「なあ雪蓮、どこまで行くんだ?」
「もう少しよ・・・っと、着いた着いた」
城から出発して約1時間程だろうか、雪蓮が馬を止めたため、俺も馬を停止させる。
そこには小川が流れており、周りにはたくさんの樹木が生い茂っている自然が豊かな場所だった。
「ん~~♪やっぱり久しぶりに此処に来るといいわね~♪」
「へえ、此処って雪蓮のお気に入りの場所なの?」
「んふふ、まあお気に入りの場所でもあるんだけど、それだけじゃないのよね」
雪蓮はそう言って意味深な笑みを浮かべた。
「?それだけじゃないって?」
「それは、一緒についてきてくれれば分かるわ」
雪蓮は笑顔を俺に向けると小川に沿って歩き出した。俺もその後について行く。
「ねえ一刀、手、繋いでもいい?」
「ん?いいよ」
俺が右手を差し出すと、雪蓮は嬉しそうに左手で俺の手を握った。
しばらく川のせせらぎを耳にしながら進んでいくと、突然開けた広場のような場所に出た。
よくよくみると、そこには俺の膝くらいの高さの石が二つ立っていた。
「雪蓮、ここは・・・・」
「ここはね、私の父様と母様のお墓。最近忙しくて来れなかったから、今日来ようと思って」
これが孫堅さんと孫栄さんの、墓か・・・。
なんか想像していたよりも、簡素、というかみすぼらしい、というか・・・。
「思ってたより小さい墓なんだな・・・」
「まあね。父様が言ってたのよ。墓は簡素でいいから、ここに埋葬してくれって。母様も、墓は父様と同じ場所に、同じ形の物を作ってくれって言ってたからね」
「ここって、雪蓮のお母さんとお父さんの思い出の場所なの?」
「そうかもね。ま、私も詳しいことは知らないんだけど」
俺の質問に雪蓮は肩を竦める。俺はそんな雪蓮を見ると再び目線を墓石に戻した。
「雪蓮のお父さんとお母さんって、どんな人だったの?」
俺がそんな質問をすると雪蓮はどこか懐かしそうに眼を細めた。
「父様は、とても優しい人だったわ。いつも私達のことを大事に思ってくれていて、私達も、そんな父様が大好きだったわ。小さい頃には、よく遊んで貰ったものよ」
雪蓮の独白を、俺は黙って聞いていた。
「それに比べて母様はおっかないのなんのって、私なんて産まれてまだ一年も経っていない頃に一緒に戦場に連れて行かれたわ」
な、何!?う、産まれて一年!?
「お、おい雪蓮、それは幾らなんでも嘘だろ?」
「嘘じゃないわよ!まったくあの不良母親・・・、それから毎度毎度嫌がる私を戦場に連れて行って、しまいにはこんな厄介な体質にしちゃったんだから・・・」
雪蓮は大きく溜息を吐いた。
なるほど・・・。雪蓮のあの戦場で血を浴びすぎると興奮するというのはこのせいか・・・。
まあ小さい頃から戦場に駆り出されれば確かにそうなるだろうな・・・。
「ちなみに母様も私と同じ体質だったみたいで、戦が終わった後は父様と閨でかなり激しくしてたのよ」
・・・なんだか容易に想像できるぞ、その場面。
「ま、そのお蔭で、私と蓮華、小蓮が産まれた訳なんだけどね♪」
「はあ・・・なるほど・・・」
雪蓮の言葉に俺はただ相槌を打つしかなかった。
現に俺も雪蓮に同じような目に合わされてるし・・・。
「でも、雪蓮はお母さんの事が好きだったんだろ?」
「ん~・・・、まあね。それに、尊敬もしていたわ。父様も母様も。私だけじゃなくて、蓮華も、小蓮も父様と母様のことが大好きなのよ。まあ、小蓮は、小蓮が産まれてすぐに、父様は死んじゃったから、父様の事は覚えていないだろうけどね」
話し終わった雪蓮は俺のほうに顔を向けるとにこりと微笑んだ。
「うふ、ねえ一刀」
「?何だ?」
「一刀って、どこか父様に似ているね」
「へっ?」
孫栄さんに?俺が?
「そっ、私達に優しくしてくれる所とか、関平に頭が上がらないところとか、本当にそっくり♪」
「おいおい・・・」
なんかあんまり嬉しくないぞ?マジで。
もしかして孫栄さんも、孫堅さんに頭が上がらなかったのか?
