No.203955

虚々・恋姫無双 虚拾陸之奥

TAPEtさん

葛藤、何それ美味しいの?
二人が互いの考えを分かる場面が作りたかったです。
最後の華琳様の姿からちょっと母のようなアレを感じました。

2011-02-26 22:45:21 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2692   閲覧ユーザー数:2238

『華琳さま、少女が華琳さまと出会ってもう何年が経ちました。

 

華琳さまから受けた恩は、ここに書けば書ききれないほどありますが、少女、司馬懿は、不忠にもこれより華琳さまの元から離れようと思います

 

少女は華琳さまのご期待に添えるほどの凄い武を持っても、良い智謀を持ってもございません

 

その証拠としてここ最近魏で起きた数々の事件ら、少女の浅はかな考えによって軍師殿たちとの間不和を起こしたこと、

 

そして何よりも孫呉との戦いにつき、結果を予想していながらもそれを強く止めることが出来なかった少女の罪は死に値します

 

故にこの司馬懿仲達、最後の最後、華琳さまのご役に立てるためここに命を賭けて敵に立ち向かおうと思います』

 

それ以上、私はその書簡を読むことができなった。

 

「最後まで……私を責める言葉は一言も…」

 

優しい娘だった。

それに比べて、私の感情はあまりにも汚らわしかった。

まるで私がいつも軽蔑している男どものそれのように、私は紗江に接した。

そして、これがその結果。

 

紗江は死んだ。自ら命を落とした。

けど、紗江はそれが私のせいじゃないという。

じゃあ、何?

どうしてあなたは死んでしまったの?私には分からないわ。

私のせいじゃなければどうして私から放れていくのよ?

 

「どうして皆…私から遠のいていくのよ……」

 

 

――ボクもその何十万人の中に入るの?

 

「そんなわけないでしょ?」

 

いつもならその場でそう言い返していた。

でも、その言葉を口にしたのが一刀ちゃんだった。

いつも純粋で、子供だと思っていたあの子だった。

そして、それを言うあの子の涙を含んだ瞳が…子供のソレじゃなかった。

 

一刀にはずっと子供に居て欲しかった。

現実の暗さを知らせないまま居たかった。

だけど、そんな思いと私の理想はとても矛盾していて…いつかはこうなるだろうと分かっていた。

 

そう、こんな日が来るだろうと思っていた。

でも、さっとその瞬間が訪れてみたら、私が感じた痛みは、苦しさは思っていたのよりも遙かに大きかった。

胸が痛くて痛くてしょうがない。仕事も手に負えなかった。

城に帰ってくる間にはろくに食べることもできなかった。

 

―あの子がもしそこで死んでしまったら?

―私のせいで ―私が殺したんだ。

―紗江も一刀も ―桂花も行ってしまったわ

―あの子まで居なくなったら私はどうすればいいの

 

何のための天下で、なんのための覇道だったか。

思い出せない。

私はどうして天を目指していたのだろう。

こんなに苦しくなってまで私が欲しかったものは……今どこにあるの?

 

「……一刀……紗江……」

 

部屋の中で、誰にも聞こえないように(聞こえたっていいい)泣いた。

良いでしょう。一人で居る時ぐらい…泣かせて………

 

・・・

 

・・

 

 

「華琳さま……」

「…な、秋蘭。我々はこうして外で見てるだけで良いのか。中に入ってなんとも……」

「そうは言うが姉者、入ってどうやって華琳さまを慰めるつもりだ?」

「それは……こう……頼りのないのは良く頼ってはいけませんとか……」

「……それは便りのないのは良い便りだ」

「おお、それだ、それ」

「…しかし、もし本当に北郷や桂花たちが帰って来るとしても帰ってきたからが問題なのだ。華琳さまが一体どうなさるだろうか、今の私には思いつかない」

「…秋蘭、お前は、大丈夫なのか?」

「………最初の何日は泣いていたが…いつまでもそうしているわけにもいかない。流琉だって北郷と季衣が同時に居なくなって気が気でないんだから、私がいてあげなければならない。

「うぅむ……」

「姉者は、季衣のことが心配にならないのか?」

「そんなはず…!……ないだろ。ただ、アイツならきっと大丈夫だと、信じてるのだ。うん、季衣にそして桂花も一緒に居るのだ。なんとしても、北郷を連れて帰って来る」

「…そうだな……今出来ることは、ただ信じて待っていることだけだな」

 

