー!」
「おわーっっ!?」
・・・で、まあ。
あの、大陸一の種馬が、真っ裸の女と一緒にいて、何もして来ないわけが無く。・・・まあ、うれしい誤算だったということで♪
「・・・ふう。今日はこのぐらいかしらね」
ぱたん、と。
日記帳を閉じ、鍵をかけ、さらに鍵のついた机の、さらに隠し棚にしまい込む。
「・・・・もし、これを見られでもしたら、自殺ものよね。・・・一刀に見られたら絶対に」
日記をしまった私は、自嘲気味に笑いながら、机を離れて部屋から外に出る。すると、一刀と桃香、蓮華、華琳さまが、仲良く歩いているのを、遠目に捉えた。
「・・・・・・・(うらやましい・・・・・・)」
素直になれない自分。
天邪鬼な自分。
それが本当に恨めしい。
他の者たちみたいに、素直になれたらどんなに楽か。
でもできない。
そうなった瞬間に、何かを失ってしまいそうで。
「・・・・・・・・いつか、あんな風に、一刀と笑いあえたら良いな・・・・・・・。子供でも、抱きながら・・・・なんて///」
そんな日が来ることを、心の中で願いつつ、私は一目散に駆け出す。
「こらー!そこの万年発情期の種馬ー!華琳様から離れなさーい!!」
いつもどおりの悪態をつきながら。
そんな私にすら、その笑顔を向けてくれる、その人に。
―――私がこの世で、ただ一人愛する男(ひと)。
北郷一刀の下に。
精一杯の愛を込めて。
天邪鬼な、この言葉を向けつつ。
「……触るな!近寄るな!話しかけるな!それだけで妊娠しちゃうでしょうが!この歩く孕ませ機!あんたなんか、だいっ嫌いなんだからねーーー!!」
おわり。
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ちょっとした妄想が出たので書いてみた。
普段、一刀に対してツンデレ比率10:0の桂花。
ところがその日記には・・・・・・・。
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