それから俺は、孫堅さんと孫栄さんの墓石の前で雪蓮の思い出話を聞いていた。
「・・・さてと、それじゃあそろそろ戻ろうか」
「雪蓮、もういいの?」
「うん、あんまり長い間留守にしていたら冥琳うるさいもの」
約一時間ほど経った頃だろうか、雪蓮が立ち上がって大きく伸びをした。
いくら冥琳でも両親の墓参りで目くじら立てないだろうけど、まあ確かに長い時間留守にしていたら心配するだろうな。
・・・それに、早く戻らないと愛紗がキれるからな・・・。
俺はその姿を思い出して一瞬ブルリと震えた。
そして何気なく横の茂みに目を向けた。
するとそこには、雪蓮に向けて弓を構えている兵士が数人潜んでいるのが見えた。
(・・・・まさか!!)
俺の頭の中で三国志のあるエピソードが思い浮かんだ。
それは俺が雪蓮達に許貢討伐の前に話したエピソード・・・。
「雪蓮!危ない!!」
「へっ?か、一刀!?」
俺はとっさの判断で雪蓮に飛び掛って雪蓮を地面に押し倒す。
次の瞬間、俺の肩に焼けるような痛みが走った。
「んも~、何するのよ一刀!幾らなんでも父様達の前で襲い掛からないで・・・・一刀?一刀!!」
俺のすぐ側で、雪蓮の叫ぶ声が聞こえる。
「ぐっ・・・・くっ・・・・・」
俺は懐に手を突っ込んで、護身用の短刀を取り出すと、弓を持っている男目掛けて投げつけた。
「ぎゃああああああああ!!!」
男は左目を押さえて叫び声をあげた。・・・どうやら左眼に当たったみたいだな。
「く、くそっ!!引け、引け!!」
「待て!!逃がすか!!」
「だ・・・駄目だ・・・、雪蓮・・・」
俺は逃げ出す兵士達を追いかけようとする雪蓮を袖を掴んで止めた。
「一刀!!どうして!!」
「くっ・・・・相手は多勢だ・・・、雪蓮にもしものことがあったら・・・」
「一刀!?・・・一刀!!」
雪蓮の叫び声が響く中、俺の意識は、闇に落ちていった。
雪蓮side
「さてと、それじゃあそろそろ戻ろうか」
そろそろ帰ろうと考えた私は一刀にそう言った。
「雪蓮、もういいの?」
「うん、あんまり長い間留守にしていたら冥琳うるさいもの」
まあいくら冥琳でも墓参りくらいは許してくれるだろうけど、ね。あまり留守にするわけにもいかないし。
・・・それに、早く帰らないと関平がおっかないし。
多分もうばれて冥琳達になだめられているだろうと思うけど、早く戻らないとさすがに怒るだろうし・・・。
もう関平が怒ると冥琳並に怖いのよね~・・・・。
私は溜息を吐くと父様と母様の眠っている墓に再び目を向ける。
(父様、母様、また来るからね。そして、天から見守っていて)
言葉には出さず、心の中で自分の尊敬する両親に告げる。
(あなた達の娘達の活躍を、そして父様達の悲願が成就する所を)
言う事を言った私は、そろそろ帰ろうか、と立ち上がった。
「雪蓮!危ない!!」
「へっ?か、一刀!?」
と、突然一刀が私に飛び掛って地面に押し倒した。
地面にぶつかった左の肩に痛みが走る。
「んも~、何するのよ一刀!幾らなんでも父様達の前で襲い掛からないで・・・・一刀?一刀!!」
私がいつものように茶化すけど、何故か一刀の様子がおかしい。よくよく見ると左肩から血が流れている。
何故!?一体何が・・・。
と、突然私の頭の中に、かつて一刀が語った言葉が蘇った。
『許貢を殺したら雪蓮は死ぬ』
(許貢を殺したら私は死ぬ・・・、まさか!)
私ははっとして茂みの方に眼を向けると、そこにはこちらに弓を向けている兵士が潜んでいた。
・・・あいつが、一刀を・・・!
「ぐっ・・・・くっ・・・・・」
と、一刀は懐から短刀を取り出し、その男目掛けて投げつけた。
「ぎゃああああああああ!!!」
その短刀が命中したのだろう。男は苦しげな絶叫を上げる。
「く、くそっ!!引け、引け!!」
眼を押さえながら男は怒鳴る。と、男の背後でがさがさ音が響く。
・・・まだ仲間が居たのか!!
一刀を傷つけておいて・・・逃がさない!!
「待て!!逃がすか!!」
「だ・・・駄目だ・・・、雪蓮・・・」
と、連中を追いかけようとした私の袖を、一刀が掴んで止める。
「一刀!!どうして!!」
「くっ・・・・相手は多勢だ・・・、雪蓮にもしものことがあったら・・・」
でも!!あいつらは一刀を・・・!