 

 

そんな華琳さまの絶望や夏侯姉妹の心配には関係なく、魏に残った軍師たちが今後のことのために頭を悩ませていました。

 

「これが仲達……紗江が書いた最後の献策、西涼の復興策ですか?」

「まぁ、まだ行ってみてはないんですけど、騎馬民族であり、男たちは生まれてから事戦士に育たれる西涼のほぼ全軍の壊滅させたのですからね。西涼の治安は絶望的でしょうね……」

 

稟と風ちゃんの目はテーブルの上のまだ封印を外してない、紗江が書いた策が書いてある竹簡。

 

「これを開けてみれば楽になれるのですが……」

 

これは、最後のチャンスだ。

紗江を越える最後のチャンス…二人は同じくそう思っていました。

紗江と仕事を共にした短い時間の間紗江の仕事っぷりや考えの広さを見て、この二人は自分の軍師としてのプライドに深い傷をついてしまったのでした。

もし自分たちが考え出す策がこの書簡の中のものを越えられるのならば……。

 

ちゃらっ

 

「「!!」」

「……人口移動、孫呉との戦いのために備蓄していた兵糧を解いて治安の安定を図る。戦場での被害に比して地や城の被害は大きくない為多くの人力は必要とせず、ただ張三姉妹を西涼に向かわせ民たちの不満を鎮める必要あり」

「桂花!?」

 

そこには二人が見ることを戸惑っていた、嫌、見ないようとしていたその書簡を何の迷いもなく解いて内容を見ている、孫呉との戦いで無断に戦線を離脱して行方不明になった桂花さんの姿が居ました。

 

「あなたいつ戻ってきて…」

「ついさっきよ。一刀と季衣も戻ってきてるわ。これは今直ぐ動かないと間に合わないわね……風、残った兵糧の中で二万石を西涼に輸送させて。護衛には季衣と春蘭に行かせて」

「………ぐぅー」

「寝てないで!」

「おおっ!あまりの驚きに現実から目を背いてしまいました」

「まったくしっかりしなさいよ、二人とも」

「あなたのせいで呆気なくしているのです!」

 

やっとツッコむ余裕ができた稟さんが言い出しました。

 

「何ですか。いきなり来るとも言わずに来て、華琳さまには報告したのですか?」

「してたらあんたたちがこんなところで馬鹿げていたわけがないじゃない」

「なっ!」

「あんたたちの考えなんて丸見えよ。どうせこの書簡見ないで死んだ紗江と誰が上か結局つけようとしたんでしょ?」

「っ…!」

 

図星だった稟さんは黙り込みます。

風ちゃんもそっぽ向いて飴だけ舐めてます。

 

「あんたたちね。今がどれだけ大事が時期なのか分かってるの?些細な嫉妬で時間を過ごしていたら、いつ呉と蜀から反撃をしかけて来られるか分からないのよ。策があったらさっさと使う。そこで問題点や改善点があった加えたり変える。一からやり直したらどんだけかかるか分かったもんじゃないわよ」

「あなたは悔しくないのですか!紗江殿のこと…あの人はあれほどの智謀を持ちながら下級官吏で生涯を終わらせたのですよ」

「だから何?あんたは自分より上にいる人間がこの世にいたらいけないとでも思ってる?良かったじゃない。その娘もう死んでるわ」

「なっ…あなたは……!」

「くだらないこと言ってんじゃないわよ!」

「!」

 

稟さんからキレる暇も与えず、寧ろ散々言った桂花さんの方がキレてしまいました。

 

「あんたらは華琳さまの軍師よ。些細な感情で華琳さまを困らせるつもりなら今直ぐここから出ていきなさい!人の策を嫉妬して使わないようにするとかどこのあほんだらよ」

「………!」

 

稟さんは悔しそうに拳を握りながらも、桂花さんの言葉に間違ったことがないことを知っているため何も言えずにただ桂花さんを睨んでいました。

 

「生きた者は永遠に死んだ者に勝てないわ。儚い幽霊との勝負が望みなら彼女の墓にでも行ってちちくりあっていなさい。ここは私一人だけでも十分だから」

 

