No.204204

笑顔のある場所-時空を超える者・外伝-

こしろ毬さん

『時空を超える者』外伝その2です。
佑の活動場所がヤマトの医務室だということで浮かんだお話。佐渡センセにお酒をすすめられてしまった17歳の佑は…。

2011-02-28 14:47:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:597   閲覧ユーザー数:592

「お、佑介。ちとこっち来い♪」

「……? なんですか? 佐渡先生」

 

佑介がヤマトに現れてから、早1週間がたった。

初めは緊張していた佑介だが、戦闘班長の古代進や医師の佐渡酒造のフォローもあってか、だいぶなじんできた感がある。

どこにも所属しない代わりに、お世話になっているから…と佑介は普段の活動を医務室メインにした。

そこでできる範囲の業務の手伝いをし、生活班長で看護師でもある森雪からは「男手があると助かるわ」と喜ばれていた。

助手も兼ねるロボット・アナライザーとも妙に意気投合していた。

「佑介サン、ココハ私ガヤリマスカラ」

「悪い;; アナライザー」

「マカセテ下サイ」

アナライザーも佑介のことが気に入ったのか(笑)、音符が聞こえそうな声色で答えた。

 

 

酒造に呼ばれて、隣の椅子に座った佑介に。

「すっかり、慣れてきたようじゃの」

にかっと笑って酒造が言った。

「はい、お蔭様で。古代さんや皆さんもよくしてくれますし…」

佑介も微笑み返す。

今の佑介は表向きは工作班所属ということになっていて、白地に青のラインのヤマトの軍服を着ている。

「確かにのう。あの古代がここまで誰かをフォローするということは滅多にないんじゃが」

「え?」

「なんせ、新入乗組員たちにも『鬼の古代』と恐れられているくらい厳しいヤツじゃからの」

酒造の言うことに、佑介は思わず目をぱちくりとさせてしまった。

「そうなんですか? 俺にはそういう感じがしませんでしたけど……」

「それは佑介だからじゃろう」

「ソウソウ。古代サンハ佑介サンヲスゴク可愛ガッテマスカラ」

佑介に変わって作業をしていたアナライザーが横から言ってきた。

「それはないだろ~(^^;)。確かに優しいけど;;」

佑介はすぐさま否定するが、酒造にしてみれば「さもありなん」と思う。

 

ヤマトの正式なクルーではない…いわば『客人』ということもあるだろうが、進はなぜか初めて会ったときから佑介のことを気にかけていた。

おそらく、半分はヤマトの艦長代理―――艦長である兄・守が負傷で伏せっているためにそういうことになっているが、その立場としての責任感もあったのかもしれない。

だが、佑介と接しているうちに佑介自身の素直で真っ直ぐな性格に触れるごとに、本当に佑介のことが「弟」のようにも思えて、部屋も自分と同室にするよう手配したくらいである。

なによりも、一番の進の変化が……。

(この頃、よく笑顔を見せるようになったと言うか。雰囲気が柔らかくなったしの)

進の姿を思い出したか、ふっと笑う酒造だ。

 

「ま、そんなことより。ほれ」

酒造は佑介にコップを差し出した。

「?」

なんの疑いもなく受け取りつつも、佑介がなんだろうと思っていると…。

「!;;」

それに注がれていたものは。

「さ、佐渡先生っ。俺、17で未成年ですよ!;;」

「なぁ~に、構わん構わん。飲んだってわからんて」

酒造は佑介のコップに、一升瓶で酒を注いでいたのだ。

「そーゆー問題じゃ;;」

「佐渡先生。ソウイウノハヨクナイデス」

一応止めるアナライザーだが。

「なあに言っとるか。ほれ、アナライザーも作業やめて一杯飲め」

「デハ、イタダキマス」

「……アナライザー;;」

一旦は酒造を嗜めたものの、結局は一緒に酒盛りを始めてしまったアナライザーに、佑介は呆れ顔だ。

「佑介もぐいっといかんかい、ぐいっと」

「いや、だから;;」

未成年で飲めないんですってば、と佑介が言いかけたところに、進と雪が医務室に入ってきた。

「…お、佑介。一緒に昼飯に…」

佑介の姿を認めて、笑顔になる進だったが。

「…って。なにやってんですか、佐渡先生!;;」

佑介のコップと酒造の一升瓶で状況を察して慌てる。

「古代さ~ん;; なんとか言って下さいよ(--;)」

助けを求めるような眼差しで進を見る佑介だ。

酒造の前だからか、自然と口調も丁寧になる。

 

