佑介がヤマトに現れてから数日。
いつまでも着たきり雀なのはいくらなんでもと、佑介にお古ではあるがヤマトクルーの隊員服を着用させることにした。
そもそも、ここは宇宙空間だ。
ヤマト艦内は気密も保たれていて安全だが、いつ何時戦闘が始まるのかわからない。安全面から考えても、隊員服着用は理にかなっていた。
このことを、進が提案すると。
「佑介サンハ、ドコノ所属ニナルノデショウ?」
佑介とすっかり仲良くなっているアナライザーが尋ねた。
「どこにって、佑介はいわばこのヤマトの『客人』なんだから、特にそういうことは考えてないな」
「ソウイウワケニハイキマセン。規律ハ大事デス」
「……それをおまえが言うのか;;」
思わず半眼でアナライザーを見る進だ。
アナライザーの雪に対する行状を思い起こせば、なにが規律だと言いたくなる。
が、気を取り直して。
「とにかく、佑介にどのやつを着せるかだ」
「あの、俺はどんなのでもいいですから」
それは本音だ。
いきなりこの世界にやってきた自分をあたたかく受け入れてくれたことだけでも、佑介には充分だったから。
「俺らと一緒はどうかな」
とは通信班長の相原義一。通信班は黄色に黒のラインだ。
「いやいや、緑も捨てがたいぞ」
横から航海長の島大介が口をはさむ。島のは白地に緑のラインが入っている。
「古代くんと同室なんだし、戦闘班の『赤』でいいんじゃないかしら」
くすくすと笑いながら生活班長の森雪も会話に加わる。
「だって、医務室にいつもいるけど看護服は着たくないでしょ?」
悪戯な笑顔を浮かべる雪。
「そ、それは;;」
いくらなんでも勘弁して欲しい。
「いや、佑介のオーラの色からいったら、これだ」
と、真田がどこにしまっていたのか、工作班の青のラインがはいった隊員服を差し出した。
「へ?」
工作班技師長の真田志郎の口から意外な言葉を聞いて、佑介はまじまじと真田を見つめてしまう。
「なんとなくだけどな」
見つめられた真田はさらりと一言。
「別にオーラの色じゃなくても;;」
苦笑を浮かべながら、進が言う。
「いや、これが似合う。これを着とけ」
有無を言わせぬなにかを真田は漂わせている。
一同は静かに頷くしかなく。
佑介が生きる時代より200年たった今では、様々なことが科学で解明できるようになっているようだ。
真田の言う『オーラ』もそのひとつなのだろう。
おそらく、佑介が現れて様々な検査をしているうちに彼自身が持つ“気”―――オーラが見えたのかもしれない。
その色は一言に「あお」と言っても、普通の「青」ではない。
まるで、海を思わせるような「蒼」なのだ。
「……そうだ佑介」
佑介に隊員服を渡しつつ、何か思い出したかのように真田が声をかけた。
「なんでしょう?」
「『土御門』という珍しい苗字は、古の陰陽師安倍晴明となにか関わりがあるのか? 安倍家は後々土御門と称しているだろう」
佑介は目を見開いた。まさか200年もの未来で晴明の名を耳にするとは思わなかったからだ。
驚きを禁じえない。
「よく……知ってますね」
「真田さんはとにかく、なんにでも興味があるみたいで色々調べたりしてるんだよ。神話とかにも詳しいしね」
進が佑介に笑いかけながら話す。
「そうなんですか…」
佑介は少し考えるような素振りをしたが。
「…えっと…真田さんの言うとおり、俺の家も確かに安倍晴明公とは関係してます」
「お、やっぱり」
真田は更に笑みを深くしたが。
「というか、俺の家の先祖にあたるんです、晴明公は(笑)」
「ええっ!」
少し苦笑気味に答えた佑介。進たちは目を見張るしかなかった。
「ということは、佑介くんはその…安倍晴明という人の子孫なのね?」
「そうなりますね(^^;)」
雪の問いかけに答える。
「へえ~っ、歴史に名を残すような人物に縁がある人が身近にいたと知ったら、なんだかすごいな」
太田が感心したように言う。