桂花さんは最後にそう言って稟さんを通りすぎて竹簡に書いてあることを細目に読んでいく作業に入りました。

 

「………っ」

 

稟さんはしばらくその場に悔しそうに立っているかと思ったら、執務室の外に出ていってしまいました。

鬱憤を耐え切れず出て行ってしまったのか、それとも他の人たちに桂花の帰還を知らせにいったのかはわかりませんけど。

 

「…風、あんたは行かないの」

「風は別に……桂花さんの言ったことが最もだとは思っていますからね…だけど…」

「だけど?」

「やはり、少し悔しいですね」

「馬鹿ね。死んだ奴妬んでいたって…」

「いやいや、紗江じゃなくて、あんたにだよ、ネコミミ軍師さん」

「は?」

「ほれ、宝譿、そうばらしてしまうのではありません……」

「……」

「やっぱり、桂花さんの華琳さまへの想いには勝てそうにありません」

「……そうでもないわ………」

 

桂花さんはそう言ってボクの方を見つめました。

 

あ、ボクなら今はちゃんと姿隠していますので問題ありません。

ボクの方見つめたっていうのは、ただ扉の方、稟さんが出て行った場所を見ていただけです。

そこには、今華琳さまが居る御殿があります。

 

 

 

 

さて、季衣ちゃんのことですが……

 

ドガーーーン!!

 

「季衣の馬鹿ーー!」

「何をー!」

 

ドガーン

 

流琉ちゃんと喧嘩してます。

庭が偉いことになってます。

 

「私がどれだけ心配したか分かってるの?あんな風に行っちゃって孫呉の兵にも捕らわれてたらどうするつもりだったのよ!」

 

ドガーン!

 

「そんなの知らないよ!流琉だってボクが行かなかったら自分が行こうとしたくせに!」

 

ドガーン

 

「知らない!季衣のバカー!」

「流琉の大馬鹿ー!」

 

子供喧嘩ですね。

ほっといたらいつかは終わると思いますし、ここは一旦他のところに行きましょうか。

 

ドン!

 

…うん?

 

「ほんとに……私がどれだけ心配したと思って……」

 

怒りと悲しみが安堵感に変わってしまったのか、流琉ちゃんはふるっていたヨーヨーをドーンとおとしてそこに居座って泣き出してしまいました。

 

「…ごめん……」

 

それを見た季衣ちゃんも本当に申し訳なさそうな顔に変わって流琉ちゃんに近づきました。

 

「ごめん、勝手に行っちゃって…でもボク、一刀ちゃんのこと心配だったから、流琉もボクが行かなかったら自分が桂花お姉ちゃんに付いて行ってたでしょう?」

「……うん、でも、季衣が行っちゃったのに私まで行っちゃうといけないから…」

「うん、だから、ボクの方が少しだけ早かっただけだよ」

 

この二人は良く似ています。

考えること、好きなこと。

に反してある部分は正反対で、まるで元は一つだったようにくっついちゃうところもあります。

もし、流琉ちゃんが桂花さんと一刀ちゃんを探しに向かったなら、季衣ちゃんの方が華琳さまの側に残っていたでしょう。

 

結局同じだった。

怒ることも、悲しむこともなかったのです。

もちろん、だからって心配をしないってわけではありませんけど……

 

タッタッタッ

 

「季衣!」

「あ、春蘭さまー!」

「季衣ー!!」

 

どこから話を聞いてきたのか、春蘭さんが勇ましい勢いで走ってきています。

季衣もそれに合わせて春蘭さんに向かって疾走します。

 

「季衣いいいいぃぃぃぃーーー!!」

「うわぁ、え、ちょっ、春蘭さま、何かべとべとします!顔がぬるぬるします!」

「大丈夫か?怪我はないのか?桂花のやつがお前を囮にして自分だけ逃げたりしてなかっただろうな」

「してません、してません。大丈夫ですよ」

 

春蘭さんの顔は涙と鼻水で女として終わっている顔になっていました。そっとしてあげましょう。

 

「まぁ、姉者。もう放してくれたらどうだ?」

「あ、うん、そうだな……」

 

後に付いてきた秋蘭さんが行ってあげたら、やっと春蘭さんは季衣ちゃんを 放してくれました。

 