「なにって、酒盛りに決まっとるじゃろ」

酒造は当然とばかりに言う。

「そういうことじゃなくって! なんで佑介に飲ませるんですか;;」

「佑介くんは未成年なんですよ!」

進と雪の抗議もなんのその。

「わしが言うんだから、いいんじゃい」

きっぱりと言い切る佐渡センセ(笑)。

「んな無茶な……;;」

進は半眼で酒造を見てしまう。

「…なんじゃ古代。おまえも初航海の時に沖田艦長と飲んだじゃろが」

「!;;」

「へ?」

酒造に言い返された進を、佑介はまじまじと見た。

 

初めてヤマトに乗った、イスカンダルへの航海。

太陽系を離れる際、これ以降は地球とは通信できなくなるため、ひとり5分だけの家族との通信を許可した初代艦長・沖田。

だが進は両親を失い、兄・守も亡くなったものと思っていたため、通信はただ心を虚しくするだけだった。

身の置き場もなくさまよって辿り着いたのは、同じ境遇にいた沖田の許。ふたりはその寂しさを紛らわせつつ、酒を飲み交わしたのだ。

 

「あ、あれは……。というより、なんで先生がそのこと知っているんですか;;」

焦りを隠しつつ、進が尋ねると。

「わしが知らんことはないんじゃよ♪」

と、からからと笑いながら答える酒造。

「………(^^;)」

 

―――佐渡先生って……侮れない;;

 

ふと心の中で呟いてしまった進と雪である。

 

「初航海って、その時古代さんは……」

「18だよ(^^;)。雪も同い年だ」

進が苦笑しながら、佑介に言うと。

「そういうことじゃ。だから佑介も飲んでもいいんじゃよ♪」

「佐渡先生、またそんな無茶苦茶なことを……(--;)」

ここぞとばかりに佑介に酒を飲ませようとする酒造に、進は呆れるしかない。

 

「とにかく」

佑介の手からひょいっとコップを取り上げて。

「佑介くんにお酒を飲ませようなんて許しませんからね」

雪が軽~く酒造を睨んで言った。

「そう堅いこと言うな、雪~」

「だ・め・で・す! ……さ、行きましょ佑介くん。佐渡先生の相手ばかりしてたら老け込んじゃうわ(笑)」

「ふ、老け込むって(^^;)」

雪や佑介たちのやりとりに、進はあらぬほうを向いて吹き出してしまった。

「こ~りゃ、雪! 老け込むとはなんじゃ、老け込むとは。わしゃまだまだ若いモンには負けんぞい!」

「はいはい、わかりました(笑)」

雪は悪戯な笑顔でくすくすと笑っている。進も笑いをこらえているような表情だ。

その表情のまま、ふたりは佑介を促しつつ医務室を出て行った。

 

「……まあーったく、あいつらは…」

酒造は憮然とした表情になるが。

「デモ、佑介サンガイル場所ハ、本当ニ笑イガ絶エナイデスネ」

アナライザーがそう言うと。

「そうじゃな。……ある意味、わしらは佑介に“癒されて”いるのかもしれんの」

酒造の顔にも笑みが浮かぶ。

戦闘などの非常時は別として、普段佑介がいるところはクルーたちの笑顔をよく見かける。

おそらく佑介がとても素直な少年で、どこかほっとさせられる雰囲気のせいもあるのかもしれない。

それが戦闘で傷ついたクルーたちには、言いようのない安らぎを感じるのだろう。

 

「本当は、このままここにいて欲しいと思ってしまうんじゃが……。そうはいかんじゃろうな」

そう言った酒造の笑みは、今度はどこか寂しげだった。

 

 


 
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