「ぐあっ・・・・!」
「一刀!?・・・一刀!!」
突然一刀は苦しそうにうめくと、気を失った。
おかしい、幾らなんでも矢が掠った位で・・・。
私は一刀の服を脱がせると、腕の傷を確認する。
(・・・!)
その傷は毒々しい紫色に膨れ上がっていた。これは、まさか・・・。
「毒!?」
それしか考えられない。もしそうなら時間が経つたびに助かる確率は低くなる。なら、今から医者を呼んでいる暇はない。
私は腰に差していた小刀を抜いて水に浸す。そして・・・
「一刀、少し我慢して」
一刀の腕の傷を、一気に裂いた。
「ウッ、グアアアアアアアアアアア!!!」
一刀は激痛から暴れるけど、私はそれを必死に抑えた。
私は傷つけた部分に口を当てると、流れる血ごと毒を吸い出し、地面に吐き捨てる。その動作を何度も何度も繰り返した。
(死なせない!!一刀をこんなところで、死なせたりしない!!)
私は毒を吸い、吐き出しながら心の中で叫び続けた。
ある程度毒を吸い出せたと思った私は、自分の袖を少し引き裂くと一刀の上腕部にきつく縛り付ける。
一刀は傷の激痛と毒のせいか気を失っている。
(一刀・・・・)
「姉さま!!」「雪蓮!!」
と、突然背後から蓮華と関平の声が響いた。私が振り向くと、背後から蓮華と関平が焦った表情でこっちに走ってきていた。
「どうしたの!蓮華、関平!」
「はい!それが・・・「ご主人様!!」・・・一刀!?」
蓮華が私に説明をしようとすると、私のすぐ側で意識を失っている一刀に気が付いた関平が、倒れている一刀の側に走り寄り、しきりに体を揺する。
「ご主人様!!ご主人様!!眼を、眼を覚ましてください!!私の、私の名前を呼んでください!!」
「落ち着いて関平!!一刀は毒矢に当たって意識を失っているのよ。幸い傷は浅かったけど、ね」
「毒!?」
私の言葉を聞いた蓮華は驚いたような顔をしてこちらを見る。関平はまるでこの世の終わりのような顔をしていた。
「とりあえず毒を吸い出して傷は縛っておいたけど、急いで城に戻るわよ、二人共!!」
「は、はい!姉様!!」
「ご主人様・・・・」
そうと決まったらいつまでも此処に居られない。私は父様と母様の墓石を一瞥すると、馬をとめてある場所に向けて走り出した。
と、突然墓石の近くで何か光ったような気がした。
「?」
少しばかり疑問に思ったけど、そんなことを気にしている暇はない!早く、早く一刀を助けないと!
「一刀・・・、あなたは私が絶対に助けるから・・・」
私は、頬に涙が流れていくのを感じた。
「それで蓮華、一体なんであなたが此処に!?」
私は馬を走らせながら隣に居る蓮華に話しかける。一方の関平は私達より少し先に、一刀と一緒の馬に乗っている。
「そ、それが、突如曹操が攻めてきて・・・」
「曹操!?袁紹と戦闘状態じゃなかったの!?」
「どうやら、偽報を掴まされたようで・・・」
と、いう事はこれは曹操の差し金、か・・・。
まさか私を暗殺しようとするなんてね・・・。
「・・・随分と生意気なことをしてくれるじゃない・・・」
「お、お姉様?」
隣で蓮華が怯えた声を出しているがそんなことは気にしている場合じゃない。
暗殺されそうになった私を庇って、愛する人が、一刀が傷ついたのだ。
許せない・・・。
「蓮華!!」
「は、はい!!!」
「城に戻ったら・・・、曹操に眼に物を見せてやるわよ・・・」
「・・・!はいっ!!」
蓮華は力強い声で私に答えた。
・・・待っていなさい、曹操。
あとがき
皆さんお待たせいたしました、第四十話、更新完了しました。
我ながらもう四十話か・・・。本当に長く続いたものです・・・。
さて、今回ようやく暗殺場面になったわけですが、やはりというべきか雪蓮は生存、となりました。
もう読者の方には予想できた方もいらっしゃったのではないでしょうか?
次回はいよいよ曹操との戦闘開始です。皆さんご期待下さい!!
・・・できれば次で終わらせたいですね、マジで。
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皆さんお待たせいたしました!ようやく、・・・本当にようやく此処まで来ました!
ようやく雪蓮と一刀、運命の瞬間です!本当に此処までどれだけ時間がかかったことやら・・・。