「あぁ…顔がべどべどするよぉ…」

「はい、季衣こっち向いて」

「ほら、姉者も」

「おぉ……」

 

流琉ちゃんと秋蘭さんが各々きいちゃんと春蘭さんの顔を布で拭いてあげました。

 

「そう、季衣。北郷はどこにいるのだ?桂花のところに行ってみたのだが、言ってくれなくてな」

「…ボクもよく分かりません。ただ…」

「ただ…?」

「華琳さまに会いに行くと言っていました」

「……」

 

 

 

 

場所は戻ってきて桂花さんと風ちゃんが居る執務室です。

 

「孫呉は私たちを追い払うことには成功したけど、孫策が死んだことが知られた直後、呉の南郡から反乱が起きたわ。孫呉はその反乱を鎮めることに今全力を出しているはずよ。だから、私たちもその間戦列を立てなおして、西涼の復興と河北四州の完全制圧を図らなければならない」

「手を打つべきところが多いですね。時間が少ないのにすべきことは多い」

「仕方がないわ。それほど今回の戦は無理をしたものだったし、そして私たちは負けた。早く開き直らないと蜀からも動き出すかもしれないわ」

 

がらっ!

 

「はぁ……はぁ……」

「!華琳さま!」

「おぉ…来られましたか」

 

突然、執務室に華琳さまが訪れました。

 

「…はぁ……桂花……」

「はっ」

「あの子は…今どこ?」

 

荒い息を整えながら、華琳さまはそう聞きました。

 

「季衣のことでしたら、流琉のところに行ったかと」

「とぼけるのも大概になさい!」

 

シャキン!

 

その次の瞬間、華琳さまの「絶」が桂花さんの首を狙っていました。

 

「だから、どこにいるのよ!部屋にもいない。私のところにも来なかったわ。一緒に居たあなたたちなら知ってるでしょ?」

「……」

「あの子は…一刀はどこに行ったの?」

「……」

 

桂花さんは髪一本も動かないまま、華琳さまを見つめながら言いました。

 

「華琳さま、一刀は、華琳さまに会いに行きました。そうとしていってませんし、私もあの子がどこにいるかは分かりません」

「……っ」

「華琳さまなら、華琳さまなら探しに来ると言っていました」

「私なら……ですって」

「はい、ですから…どうかあの子の期待に応じてください」

「一体……どこに……」

 

絶を下ろした華琳さまは焦っていました。

頭がうまく回らないのか頭を抱いて唸ってます。

 

「む?」

 

ふと、風ちゃんが眉を潜めました。

 

「飴がいつもより甘いですね…今日は雨が降りそうです」

 

確かに、今外には灰色の雲が空を覆っていました。

 

「外………!」

 

華琳さまは何かひらめいたのか、外に走って行きました。

 

「あんた、知って言ったの?」

「いえいえ、華琳さまが知らないのに風が知ってるはずがないですよ。ただ…」

「ただ?」

「城の中にいたらそんな紛らわしい言い方はしなかったはずですし、街にいたらもう真桜たちから報告が来ているはずですから…」

「…なるほどね……」

 

風ちゃん、流石ですね。

風ちゃんの言う通り、今一刀ちゃんは城の外に居ます。

そこまで来ると華琳さまもいくつか心当てがあるでしょう。

さて、私はそろそろ一刀ちゃんが居る場所に向かおうかと思います。

 

「さあ、さっさと仕事続けるわよ。稟は何で来ないのよ。忙しいというのにいつまで……」

 

 

 

ぼとっ

 

「っ!」

 

雨の粒が目の中に入って目を閉じた。

雨が降ってくる。早く行かないと……

一刀が今外に居るのなら…

あの子は私が来るまでこの雨の中に立っていようとするに違いなかった。

あの子は十分そんなことをすることができた。

 

私のためだときたら、自分はどれだけ犠牲になっても構わないと思っている子だった。

我侭で、子供の理屈だったけど、それでも全部私のためであった。

だから怖い。

いつか、一刀も紗江のように成ってしまうかも知れない。

私のせいであの子が壊れてしまうかもしれない。

 

紗江の裏にあった紗江、あの子はいつも一刀の側に居ると言った。

あの子はいつも脳に一刀ちゃんのことしかないようにしていた。

あの紗江は一刀ちゃんを幸せにさせたいと言っていた。私だってそう思った。あの子が幸せになればいいと思った。

それも私の手で、あの子を幸せにできると思っていた。

 