「でも、俺にとってはご先祖のひとりに過ぎませんよ」
困ったような表情になる佑介だ。
実際には、先祖という感覚もないというのが正直なところだ。
なぜなら、晴明は神霊となって自分を護ってくれているから。普通の人間と同じように、当たり前のように傍にいてくれているから。
…とはいえ、200年もの未来に飛ばされた今は、さすがに晴明の気配は感じないが…。
すると、更に真田が。
「それじゃ、佑介も晴明みたいになにか『力』があったりするのか?」
「あ…」
佑介の顔に現れた僅かな戸惑いの色を、進は見逃さなかった。
「えーと、それは…」
「…それよりも佑介。早く部屋に戻って着替えて来い」
佑介の言葉を遮るようにして、進が言う。
「え?」
「佑介の隊員服姿、早く見たいんだからさ」
目をぱちくりさせる佑介に、進は悪戯っぽい笑顔で片目をつぶった。
「そうね、私も見たいわ」
雪もにっこりと笑う。
「…うん」
僅かに微笑んで、進と雪にだけ聞こえる声で頷く。
初めて会った時から、進と雪はなぜか「自分たちには敬語じゃなくてもいい」と言ってくれているのだ。
それは医師の佐渡酒造とアナライザーが知ることでもある。
ただし、皆がいる前では敬語ではあるが。
そうして、佑介は第一艦橋を出て行った。
「おいこら古代。いいところだったのに」
「また次の機会に聞けばいいじゃないですか。佑介はここからはいなくなりませんから。…今は」
真田が抗議すると、進はにこりと微笑む。
そして、佑介が出て行った方角を見た。
「………」
進は、佑介が普通の人とは違うということは漠然と感じていた。
一緒の部屋にいるために、たまに佑介がさりげなく進の失せ物の場所を当てたり、
「古代さん、今日は演習とかないよね?」
と、佑介は知らないはずのその日の予定をぽろっと言ったりするのだ。
そして、先ほどの表情。
自分の先祖と同じ『力』を持っているかという問いに、戸惑っていた。
言おうか、言うまいかという…。
それで進は、少し確信を持った。だからわざと声をかけたのだ。
しばらくして、隊員服に着替えた佑介が戻ってきた。
「お~っ、似合うじゃないか!」
島が目を見開く。
「真田さんじゃないけど『青』で正解だったな(笑)」
南部も笑顔で言う。
「うんうん。なんというか、しっくりきてるよ」
しきりに頷いている相原だ。
「だーから言ったろ。佑介には『青』が似合うって」
すっかり得意顔の真田に、周りの者たちは苦笑いを浮かべるしかない。
「……ほんとによく似合ってるぞ、佑介」
自分の傍に来た佑介を、進は目を細めて見る。
「ありがと(^^;)」
佑介は照れくさそうに小声で言った。
「佑介くんって、かっこいいから何を着ても見映えするのよね」
雪はにこにことして言うのだが。
「…雪さん…。そんなこと言うと、古代さんヤキモチ焼いちゃいますよ?」
進と雪が婚約している仲だと知っている佑介は、にっと悪戯っ子の表情になった。
「!」
雪の顔に朱が走った。
「佑介、こら!」
進が捕まえようとするのを、佑介は跳ねるように逃げる。
「こらっ、待て!」
「やーだよ~だ♪」
ふたりはしばし、第一艦橋中を走り回っていたが。
「…こ~いつ~、生意気言いやがって」
「ぐえっ、古代さん、ブレイクブレイクっ」
進は佑介の首に腕を回し締め上げている。もちろん軽く。
それにふたりとも笑顔だ。
要するにじゃれ合っているわけで。
そんなふたりの姿に、第一艦橋に一斉に笑い声が響いた。
「…ま、改めてこれからもよろしくな」
「こっちこそ」
じゃれ合う格好のまま、進と佑介は笑いあうのだった。
了
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『時空を超える者』外伝その1。
ヤマトに現れた佑の隊員服を古代くんたちが決めようとするのですが…(笑)。どうなりますやら。