でも、もしかしたら、あの子の幸せに一番邪魔なのは私なのではないのだろうか。

 

ー―覇道と一刀、あなたはそのどっちで選ばなければなりません

 

私はその話に両方を選んだ。

どっちも諦められなかった。

そして、その結果、私は戦にも負け、一刀も失うはめになった。

 

本当に無理なのだろうか。

私が覇道を歩み続ける限り、あの子の幸せを守ることはできないのだろうか。

あの子と一緒に居る限り、私は覇道を成すことができないのだろうか。

 

「一刀……」

 

いや、そんなことは今どうでもよかった。

雨が激しくなり始めていた。

一刀が私を待っている。

 

 

 

 

雨、降ってますね…

 

「……<<コクッ>>」

 

…傘使いますか?

 

「……」【このままでいい】

 

結構ですが、一刀ちゃんは何日も気絶していて、まだ気力が戻ってない状態です。身体を冷やしてしまったら酷い風邪を引きます。

 

「……」【大丈夫、直ぐに来るから】

 

………

 

一刀ちゃんは今、人生一大の賭けをしています。

一刀ちゃんは、華琳さまの側に居たいと決めました。

そこで、華琳さまのために自分がすべきことを決めました。

 

でも、華琳さまはどうなのでしょうか。

もし華琳さまがもう自分のことを必要としてくれないのだったら、一刀ちゃんももうここに居ることができないのです。

だから、賭けをしました。

もし、華琳さまがここに自分を探しに来てくれたら、自分のことを探してくれたら、自分の勝ち。

 

「………」【もし】

 

はい

 

【もし、華琳お姉ちゃんが探しに来てくれなかったら、どうしようかな】

 

考えてなかったのですか……

 

【今更呉に戻るのもアレだし……結以お姉ちゃんのところに行ったら…迷惑だし、劉備お姉ちゃんたちのところに行ったらボクのこと覚えているかな】

 

多分、覚えてると思いますけど…劉備さんとだと結構気も合いそうですし。

 

【さっちゃんが?】

 

いいえ、一刀ちゃんがですよ。

 

【……ボクは一応華琳お姉ちゃんが好きなんだけど】

 

その損する性格が劉備さんと合います。

 

【そんなことないよ。損なんて…】

 

損しますよ。だって今もこうして風邪を引く危険を抱きながら待ってるですし。

 

【華琳お姉ちゃんはきっとボクのせいでこれよりもたくさん損してるよ】

 

………

 

まぁ、一刀ちゃんがそう思ってるのであれば…ボクに止める資格はありませんから。

 

 

 

あ、来ましたね。

あそこから、雨を切り抜けて馬一頭が走ってきています。

 

【華琳お姉ちゃん?】

 

それともこの雨の中を走りながら頭を冷やしたい大馬鹿さんですね。……うん?それ華琳さまですね。うん、華琳さまですよ。

 

【…後で華琳お姉ちゃんに言いつける】

 

できたらですけどね。

 

 

 

ひぃーーーん!!

 

ザアアァーー

 

「……一刀」

 

急いで馬を走らてたのか、雨が冷えた空気の中に息をだしながら、馬の上で華琳さまは一刀ちゃんを見下ろしていました。

 

ここは、華琳さまと一刀ちゃんが初めて会った場所です。

あの時、一刀ちゃんは泣きかけていました。

そんな一刀ちゃんを見かけて、華琳さまは男の子が泣くんじゃないよって言いながら一刀ちゃんが泣くのを辞めさせましたね。

 

でも、今日は雨が降っています。

誰が泣いてもそれが泣いてるのか雨なのか分からないほど、凄い雨です。

 

「………」

 

一刀ちゃんはただそこでぽつんと立っています。

何か言いたくても、雨の中だと墨で文字をかけないのでただ黙々と、来てくれた華琳さまを見ながら嬉しそうな顔をしています。

 

【来てくれた】

 

でも、華琳さまが馬から降りてきたら目をじっと閉じました。

 

ピンタ何回は打たれるかと思ったようです。

実際そういう展開も予想できますしね。

 

でも、

 

スッ…

 

「…?」

 

おかしい感覚で目を開けた一刀ちゃんは自分が華琳さまに持ち上げられて馬に乗せられていることに気づきました。

 

「?? ??」

「帰るわ。ここにいつまで居ても風邪引くだけよ」

 

そう言って華琳さまは自分も一刀ちゃんの後ろに座って、馬を走らせ城に向かって走りました。

 

 

…これは…これで呆気無いものですが、逆にアレですね。

あまり、口うるさく話す仲ではないのですよ。あの二人の関係は。

 

……

 

 

カポーン

 

城に戻った華琳さまが一刀ちゃんを連れてきたのは風呂場でした。

風呂は先に言われていたのか、まだ時間でもないのにお湯が分かれていました。

 

ジャアーー

 

頭から温かいお湯を浴びられて一刀ちゃんはちょっとびっくりしながら、水を拭いて目を開けました。

目の前には華琳さまが一刀ちゃんと同じく何も着ていないまま座っていました。

 

「……<<かぁ>>」

 

一刀ちゃんはちょっと恥ずかしかったのか後ろを向きましたけど、華琳さまは何も言わずに、一刀ちゃんの背中を流してくれました。

 

「……一刀」

「………」

「私は、あなたが居ないと駄目よ。他の皆も、魏の皆もそう思ってるけど、特に私はあなたが居ない明日なんて考えたくもないし、考えられない」

「……」

「だけど」

 

華琳さまは水で一刀ちゃんの背中の泡をながしながら言いました。

 

「あなたがどうなのかと聞かれると私はあまり自身がないわ。あなたは本当に私だけなのかしら。私じゃなくてもあなたはどこに行っても誰にも愛されて、可愛がれるだろうと思う。そう思ってると、自分の夢とあなたを同時に掴もうとしている私のことがあまりにも利己的に思ってくるわ」

「……」【華琳お姉ちゃん……】

「だから、もし、また私があなたを傷つけてまで私の道を行こうとすれば、あなたは、無理して付いてきてくれなくたって構わないわ。あなたには、…あなた自身を犠牲にさせたくないの…だから」

 

 

【そんなこと言わないで】

 

「……!」

 

…今回だけですよ、一刀ちゃん。

僕以外の人間に、直接一刀ちゃんの考えを読ませることは…これからはこんなことしません。

 

一刀ちゃんは振り向いて華琳さまの手をつかみながら言いました。

 

【ボクはどこにも行けないよ。華琳お姉ちゃんがないと、駄目だから…だから、華琳お姉ちゃんがどんなことしてもボクは付いて行くよ】

「一刀ちゃん……それは…」

【でもね…でも、やっぱりボク、華琳お姉ちゃんが人を殺すことするのってやっぱり嫌なんだ。だから……辞めさせようと思う。華琳お姉ちゃんがどんなに大事にしている夢でも、ボクはお姉ちゃんの手に人が死んでゆくのが見たくないから、だから……ボクはこれからもなんとしてでも華琳お姉ちゃんの邪魔をするよ】

 

それが一刀ちゃんの決心。

戦争の裏を見た子供が引き出した結論。

一刀ちゃんはもうずっと前から、自分自身の幸せなんて、どうでも良かったのかもしれません。

周りの人たちが幸せなら、それが自分の幸せになる。

まるで幸福の王子のように、自分を犠牲にしながら人の幸せを祈る。

一刀ちゃんは、そんな道を選んでしまったのです。

 

【それでも、華琳お姉ちゃんがボクのことずっと側に居させてくれたら、ボクが華琳お姉ちゃんとって、誰よりも大切なものになってあげる。華琳お姉ちゃんの夢よりももっと大きい存在になる。そしたら、華琳お姉ちゃんも戦わなくていいし、人も殺さなくてもいい……】

「……」

【それが…今のボクの夢だよ。華琳お姉ちゃん】

「……そう、それじゃあ、あなたと私はお互い必要としてるのね」

「……<<コクッ>>」

「…」

 

それを確認した華琳さまはそのまま一刀ちゃんを抱きしめました。

 

互いを誰よりも必要としている二人。

でも、望むことは二人正反対。

この二人の行く末がどこになるだろうか、

僕に出来ることはもう、ただ見守ってあげることだけだと思います。

 

・・・

 

・・

 


 
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